• 更新日 : 2026年4月15日

事業承継税制とは?要件や申請期限、改正内容をわかりやすく解説

Point事業承継税制とは何ですか?

事業承継税制は、中小企業が後継者へ株式や事業用資産を引き継ぐ際の相続税・贈与税を猶予または免除する制度です。

  • 特例措置で税負担を最大100%免除
  • 法人版と個人版がある
  • 5年間の事業継続や雇用維持が主な要件

特例承継計画は法人版2027年9月30日、個人版2028年9月30日までに提出が必要です。

事業承継税制は、中小企業が事業を次世代に引き継ぐ際の相続税や贈与税の負担を軽減する制度です。この制度により、後継者は経済的な負担が軽減され、円滑な事業承継が可能になります。

本記事では、事業承継税制の種類や要件、申請時期などについて詳しく解説します。

目次

事業承継税制とは?

事業承継税制は、中小企業の円滑な世代交代を税制面から支援するために設けられた制度です。後継者不足や相続・贈与に伴う多額の税負担が経営継続の障害となるケースが増えるなか、企業の存続と雇用維持を後押しする役割を担っています。

中小企業が事業承継時に相続税・贈与税の納付を猶予または免除できる制度

事業承継税制とは、中小企業が自社株式や事業用資産を後継者へ引き継ぐ際に発生する相続税や贈与税について、その納税を猶予、または一定の要件を満たすことで最終的に免除できる仕組みです。事業承継時には多額の税負担が生じ、資金繰りや経営の安定性に大きな影響を与えることがあります。とりわけ日本経済を支える中小企業では、経営者の高齢化や後継者不足、財務基盤の脆弱さなどが重なり、円滑な承継が困難になる事例も少なくありません。

こうした課題に対応するため、2009年の税制改正で創設されたのが事業承継税制です。その後も複数回の改正を経て要件の緩和や特例措置の拡充が図られ、当初より活用しやすい制度へと見直されてきました。

事業承継税制の種類は?

事業承継税制は「法人版」と「個人版」に分かれており、それぞれで適用条件や範囲に違いがあります。法人版と個人版の主な相違点を表にまとめました。

項目 法人版(一般措置) 法人版(特例措置) 個人版
対象資産 総株式の最大3分の2 すべての株式(非上場株式) 特定事業用資産
納税猶予割合 贈与税100%

相続税80%

贈与税100%

相続税100%

贈与税100%

相続税100%

後継者数 1人の後継者 最大3人の後継者 1人の後継者
事前の計画策定 不要 ※2027年9月30日までに特例承継計画の提出が必要 ※2028年9月30日までに特例承継計画の提出が必要
適用期限 なし 2027年12月31日までにあった贈与や相続 2028年12月31日までにあった贈与や相続

令和8年度税制改正の大綱による

法人版事業承継税制

法人版には「一般措置」と「特例措置」があり、一般措置では発行済み株式の3分の2までが納税猶予の対象です。

この措置で贈与税は100%、相続税は80%が猶予され、後継者は1人に限られます。特例措置の場合は、猶予対象資産や後継者の人数制限が異なり、事前に特例承継計画の策定が必要です。

法人版の特例措置は2018年に創設され、事業承継時の負担がより軽減されました。また、特例承継計画の提出期限は2022年度、2024年度改正時に延長されるなど、利用機会の拡大への配慮が見られます。

個人版事業承継税制

個人版では、特定事業用資産が対象となり、贈与・相続時の税金について100%の納税猶予が受けられます。

適用には特例承継計画の作成と提出が必要で、2028年12月31日までの適用期限があります。もともと法人のみ対象だった事業承継税制ですが、2019年度の改正で個人事業者も対象に含まれるようになり、個人の事業承継にも対応が進みました。法人版と異なり、個人版には一般措置・特例措置の区分がありません。

また、法人、個人ともに、経営者や後継者において満たすべき要件も存在します。詳細は次項で紹介します。

参考:中小企業庁 事業承継ガイドライン(第3版)

事業承継税制の要件は?

