• 作成日 : 2024年9月26日

個人事業主の開業届は登記とどう違う?提出のメリットや商号登記について解説

個人が事業開始の際に提出する開業届については、所得税法において提出すべきと定められていますが、現行では例え開業届を出さなかったとしても特に罰則はありません。

これに対し、法人は設立登記をしないと「法人」にはなれず、法人として事業が始められません。この記事では、このような違いのある開業届と法人登記について解説します。

開業届と法人登記の違い

法人とは、個人とは異なり、法律が創り出した権利義務の主体となるもので、登記をすることによって初めて「法人格」が獲得できます。一方、個人事業主は「個人(=自然人)」として事業を行います。個人は生まれながらにして権利義務の主体となり得ます。

権利義務の主体とは、例えば、取引相手と契約を結んだり、財産の所有者になったりすることを言います。つまり、法律上、登記により「法人」となって権利義務の主体となる法人に対し、個人事業主は生まれながらにして「個人」として権利義務の主体となれる存在なのです。

この違いにおいて、法人登記をしないと「法人」にはなれないのに対し、個人は例え開業届を提出しなくても「個人」であることに変わりはありません。

開業届とは

個人事業主が事業を開始した際に提出する書類に「開業届」(正式名称:個人事業の開業・廃業等届出書)があります。個人で事業を始めた場合には提出することになるため気をつけましょう。

個人事業主が事業を始めたら開業届を提出する

開業届を提出すべきとされるのは、新たに事業所得、不動産所得または山林所得を生ずべき事業を開始した人です。独立し、継続して行う事業であれば、雑所得以外は提出の対象となります。

提出先

開業届の提出先は、納税地を所轄する税務署です。自宅を管轄する税務署ではなく、事業所のある住所を管轄する税務署である点に注意してください。

提出期限

開業届は事業の開始日から1月以内に提出することになっています。事業の開始日とは具体的には事業の準備が整った日と考えればよいでしょう。

参考:個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁

登記とは

法人登記とは、法人名称、法人の所在地、代表者の氏名、事業目的などを法務局にて登記簿に掲載し、広く一般に開示できる状態にする手続きを言います。

法人登記の目的としては、次のものが挙げられます。

  • 信頼性を確保する
    法人の概要を一般に示すことで、取引先や金融機関が法人が実在することや信頼性を確認でき、安心して取引を行うことができます。
  • 法人格を取得する
    会社の基本的な情報を登記することによって、法人格を取得することができます。法人は権利義務の主体となることができ、法人としての取引が可能となります。
  • 行政手続きの必要性
    法人として行政からの許認可を得たり、補助金を申請したりする際に登記簿が必要です。

法人にとっては信頼性を高め、円滑な取引を行うために登記は欠かせない手続きと言えます。

会社設立時には商業登記を行う

会社の商業登記のタイミングとしては、設立後遅滞なく手続きをする必要があります。

例えば株式会社であれば、設立総会の開催日等から2週間以内に登記することとされているため、それまでに申請できるよう事前に準備をしておきましょう。

参考:会社法第911条|e-Gov 

おおまかな登記の流れは次のようになっています。

  1. 事前準備:商号調査、社名・事業目的・本店所在地・資本金等の決定、役員の選任
  2. 定款作成:会社の基本的なルールを定めた定款作成
  3. 出資払込:設立時の資本金を銀行に入金
  4. 設立総会:役員の選任、重要事項の決定など
  5. 登記の準備:定款、議事録、印鑑証明書など
  6. 登記申請:法務局に申請書類提出
  7. 登記完了:登記完了後、登記事項証明書が発行される

登記が必要な法人の形態

「登記」については、「商業登記」や「法人登記」があり、それぞれ対象となる法人が異なっています。

商業登記は、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社などの商業活動を目的とする法人(会社)を対象とするのに対し、法人登記は「商業登記以外の法人」登記を目的とします。例えば、一般社団法人、NPO法人、宗教法人などです。

商業登記は、商業活動を行う法人(会社)に関する情報を登記する制度として、商取引の相手や第三者等が、会社の目的や資本金、役員などの情報を確認でき、取引の安全性や透明性の基礎となります。登記の根拠となる法律は「商業登記法」です。

参考:商業登記法第14条など|e-Gov 

法人登記は、公益活動や特定の事業のための法人の情報を登録するものであり、登記によって社会的な信用を得るための基礎が構築されます。

登記の根拠となる法律は、それぞれの法人形態に応じた個別の法律によって規定されています。例えば、NPO法人であれば、「特定非営利活動促進法」となります。

参考:特定非営利活動促進法第7条|e-Gov 

申請方法

商業登記における設立申請手続きとしては、基本的には申請書と添付書類を提出します。その際、法人によって様式や添付書類も異なるため注意が必要です。詳細は、法務局のサイトなどでご確認ください。

