- 作成日 : 2024年11月29日
事業承継税制とは?要件や申請期限、改正内容をわかりやすく解説
事業承継税制は、中小企業が事業を次世代に引き継ぐ際の相続税や贈与税の負担を軽減する制度です。この制度により、後継者は経済的な負担が軽減され、円滑な事業承継が可能になります。
本記事では、事業承継税制の種類や要件、申請時期などについて詳しく解説します。
目次
事業承継税制とは?
事業承継税制は、中小企業が事業を次世代に引き継ぐ際の相続税・贈与税の納付を猶予または免除する制度です。
事業承継時には、贈与税や相続税によって経営が圧迫されるケースが少なくありません。日本の経済を支える中小企業では、後継者不足や財務面の課題によって円滑な事業承継が妨げられる例が増えています。
こうした事業承継時の問題を解決するための施策のひとつとして創設された特例措置が、「事業承継税制」です。事業承継税制は2009年の税制改正時に登場し、以後何度か改正され、創設時よりも利用しやすくなっています。
事業承継税制の種類
事業承継税制は「法人版」と「個人版」に分かれており、それぞれで適用条件や範囲に違いがあります。法人版と個人版の主な相違点を表にまとめました。
項目 | 法人版(一般措置) | 法人版(特例措置) | 個人版 |
---|---|---|---|
対象資産 | 総株式の最大3分の2 | すべての株式(非上場株式) | 特定事業用資産 |
納税猶予割合 | 贈与税100% 相続税80% | 贈与税100% 相続税100% | 贈与税100% 相続税100% |
後継者数 | 1人の後継者 | 最大3人の後継者 | 1人の後継者 |
事前の計画策定 | 不要 | 2026年3月31日までに特例承継計画の提出が必要 | 2026年3月31日までに特例承継計画の提出が必要 |
適用期限 | なし | 2027年12月31日までにあった贈与や相続 | 2028年12月31日までにあった贈与や相続 |
法人版事業承継税制
法人版には「一般措置」と「特例措置」があり、一般措置では発行済み株式の2/3までが納税猶予の対象です。
この措置で贈与税は100%、相続税は80%が猶予され、後継者は1人に限られます。特例措置の場合は、猶予対象資産や後継者の人数制限が異なり、事前に特例承継計画の策定が必要です。
法人版の特例措置は2018年に創設され、事業承継時の負担がより軽減されました。また、特例承継計画の提出期限は2022年度、2024年度改正時に延長されるなど、利用機会の拡大への配慮が見られます。
個人版事業承継税制
個人版では、特定事業用資産が対象となり、贈与・相続時の税金について100%の納税猶予が受けられます。
適用には特例承継計画の作成と提出が必要で、2028年12月31日までの適用期限があります。もともと法人のみ対象だった事業承継税制ですが、2019年度の改正で個人事業者も対象に含まれるようになり、個人の事業承継にも対応が進みました。法人版と異なり、個人版には一般措置・特例措置の区分がありません。
また、法人、個人ともに、経営者や後継者において満たすべき要件も存在します。詳細は次項で紹介します。
事業承継税制の要件
事業承継税制には、法人版および個人版のどちらにも、先代経営者と後継者に求められる特定の要件が存在します。それぞれの条件を詳しく見ていきましょう。
法人版事業承継税制
法人に適用される要件は、以下の通りです。
【 会社に関する要件】
- 中小企業であること(資本金、従業員数、業種制限、実際に事業を行っているなど)
【先代経営者に関する要件】
- 先代経営者である贈与者または被相続人が法人の代表である、またはあったこと
- 相続が始まる直前または贈与の直前の時点で、現経営者とその親族が総議決権数の過半数を持っており、その中で贈与者または被相続人が最も多くの株式を保有していること
【後継者に関する要件】
- 贈与時に18歳以上であり、贈与前の3年以上役員であったこと(贈与税の場合)
- 相続開始直前において役員を務めており、相続開始から5ヶ月以内に代表者に就任すること(相続税の場合)
個人版事業承継税制
個人事業者にも、事業承継税制を利用するための要件があります。
【先代経営者に関する要件】
- 55万円または65万円控除が適用される青色申告の事業者であることなど
【後継者に関する要件】
- 贈与税や相続税の申告期限までに青色申告の承認を得ていること
- 贈与時点で18歳以上であること、さらに、それまで3年以上継続して特定事業用資産に係る事業に従事していたこと(贈与税の場合)
- 相続開始直前において特定事業用資産に係る事業に従事していたこと(相続税の場合)
- 都道府県知事の「円滑化法の認定」を受けていること
- 特定事業用資産に係る事業が、資産管理事業および性風俗関連特殊営業に該当しないこと
個人版の場合には、先代経営者および後継者の双方が青色申告の対象者であることが必要です。
事業承継税制のメリット
事業承継税制には様々な要件があり、複雑な部分もありますが得られるメリットは大きいといえます。
以下で詳しく見ていきましょう。
相続税や贈与税が猶予・免除される
事業承継税制を利用することで、後継者が先代経営者から受け継ぐ株式や資産に対して、相続税や贈与税が猶予または免除されます。
事業承継において、税負担は障害になりがちです。条件を満たす必要はあるものの、特例措置を利用すれば最終的には全株式に対して100%の免除が受けられるため、経済的負担から解放され、経営戦略に専念できるようになります。