事業承継税制には、法人版および個人版のどちらにも、先代経営者と後継者に求められる特定の要件が存在します。それぞれの条件を詳しく見ていきましょう。

法人版事業承継税制

法人に適用される要件は、以下の通りです。

【 会社に関する要件】
  • 次の会社のいずれにも該当しないこと
    1. 上場会社
    2. 中小企業者に該当しない会社
    3. 風俗営業会社
    4. 資産管理会社(一定の要件を満たすものを除きます。)
【先代経営者に関する要件】
  • 先代経営者である贈与者法人の代表権を有していたこと、贈与の直前において、贈与者及び贈与者と特別の関係が ある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、 後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有 していたこと(贈与税の場合)
  • 先代経営者である被相続人が会社の代表権を有していたこと、相続開始直前において、被相続人及び被相続人と特別の 関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、 かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権 数を保有していたこと(相続税の場合)
【後継者に関する要件】
  • 贈与時に18歳以上で、会社の代表権を有していること など(贈与税の場合)
  • 相続開始直前において役員を務めており、相続開始から5ヶ月以内に会社の代表権を有していること など(相続税の場合)

個人版事業承継税制

個人事業者にも、事業承継税制を利用するための要件があります。

【先代経営者に関する要件】
  • 正規の簿記の原則による青色申告に係る一定の事業を行っていたことなど
【後継者に関する要件】
  • 贈与税や相続税の申告期限までに青色申告の承認を得ていること
  • 贈与時点で18歳以上であること、さらに、贈与の直前において特定事業用資産に係る事業に従事していたこと(贈与税の場合)
  • 相続開始直前において特定事業用資産に係る事業に従事していたこと(相続税の場合)
  • 都道府県知事の「円滑化法の認定」を受けていること
  • 特定事業用資産に係る事業が、資産管理事業および性風俗関連特殊営業に該当しないこと

個人版の場合には、先代経営者および後継者の双方が青色申告の対象者であることが必要です。

参考:日本税理士連合会 事業承継税制の概要

事業承継税制のメリットは?

事業承継税制には様々な要件があり、複雑な部分もありますが得られるメリットは大きいといえます。

以下で詳しく見ていきましょう。

相続税や贈与税が猶予・免除される

事業承継税制を利用することで、後継者が先代経営者から受け継ぐ株式や資産に対して、相続税や贈与税が猶予または免除されます。

事業承継において、税負担は障害になりがちです。条件を満たす必要はあるものの、特例措置を利用すれば最終的には全株式に対して100%の免除が受けられるため、経済的負担から解放され、経営戦略に専念できるようになります。

特に中小企業では資金繰りが厳しいことが多いため、このメリットは非常に大きいといえるでしょう。

事業運営に必要な資金を確保できる

納税負担が軽減されることで、後継者は事業運営に必要な資金を確保しやすくなり、新たな投資や設備の更新、人材の育成などに経営資源を有効活用できます。

特に成長段階にある企業では、この資金確保が企業の競争力向上につながるでしょう。また、事業承継後も安定した運営が期待できるため、従業員や取引先との信頼関係も維持しやすくなります。

事業承継税制のデメリットは?