参考:商業・法人登記の申請書様式|法務局登録免許税の税額表|国税庁

また、申請方法には、窓口持参、郵送、オンラインがあります。窓口持参や郵送の場合には、事業所を管轄する各法務局で手続きをします。

窓口対応時間は平日9時から17時までであり、オンライン申請については「法人設立ワンストップサービス」などの利用しやすいシステムも導入されています。

参考:各法務局のホームページ|法務局法人設立ワンストップサービス|デジタル庁

個人事業主が開業届を提出するメリット

個人事業主の開業届については、所得税法第229条において「税務署長に提出しなければならない」とされています。開業届の提出を失念した場合の罰則規定は特にないものの、税金に関する注意喚起やパンフレットなど税務署からの通知もあるため、提出することをおすすめします。

参考:所得税法第229条|e-Gov

併せて青色申告承認申請をすることにより節税対策になる

開業届の提出に併せて「青色申告承認申請書」を提出することが可能です。開業届の書面の中ほどには、「開業・廃業に伴う届出書の提出の有無」として、青色申告承認申請や消費税の書面についての提出有無を問う欄があり、開業届に併せて提出を促しているようです。

開業届は「届出」であり、「青色申告承認申請書」のような申請ではありません。届出と申請の違いは、「届出」が行政庁に対して一定の事項の通知をするのに対し、「申請」は法律に基づいて行政庁の許可等を求める行為という点です。

したがって、開業届においては所定事項を記載して提出するのみですが、青色申告の申請をしても、何らかの理由で承認されないこともあり得ます。

青色申告では、青色申告特別控除欠損金の繰越しをはじめ種々の税務上の優遇を受けられるため、記帳のハードルは上がりますが会社組織では必須と言えるでしょう。

参考:No.2070 青色申告制度|国税庁

屋号での口座を開設できる

金融機関では、屋号付き口座に対応しているところも多く見受けられ、請求書の宛先が個人名だけではなく「屋号」の付いた口座を持つことができます。

開業届を提出した場合、窓口でもe-Taxでも必ず控えをとっておきましょう。屋号付き口座を作成する場合、開業届には屋号を記載する欄があり、開業して日が浅いうちは開業届の控えが屋号の証明になります。

補助金や助成金を申請できる

開業当初の資金繰りに、国や自治体による助成金や補助金を利用することもあります。その際、開業から日が浅い場合の個人事業主としての証明に、開業届の控えが利用できることが多いのです。

事業を開始したことを宣言したこととなる開業届の控えは、開業後しばらくは各方面で利用価値があると言えます。

個人事業主の商号登記とは

個人事業主は開業届に自分で考えた「屋号」を記載しますが、開業届に記載した屋号は法的に保護されるという訳ではありません。

商号登記とは、この「屋号」を法務局へ登記することを言い、登記された屋号は「商号」と呼ばれます。「商業登記簿」に登録された「商号」には一定の範囲内では他の個人や法人が同じ名称を使えないという法的な拘束力があります。

個人事業主が商号登記をするのは少数派ですが、一定の状況で行われることがあります。

参考:商法第11条|e-Gov

商標登録との違い

商号登記と似た用語に「商標登録」があります。商号登記が、個人事業主のビジネスネームである商号を法務局に登記することを指すのに対して、商標登録は事業における商品やサービスを識別するためのロゴ、マーク、名称などの識別標識を特許庁に登録することです。

商標登録は商号登記と異なり、全国的な独占的使用権を取得することになります。また、商号は事業上で名乗る名称であるのに対し、商標は保護されるべき「個別の製品やサービス」の名称となります。

参考:商標制度の概要|経済産業省 特許庁

準備するもの

商業登記法には、「商業登記」として9種類の登記が定められており、商号登記はそのうちの一つで、登記すべき事項は次の4項目です。

  • 商号
  • 営業の種類
  • 営業所
  • 商工使用者の氏名及び住所

参考:商業登記法第28条|e-Gov

商号登記をするには、まず、事前に法務局やインターネットなどで他の事業者との重複がないかを確認しておく必要があります。その上で、商号登記申請書と添付資料を提出し、登録免許税(後述)を支払います。

商号登記申請書の書式については、管轄の法務局に問い合わせてみましょう。

費用

個人事業主が商号登記をする場合にも登録免許税が課税されます。個人の場合の商号登記(新設または変更)は1件につき3万円となっています。

参考:登録免許税の税額表|国税庁

個人事業主が商号登記を行うべきケース

個人事業主が商号登記をすることによって、事業の社会的な信頼性の向上だけでなく、一定の地域内で同じ商号の使用を禁止できるため、ブランド価値の保護につながるでしょう。

将来的に、ビジネスを拡大し法人化を考えている場合などには、初めから商号登記をしておいて、早くから顧客に親しまれる商号を使うのがよいかもしれません。

商号登録においては、使用できない文字や表現があります。例えば個人の場合は「株式会社」や「〇〇法人」などは使えません。また、特に許認可が必要となる業種においては関連する法令などへの注意も必要です。

個人で商号登記をするときは、開業届は後で提出!

個人であっても「商号登記」は可能です。個人事業主の商号登記については、順序として商号登記→開業届となるため、順番を間違えないようにしましょう。商号登記にはある程度時間が掛かるため、早めの手続きをしておき、開業届の期限に遅れないようにすることも大切です。


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