• 作成日 : 2024年12月19日

親子間でも事業承継・引継ぎ補助金を利用できる?要件や申請方法を解説

事業承継・引継ぎ補助金は、親子間の事業承継にも利用可能です。事業承継・引継ぎ補助金の中の「経営革新枠」が対象となり、設備投資やマーケティング費用などが補助されます。

本記事では、親子間での事業承継・引継ぎ補助金の利用要件や申請方法、対象経費、注意点などについて詳しく解説します。

親子間でも事業承継・引継ぎ補助金を利用可能

事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業や小規模事業者が次世代へ事業を引き継ぐ際に活用できる補助金で、親子間の事業承継にも適用可能です。

以下で、事業承継・引継ぎ補助金の概要をみていきましょう。

事業承継・引継ぎ補助金とは

事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業や小規模事業者が事業を次世代へ引き継ぐ際に必要な経費の一部を支援する制度で、後継者への円滑な事業引き継ぎを目的としています。

また、事業の存続や成長を支援し、地域経済の安定化に寄与することも目指しており、事業承継時の設備投資や販路開拓、新規事業展開など、幅広い経費が補助対象です。

事業承継・引継ぎ補助金の種類

事業承継・引継ぎ補助金には、以下の3種類の枠があり、事業者の状況に応じて選択可能です。

  • 経営革新枠:事業承継を契機に新たな取り組みや革新を行う場合に適用、創業支援類型、経営者交代類型、M&A類型があり、設備投資や販路開拓などが補助対象
  • 専門家活用枠:M&Aや事業承継時に専門家を活用する際の費用を補助、FA報酬やデューデリジェンス費用などが対象
  • 廃業・再チャレンジ枠:事業承継やM&Aに伴う廃業費用を支援、廃業後に新たな挑戦を行う中小企業や個人事業主が対象

事業承継・引継ぎ補助金の経営革新枠は親子間も対象

事業承継・引継ぎ補助金は親子間承継でも活用できますが、上で紹介した3つの枠組みすべてが親子間承継で活用できるわけではありません。

親子間承継が対象に含まれるのは、経営革新枠のみです。なお、経営革新枠はさらに以下の3つの類型に分類されます。

  • 創業支援類型:他の事業者から経営資源(設備、従業員、顧客など)を引き継ぎ、新たに法人設立または個人事業主として開業する場合に適用
  • 経営者交代類型:親族内承継や従業員承継などで経営者が交代し、引き続き経営革新に取り組む場合に適用
  • M&A類型:M&A(株式譲渡や事業譲渡など)を通じて経営資源を引き継ぎ、新たな事業展開や事業再編を行う場合に適用

親子間承継では、「創業支援類型」「経営者交代類型」は申請が可能ですが、経営革新枠であっても「M&A類型」には申請できません。

参考:事業承継・引継ぎ補助金

親子間の事業承継・引継ぎ補助金を利用できる要件

親子間承継で事業承継・引継ぎ補助金を利用するには、親が法人代表者か個人事業主かによって異なる要件を満たす必要があります。それぞれのケースについて詳しく解説します。

親が法人代表者の場合、経営者交代型の対象に

親が法人代表者である場合、後継者が代表者交代をすることで経営革新枠のうち経営者交代型の補助金対象です。申請には以下の要件を満たすことが求められます。

  • 代表者交代:親から子へ法人代表を変更すること
  • 実務経験:後継者(子)は3年以上の役員経験もしくは同種業務経験、または同業種で6年以上の業務従事経験、個人事業主として3年以上の経営経験のいずれかを満たすこと

親が個人事業主の場合

親が個人事業主である場合も、事業承継・引継ぎ補助金の利用が可能ですが、やはり指定要件があり、内容は親が法人の場合と若干異なります。

  • 青色申告:親と子の両方が青色申告を行っていること
  • 廃業届と開業届:相続や贈与による承継の場合、親は廃業届を提出し、子は開業届を提出すること
  • 実務経験:後継者(子)は同業種で6年以上の実務経験または承継予定事業で3年以上雇用されていた経験があること

親子間の事業承継・引継ぎ補助金の金額・補助率

親子間の事業承継・引継ぎ補助金の補助金額と補助率は、規模や条件などによって異なります。

以下の表は、親子間の事業承継・引継ぎ補助金の補助金額と補助率についてまとめたものです。

条件賃上げの実施有無補助上限額補助率
小規模事業者、赤字、営業利益率低下などに該当実施800万円600万円まで2/3、600万円超~800万円は1/2
実施なし600万円2/3
上記に該当しない場合実施800万円1/2
実施なし600万円1/2