事業承継税制にはメリットがある一方、デメリットもあるため、よく理解して利用することが大切です。ここでは、デメリットについて詳しくご紹介します。

納税猶予または免除までに時間がかかる

相続税や贈与税が最終的に納税猶予または免除されるものの、それが決定するまで時間がかかり、さらにその間にも必要な手続きがあり、手間もかかります。申請が通ったらそれでよし、というわけではないため、その点には注意が必要です。

さらに、計画策定自体にも労力と時間がかかるため、早期から計画的に準備を進めることが求められるでしょう。

納税の猶予期間中に取り消し事由があった場合、利子税の支払いも必要

適用後に条件を満たさなくなると、その時点で猶予されていた税額を支払わなければなりません。この場合、利子税も発生するため、結果的に負担が増えることになるのはデメリットといえるでしょう。

取消事由は後継者が代表者を退任した、資本金や準備金を減少したなど、20を超えます。やむを得ない事態が発生するケースもありますが、できるだけ取り消し事由に該当することがないよう注意しましょう。

M&Aが難しくなる

事業承継税制は親族間承継を前提にした制度であり、事業承継税制適用後に株式譲渡をすると認定取消事由に該当し、猶予されていた税に加えて利子税を納税しなければなりません。

そのため適用後の事業承継ファンドなどによるM&Aには、慎重になる必要があります。売却益が十分であれば問題ないですが、そうでない場合は税負担が大きくなるリスクが否定できません。なお、適用から5年を経過していれば減税措置があるため、その点も考慮して慎重に判断しましょう。

事業承継税制の申請・承継方法は?

事業承継税制を利用するためには、一連の手続きを踏む必要があります。以下は法人版事業承継税制(特例措置)の場合の流れです。

  1. 特例承認計画の作成・確認申請
    まず、「特例承認計画」を作成し、都道府県知事による確認を受けます。特例承認計画には具体的な経営方針や後継者についての情報が含まれ、認定経営革新等支援機関の指導および助言を受けて作成します。
  2. 経営者退任・交代
    計画が認定された後、現経営者は正式に退任し、後継者による新しい経営体制へ移行します。
  3. 株式贈与・相続
    後継者への株式贈与または相続を行います。この際、贈与契約書などの書類も整えておく必要があります。
  4. 都道府県知事による認定申請
    株式贈与後、申請し都道府県知事による認定を受けます。この認定によって正式に制度適用になります。
  5. 税務申告
    最後に税務申告を行います。その後も事業継続要件を維持するための書類提出などがあります。

納税猶予期間開始後も、定期的に「年次報告書」や「継続届出書」を提出しなければなりません。こうした流れをもって、猶予・免税が受けられることを理解しておきましょう。

事業承継税制を活用する際の注意点は?

事業承継税制を利用する際にはいくつか気を付けたいポイントがあります。猶予や免除を受けるはずが逆に負担が増える可能性があるため、注意しましょう。

以下で、詳しくご紹介します。

早期の計画立案が不可欠

事業承継税制は手続きが複雑で手間がかかるため、早期から計画的に進めていくことが重要です。特に法人版の特例措置や個人版の場合は特例承継計画の提出が必要なことに加え期限もあるため、前提条件についても早めの確認が求められます。

計画立案も時間がかかります。できるだけ早く着手するようにしましょう。

専門家への相談が重要

事業承継税制では、適用された後も定期的に書類を提出しなければなりません。そのため、専門家の力を借りることがスムーズに適用を受けるためのひとつのポイントといえます。

弁護士や税理士と顧問契約をしているのであれば、相談しながら進めましょう。自社の状況を把握しているため、的確なアドバイスが受けられます。商工会議所や、国が設置している公的相談窓口である「事業承継・引継ぎ支援センター」などを利用するのもよいでしょう。

将来的な免除の見込みを考慮する

事業承継税制を適用するかどうかを決める際、重要な点は将来的な免除が見込めるかどうかです。

2代目から3代目への承継が見込める親族内承継の場合、適用しやすいでしょう。3代目の承継がなく、M&Aによって売却することになるケースでは猶予されている税と利子税を支払うことになります。先行きの判断がつきにくい場合は、利子税の額と免税される税額を比較して適用するか否かを判断することをおすすめします。

令和8年度税制改正による事業承継税制の変更点は?

