- 作成日 : 2025年1月30日
事業譲渡時は許認可の承継ができる?会社分割との違いも解説
事業譲渡では、売り手企業が取得した許認可の承継は基本的に認められません。許認可については、原則として再取得しなければなりません。ただし、M&Aの手法によって許認可の扱いは異なります。今回は、事業譲渡と会社分割の許認可の違いや特例について解説します。
目次
事業譲渡時は原則として許認可の再取得が必要
事業譲渡では、原則として許認可を引き継げないため、新たに許認可を取得する必要があります。事業譲渡はM&Aの手法の一つであり、会社が所有する資産や負債の移転を含む譲渡のことです。ただし、譲渡の対象は全資産・負債に限定されず、一部のみの譲渡も可能です。
本記事では、事業譲渡の再取得で知っておきたいことについて解説します。
事業譲渡の手続きと許認可を再取得するタイミング
ここでは、事業譲渡の手続きの流れについて解説します。
事前準備
事業譲渡を実現させるには、事業の買い手側は売り手を、売り手側は買い手を見つけなければなりません。自社で相手先を見つけるのではなく、M&Aアドバイザーなどの専門家に依頼するのが一般的です。買い手側は自社の希望にマッチする企業を、売り手側は自社の経営方針を引き継いでくれるなどの条件に合う企業を探します。
基本合意書の締結
事業の買い手と売り手の面談を経て事業譲渡の合意に至った場合は、基本合意書の締結を進めます。双方で条件に同意していることが締結の前提です。基本合意書の段階で、譲渡する範囲や移転する資産・負債などを決めます。なお、基本合意書は法的拘束力を持たないことが一般的です。ただし、内容次第では一部の条項が拘束力を持つ場合があります。
デューデリジェンス
デューデリジェンスとは、買い手が行う売り手企業の実態調査のことです。弁護士などの専門家の力を借りて、法務や財務、税務、労務などのさまざまな観点から調査を行います。売り手企業の事業を承継するにあたり、リスクになるような部分はないかを事業譲渡の実施を見極めるのに重要なプロセスです。
事業譲渡契約の締結
デューデリジェンスに問題がなかった場合、買い手側の取締役会の決議を経て、事業譲渡契約の締結が行われます。契約書には、効力発生日や事業譲渡に伴う対価、対価の算出方法のほか、双方で重要と思われる事項を盛り込みます。
許認可の再取得
事業譲渡契約の締結によって、事業譲渡が成立します。許認可の再取得は、事業譲渡契約の締結後に必要な申請手続きを速やかに行う必要があります。業種や許認可の種類によって、申請のタイミングが異なるため、事前に確認が必要です。
事業譲渡の特例で許認可の承継ができるケース
原則として、事業譲渡する場合は、許認可の再取得が必要と紹介しました。しかし、特例により再取得が不要になるケースもあります。
事業譲渡での特例が認められるのは、中小企業経営強化法の事業承継規定が定められている業種です。中小企業経営強化法では、認定経営力向上計画に従った事業承継がなされたときは、許認可などの承継を認める規定があります。なお、中小企業経営強化法に基づく許認可などの承継を行ったときは、事実がわかる書面を添付して、主務大臣に報告することが必要です。
許認可の事業承継の特例を受けられるのは、中小企業経営強化法施行令に定める許認可であり、以下の許認可について再取得の不要が認められています。
- 旅行業
- 一般貨物自動車運送事業
- 一般旅客自動車運送事業
- 一般ガス導管事業
- 建設業
- 火薬類製造業・火薬類販売業
なお、上記の許認可の再取得不要の特例は、中小企業経営強化法に定められているように、中小企業間の事業譲渡を想定したものです。買い手と売り手のいずれかが大企業の場合、特例の適用は認められません。
事業譲渡と会社分割における許認可の違い
会社分割は、既存の会社の事業を切り分けて、一部または全部を他の会社に移転することです。会社分割の方法には、吸収分割と新設分割があります。事業譲渡とは、会社の事業の一部または全部を他の会社に譲渡することです。個別に移転する資産と負債を選択して承継します。
