- 作成日 : 2024年10月10日
一般社団法人は資金調達が難しい?基金や融資制度、助成金を解説
一般社団法人の資金調達は、営利企業と比べて選択肢が限られ、独特の難しさがあります。
しかし、適切な方法で戦略的にアプローチすれば、十分な資金確保が可能です。本記事では、基金制度や融資、助成金など、一般社団法人向けの資金調達方法を詳しく解説します。
目次
一般社団法人が利用できる資金調達の方法
非営利性や公益性といった特徴を持つ一般社団法人は、株式発行による資金調達ができず、資金調達の手段は融資や助成金、補助金などに限られます。
営利法人と比較して一般社団法人への融資は難しい場合がありますが、低金利かつ一般社団法人も対象となっている日本政策金融公庫の「新規開業資金」を利用することが可能です。
助成金や補助金は、国や地方自治体、民間財団などが事業の公益性や社会貢献度に応じて提供するものです。返済の必要がないため、資金繰りの負担を軽減する手段として有効となります。
基金制度は、一般社団法人が特定の目的のために設立するもので、寄付金を元に運営されることが一般的です。また、会費収入や寄付金募集、クラウドファンディングなども重要な資金源です。
資金調達支援協会などの専門機関は、一般社団法人の特性を理解しており、適切な資金調達方法の選択や申請手続きのサポートを提供してくれます。
資金調達においては、法人の事業内容や規模に応じて最適な方法を選択することに留意が必要です。
一般社団法人の資金調達:基金制度
一般社団法人の資金調達において、基金制度は非常に重要な役割を果たします。基金とは、一般社団法人が社員以外の者から拠出を受けた金銭その他の財産のことで、法人の活動資金として活用できます。
基金設立では、定款に基金の総額や拠出者の権利、募集・管理・返還方法を規定し、社員総会の特別決議での承認が必要です。また、返還義務のある「返還基金」と、返還義務のない「永久基金」の2種類があり、法人の目的や事業内容に応じて選択します。
基金の募集手続きは、以下の通りです。
- 募集事項の決定(総額・拠出の目的・払込期日など)
- 引受人への通知
- 引受人からの申込み
- 基金の割当て
- 拠出の履行
基金制度のメリットは、低コストで安定的な資金調達が可能な点です。また、拠出者にとっても社会貢献への参加機会となり、税制上の優遇措置を受けられる場合もあります。一方、デメリットは、基金の返還義務がある場合、将来的な財務負担となる可能性がある点です。
基金制度を効果的に活用するためには、法人の目的や事業計画と整合性のある基金の設計や拠出者とのコミュニケーション、適切な資金管理などが重要です。また、定期的な活動報告や成果の公表によって、拠出者との信頼関係を構築し、継続的な支援を得ることが成功の鍵となります。
一般社団法人の資金調達:融資や助成金
一般社団法人にとって、融資や助成金は重要な資金調達手段です。事業運営資金として利用される融資と、特定のプロジェクトに対して支給される助成金を効果的に活用することで、経営基盤の強化を図ることが可能です。 以下では、主な融資制度や助成金について詳しく解説していきます。
新規開業資金(日本政策金融公庫)
従来の「新創業融資制度」から、2024年4月に新たに制度化されたものが日本政策金融公庫の新規開業資金です。
この融資制度は中小企業だけでなく、一般社団法人も対象となっており、事業開始前から開始後7年以内の法人が運転資金や設備資金として利用可能です。申請は、まず事業計画書の作成から始まり、公庫への相談、必要書類の提出、審査を経て融資が実行されます。
一般社団法人がこの制度を利用する際の注意点として、非営利組織であることを踏まえた公益性の高い事業計画の立案が求められます。事業の実現可能性や収益性、返済能力も評価対象となるため、これらを十分に考慮した計画が必要です。ただし、返済能力の証明が課題となる場合があるため、慎重な計画立案が重要です。
新規開業資金の詳細は、以下もご参照ください。
制度融資
制度融資は、国や地方公共団体が民間金融機関を通じて行う融資制度ですが、一般社団法人には利用しにくい側面があります。