令和8年度(2026年度)税制改正大綱では、事業承継税制の利用促進を目的として「特例承継計画」の提出期限が延長されました。本改正は、制度そのものの適用内容を変えるものではなく、制度を活用するための事前手続きに関する期限が見直されたものです。

法人版事業承継税制における特例承継計画の提出期限が延長された

令和8年度税制改正では、法人版事業承継税制(特例措置)に係る特例承継計画の提出期限が延長されました。これまで提出期限は令和8年(2026年)3月31日でしたが、制度を利用する事業者に十分な準備期間を確保するため、令和9年(2027年)9月30日までに延長されています。

これは、株式等の承継に関する計画策定の実務負担軽減や、後継者育成・事業計画策定に要する時間の確保を主眼とした改正です。なお、この改正によって「特例承継計画を提出すれば納税猶予・免除の要件が緩和される」という意味ではなく、あくまで提出期限が延びたという点が変更点です。

個人版事業承継税制における計画提出期限も延長された

法人版に加えて、個人事業者向けの事業承継税制である個人版事業承継税制(個人事業承継計画)についても提出期限が延長されています。個人版の計画提出期限は従来の令和8年(2026年)3月31日から、令和10年(2028年)9月30日まで延長される見込みです。

これにより、個人事業者にとっても制度活用のための準備期間が従前より2年6か月程度長くなり、計画立案の余裕が増すことになります。なお、個人版についても提出期限延長のみで、適用期限(贈与・相続の期限)は改正されていません。

適用期限(贈与・相続の期限)は変更されていない

令和8年度税制改正では、特例承継計画の提出期限の延長に焦点が当てられていますが、贈与・相続の適用期限、つまり実際に税制の効果を受けられる贈与や相続の期限には変更がありません。法人版の適用期限は引き続き令和9年(2027年)12月31日まで、個人版の適用期限は令和10年(2028年)12月31日までとなっています。この点は、提出期限の延長によって「実際の承継行為まで猶予される」という意味ではないため、注意が必要です。

事業承継税制を使わない場合の選択肢は?

事業承継税制は有効な制度ですが、要件の厳格さや将来の取消リスク、手続き負担の大きさから利用を見送るケースもあります。その場合でも、会社の状況や後継者の有無に応じて複数の選択肢があります。

【親族内に後継者がいる場合】生前贈与や相続時精算課税制度

親族内承継を予定しており、計画的に株式を移転できる場合は、生前贈与の活用が有効です。暦年贈与で毎年少額ずつ移転すれば相続財産の圧縮につながります。また、相続時精算課税制度を使えば、一定額までの贈与を非課税枠内で前倒し承継できます。事業承継税制のような厳格な継続要件がないため、将来の経営方針が流動的な企業にも適しています。

【後継者がいない場合】M&Aや第三者承継

親族や社内に適任者がいない場合は、M&Aによる第三者承継が有力な選択肢です。株式譲渡や事業譲渡により外部へ引き継ぐことで、創業者は売却益を得られ、従業員の雇用維持や取引先との関係継続も期待できます。後継者不在に悩む中小企業にとって、現実的かつ近年増加している方法です。

【株価が高く税負担が重い場合】自社株評価の引下げ対策や持株会社化

自社株評価が高額で相続税負担が大きい場合は、株価対策を講じる方法があります。役員退職金の支給や配当政策の見直し、組織再編などにより評価額を適正化できます。また、持株会社を設立して株式を移転することで、経営権の集中や分散防止を図ることも可能です。専門家の関与が不可欠ですが、税制に依存しない承継戦略として有効です。

メリット・デメリットや将来も視野に入れて利用を検討しよう

事業承継税制は、事業承継時に問題となりがちな税負担を減らしてくれるという大きなメリットがある一方デメリットもあり、申請には手間もかかります。また適用を受け猶予となってからも要件を満たす必要があり、長期的な対応が求められます。

事業承継計画を立て、専門家と連携しつつ将来の見通しも考慮しながら進めていくことが大切といえるでしょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事