• 作成日 : 2025年1月10日

法人化(法人成り)しても小規模企業共済を継続できる?同一人通算について解説

小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者のための退職金といえる制度です。法人化(法人成り)後も、一定の条件を満たせば同一人通算の手続きにより継続して加入することが可能です。

本記事では、法人化(法人成り)後の小規模企業共済の継続条件や手続き、メリット・デメリットについて詳しく解説します。

目次

法人化(法人成り)しても小規模企業共済を継続できる

小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業経営者が退職金の代わりに利用できる制度として広く活用されています。法人化(法人成り)した場合でも、一定の条件を満たせば継続が可能です。

以下で、詳しく見ていきましょう。

個人事業主の小規模企業共済を継続(同一人通算)できるケース

個人事業主の方が法人成りする場合、同一人通算制度の活用によってそれまでの掛金納付月数や掛金額の引き継ぎが可能です。

継続には、個人事業の完全な法人化と、新設法人での役員としての登記、さらに法人における従業員数が所定の人数以下であることが求められます。また、事由発生から1年以内に手続きを行う必要があり、この期間を過ぎると通算の権利が失効します。

個人事業主の共同経営者が小規模企業共済を継続(同一人通算)できるケース

共同経営者として小規模企業共済に加入していた場合も、同様の条件で小規模企業共済の継続が可能です。ただし、個人事業主1人につき最大2人までという制限があり、新設法人において役員として正式に登記される必要があります。

共同経営者の場合も、個人事業主と同様に事由発生から1年以内に手続きを完了しなければなりません。これらの継続条件を満たさない場合は、準共済金の受け取りや任意解約などの選択肢を検討する必要があります。

なお、同一通算における詳細な条件については次項で詳しく解説します。

法人化(法人成り)後も小規模企業共済を同一人通算する条件

法人化(法人成り)後に小規模企業共済を継続するためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。

個人事業を廃業して完全に法人化(法人成り)している

個人事業の完全な廃業が必要となります。個人事業を残したまま法人を設立する場合は、小規模企業共済の継続(同一人通算)はできません。

この場合、個人事業主として小規模企業共済を継続するか、個人事業の契約を解約して新たに法人として加入する必要があります。

会社役員等として登記している

法人化(法人成り)後、新設した会社の役員として正式に登記されていることが必要です。この登記は、履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)によって証明しなければなりません。なお、登記事項証明書は申請時において発行から3ヶ月以内のものが必要となります。

常時使用する従業員数が所定の条件以下

新設した法人における従業員数が、業種に応じた基準を満たす必要があります。具体的な従業員数の条件は以下のとおりです。

  • 製造業、建設業、運輸業、不動産業、宿泊サービスなど:20名以下
  • 商業(卸売・小売)サービス業:5名以下

なお、この従業員数には家族従業員は含まれません。これらの条件をすべて満たしてはじめて法人化(法人成り)後の小規模企業共済を同一人通算が可能になります。

法人化(法人成り)後の小規模企業共済の同一人通算手続き

法人化(法人成り)後の小規模企業共済を継続するには、所定の手続きが必要です。以下で手続きの流れを紹介します。

中小機構と提携している団体や金融機関の窓口に必要書類を提出する

同一人通算の手続きには、以下の書類を中小機構と提携している団体や金融機関に提出する必要があります。

  • 個人事業の廃業届:税務署の受付印があり、廃業年月日が明記されているもの
  • 法人登記簿謄本もしくは履歴事項全部証明書:会社などの役員への就任が明らかなもの
  • 納付月数通算申込書兼契約申込書(同一人通算用)

中小機構から手続き完了のお知らせを受け取る

書類に不備がなく受理され手続きが完了すると、中小機構から「納付月数通算(同一人)手続き完了のお知らせ」と「契約内容確認書」が送付されます。この書類が届いたら手続きは完了しています。記載を確認し、契約内容を確認しておきましょう。

なお、要件を満たしていない場合は、提出した書類が返却されることがあります。その場合、書類を整えたうえで再度提出しなくてはなりません。

法人化(法人成り)後も小規模企業共済を継続するメリット

法人化(法人成り)後も小規模企業共済を継続することで、さまざまな経済的メリットが得られます。以下で、具体的なメリットについて解説します。

掛金を全額所得控除できる

小規模企業共済の掛金は、その全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象となります。

掛金は月額1,000円から70,000円までの範囲で、500円単位で設定可能です。また、経営状況に応じて掛金額を柔軟に変更でき、「月払い」「半年払い」「年払い」の3つの納付方法から選択できます。業績悪化時には一時的な支払い停止(掛け止め)制度も利用可能です。

掛金の運用利回りが高い

積立金は運用され、長期間加入することで元本以上のリターンが期待できます。

小規模企業共済の運用は、中小企業基盤整備機構によって安全かつ効率的に行われています。銀行の普通預金と比較して運用利回りが高い傾向にあり、元本以上のリターンが期待できる可能性もあるでしょう。

