• 作成日 : 2024年9月6日

民泊経営の許認可まとめ!法令ごとの違いやメリット・デメリットを解説

民泊は、訪日外国人旅行者(インバウンド)の増加とともに急速に市場が拡大し、同時にさまざまな問題も発生しました。これらの課題に対応するため、2018年に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されました。現在、民泊を経営するには、法律にもとづく許可や届出が必要となっています。

本記事では、民泊の許認可の詳細や、物件選びや改築時に気をつけたい法律、民泊から出たごみの処理方法について解説します。

民泊経営を始めるなら、しっかり許認可を取得する

民泊経営を始めるときには、法律を確認し、目的に沿った許認可を取得しなければなりません。その理由を説明します。

トラブル多発により2018年に民泊新法が施行

2018年に施行された「住宅宿泊事業法」(通称「民泊新法」)は、急速に拡大した民泊市場におけるトラブルを背景に制定されました。この法律は、無許可での経営や近隣住民とのトラブルを防ぐために、民泊事業者に対して適切な許認可を取得することを義務づけています。

民泊を始めるためには、次の法律にもとづいた手続きが必要になります。

  • 民泊新法(住宅宿泊事業)
  • 旅館業法
  • 国家戦略特区法(特区民泊)

グレーゾーンの業者への規制が強化される可能性も

国は民泊に関する新たな法律を制定し、グレーゾーンの業者への規制を強化しました。

民泊は、個人宅の一部を観光客に貸し出すという新しいビジネスモデルとして登場し、急速に普及しました。需要が高まる一方で法律が追いつかず、グレーゾーンでの経営や文化・生活習慣の違いなどによるトラブルも絶えませんでした。そこで民泊新法を制定し、民泊の経営基準を明確化したのです。

民泊経営において許認可を取得することは、事業の安定化と安全な経営のために必要不可欠です。グレーゾーンでの経営はリスクがあることを十分に認識し、民泊事業に取り組まなければなりません。

民泊許認可の法令別 3業態とメリット・デメリット

民泊を始めるために必要な許認可を、業態別に解説します。それぞれの特徴や、メリット・デメリットを比較したうえで、適した法律にもとづいて手続きを行ってください。

住宅宿泊事業

住宅宿泊事業は、民泊新法(住宅宿泊事業法)にもとづいて経営される合法的な民泊サービスです。この事業は、訪日外国人旅行者の増加に対応するために導入され、規制のもとで安全かつ適正に経営されることが求められています。

住宅宿泊事業にはおもに次のような特徴があります。

  • ホスト(家主)が不在の場合は、住宅宿泊管理業者に管理を委託する必要がある
  • 一般住宅を利用して、1年の内最大180日まで宿泊者の受け入れができる

また、メリット・デメリットは次のとおりです。

【住宅宿泊事業のメリット・デメリット】
メリット
  • 住居専用地域でも開業可能
  • 住宅からの用途変更が不要
  • 手続きが簡単
デメリット
  • 建物の汚損・破損のリスク
  • 外国人観光客に対する文化の違いの配慮
  • 年間営業日数180日の上限

民泊新法による許認可(ホスト不在型は住宅宿泊管理業者に管理委託)

民泊新法(住宅宿泊事業法)によって、ホスト(家主)不在型の民泊は住宅宿泊管理業者への管理委託が義務づけられています。これは、宿泊者の安全を確保し、近隣住民とのトラブルを防ぐためです。住宅宿泊管理業者は、民泊施設の管理、宿泊者の受け入れ、緊急時の対応などを行います。

住宅宿泊管理業者になるためには、国土交通大臣宛てに書類を提出しなければなりません。書類が受理されることにより住宅宿泊管理業者として登録され、民泊の管理ができるようになります。

年間の営業日数制限あり

民泊新法では、民泊事業の年間営業日数が180日に制限されています。この制限は、次のような理由から設けられています。

  • 民泊の宿泊客による騒音やゴミ捨てマナーなどのトラブルを軽減するため
  • 民泊の利用者が増えることにより、ホテルや旅館の倒産を防ぐため

180日の制限を超えた場合は、6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金に科せられる※おそれがあるので注意が必要です。

※旅館業法違反による罰則が適用される

営業日数制限を超えて経営をしたい場合には、旅館業法を適用する・特区民泊にするなどの対策があります。

申請は簡単だが、収益性は低い

民泊新法は、行政に書類を提出すれば民泊経営ができるため、申請は簡単です。ただし、次のような理由から収益性が低いデメリットがあります。

  • 180日を超える民泊経営ができない
  • 民泊を経営するための費用(リフォームや家具の調達などの初期費用・民泊の維持および管理費用)がかかる

旅館・ホテル・簡易宿所

旅館・ホテル・簡易宿所は、旅館業法を適用し宿泊サービスを行う事業所です。

それぞれ、次のような違いがあります。

旅館営業和式の構造および設備を種とする設備を設けて、宿泊料を受け取り、顧客を宿泊させる
ホテル営業様式の構造および設備を種とする設備を設けて、宿泊料を受け取り、顧客を宿泊させる
簡易宿所営業