特に中小企業では資金繰りが厳しいことが多いため、このメリットは非常に大きいといえるでしょう。
事業運営に必要な資金を確保できる
納税負担が軽減されることで、後継者は事業運営に必要な資金を確保しやすくなり、新たな投資や設備の更新、人材の育成などに経営資源を有効活用できます。
特に成長段階にある企業では、この資金確保が企業の競争力向上につながるでしょう。また、事業承継後も安定した運営が期待できるため、従業員や取引先との信頼関係も維持しやすくなります。
事業承継税制のデメリット
事業承継税制にはメリットがある一方、デメリットもあるため、よく理解して利用することが大切です。ここでは、デメリットについて詳しくご紹介します。
免除までに時間がかかる
相続税や贈与税が最終的に免除されるものの、免除が決定するまで時間がかかり、さらにその間にも必要な手続きがあり、手間もかかります。申請が通ったらそれでよし、というわけではないため、その点には注意が必要です。
さらに、計画策定自体にも労力と時間がかかるため、早期から計画的に準備を進めることが求められるでしょう。
納税の猶予期間中に取り消し事由があった場合、利子の支払いも必要
適用後に条件を満たさなくなると、その時点で猶予されていた税額を支払わなければならないリスクがあります。この場合、利子税も発生するため、結果的に負担が増えることになるのはデメリットといえるでしょう。
取り消し事由は後継者が代表者を退任した、資本金や準備金が減少したなど、20を超えます。やむを得ない事態が発生するケースもありますが、できるだけ取り消し事由に該当することがないよう注意しましょう。
M&Aが難しくなる
事業承継税制は親族間承継を前提にした制度であり、事業承継税制適用後に株式譲渡をすると適用取り消し事由に該当し、猶予されていた税に加えて利子税を納税しなければなりません。
そのため適用後の事業承継ファンドなどによるM&Aには、慎重になる必要があります。売却益が十分であれば問題ないですが、そうでない場合は税負担が大きくなるリスクが否定できません。なお、適用から5年を経過していれば減税措置があるため、その点も考慮して慎重に判断しましょう。
事業承継税制の申請方法
事業承継税制を利用するためには、一連の手続きを踏む必要があります。以下は特例措置の場合の流れです。
- 特例承認計画の作成・提出
まず、「特例承認計画」を作成し、都道府県知事へ事前に提出します。特例承認計画には具体的な経営方針や後継者についての情報が含まれ、認定経営革新等支援機関の指導および助言を受けて作成します。 - 経営者退任・交代
計画が認定された後、現経営者は正式に退任し、後継者による新しい経営体制へ移行します。 - 株式贈与
後継者への株式贈与を行います。この際、贈与契約書などの書類も整えておく必要があります。 - 都道府県知事による認定申請
株式贈与後、申請し都道府県知事による認定を受けます。この認定によって正式に制度適用になります。 - 税申告
最後に税申告を行います。その後も事業継続要件を維持するための書類提出などがあります。
納税猶予期間開始後も、定期的に「年次報告書」や「継続届出書」を提出しなければなりません。こうした流れをもって、猶予・免税が受けられることを理解しておきましょう。
事業承継税制を活用する際の注意点
事業承継税制を利用する際にはいくつか気を付けたいポイントがあります。猶予や免除を受けるはずが逆に負担が増える可能性があるため、注意しましょう。
以下で、詳しくご紹介します。
早期の計画立案が不可欠
事業承継税制は手続きが複雑で手間がかかるため、早期から計画的に進めていくことが重要です。特に法人版の特例措置や個人版の場合は特例承継計画の提出が必要なことに加え期限もあるため、前提条件についても早めの確認が求められます。
計画立案も時間がかかります。できるだけ早く着手するようにしましょう。
専門家への相談が重要
事業承継税制では、適用された後も定期的に書類を提出しなければなりません。そのため、専門家の力を借りることがスムーズに適用を受けるためのひとつのポイントといえます。
弁護士や税理士と顧問契約をしているのであれば、相談しながら進めましょう。自社の状況を把握しているため、的確なアドバイスが受けられます。商工会議所や、国が設置している公的相談窓口である「事業承継・引継ぎ支援センター」などを利用するのもよいでしょう。
将来的な免除の見込みを考慮する
事業承継税制を適用するかを決める際、重要な点は将来的な免除が見込めるかどうかです。
2代目から3代目への承継が見込める親族内承継の場合、適用しやすいでしょう。3代目の承継がなく、M&Aによって売却することになるケースでは猶予されている税と利子税を支払うことになります。先行きの判断がつきにくい場合は、利子税の額と免税される税額を比較して適用するか否かを判断することをおすすめします。
メリット・デメリットや将来も視野に入れて利用を検討しよう
事業承継税制は、事業承継時に問題となりがちな税負担を減らしてくれるという大きなメリットがある一方デメリットもあり、申請には手間もかかります。また適用を受け猶予となってからも要件を満たす必要があり、長期的な対応が求められます。
事業承継計画を立て、専門家と連携しつつ将来の見通しも考慮しながら進めていくことが大切といえるでしょう。
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