会社分割と事業譲渡の大きな違いは、売り手側が受け取る対価です。会社分割では、事業を買い取る企業の株式を対価として受け取る一方、事業譲渡では対価として現金を受け取ります。
吸収分割との違い
吸収分割とは、既存の会社に事業を移転することです。買い手の会社に事業が移転されることで、売り手の会社から事業が切り離される状態になります。基本的に、吸収分割では許認可の引き継ぎが認められているため、一部を除き、許認可の再取得は必要ありません。
新設分割との違い
新設分割とは、事業を承継させたい会社を新設し、その会社に事業を移転させる方法です。新設分割も会社分割の一種であるため、事業譲渡のように一部を除いて許認可の再取得は求められません。
会社分割時の許認可については、こちらの記事もご覧ください。
「会社分割時に許認可は必要?再取得のルールや流れ、事業譲渡との違いを解説」
事業譲渡では基本的に許認可の再取得が必要になる
会社の資産・負債の移転を伴う他社への事業の移転を事業譲渡と言います。事業譲渡では、基本的に売り手側の企業が取得した許認可は、買い手側の企業に引き継がれません。特例が認められる一部の許認可を除き、買い手側での許認可の再取得が必要です。
なお、M&Aの方法によって、許認可の再取得が必要かどうかは変わります。例えば、会社分割の場合は、基本的に事業を承継する企業に許認可が引き継がれるため、許認可の再取得は必要ありません。M&Aの手法によって許認可の再取得の有無が異なることを確認しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
事業承継に不動産を活用する方法は?具体的な方法や適切な相談先まで紹介
事業承継において、不動産は資産の一部として効果的に活用することができます。事業承継時の税負担を抑え、次世代への資産移転をスムーズに行うためには、不動産の評価や活用方法を慎重に検討することが重要です。 本記事では、不動産を活用した事業承継のメ…
詳しくみる事業承継資金は融資が受けられる?日本政策金融公庫の制度などを解説
事業承継では多くの資金が必要であり、資金調達のために各種の融資制度が設けられています。事業承継の融資に関連して行っているのは、主に日本政策金融公庫や信用保証協会、地方自治体などです。事業承継のローンを扱っている民間の銀行もあります。 本記事…
詳しくみる事業承継のよくある失敗ポイントは?成功させるための対策も解説
経営を次の世代に託す事業承継は、会社の今後を左右するため、失敗は避けたいものです。一方、経営者や後継者、従業員や取引先、株主など、多くのステークホルダーの事情や考えもあるため、承継する過程で問題が発生する可能性もあります。 この記事では、事…
詳しくみる特例事業承継税制とは?要件や期限、手続きをわかりやすく解説
特例事業承継税制とは、中小企業が円滑な事業継承を進めるために設けられた特例措置のことで、一般措置とは適用条件や内容が異なっています。本記事では、特例事業承継税制の要件や期限、そして必要な手続きをわかりやすく解説します。 また、利用するにあた…
詳しくみる事業継承(事業承継)を顧問税理士に依頼できる?弁護士や司法書士などとの違いも解説
事業継承(事業承継)の相談や依頼は、顧問税理士にも依頼することも可能です。ただし、支援が必要な範囲によっては、税理士だけでは対応が難しいこともあります。 本記事では、税理士が対応可能な事業承継のサポート内容に加え、弁護士や司法書士といった他…
詳しくみる事業承継税制とは?要件や申請期限、改正内容をわかりやすく解説
事業承継税制は、中小企業が事業を次世代に引き継ぐ際の相続税や贈与税の負担を軽減する制度です。この制度により、後継者は経済的な負担が軽減され、円滑な事業承継が可能になります。 本記事では、事業承継税制の種類や要件、申請時期などについて詳しく解…
詳しくみる