• 更新日 : 2024年4月12日

個人タクシーを開業するには?必要な条件、資金、失敗を防ぐコツを解説

個人タクシーを開業するには?必要な条件、資金、失敗を防ぐコツを解説

一般社団法人全国個人タクシー協会によると、2023年4月30日時点で日本全国に2万6788人の個人タクシー事業者が存在しています。また、個人タクシー事業者の平均年齢で、64.8歳となっています。平均年齢が高いため、若返りを期待したいところですが、特に若い世代が個人タクシー事業者になるにはどうすればいいでしょうか。

個人タクシーとは?

東京都内などでは個人タクシーをよく見かけますが、個人タクシーについて正しく説明できる人は少ないかもしれません。そもそも個人タクシーとは何でしょうか。

東京都個人タクシー協同組合によると、個人タクシーとは、「許可を受けた個人のみが1台の車両を使用して旅客を運送できる旨の条件を付されたタクシー事業」のことです。個人タクシーは、公式には「1人1車制個人タクシー事業」という名称で呼ばれています。

個人タクシーの仕事内容

個人タクシーの主な仕事は法人タクシーと同様に、乗客を確保して目的地まで送り届けて対価を得ることです。個人タクシーも法人タクシーも、乗客を乗せてドライバーが運転する点はまったく同じですが、個人タクシーのドライバーは車の運転に加えて、車両の購入とメンテナンスまたは車両の清掃といった車両の維持に関する仕事や、経理や納税・確定申告などの税務・経理の仕事、クレームやトラブル対応などの仕事も行います。

法人タクシーとの違い

個人タクシーと法人タクシーの違いですが、法人タクシーはタクシー会社が保有するタクシーにその会社の社員がドライバーとして乗務する一方、個人タクシーはドライバー個人が自分の車両を運行します。簡単に言うと、法人タクシーは法人に雇われたドライバーが法人の保有する車両に乗務するタクシーであり、個人タクシーはドライバー個人が所有する車両にドライバー自ら乗務し、運行するタクシーです。

法人タクシーではドライバーが「雇われ人」であり、個人タクシーではドライバーは「個人事業主」です。

個人タクシーの開業に必要な資格・営業許可

個人タクシーの開業に必要な資格や営業許可は何でしょうか。タクシー事業の許可基準は、道路運送法第6条が規定しているほか、各地方運輸局が公示している「一般乗用旅客自動車運送事業(1人1車制個人タクシーに限る)の許可および譲渡譲受認可申請事案の審査基準」を満たす必要があります。地方運輸局により多少の違いがありますので、管轄する地方運輸局の公示を確認する必要がありますが、おおよその共通事項として、以下の条件を満たす必要があります。

必要な資格条件

1人1車制個人タクシー事業の許可および譲渡譲受認可申請について、例えば関東運輸局では詳細な公示を行っていますが、概要は以下になります。なお、各地方運輸局により多少の違いがあるので、営業を予定している営業区域の地方運輸局に詳細を確認してください。

  1. 申請日現在65歳未満であること。
  2. 第二種運転免許を有していること。
  3. 申請日以前に申請する営業区域において自動車の運転を専ら専業とした期間が10年以上あること。
  4. 申請日以前5年間及び申請日以降に運転免許取消・刑法違反等の法令違反等の処分を受け手いないこと。及び申請日以前3年間及び申請日以降に道路交通法違反がなく、運転免許の効力の停止を受けていないこと。
  5. 使用する事業用自動車は、使用権限を有するものであること。
  6. 公的医療機関等において胸部疾患、心臓疾患及び血圧等に係る健康診断を受け、個人タクシーの営業に支障がない状態にあること。
  7. 許可を受けようとする営業区域を管轄する地方運輸局長が実施する法令及び地理の試験に合格した者であること。
  8. 開業資金・営業所・車庫等、許可を受けようとする営業区域を管轄する地方運輸局より公示されたすべての基準を満たすこと。

免許

タクシードライバーとして営業するには個人タクシーであれ法人タクシーであれ、有効な第二種運転免許(普通免許又は大型免許に限る)を有していることが必要です。第二種運転免許とは、「旅客運送契約」を遂行するために自動車を運転する場合に必要となる運転免許証です。

