• 更新日 : 2023年8月23日

レジリエンス経営とは?3つの企業事例も紹介

レジリエンスとは、困難やストレスなどに対して、しなやかに立ち向かい回復力を持って乗り越える能力や性質を指します。これは経営だけではなく、組織、自然などあらゆる対象について使われます。

この記事では、レジリエンスをビジネスに用いた考え方について企業事例も踏まえて解説します。

レジリエンス経営とは?

レジリエンス経営とは、事業において困難な状況に陥ったり、前例のない問題が起こったりしたときに、「諦めずに立ち向かって乗り越える力や方法」のことを指します。

例えば、起業したあとに顧客が減ってきたり、材料などの調達先を失ったりすることがあります。そんな困難を抱えたときに、事業継続を諦めないためにはどうしたらよいかを考え、新しいアイデアを出したり他の方法を試してみたりと、状況に合わせてしなやかに対応することが大切です。これがレジリエンス経営の考え方です。

そもそも「レジリエンス」とは?

そもそも「レジリエンス(Resilience)」とは、英語で「回復力」「しなやかさ」を意味します。形容詞のResilientは、逆境や不振などの状態から容易に回復するさまを表しています。

レジリエンスは逆境や困難な状況に直面しても、物事を前向きに考えて自分や状況をポジティブに捉える能力、さらにはストレスや不安から回復して元の状態に戻る能力を指します。レジリエンスを高めると、困難な状況下でも自信を持って対処し、失敗や挫折を乗り越えて成長することができるとされます。

もともとレジリエンスは物理学、心理学など学問分野で論じられてきましたが、今や企業が備えておくべき資質の一つだと言えます。

経営におけるレジリエンス経営とは、ビジネスにおける予想外の問題や変化に対して柔軟に対応し、継続的な成長と安定を図るための考え方や戦略を指します。昨今の地政学的なリスク、異常気象、感染症などの影響を考えると、変化の激しい環境に対して逞しく立ち向かい、新たなチャンスを見出すための姿勢を重要視するレジリエンス経営を参考にしたい経営者は多いと言えるでしょう。

レジリエンス経営のメリット

レジリエンスは、生活や仕事、学業などあらゆる面で役立つ重要な能力であり、困難な状況にどう向き合うかが、その個人や組織の将来を影響づけます。

したがって、個人のレジリエンスとは、個人が困難とどう向き合い、どう克服するかということです。一方で、組織のレジリエンスとは、企業などの組織が変化やリスクに対してどう対応し、持続的な成長と安定をどう獲得するかということになります。

ここでは、個人事業主と会社の経営者に分けて、それぞれのレジリエンスのメリットを見ていきましょう。

個人のレジリエンスを高めるメリット

個人のレジリエンスは、ストレスや困難な状況に個人として対処して回復力を持ち、引き続き前向きな態度を保つ能力を指します。個人がレジリエンスを獲得して得られるメリットは、次のようなところに現れます。

  • ストレスの管理
    レジリエンスにより、ストレスが生じる状況でも冷静に対処し、自分の感情や身体の健康を守る方法を見つけることができます。結果的にストレスから解放されやすい状況になります。

  • 変化への柔軟な対応
    新しい状況に対してオープンな姿勢を持ち、調整しながら前進する能力が培われます。そして、予測できない状況に柔軟に対応する力が養われます。

  • 対象に対するポジティブな思考
    レジリエンスは、たとえ困難な状況でも前向きな視点を維持し、解決策を見つける努力を促します。レジリエンスにより、ポジティブな態度、ピンチをチャンスと捉える姿勢が生まれます。

  • 自己効力感
    レジリエンスにより「私ならできる」「きっと成功する」という自分の能力や選択を信じる自己効力感が備わります。困難な状況に振り回されずに、自力で乗り越えられるという自信を得られます。

個人事業主は事業だけでなく、プライベートの部分にも支えられています。レジリエンスは事業においても、プライベートにおいても有効に作用します。

組織のレジリエンスを高めるメリット

組織のレジリエンスとは、組織全体が内部や外部の変化やリスクに対して柔軟に対応し、持続的な成長と安定を追求する能力を指します。組織がレジリエンスを獲得することで、次のようなメリットが挙げられます。

