- 作成日 : 2024年10月18日
開業時に借入すべきケースは?適切な融資額や借入先、審査のポイントを解説
開業を検討中の方には、開業時に借入すべきなのか悩んでいる方もいるでしょう。本記事では、開業時に借入をすべきケースや適切な借入額の目安、借入先などについて解説します。
あわせて、開業時の借入に必要な書類や借入を受ける際の注意点などもまとめたので、ぜひ参考にしてください。
目次
開業時に借入をすべきケース
開業時には借入をおすすめします。自己資金がゼロの状態で開業することは、理論上可能ですが、自己資金ゼロで開業した場合、想定外の出来事(病気や事故など)があったときに対応できない可能性が高くなってしまいます。
また、自己資金がある程度ある場合でも、開業時に借入しておくのが賢明です。主な理由には、以下の3点が挙げられます。
- 多くの資金を集めておけば、事業の規模を拡大しやすくなる
- ビジネスでは想定外の出来事が起こる
- 事業計画通りにビジネスが進むことはまずない
これらのことを想定して、開業時の資金は、なるべく余裕をもたせておきたいところです。ここでは、借入のメリット・デメリットのほか、借り入れできる条件について見ていきましょう。
借入のメリット
開業時の借入のメリットは、以下の2点です。
- 創業融資は受けやすい
- 実績があると次の融資を受けやすい
開業時の創業融資は、比較的受けやすいのが特徴です。金融機関や自治体の多くが、通常の融資とは別に、事業をこれから始める方に向けた創業融資を提供しています。それらは、創業目的であれば、特別な条件を必要とされていないことが多く、通常の融資と比べて、資金の調達がしやすいのが特徴です。
また、開業時に融資を受けて返済実績をつけると、次の融資を受ける際に有利な状況を作れる点もメリットといえるでしょう。初回の融資では審査に時間がかかりますが、2回目からは金融機関もこちらの事業内容を把握していることや代表者との面識もあるため、審査期間が短くなる傾向にあります。
さらに、短期間で資金を調達できるような状況にしておけば、資金繰りも楽になるでしょう。
借入のデメリット
開業時の借入のデメリットは、以下の3点です。
- 元金返済・利息負担が必要
- 事業計画書の作成など手間がかかる
- 資金使途が限定される
借入は、元金に加え、利息をつけて返済する必要があります。借入を行わなければ発生しなかった利息が発生してしまう点はデメリットといえるでしょう。
また、借入を行う際には、創業計画書や事業計画書の作成が必要です。事業計画を記載するうえでは、経営者の略歴や事業内容、損益計画、資金繰り計画などが必要とされ、作成に時間を要します。
さらに、借入した資金の使途が限定される場合もある点もデメリットです。融資を受ける際には、いくら必要かに加えて、何のために必要なのか(=資金使途)が問われます。資金使途としては、主に運転資金と設備資金の2種類があり、使途ごとに細かく分類されています。
- 運転資金:事業で日常的に必要な資金(商品仕入、経費支払)
- 設備資金:設備投資に必要な資金(工場・機械などの設備投資)
資金使途が不明瞭だと、融資をしてくれない場合もあるため注意しましょう。
金銭消費貸借契約において、借入金を資金使途以外に使用した場合の違反措置がどのように設定されているかも事前に確認しましょう。仮に、規定されていた場合、資金使途と異なる目的に使用すると、契約違反(資金使途違反)に該当します。
契約違反を行った場合、それ以降の融資を受けることは難しくなるほか、銀行によっては、即時全額返済を求められるケースもあるため、注意が必要です。
借り入れできる条件
開業時に融資を申し込む際の主な条件は、以下の2点です。
- 開業届を提出していること
- 確定申告をしていること
1つめの条件が、開業届を提出していることです。開業届とは、新規で事業を開始したことを申告するための届出で、原則として事業の開始などの事実があった日から1ヶ月以内に提出する必要があります。
開業届を提出していないことへの罰則は特にありませんが、借入を検討している場合は融資の本申込前に提出するようにしましょう。
2つめの条件が、確定申告をしていることです。融資審査を申し込んだ際は、確定申告書類や決算書類などをもとに融資可能か審査されます。
利益を出していること、税金の未払いがないことも重要な審査ポイントです。黒字でかつ納税していて、融資金の使途や返済計画をしっかり示せれば、融資してもらえる可能性が高まるでしょう。
開業時に適切な借入額の目安は?