また、運用状況が良好な場合は、通常の共済金に加えて付加共済金が加算されるケースもあります。

金利の低い貸付制度を利用できる

共済加入者は年0.9%~1.5%低金利での貸付制度が利用できるのもメリットといえるでしょう。掛金の範囲内で、最大2,000万円までの借入れが可能です。

また、緊急経営安定貸付け、傷病災害時貸付け、福祉対応貸付け、創業転業時・新規事業展開等貸付け、事業承継貸付け、廃業準備貸付けなど、さまざまな種類の貸付制度が用意されています。

共済金の受取方法を選べる

共済金の受取方法は、一括受取、分割受取、一括と分割の併用から選択可能です。特に分割受取は、定期的な収入として活用できるため、安定的な老後の生活設計に役立つでしょう。

また、65歳以上で掛金を180ヶ月以上払い込んだ場合には老齢共済金を受け取れ、老後の生活資金としても活用できます。

付加共済金を受け取れる場合がある

共済金の運用実績が良好な場合、通常の共済金に加えて付加共済金を受け取れるケースがあります。付加共済金の額は運用状況によって変動するため必ず受け取れるわけではありませんが、そういう可能性があることはメリットのひとつといえるでしょう。

参考:共済サポート navi

法人化(法人成り)後も小規模企業共済を継続するときの注意点

小規模企業共済の継続にはさまざまなメリットがありますが、いくつかの注意するべきポイントもあります。

以下で詳しく紹介します。

掛金を必要経費や損金に算入できない

小規模企業共済の掛金は個人の所得控除の対象になりますが、法人の経費や損金として計上できません。

法人化(法人成り)後は会社の年末調整で所得控除を受けられますが、あくまでも個人の所得控除としての取り扱いになります。

共済金の受け取り時に税金がかかる

受け取る共済金は、所得税などの課税対象になります。一括受取の場合は退職所得として課税され、分割受取の場合は公的年金などの雑所得として課税されます。

特に分割受取の場合、受取時期や金額によって税率が変動する可能性があり注意が必要です。

掛金納付月数が短い場合は掛け捨てとなる

小規模企業共済の掛金納付月数が6ヶ月未満で、共済金A・Bの「請求事由」(事業廃止や死亡など)が生じた場合、共済金を一切受け取れず、それまでの掛金は掛け捨てになります。

また、準共済金や解約手当金については、掛金納付月数が12ヶ月未満の場合は掛け捨てです。そのため、法人化(法人成り)のタイミングは慎重に検討しなくてはなりません。特に加入から間もない時期での法人化を検討する場合は、掛金納付月数を十分に考慮することが重要です。

法人化後の事業継続計画も併せて検討し、掛金が無駄にならないよう注意しましょう。

掛金納付月数20年未満で任意解約をすると元本割れする

任意解約の場合、20年未満では元本割れになる可能性があるため注意しましょう。掛金納付月数が240ヶ月(20年)未満で任意解約した場合、解約手当金は掛金合計額を下回ります。これは、運用益や付加共済金を含めても元本割れとなる可能性が高いことを意味するものです。

特に加入から間もない時期の解約では、掛金総額に対する解約手当金の割合が著しく低くなります。そのため、加入時点で長期的な事業継続の見通しを立て、安易な解約を避けることが求められます。

参考:共済サポート navi

法人化(法人成り)で小規模企業共済を解約する場合にもらえるお金

法人化(法人成り)に伴い小規模企業共済を解約する場合、状況に応じて受け取れる共済金の種類が変わります。ここでは、それぞれのケースについて詳しく解説します。

小規模企業共済の加入資格がなくなった場合「準共済金」

個人事業主としての活動から法人化を進めた際、新たに設立した法人が小規模企業の条件を満たさない場合や、自ら役員として登録しない場合には、掛金の納付期間に応じて準共済金が受け取れます。ただし、掛金の納付月数が12ヶ月未満であれば、支給されず掛け捨てとなる点に注意が必要です。

小規模企業共済の加入資格を満たした状態で解約する場合「解約手当金」

法人化(法人成り)後も共済の加入資格を保った状態で解約するケースでは、任意解約扱いとなり解約手当金が支払われます。この金額は、掛金を納付した月数に応じ、総掛金額の80%~120%の範囲内で計算されます。ただし、掛金の納付期間が240ヶ月(20年)に達しない場合は元本割れです。また、掛金納付月数が12ヶ月に満たない場合、解約手当金は支払われません。

法人化(法人成り)でも一定の条件を満たせば小規模企業共済を継続できる

法人化(法人成り)後も小規模企業共済を継続できますが、一定の条件を満たすことが求められます。掛金の全額所得控除や低金利の貸付制度など、共済金の受け取り以外にも低金利での貸付けなどさまざまなメリットを活用できる一方で、短期解約による掛け捨てのリスクなど、無視できない注意点もあります。

事業の将来性や経営計画を踏まえながら、自身の状況に合わせて継続か解約か、または法人化(法人成り)のタイミングなどを慎重に判断しましょう。


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