  • リーダーシップと意思決定
    リーダーシップ層の能力は組織のレジリエンスに大きな影響を与えます。従業員や取引先は、自分の言葉で伝え、スピードを優先した勇気ある行動をするリーダーへの期待は大きいものです。

    リーダーたちが、柔軟な対応性を備え、敏捷なリーダーシップを発揮することによって、組織全体の動向が調整されて変化への対応が円滑になります。

  • 従業員の満足度向上
    組織のレジリエンスが高まると、従業員がビジョンや目標に共感し、チームワークやコミュニケーションを重視するようになります。チームワークやコミュニケーションは、組織内の情報共有や協力体制を強化し、リスクに対処する力を高めるという好循環となります。

    このように組織内に好循環が生まれると、従業員は仕事に意義や価値を感じ、組織への満足度が高まります。

  • イノベーションや創造性の促進
    レジリエンスの高まりにより、組織は変化に適応する柔軟性を持ち、過去の経験から学ぶ能力も養うことができるようになります。たとえ失敗しても、そこから学び、進化していく姿勢があれば、新しいアイデアやソリューションを生み出し革新的な成果に結びつきます。

  • リスクマネジメントや危機管理の強化
    潜在的な問題や脅威を予測し、適切な予防や対策を講じる能力もレジリエンスの高まりにより養われます。また、組織が常に危機意識や対応計画を備えることで、問題発生時の対応力が向上します。そしてリスクを最小限に抑え、危機に陥っても迅速に対応することができます。

コーポレート・レジリエンスの考え方-対象となる3つのフェーズ

会社の規模を問わず、自然災害を含む気候変動などの環境問題、人権の問題、従業員の労働環境への配慮、取引先との適正な取引など「持続可能性」をめぐる課題への対応は近年ますます重要になってきました。

これらの問題を解決する考え方の1つとして、コーポレート・レジリエンスを取り上げてみましょう。

コーポレート・レジリエンスとは

コーポレート・レジリエンス(Corporate Resilience)とは、組織が変化やリスクに適応し、逆境に強く、持続的な成長と安定を追求するための戦略や能力を指します。組織全体が柔軟に変化に対応し、問題をチャンスに変えるためのプロセスや考え方を取り入れることが求められる概念です。

3つのフェーズとは

三菱総合研究所の経営イノベーション本部によると、コーポレート・レジリエンスの対象とされる外部からのストレスは次の3つに分類されるとあります。以下、それぞれのフェーズとその対応についてまとめています。

  • フェーズ1:突発的な環境変化ストレス
    短期間に甚大なインパクトを企業に及ぼすストレスの例として、事件や事故、巨大地震や集中豪雨といった大規模災害などがあります。これらのストレスへの対応としては、企業のボトルネック*を見極め、解消することが挙げられます。

    *物事の流れを阻害するような問題点や障害のこと

  • フェーズ2:急速な環境変化ストレス
    ある期間に一定の方向に急速に変化するストレスの例としては、感染症や地政学的なリスクなどとともにIT関連のリスクも挙げられます。

    これらのストレスへの対応としては、サプライチェーン全体への管理意識を拡大し、相互依存性を管理することが重要とされます。そして、事業の持つ制約の解放を実現するようなオペレーション改革を推進することが目標とされます。

  • フェーズ3:持続的な環境変化ストレス
    持続的な環境変化ストレスの例として、気候変動問題や生物多様性への適合を求められるストレスがあります。この地球規模とも言えるストレスには、組織基盤としてビジネスモデル変革を創出することが目標とされます。

これら3つのフェーズは明確な区切りはなく、グラデーションのようになっているものの、企業が培ったレジリエンスを発揮する局面を分類しています。

このように、コーポレート・レジリエンスは、組織が変化と不確実性に対して強い姿勢を持つための重要なアプローチであり、持続可能な成功を築くための大きな鍵となります。

参考:コーポレート・レジリエンス向上の取り組み 第1回:企業のレジリエンス実装 | コーポレート・レジリエンス向上の取り組み|三菱総合研究所(MRI)