制度融資は、国や地方自治体と信用保証協会、金融機関の三者が協力して実施する融資制度で、民間金融機関よりも低金利で返済期間も長めに設定されているなどの特徴があります。
しかし、中小企業信用保険法においては、中小企業者を会社法上の会社(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社)や個人事業主として定義しており、一般社団法人はこの定義に含まれていません。
このため、多くの制度融資は、公益法人である一般社団法人は対象外となっていることが多く、事前に個別に確認することが必要です。
参考: e-Gov 法令検索 中小企業信用保険法第二条(定義)
ファクタリング
ファクタリングは、一般社団法人が保有する売掛金や未収金を早期に現金化する金融サービスです。専門業者(ファクター)に債権を譲渡し、その対価として資金を得る仕組みで、会費や事業収入などが対象となります。売掛先の信用力が重視されるため、融資よりも財務内容の審査が緩やかです。ただし、手数料コストや取引先との関係への影響に注意が必要で、利用を検討する際は、複数の会社に相談し、最適な選択肢を見つけることが重要です。
役員借入金
役員借入金は、一般社団法人の役員が自己資金を法人に貸し付ける形式の資金調達方法です。この方法は、迅速な資金調達が可能で、審査も不要なため、緊急時の資金需要に対応できるメリットがあります。
税務上は、適正な利率で利息を支払うことが求められます。また、借入の事実や返済計画を明確に記録し、理事会での承認を得るなど、適切な管理が必要です。
一般社団法人特有の注意点として、特定の役員への過度な依存を避け、公平性を保つことが重要です。また、長期的な借入は法人の財務健全性に影響を与える可能性があるため、返済計画を慎重に立てる必要があります。
銀行からの融資(プロパー融資)
プロパー融資は、銀行が独自の判断で行う融資で、一般社団法人も利用可能です。
使途が比較的自由で柔軟な条件設定が可能ですが、非営利性ゆえに審査のハードルは高く、事業の継続性や収益性、返済能力を明確に示すと共に、まず銀行との信頼関係を築くことが求められます。また、非営利法人への理解度や類似の融資実績を考慮し、地域貢献に積極的な金融機関を選ぶことも重要です。ただし、役員の個人保証を求められる場合があるため、事前に十分な検討が必要です。
助成金・補助金
助成金や補助金は、一般社団法人が利用可能な資金調達方法で、国や地方自治体、民間団体から提供されます。一例として、厚生労働省の「社会福祉振興助成事業(WAM助成)」や日本財団の助成プログラム、各省庁が実施する事業分野別の助成金などがあります。
申請は、公募情報の確認・書類提出・審査を経て交付が決まり、事業の公益性や実現可能性、費用対効果などが審査基準です。
注意点として、使途の制限や報告義務があります。適切な資金管理と成果報告が求められるため、計画的な執行と詳細な記録保持が重要です。また、継続的な支援を得るには、事業の成果を明確に示し、助成元と良好な関係を構築することが大切です。
これらは返済不要な資金が多く、法人にとって大きなメリットですが、単年度助成が多いため、終了後の事業継続計画も忘れてはなりません。
参考:WAM 社会福祉振興助成事業(WAM助成)、日本財団 助成プログラム 2025年度「公益・福祉募集」、 市民活動交流センター – Community Activity Exchange Center 助成金情報一覧、 CANPAN 助成制度/助成制度一覧
一般社団法人が融資を成功させるポイント
一般社団法人が融資を成功させるためには、事業計画書の作成が非常に重要です。非営利性と公益性を保ちながらも事業の継続性と収益性を明確に示す必要があります。ここでは、効果的な事業計画書の作成方法と、役立つテンプレートについて詳しく説明します。
事業計画書を入念に作成する
効果的な事業計画書作成のポイントは、一般社団法人の特性に重点を置いた構成と内容です。事業計画書の書式が決まっていない場合、「法人の概要」「事業内容」「市場分析(あるいは周辺環境分析)」「収支計画」「資金計画」といった構成にします。