なお、補助対象は「事業承継後の新規投資」に限られ、承継自体にかかる費用は対象外です。また、賃上げ要件を満たさない場合、補助上限額や補助率が低くなるため、計画段階で要件を確認しておきましょう。

参考:事業承継・引継ぎ補助金 経営革新 パンフレット(9次公募)

親子間の事業承継・引継ぎ補助金の対象経費

事業承継・引継ぎ補助金を活用する際、対象経費として認められるには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 補助事業の遂行に必要な経費であること
  • 補助事業期間内に契約・発注・支払いが完了していること
  • 証拠書類で確認可能な経費であること
  • 国内事業者への支援を目的とした経費であること

条件をクリアしたうえで、事務局によって「補助対象経費」として認定されなければなりません。また、対象となる経費は多岐にわたり、幅広くカバーしています。

以下に、対象経費の区分と概要を一覧で示します。

区分概要
店舗等借入費国内の店舗や事務所、駐車場の賃借料、共益費、仲介手数料など
設備費国内で使用する機械装置や備品の購入費用、店舗や事務所の改装工事費用
材料費試作品やサンプル品製作に必要な原材料の購入費用
産業財産権関連経費特許権取得などに必要な弁理士報酬や申請手続きにかかる費用
謝金専門家への依頼報酬(コンサルティングやアドバイザリーサービスなど)。
旅費販路開拓・PR・営業・仕入れなどを目的とした出張にかかる費用
マーケティング調査費市場調査など自社で行うマーケティング調査に関連する費用
広報費ダイレクトメール、展示会出展費用など自社で行う広報にかかる費用
会場借料費販路開拓のための説明会のための会場使用にかかる費用
外注費業務の一部を第三者に外注した際の費用
委託費業務の一部を第三者に委託した際の費用

廃業に関する費用も、補助の対象になります。

区分概要
廃業支援費廃業手続き(登記申請など)に伴う司法書士への報酬や書類作成費用
在庫廃棄費商品在庫を専門業者へ依頼して処分した際の処理費用(商品売却による収益がある場合は対象外)
解体費廃業時に発生する建物や設備の解体作業にかかる費用
原状回復費借用設備を返却する際に発生する原状回復工事などの費用
リース解約金リース契約終了時に発生する解約金や違約金(リース資産売買に関わるコストは対象外)
移転・移設費用設備などを効率化目的で移転または移設する際のコスト(経営者交代類型は対象外)

参考:事業承継・引継ぎ補助金 経営革新 公募要項(9次公募)

親子間の事業承継・引継ぎ補助金の申請方法

親子間で事業承継・引継ぎ補助金を活用する際の申請は、補助金電子申請システム「jGrants(Jグランツ)」を利用してオンラインで手続きを行います。このシステムの利用には、事前に「GビズID」を取得する必要があります。

「GビズID」にはいくつか種類がありますが、事業承継に際して補助金を申請するのであれは法人の代表者、個人事業者向けの「GビズIDプライム」、代表者が許可した従業員用のアカウント「GビズIDメンバー」のいずれかが必要です。

GビズIDの取得方法

IDの取得には、以下のものが必要です。

  • 登録申請書
  • 印鑑証明書(法人)または印鑑登録証明書(個人事業主)
  • メールアドレス
  • SMS受信用のスマートフォンまたは携帯電話

印鑑証明書もしくは印鑑登録証明書は、発行から3ヶ月以内の原本が必要です。GビズIDのサイトで申請書に必要事項を入力しダウンロード、印刷します。

申請書に登録印を押印し、印鑑証明書もしくは印鑑登録証明書と一緒にGビズID運用センターに郵送すれば申し込みは完了です。審査後、不備がなければ1週間程度で審査完了メールが送付され、SMSでの本人確認を経てGビズIDパスワードが設定されます。

補助金の申請に必要な書類は、こちらをご覧ください。

参考:事業承継・引継ぎ補助金 経営革新 交付申請手続き

2024年の事業承継・引継ぎ補助金の募集スケジュール

2024年の事業承継・引継ぎ補助金は、8次公募、9次公募、10次公募が実施されました。すべての公募はすでに終了していますが、今後の参考として各公募のスケジュールを紹介します。