(ペンション・ユースホテルなど)

宿泊する場所を多数人で共用する構造および設備を設けて、宿泊料を受け取り、顧客を宿泊させる

旅館業法について(民泊制度ポータルサイト)を加工して作成

旅館業法を適用する旅館・ホテル・簡易宿所には、次のようなメリット・デメリットがあります。

【旅館・ホテル・簡易宿所のメリット・デメリット】
メリット
  • 営業日数・最低宿泊日数は無制限
  • 高い収益性
デメリット
  • 厳しい設備要件
  • 高額な初期投資費や維持管理費

旅館業法による許認可

旅館業法による許認可は、該当する宿泊施設を営業する際に必要です。旅館業法において、旅館業は次のように分類されています。

旅館・ホテル営業簡易宿所営業および下宿営業以外の施設
簡易宿所営業客室を多人数で共用する宿所施設

※カプセルホテルや山小屋など、ひとつの客室を多人数で共用する場合が該当する

下宿営業1ヶ月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる施設

出典:旅行業のてびき|東京都多摩府中保健所

旅館業法にもとづく許認可の申請手続きは、各都道府県の保健所で行います。

申請に必要な書類は営業形態によって異なりますが、一般的には次のとおりです。

  • 申請書
  • 施設の平面図
  • 設備の仕様書

営業日数、最低宿泊日数は無制限

旅館業法における営業日数と最低宿泊日数に、一般的な制限はありません(下宿営業の場合は1ヶ月以上の最低宿泊日数がある)。旅館業法を適用している施設は年間を通じて自由に営業することが可能です。そのため、繁忙期には毎日営業・閑散期には営業日数を減らす、長期滞在を希望する顧客を受け入れるなどのさまざまなニーズに対応できるようになります。

収益性が高いが、設備要件は厳しい

旅館業法にもとづく営業は年間を通じて営業日数の制限がないため、安定した収益が見込めます。しかし、施設の設備要件は非常に厳しく、消防法や建築基準法にもとづく防火設備・衛生管理・バリアフリー対応などが求められます。

これらの基準を満たすためには、設備投資や維持管理にかかるコストも検討しなければなりません。

特区民泊

特区民泊は、国家戦略特区※において、旅館業法の規制を一部緩和して営業できる民泊制度です。通常の民泊(住宅宿泊事業法)とは異なる特徴があります。

※国家戦略特区:成長戦略の実現に必要な規制・制度改革を実行し、世界で一番ビジネスがしやすい環境の創出を目的に創設された地域のこと

出典:国家戦略特区|内閣府

【特区民泊の主な特徴】

  • 地域限定
  • 設備要件の緩和(旅館業法と比較した場合)
  • 最低宿泊日数あり
  • 営業日数制限なし

また、特区民泊には次のようなメリット・デメリットがあります。

【特区民泊のメリット・デメリット】
メリット
  • 旅館業法の規制が緩和
  • 外国人旅行客の滞在に特化可能
  • 1年を通して営業可能
デメリット
  • 最低宿泊日数の設定
  • 限られた営業地域

国家戦略特区法による許認可

国家戦略特区法による許認可は、特定の地域で規制を緩和し、通常の法律では認められない民泊経営が可能になる制度です。観光客の増加が見込まれる地域で、収益性の高い民泊経営ができるメリットがあります。しかし、認定地域外では経営できない点がデメリットとして挙げられます。

主な民泊特区の認定要件は次のとおりです。

所在地
  • 宿泊施設が国家戦略特別区域内にあること
最低宿泊日数
  • 2泊3日以上
居室の設備要件
  • 居室の床面積が25立方メートル以上であること
  • 出入口と窓には鍵がかけられることなど
物件の管理規約
  • 区分所有建物の場合、管理規約で特区民泊の使用が明確に禁止されていない限り、原則として利用できる
近隣住民への対応
  • 事前に近隣住民への説明を行うこと
外国語案内
  • 外国人宿泊者向けに外国語による案内を提供すること

最低宿泊日数は2泊3日以上

特区民泊には「最低宿泊日数は2泊3日以上」という要件があります。特区民泊の目的が、より長期の滞在を促進するための制度だからです。

出張で1泊だけするようなビジネス利用や、短期旅行者の利用に特区民泊は向いていません。

外国人旅客の滞在に特化できるが地域に制限あり

特区民泊は外国人旅客の滞在に特化した経営を行える点が大きな特徴です。特区民泊は、旅館業法の特例として位置づけられています。一般的な民泊よりも柔軟な経営が可能となり、外国人旅客向けのサービス提供に特化しやすい環境が整っています。

しかし、特区民泊は特定の地域に限られており、地域外では経営できません。

【特区民泊を実施している主な地域】

  • 東京都大田区
  • 千葉市
  • 新潟市
  • 北九州市
  • 大阪市
  • 八尾市
  • 寝屋川市

※2024年6月30日現在

「国家戦略特区 特区民泊の実績」(内閣府)を加工して作成

民泊の物件選びや改築時に確認したい建築基準法

民泊用の物件を賃貸・購入したり、既存の建物を改築して民泊として使用したりする際には、建築基準法(建物の敷地・構造・設備・用途などに関する最低基準を定めた法律)に従う必要があります。それは、次のような理由からです。

