- 更新日 : 2024年4月25日
不動産投資を法人化して会社設立するメリットとは?
物件一棟所有しなくても、ワンルームからの投資ができるため、不動産投資は以前よりはじめやすくなりました。
現物の場合、賃貸用の不動産を所有し、会社員として働く傍ら副業で不動産投資をするケース。副業ではなく本業で不動産投資をするケースと、投資のありかたはさまざまです。
不動産投資である程度収入がある場合は、会社を設立して、法人として不動産を所有する方法も考えられます。この記事では、不動産投資での法人化とは何か、会社設立のメリットやデメリットも交えながら解説していきます。
目次
不動産投資の法人化とは
不動産投資の法人化とは、資産を管理するためのプライベートカンパニーを設立し、不動産投資の管理を個人から法人に移行することを指します。一般的な営利を目的とした法人とは異なり、新たな事業活動は行わず、設立者の資産の管理を目的とします。
かねてより富裕層の税金対策として活用されていた資産管理会社は、近年では、サラリーマンが副業として不動産投資を行う場合の税金対策としても注目されています。
個人投資家や副業との違い
不動産への投資には法人化は必須ではなく、個人でも行えます。ではなぜ費用や手間をかけて法人化するのでしょうか。
詳しくは不動産投資のための会社設立をするメリットで解説しますが、主な理由は、法人化することで節税効果が期待できるためです。
法人は個人に比べ、経費に組み込める支出の範囲が広くなり、課税所得を低く抑えやすくなります。また家族への役員報酬として所得を分散させることで、オーナーに所得が集中する場合よりも納税額を抑えやすくなるのです。
また、法人と個人では課せられる税金の種類が異なり、税率も異なります。所得に課せられる国税は、法人の場合は法人税、個人の場合は所得税です。法人税率は、たとえば資本金1億円以下の普通法人の場合23.2%で、800万円以下の課税所得については15%(適用除外事業者は19%)まで税率が軽減されます。
一方、所得税は5~45%の超過累進課税です。法人税と異なり、課税所得が多いほど税額が上がる仕組みとなっており、一定以上の所得からは、法人税よりも高い税率が適用されます。一定額以上の課税所得があるときは、法人化による節税効果が大きくなるのです。
不動産投資を法人化して会社設立するメリット
不動産投資の法人化にはどのようなメリットがあるのか、ひとつずつ解説していきます。
より多くのものを経費処理できる
個人と法人では経費の扱い方に違いがあります。個人の所得は性格によって10種類に区分され、それぞれの区分ごとに異なる税率で所得税が計算されます。また、うち8種類は総合課税の対象として損益を通算できますが、一部の所得は分離課税の対象となり、他の所得と損益通算できません。
一方、法人税は所得に区分を設けず、すべての収支を法人による包括的な経済活動として捉え、すべての費用と損失が通算されます。
これらを踏まえ、具体的な経費の扱い方の違いを見てみましょう。
経費の違いの例1.不動産の譲渡
法人による所有不動産の譲渡は、事業範囲で行われる経済活動と見なされます。そのため、不動産譲渡で損失が出た場合、損失分を費用(税務上は損金)として経費処理し、他の収支と合算して扱います。
一方、個人による不動産の譲渡は譲渡所得に分類されます。譲渡所得のうち不動産の売買は総合課税の対象とならず、分離課税されるため、事業所得に対する経費として計上できません。
例)不動産の譲渡で1,000万円の損失、その他の事業で3,000万円の利益が出た場合
個人 = 3,000万円の利益と1,000万円の不動産譲渡損を通算できないため、3,000万円が課税所得となる
法人 = 3,000万円の利益と1,000万円の不動産譲渡損を通算できるため、2,000万円が課税所得となる
経費の違いの例2.所得と給与
個人事業における事業主の人件費は、事業における経費に組み入れることはできません。そのため不動産投資で所有しているマンション等の家賃収入から必要経費を差し引いた全額が不動産所得となります。一方、法人における事業主への人件費は役員報酬の扱いとなり、経費として処理できます。
例)不動産収入200万円、諸経費10万円、事業主の人件費30万円とした場合
個人 = 不動産収入200万円から諸経費10万円を差し引き190万円が課税所得となる。人件費は経費算入できない。
法人 = 不動産収入200万円から諸経費10万円、人件費30万円を差し引き160万円が課税所得となる。
相続時の節税対策になる
不動産投資の法人化は、相続税の節税対策としても活用できます。たとえば、資産管理会社を通じた所得の分散による相続税対策です。設立した資産管理会社において家族を役員にし、役員報酬を支給します。そうすることによって、オーナーの所得を分散することになりますので、相続財産を圧縮できます。