開業時に適切な借入額の目安はいくらなのでしょうか?ここでは、借入額の目安について解説します。
一般的に、融資してもらえる金額は、最大でも自己資金の2倍程度といわれています。自己資金が400万円あるなら、融資額は最大800万円です。自己資金が少ない場合は、融資を受けられる額も少なくなってしまうでしょう。
また、日本政策金融公庫総合研究所が実施した「2023年度新規開業実態調査」によると、同年度の開業時における金融機関等からの借入金額は、平均768万円でした。過去10年間のデータを見ると、創業者への融資の金額は、800万〜900万円前後で推移しています。
年度 | 平均額 |
---|---|
2014 | 928万円 |
2015 | 866万円 |
2016 | 931万円 |
2017 | 891万円 |
2018 | 859万円 |
2019 | 847万円 |
2020 | 825万円 |
2021 | 803万円 |
2022 | 882万円 |
2023 | 768万円 |
ただし、平均額は、あくまで多くの融資を受けた方や少ない融資を受けた方の平均値であるため、全員が約800万円を借りられるわけではありません。
自分が実施にどのくらいの金額を借りられるか、より具体的に判断したいのであれば、金融機関などに相談するのも一つの手です。
開業時の融資はどこから受けるべき?
開業資金の調達に適した借入先について解説します。主な借入先は、次の4つです。
- 日本政策金融公庫
- 信用金庫・信用組合
- 銀行
- 地方自治体
それぞれ詳しく見ていきましょう。
日本政策金融公庫
1つめが、政府が100%出資している政策金融機関である日本政策金融公庫です。民間では消極的になりがちな創業者や小規模企業への融資を積極的に行っています。
開業時の融資として、日本政策金融公庫では、総合保証制度や新規開業資金制度(=旧新創業融資。24年3月末で廃止され、新規開業資金に変更)などがあります。
また、日本政策金融公庫では、創業前の事業計画策定や経営に必要な支援なども行っており、創業企業の成長をサポートしてくれる点が魅力です。
審査には2〜3週間かかります。要件等を満たしていて、事業計画書などがしっかり作成されていれば、審査は比較的通りやすいでしょう。日本政策金融公庫から資金調達できれば、企業として一定の信用を得られます。今後事業拡大を目指す際などに、有利に働くでしょう。
信用金庫・信用組合
信用金庫・信用組合は、いずれも地域に根差した組織で銀行とは異なります。創業融資にも積極的なケースも多く、中小企業をメインの顧客としているのが特徴です。また、創業後の相談などにも乗ってもらえるケースもあります。
銀行
借入先の候補となる銀行には、都市銀行と地方銀行の2つが存在します。
都市銀行の中でも規模の大きな銀行はメガバンクと呼ばれ、全国各地に支店を展開しているのが特徴です。ただし、都市銀行では中小規模の創業融資に積極的とは言い難いのが実情です。とはいえ、手堅い事業計画性や担保となる資産を提示することで、開業間もない会社でも融資を受けられるケースがあります。
地方銀行の中にも、創業融資に積極的な銀行とそうでない銀行があるため、まずは各行の姿勢を確認しましょう。積極的な銀行では、相談会やセミナーを開催しているケースがあるため、それらに参加して情報収集から始めてみましょう。
地方自治体
地方自治体でも創業融資制度を実施しており、それらを利用するのも一つの手です。
たとえば、東京都では東京都内の個人事業者、東京都内に事業所がある中小企業向けの創業融資を用意しています。
条件は、次のいずれかが対象です。
- 現在事業を営んでいない個人で創業しようとする具体的な計画を有している
- 創業した日から5年未満である中小企業者等
- 分社化しようとする会社又は分社化により設立された日から5年未満の会社
融資限度額は3,500万円です。居住地の自治体でこういった融資制度がないか、一度確認してみましょう。
参考:東京都産業労働局 東京都創業NET 東京都中小企業制度融資「創業」
開業時の借入に必要な書類
開業時の借入に必要な書類について解説します。事業主本人や借入先によって異なるケースもありますが、一般的に必要な書類は、次の通りです。