個人タクシーの開業方法

個人タクシーを開業するには、新規で営業許可を受けて開業する「新規許可」と、すでに営業許可を受けて営業している個人タクシー事業者から事業を譲り受けて開業する「譲渡譲受」の、二つの方法があります。

新規許可

新規許可とは、文字通り新規で許可を取得して個人タクシーを開業する方法です。申請は許可を受けようとする営業区域を管轄する地方運輸局に対して行います。受付期間は毎年9月で、許可が下りると3年間を期限とする許可書が発行されます。ただし、タクシー事業の新規許可は総量規制により原則として認められていないとされており、新規許可の取得は現状では非常に難しいとされています。

譲渡譲受

譲渡譲受とは、すでに営業許可を受けて営業している個人タクシー事業者から事業を譲り受けて開業する方法です。現在、個人タクシーを開業する人の多くが、譲渡譲受により営業許可を取得しています。譲渡譲受により個人タクシーを開業するケースにおいては、個人タクシーを営業している事業者である「譲渡人」と、個人タクシー事業を譲り受ける「譲受人」との間で「譲渡譲受契約」を締結し、当局から営業許可を受ける流れになります。

個人タクシーの開業に必要な条件

個人タクシーの開業に必要な条件については、項目ごとに詳細に決められています。特に「運転経歴」「法令順守状況」「資金計画」「営業所」「自動車車庫」などにおいては詳細な基準が明確に定められています。当然ながら、個人タクシーを開業するには、そうした基準や条件をすべて満たす必要があります。

運転経歴

個人タクシーの開業に必要な条件として申請者の運転経歴があります。申請者の年齢によって内容に多少の違いがありますので、ご自分の年齢に合わせて求められる条件を満たしているのか確認してください。

(1)年齢が35歳未満の者

  1. 申請する営業区域において、申請日以前継続して10年以上同一のタクシー又はハイヤー事業者に運転者として雇用されていること。
  2. 申請日以前10年間無事故無違反であること。

(2)年齢が35歳以上40歳未満の者

  1. 申請日以前、申請する営業区域において自動車の運転を専ら職業とした期間が10年以上であること。この場合、一般旅客自動車運送事業用自動車以外の自動車の運転を職業とした期間は50%に換算する。
  2. 1の運転経歴のうちタクシー・ハイヤーの運転を職業としていた期間が3年以上であること。
  3. 申請する営業区域においてタクシー・ハイヤーの運転を職業としていた期間が申請日以前継続して3年以上であること。
  4. 申請日以前10年間無事故無違反である者については、40歳以上65歳未満の要件によることができるものとする。

(3)年齢が40歳以上65歳未満の者

  1. 申請日以前25年間のうち、自動車の運転を専ら職業とした期間が10年以上であること。この場合、一般旅客自動車運送事業用自動車以外の自動車の運転を職業とした期間は50%に換算する。
  2. 申請する営業区域において、申請日以前3年以内に2年以上タクシー・ハイヤーの運転を職業としていた者であること

法令順守状況

(1)申請日以前5年間及び申請日以降に、次に掲げる処分を受けていないこと。
また、過去にこれらの処分を受けたことがある場合には、申請日の5年前においてその処分期間が終了していること。

  1. 法又は貨物自動車運送事業法の違反による輸送施設の使用停止以上の処分又は使用制限(禁止)の処分
  2. 道路交通法(昭和35年法律第105号)の違反による運転免許の取消し処分
  3. タクシー業務適正化特別措置法(昭和35年法律第105号)の違反による運転免許の取消し処分及びこれに伴う登録の禁止処分
  4. 自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律(平成13年法律第57号)の違反による営業の停止命令又は営業の廃止命令の処分
  5. 刑法(昭和40年法律第45号)、暴力行為等処罰に関する法律(大正15年法律第60号)、麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号)、覚せい剤取締法(昭和26年法律第252号)、売春防止法(昭和31年法律第118号)、銃砲刀剣類所持等取締法(昭和33年法律第6号)、その他これに準ずる法令の違反等による処分
  6. 自らの行為により、その雇用主が受けた法、貨物自動車運送事業法又はタクシー業務適正化特別措置法に基づく輸送施設の使用停止処分以上の処分