また、相続税の評価については、資産管理会社が所有する不動産は当該不動産の評価ではなく、その法人の株式の評価により行われることから、会社が持つ資産額を株式評価額が下回るように調整できる非上場株式の評価のしくみを利用した相続税対策も可能になります。建物の法人所有の期間が3年以内の場合は株式評価が上がるなどの注意点はありますが、個人ではできない数々の相続税対策が可能となるため、不動産投資の法人化は大きなメリットになります。
損失を長期にわたって繰越できる
不動産投資が毎年コンスタントに黒字を出せるとは限りません。空室の増加や多額の修繕費発生などにより、赤字になることも十分考えられます。青色申告事業者の個人事業主なら、そうした損失を翌年以降に繰り越せますが、繰越期間が最大3年と短いため、大きな節税効果は得られません。
一方、青色申告を選択した法人は、損失を個人よりも長期にわたって繰り越せます。個人の3年に比べ、最大10年と長期間の繰り越しが認められるため、赤字を先々の節税に活用しやすくなります。
資金調達がしやすくなる
個人の場合、建物などの資産の減価償却費は、決められた額を強制償却しなければなりません。一方、法人の場合は、任意償却が可能です。税法上、決められた額を超える減価償却費は計上できませんが、決められた額以内であれば任意の額に減価償却費を調整できます。
減価償却費の任意償却は損金の額を減額する効果があるため、節税の面ではメリットはありませんが、金融機関からの融資の面でメリットがあります。
減価償却は、会計上と法人税法上で異なる考え方がされています。会計上は一定のルールに基づいた減価償却を是としており、任意償却を認めていません。一方の法人税法においては、会計上の償却限度額と法人が任意に減価償却した額の少ない方でよいとしています。
中小企業の多くは法人税法に基づいた処理を採用しており、任意償却による減価償却費の調整を行っています。任意償却は減価償却費を減額する行為であり、その年度の課税所得を増やすことになります。そのため決算書上では多くの利益を上げているように見えるため、金融機関から高い評価を受けやすくなります。
ただし、銀行によっては任意償却をマイナス評価する場合もありますので注意が必要です。また上場企業における任意償却は、会計監査で認められず、上場を維持できなくなるリスクも抱えています。
不動産投資を法人化して会社設立するデメリット
ここまで不動産投資の法人化のメリットを説明してきましたが、会社設立が必ずしもメリットになるとは限りません。法人化によるデメリットをいくつか取り上げます。
負担する費用が増加する
個人事業主の開業は、税務署などに開業届を提出するだけ終わります。法的な手続きは基本的に必要なく、開業のための費用もかかりません。一方、会社の設立には商業・法人登記が必要です。電子定款にするか、司法書士などに依頼するかなどで変動はありますが、少なくとも株式会社なら20~30万円程度、合同会社なら6~10万円程度のコストがかかります。
また、経営にかかるランニングコストについても考えておく必要があります。個人と比べて、法人の会計は厳密かつ複雑になり、さらには役員や従業員の社会保険加入や年末調整なども考えなくてはなりません。設立者自ら手続きを行うこともできますが、専門的な知識を要することから、税理士などの専門家へ依頼することが一般的です。会社によっては顧問弁護士やコンサルタントなど、外部の専門家への継続的な報酬が発生するため、個人の場合と比べて負担する費用が増加します。
長期保有した物件の売却益にかかる税率の優遇がない
個人の場合、所得は10に区分されます。所有する不動産を譲渡(売却)したときの所得の区分は譲渡所得です。所得税は、課税所得の範囲に応じて税率が上がる超過累進課税ですが、土地や建物を譲渡したときの所得は、分離課税としてほかの所得とは分けて所得税を計算します。
個人の所得は10種に区分されており、不動産の譲渡による所得は譲渡所得に該当します。不動産売買にかかる譲渡所得は分離課税の対象となり、他の所得と分けて所得税を計算します。
所有期間が5年以内の不動産を売却した場合の所得は短期譲渡所得とされ、所得税30%、住民税9%の合計39%の高い税率が課せられます。しかし5年を超えて所有してた不動産の売却所得は長期譲渡所得となり、所得税15%、住民税5%の合計20%の税率になる優遇措置が適用されます。
一方、法人税には所得税のような所得の区分は存在しません。そのため、物件の譲渡益に対して、普通法人なら23.2%(所得800万円以下は15%)に加え、法人事業税や法人住民税がかかるため、不動産の売却益に多くの税金がかかります。そのため長期所有の不動産があるなら、個人としての売却が高い節税効果を得られます。
赤字でも税負担がある
個人にも法人にも、地方税である住民税の課税義務があります。住民税は、個人や法人税の所得に対する税金と、世帯人数または従業員数や資本金の額に応じて付加される均等割で構成されます。