「法人の概要」や他の項目では、法人の理念に加えて、理事会や社員総会の運営体制、情報公開の方法などのガバナンス面について言及します。「事業内容」では、公益性や社会的意義を明確に示し、「収支計画」「資金計画」では、安定的な収入源と収支バランスに対して、できる限り詳細な説明が必要です。
事業計画全体を通じて、できる限り具体的な過去のデータを用いて、将来の計画の信頼性を裏付け、事業の持続可能性が明確に伝わるように留意することが不可欠です。
事業計画書のテンプレート一覧
一般社団法人が融資を受ける際に役立つ事業計画書のテンプレートとしては、日本政策金融公庫の創業計画書や新規開業資金の書式が参考になります。ただし、これらは主に営利企業向けのため、一般社団法人の特性に合わせて適切にカスタマイズする必要があります。
特に、公益性の強調や、収益事業と非収益事業の区分など、法人の実情に即した内容を記載することが重要です。数値目標や具体的な施策については、法人の目的や活動内容に基づいて設定しましょう。
また、事業計画書・創業計画書テンプレート・ひな形(Word・Excel・PPTX)– マネーフォワード クラウド会社設立では、さまざまな業種のWord・Excel・PPTX形式のテンプレートが無料でダウンロードできます。法人の事業に近いものを選び、参考にすることで、より適切な事業計画書を作成できるでしょう。以下のテンプレートをぜひご活用ください。
参考 :日本政策金融公庫 創業計画書:各種書式ダウンロード|国民生活事業、日本政策金融公庫 新規開業資金:各種書式ダウンロード|国民生活事業
一般社団法人が融資以外に運営資金を確保するには?
一般社団法人が運営資金を安定的に確保するためのポイントは以下の通りです。
■会費収入の最適化
- 会員制度の見直しと会費の適正化
- 会員特典の充実(セミナーや情報提供)
- 会員ランク制の導入による収入増加
■寄付金募集の強化
- 活動内容や成果の定期的な報告による透明性と寄付者の信頼確保
- クラウドファンディングの活用(具体的なプロジェクト設定、広範な支援募集)
- 地域社会や企業との連携強化
- 認知度を高める各種施策の実施
■収益事業の展開(収益事業は、課税対象となるため税務面の管理が必要)
- 法人の目的に沿った事業選択(専門知識を活用したコンサルティング・関連商品販売など)
■資産運用
- 公益性を損なわない範囲での運用
- 低リスク金融商品中心の安全性重視の方針
■外部機関の活用
- 資金調達支援協会などによる専門的アドバイスや支援
- 企業や他の非営利組織とのパートナーシップ構築や業務委託の獲得
これらの方法を組み合わせ、法人の特性や目的に合った最適な資金調達戦略を立てることが重要です。同時に、透明性の高い情報公開や社会的信頼性の向上に継続的に注力し、持続可能な運営基盤を構築することが求められます。
組織のビジョンと財務の健全性のバランスを取ることが重要
一般社団法人の資金調達には、基金制度から融資、助成金、会費収入、寄付金など多様な選択肢があります。
一般社団法人は営利法人と比べて融資を受けることが難しい場合がありますが、事業の公益性と持続可能性を明確に示すことで新たな可能性が開けます。基金制度や助成金など、複数の資金調達方法を戦略的に組み合わせ、堅実な事業計画を立てることが重要です。このアプローチによって、安定的な運営の実現が期待できます。
さらに、近年ではクラウドファンディングやブロックチェーン技術を活用した新たな資金調達方法も注目を集めています。多様な専門家のアドバイスを受けつつ、企業や他の非営利組織とのパートナーシップを構築することで、より強固で持続可能な法人運営が実現可能となるでしょう。
これらの多様な方法を適切に活用し、組織のビジョンと財務の健全性のバランスを取ることが、一般社団法人の長期的な成功につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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