- 本人確認書類
- 確定申告書、決算書(まだ事業を開始していない時は給与明細など)
- 決算書を補足するための資料(試算表や資産の内訳明細など)
- 事業計画書(創業計画書)
- 資金繰り表
- 開業届
- 履歴事項全部証明書(法人の場合)
- 借入申込書
- 開業届(個人事業主の場合)
個人事業主の場合は、前述したように開業届の提出も必要です。融資を検討しているのであれば、速やかに提出しておくようにしてください。
事業計画書(創業計画書)テンプレート
融資を受ける際には、事業計画書(創業計画書)の提出も必要です。事業計画書(創業計画書)の書き方がわからない場合はテンプレートを利用するとスムーズに作成できます。
以下のテンプレートをぜひご活用ください。
開業時の借入審査で確認されるポイント
開業時の借入審査で確認されるポイントは、主に次の4つです。
- 自己資金
- 経験・能力
- 返済能力
- 資金使途
1つめが、自己資金です。創業資金のうち、どれだけ自己資金を用意したかという自己資金割合を満たしているかどうかが重要な審査基準の一つになります。創業融資の場合に求められる自己資金の割合は、借入額の半分から3分の1は持っておいたほうがよいとされています。
2つめのポイントが、経験・能力です。通常の融資では、過去の決算書から業績などに基づいて審査が行われますが、創業融資では過去の実績が存在しません。そのため、会社員時代など過去の経験や行動を基に判断していきます。
具体的なチェックポイントは、起業予定のビジネスに関連する経験を、会社員時代にどれだけ経験してきたかです。そのほか、経営者個人の個人信用情報などもチェックされます。
3つめのポイントが、返済能力です。返済能力があるかどうかは、事業計画書上の利益の推移とその妥当性で審査していきます。そのため、金融機関などに納得してもらえるような事業計画書を作成することが重要です。
4つめが資金使途です。資金使途では、資金の使い道に対してしっかりとした根拠を示す必要があります。また、融資後に、資金使途が申請と合っているかも確認されることは理解しておきましょう。
開業時に借入を受ける際の注意点
開業時に借入を受ける際の注意点を2つ紹介します。
借入金は資本金には利用できない
借入金は会社設立時の資本金には利用できません。資本金は会社の資産の一部であり、借入金は返済の義務があるため資本金にできないことは理解しておきましょう。銀行や信用金庫などの金融機関からの借入金はもちろん、家族や親戚、友人からの借入金も同様です。
なお、会社設立時の資本金は1円から設定できます。そのため、資本金とする資金が少ない場合は、少額の資本金で会社を設立することを検討してみてはいかがでしょうか。
本店所在地の設定は慎重に行う
本店所在地の設定次第で、利用できる金融機関が決まる点にも注意が必要です。自宅を除いた事務所などを本店所在地とする場合、融資申込先の金融機関が同一都道府県(または市区町村)になければ融資制度を利用できない場合もあります。
意外と設立時には深く考えないことではありますが、事業開始後の進め方に大きく影響する部分でもあるため、あらかじめ確認しておくようにしましょう。
なお、本店移転手続きなどの方法も可能ですが、事務所の移転作業が伴うため、あまり現実的とは言えません。
開業時の借入は慎重に行おう
開業時には借入をおすすめします。開業時に資金があることで、事業規模を拡大しやすかったり、想定外の出来事に対応しやすくなったりします。返済実績がつくことで、次回以降の借入がスムーズに行えるようになる点もメリットです。
借入先としては、日本政策金融公庫や信用金庫・信用組合、銀行などが挙げられます。そのほか、地方自治体も融資制度を用意している場合もあるので、自治体に確認してみてください。
本記事で紹介した必要書類や審査で確認されるポイントなどを押さえて、融資の申し込みをスムーズに進められるようにしておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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