個人の場合は、不動産投資が赤字になっている場合や合計所得が一定以下の場合、均等割を含め住民税の課税はありません。
一方、法人は、会社が赤字を出していても、従業員数と資本金額から算出される均等割だけは支払わなければなりません。赤字でも必ず税負担がある点は、法人化のデメリットといえるでしょう。
法人化して会社設立するべきタイミングや目安
不動産投資の法人化には、メリットもあればデメリットもあります。会社設立を考えるなら、メリットがデメリットを上回ったときに法人化を考えます。
法人化による主なメリットは節税ですので、毎年課される税金が第一の基準となるでしょう。特に、法人税に関しては一定率であるのに対して、所得税は超過累進課税で税率が所得に応じて上がりますので、税額が逆転するタイミングを目安にするとよいでしょう。
もっとも簡単な計算は、法人税と所得税の比較による判断です。
【平成27年以降分の所得税速算表】
0円 | ||
97,500円 | ||
427,500円 | ||
636,000円 | ||
1,536,000円 | ||
2,796,000円 | ||
4,796,000円 |
出典:No.2260 所得税の税率|国税庁
【平成31年以降の普通法人の法人税率】
出典:No.5759 法人税の税率|国税庁(普通法人の部分を一部抜粋)
上記の表から、法人税率と所得税率が逆転する部分を探します。この場合ですと、所得税率が33%で法人税率の23.2%を超える課税所得900万円超あたりから、法人化した方が税金の負担を軽減できる計算になります。
ただし、上記の比較は法人税と所得税の単純な比較で、実際の税負担はもう少し複雑です。個人なら所得税に加え、個人住民税や個人事業税が課税されることがありますし、法人なら法人税に加え、法人事業税や法人住民税がかかることがあります。もう少し詳しく計算したいなら、以下の表を参考に計算すると良いでしょう。
【個人の所得にかかる税金】
195万円未満 | ×5% | ||
195万円~290万円未満 | ×10%-97,500円 | ||
290万円~330万円未満 | |||
330万円~695万円未満 | ×20%-427,500円 | ||
695万円~900万円未満 | ×23%-636,000円 | ||
900万円~1,800万円未満 | ×33%-1,536,000円 | ||
1,800万円~4,000万円未満 | ×40%-2,796,000円 | ||
4,000万円超 | ×45%-4,796,000円 |
※住民税は均等割を考慮していません。
※不動産貸付業については、10室以上など一定の規模を超える場合に限り個人事業税が課せられます。
【中小法人の実効税率】
400万円以下 | 約21.36% |
400万円超800万円以下 | 約23.17% |
800万円超 | 約33.58% |
※実効税率とは、法人税や法人事業税、法人住民税を考慮した全体の税率です。
上記の簡易計算や事業税や住民税まで含めた詳細な税額計算を利用して、所得税額が法人税額を上回るときに法人化を検討するとよいでしょう。
会社設立の手続き
不動産投資を法人化する場合は、会社設立の手続きはおおむね以下の流れで行います。
- 会社設立のための準備をする
- 定款の作成と認証を行う
- 登記書類を作成する
- 会社設立登記を行う
- 設立にともなう各種届出を行う
会社設立の具体的な流れや詳細は以下の記事で解説していますので、こちらをご覧ください。
不動産投資の事業計画書テンプレート(無料)
こちらから自由にお使いいただけるので、ぜひご活用ください。
・個人事業主(不動産投資)の事業計画書・創業計画書テンプレート・作成例
不動産投資の法人化は会社設立のメリットが高まったタイミングで
不動産投資は法人化することで、大きな節税効果を得られる場合があります。一定以上の収入に対する税率は法人が有利であり、個人では認められない経費が計上できるメリットもあります。一方で、法人ならではの経費の発生や優遇措置の不適用など、一部デメリットもあるのは事実です。不動産投資で法人化を検討できるだけの所得を得られたなら、専門家のサポートを受けながら、法人化を検討してみましょう。
よくある質問
不動産投資の法人化とは?
投資不動産の管理を目的とした資産管理会社を設立することです。詳しくはこちらをご覧ください。
個人と法人の不動産投資の違いは?
個人と法人では、経費にできる範囲、損失の繰越控除期間、課税所得に対する税率が異なります。詳しくはこちらをご覧ください。
不動産投資の法人化はどのタイミングで行うべき?
基本的には、個人の税負担が法人の税負担を上回る可能性が高いときに法人化を考えます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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