安全性の確保耐震性、防火性、避難経路の確保など、建築基準法が定める安全基準を満たす必要がある
用途変更の手続き住宅を宿泊施設に転用する場合、建築基準法にもとづく用途変更の手続きが必要となる
法令遵守建築基準法をはじめとする関連法規を遵守することで、違法営業のリスクを回避し、安全な民泊経営を実現できるようになる

これらの手続きを適切に行うことで、民泊経営を合法的かつ安全に行えるようになります。

用途地域

用途地域とは、都市計画法にもとづいて定められた土地の利用目的を示すもので、住居地域・商業地域・工業地域などがあります。地域によって民泊経営できない場所があるため、注意が必要です。

【都市計画法で定められている用途地域】

  • 第一種低層住居専用地域:低層住宅のための地域
  • 第二種低層住居専用地域:主に低層住宅のための地域(150平方メートルまでの建物)
  • 第一種中高層住居専用地域:中高層住宅のための地域(500平方メートルまでの建物)
  • 第二種中高層住居専用地域:主に中高層住宅のための地域(1,500平方メートルまでの建物)
  •  第一種住居地:居住の環境を守るための地域(3,000平方メートルまでの建物)
  • 第二種住居地域:主に居住の環境を守るための地域
  • 準住居地域:自動車関連施設などの立地と、調和した居住の環境を保護するための地域
  • 田園住居地域:農業と調和した低層住宅の環境を守るための地域
  • 近隣商業地域:周辺住民が日用品の買い物などをするための地域
  • 商業地域:銀行・映画館・飲食店などが集まる地域
  • 準工業地域:主に軽工業の向上やサービス施設が立地する地域
  • 工業地域:事業の種別を問わず工場が建てられる地域
  • 工業専用地域:工場のための地域

「用途地域」(国土交通省)を加工して作成

原則として、工業地域・工業専用地域以外であれば民泊の経営は可能です。しかし、民泊の目的や用途に合わせて地域を選ぶことが重要なポイントになります。

用途変更

用途変更とは、建物の使用目的を変更することです。たとえば、旅館業法を適用し住宅を民泊施設として利用する場合には、用途変更の手続きが必要になります。民泊新法の場合は、この手続きは不要です。

用途変更が必要な理由は、建物の使用目的によって求められる安全基準や設備基準が異なるためです。

具体的な手続きや要件については、地域の行政機関や専門家に相談するとよいでしょう。

民泊ごみ処理の申請も必要

民泊から出たごみは「産業廃棄物」として処理しなければなりません。理由や手続きの方法を解説します。

民泊から出たごみは事業系ごみ

民宿から出たごみは「事業系一般廃棄物」と「産業廃棄物」に分類されます。

一般家庭から出るごみは一般廃棄物として扱われますが、民泊から出たごみは「事業系ごみ」に該当するため、家庭ごみの集積場には出せません。

民泊のごみは、産業廃棄物処理業者と契約して処理を委託するか、事業系ごみとして自治体のごみ処理場に持ち込む必要があります。

産業廃棄物処理業者と契約を結ぶ

産業廃棄物処理業者と契約を結ぶことは、民泊経営者が事業系ごみとしての適切な処理を行うための一般的な方法です。

一般的な契約の方法は次のとおりです。

【産業廃棄物処理業者との契約方法】

  1. 業者の選定
    はじめに、事業系ごみ処理ができる産業廃棄物処理業者を選びます。業者は地域によって異なり、回収頻度や費用に違いがあります。
  2. 契約の締結
    選定した業者と処理委託契約を結びます。このとき、業者の産業廃棄物処理業の許可番号が記載された契約書を交わすことが重要です。この契約書がないと、民泊の届出が承認されないおそれがあります。
  3. ごみの回収
    契約にもとづき、業者が定期的にごみを回収します。回収頻度はスポット契約から週1回の定期回収まで選べるので、状況によって適切なものを選びましょう。費用はごみの量や回収頻度に応じて変動します。

産業廃棄物処理業者と契約することで、民泊から出るごみを適切に処理できるようになります。

用途や目的に沿った許認可を取得し民泊を経営しよう

民泊を経営する際には、用途や目的に合った許認可の取得が必要です。許認可には3つの形態があります。

  • 民泊新法(住宅宿泊事業)
  • 旅館業法
  • 国家戦略特区法(特区民泊)

それぞれの法令の特徴や、メリット・デメリットを把握したうえで、適切な手続きを取りましょう。

また、民泊を経営するにあたって、ごみ処理の方法も大きな問題となります。民泊から出たごみは「事業ごみ」となり、一般ごみには出せません。自治体のごみ処理業者に持ち込むか、産業廃棄物処理業者と契約をして、処理をしてもらいましょう。


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