【8次公募】

  • 申請受付期間:2024年1月9日(火)~2024年2月16日(金)17:00まで
  • 交付決定日:2024年4月1日(月)
  • 事業実施期間:2024年4月1日(月)~2024年9月16日(月)
  • 実務報告期間:2024年6月27日(木)~2024年9月26日(木)
  • 補助金交付手続き:2024年9月中旬以降

【9次公募】

  • 申請受付期間:2024年4月1日(月)~2024年4月30日(火)17:00まで
  • 交付決定日::2024年6月4日(火)
  • 事業実施期間:2024年6月4日(火)~2024年11月22日(金)
  • 実務報告期間:2024年8月29日(木)~2024年11月25日(月)
  • 補助金交付手続き:2024年12月中旬以降

【10次公募(専門家活用枠のみ)】

  • 申請受付期間:2024年7月1日(月)~ 2024年7月31日(水)17:00まで
  • 交付決定日:2024年8月29日(木)
  • 事業実施期間:2024年8月29日(木)~2024年11月22日(金)
  • 実務報告期間:2024年8月29日(木)~2024年11月25日(月)
  • 補助金交付手続き:2024年12月中旬以降

10次公募では「専門家活用枠」のみが対象となり、親子間の承継で活用できる「経営革新枠」は公募がありませんでした。

参考:事業承継・引継ぎ補助金 専門家活用事業承継・引継ぎ補助金 経営革新

親子間の事業承継・引継ぎ補助金を利用するときの注意点

親子間で事業承継・引継ぎ補助金を利用する際には、いくつかの注意点があります。以下で詳しく解説します。

すべての枠が利用できるわけではない

先述のとおり、親子間での事業承継において利用可能な補助金は、「経営革新枠」に限定されています。「専門家活用枠」や「廃業・再チャレンジ枠」は、親子間承継では対象外となり、申請できません。

なお、経営革新枠では、新たな事業展開や革新性のある取り組みを計画することが求められます。そのため、単なる事業引き継ぎだけではなく、具体的な成長戦略を立案し、申請書類に反映させることが大切です。

補助金は課税対象になる

事業承継・引継ぎ補助金で受け取った金額は、課税対象になります。法人の場合は法人税、個人事業主の場合は所得税の課税対象として計上しなければなりません。

補助金を利用して設備投資を行った場合、その支出額は経費として計上できますが、補助金自体は収益として扱われるため課税対象となるのです。この点を考慮し、税務処理については専門家に相談することをおすすめします。また、補助金の受領時期によって課税年度が異なるため、資金繰りにも注意が必要です。

親子間で利用できる事業承継・引継ぎ補助金以外の制度

親子間での事業承継には、事業承継・引継ぎ補助金以外にも活用できる制度があります。複数の制度を併用することで、より円滑な承継が可能になるでしょう。以下で代表的な制度について解説します。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、贈与税負担を軽減しつつ将来の相続時に一括精算する仕組みです。受贈者(子や孫)が2,500万円まで贈与税を納めずに贈与を受け取れます。

ただし、この非課税枠を超えた部分には一律20%の贈与税が課されます。また、贈与者が亡くなった際には、それまでに贈与された財産と相続財産を合算した上で相続税額を計算し、一括して納付しなければなりません。

相続時精算課税制度は親子間の財産移転において柔軟性を持たせるものであり、特に早期の財産分与や事業承継に適しています。

参考:国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択

事業承継税制

事業承継税制は、中小企業の円滑な事業承継を支援するために設けられた制度です。

株式や資産にかかる相続税・贈与税の全額または一部が猶予されます。また、その後も事業継続要件を満たせば最終的に納付が免除される場合もあります。

こうした制度と補助金を組み合わせて活用することで、親子間でのスムーズな事業承継と経営安定化が実現できるでしょう。

参考:国税庁 事業承継税制

親子間でも事業承継・引継ぎ補助金の利用は可能

親子間でも「経営革新枠」を通じて事業承継・引継ぎ補助金を活用できます。ただし、要件や手続きが複雑であり、申請には具体的な計画の策定や必要書類の準備が必要です。税務上の考慮も必要なため、可能であれば専門家への相談しながら手続きを進めることをおすすめします。

事業承継・引継ぎ補助金を活用して、円滑な世代交代とビジネス成長を実現しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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