組織のレジリエンス経営の推進事例

ここでは、コーポレート・レジリエンスについて取り組んでいる企業の例を簡単に見ていきましょう。

ユニ・チャーム

ユニ・チャームはパーソナルケア製品、ペットケア製品の製造・販売を行う企業です。ユニ・チャームがレジリエンス経営を推進する柱となるものは、「シナリオプランニング」と「OODA-Loop(ウーダループ)」です。

シナリオプランニングとは二次元化思考によるもので、2軸マトリクスにより「気候変動に関するリスクと機会」を重要な要素として検討しています。市場の変化がマトリクスから得られるシナリオにどのような影響を与えるかを考える習慣が社員全員に定着してきているようです。

また、環境変化に強いマネジメントサイクルとして、従来のPDCAサイクルを独自に進化させた「OODA-Loop」により、個々の社員が自主的に何をすべきか決断して行動する組織を目指しています。

参考: 知的資産創造 | 野村総合研究所(NRI)第3回 変化対応力を高める レジリエンス経営(前編)
サステナビリティレポート2023(ダウンロード)ユニ・チャームグループ サステナビリティレポート2023(p7などご参照)

キリンホールディングス

キリンホールディングスはビールを始めとする飲料や医薬品を取り扱う企業です。キリンホールディングスがレジリエンス経営を推進するためのキーワードは、「多様性」と「未来シナリオ」です。

同社は、多様性の定義を「個々の価値観や視点の違いを認め合い、尊重する気持ち。社内外を問わない建設的な議論により『違い』が世界を変える力、より良い方法を生み出す力に変わるという信念」と定義しています。

引用: 知的資産創造 | 野村総合研究所(NRI)第3回 変化対応力を高める レジリエンス経営(前編)

個々の従業員の多様性について多くの施策を推進するだけでなく、そこから生まれる新たな課題の克服を図っています。

また、未来のシナリオを考える際には、2軸マトリクスにこだわらず、将来大きな変化をもたらす可能性を持つ外部環境要因(ドライビングフォース)を統合・抽出して、複数のシナリオで変化対応力を養えるとしています。

サイボウズ

サイボウズは、「サイボウズ」シリーズなどグループウェアのシステム開発・販売などを行う企業です。同社は、過去に離職率が高まった際、「言いにくいことを言える環境をつくり、議論と思考、行動の質を上げて継続的に結果を出せる組織」にシフトしました。

サイボウズでは、「一人一人の従業員が自立して成長する意欲を持ち、自分から手を挙げることを前提としている」ため、「100人100通りの働き方」が可能となるとしています。

引用:知的資産創造 | 野村総合研究所(NRI)第4回 変化対応力を高める レジリエンス経営(後編)

同じルールを適用し、多種多様な人材の個性をなくす多くの日本企業とは対照的に、100人100通りの考え方があっても、方向性が同じなら組織としてまとめられるという考え方です。そのため同社では、嘘をつかないこと、情報を隠さないことが徹底されています。

また、アジャイル型とはシステム開発の手法の1つで、はじめは大体の仕様だけで開発を開始して、小単位で実装とテストを繰り返しながら徐々に開発を進めていく手法を言います。これを人事に適用した「アジャイル型人事」にも取り組みを続けています。

組織のためだけでないレジリエンス経営

レジリエンス経営の必要性はコロナ禍や自然災害など、実際に予測不能な事態に直面する機会が増えていることから明らかです。

事例を見ていくと、レジリエンス経営を実現するために最も重要なことは、従業員全員を巻き込んでいくことであると考えられます。組織の規模を問わず、組織を動かす現場スタッフの方向性がその企業の理念に向いているかどうかという点は非常に重要です。

レジリエンス経営は組織の将来の成長や競争力を確保するための戦略的な取り組みですが、レジリエンスを獲得する過程においては、組織で働く人が主役です。レジリエンス経営を実践することで、組織だけでなく、個々人も不確実な環境においても、新たなチャンスを見出し、価値を創造することができるのではないでしょうか。


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