(2)申請日以前3年間及び申請日以降に、道路交通法違反による処分を受けていないこと。
ただし、申請日の1年前以前において、反則点1点を付された場合(併せて同法の規定による反則金の納付を命ぜられた場合を含む。)又は反則金の納付のみを命ぜられた場合のいずれ1回に限っては、処分を受けていないものとみなす。

(3)(1)又は(2)の違反により現に公訴を提起されていないこと。

資金計画

(1)所要資金の見積りが適切であり、かつ、資金計画が合理的かつ確実なものであること。
なお、所用資金は次の1~4の合計額とし、各費用ごとに以下に示すところにより計算されているものであること。

  1. 設備資金原則として80万円以上(ただし、80万円未満で所要の設備が調達可能であることが明らかな場合は、当該所要金額とする。)
  2. 運転資金原則として80万円以上
  3. 自動車車庫に要する資金新築、改築、購入又は借入等自動車車庫の確保に有する資金
  4. 保険料自動車損害賠償保障法に定める自賠責保険料(保険期間12ヶ月以上)、並びに旅客自動車運送事業者が事業用自動車の運行により生じた旅客その他の者の生命、身体又は財産の損害を賠償するために講じておくべき措置の基準を定める告示(平成17年国土交通省告示503号)で定める基準に適合する任意保険又は共済に係る保険料の年額

(2)所要資金の100%以上の自己資金(自己名義の預貯金等)が、申請日以降常時確保されていること。

営業所及び自動車車庫

(営業所)

個人タクシー営業上の管理を行う事務所であって、次の各事項に適合するものであること。

(1)申請する営業区域内にあり、原則として住居と営業所が同一であること。

(2)申請する営業区域内に申請日現在において居住しているものであること等の実態が認められるものであること。

(3)使用権限を有するものであること。

(自動車車庫)

(1)申請する営業区域内にあり、営業所から直線で2キロメートル以内であること。

(2)計画する事業用自動車の全体を収容することができるものであること。

(3)隣接する区域と明確に区分されているものであること。

(4)土地、建物について、3年以上の使用権限を有する者であること。

(5)建築基準法(昭和25年法律第201号)、都市計画法(昭和43年法律第100号)、消防法(昭和23年法律第186号)、農地法(昭和27年法律第229号)等の関係法令に抵触しないものであること。

(6)計画する事業用自動車の出入りに支障がなく、前面道路が車両制限令(昭和36年政令第265号)に抵触しないものであること。なお、前面道路が私道の場合にあっては、当該私道の通行に係る使用権限を有する者の承認があり、かつ、当該私道に接続する公道が車両制限令に抵触しないものであること。

(7)確保の見通しが確実であること。

その他の条件

申請日前3年間において個人タクシー事業を譲渡若しくは廃止し、又は期限の更新がなされなかった者でないこと。

個人タクシーの開業資金

個人タクシーの開業資金として必要になるのが以下の費用です。

    • 車両購入費 300万~500万円
    • 設備資金  80万円
    • 運転資金  80万円
    • 車庫代   10万円
    • 自賠責保険料および任意保険料 20万円

合計 490万~690万円

車両をすでにお持ちの場合は車両購入費がかかりませんが、それでも最低でも190万円の自己資金が必要です。

個人タクシーは儲かるのか?年収の目安

ところで、個人タクシードライバーの仕事は、どれくらい儲かるのでしょうか。個人タクシードライバーの年収に関する調査や統計などは見つかりませんでしたが一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会によると、法人タクシードライバーの平均年収は、東京都約430万円、大阪府約437万円、神奈川県約386万円、福岡県約350万円となっています。

仮に個人タクシードライバーが平均的な法人タクシードライバーと同程度のパフォーマンスで稼働した場合、また法人タクシードライバーが受け取る歩合が売り上げの60%だと仮定すると、個人タクシードライバーの平均年収は、東京都約716万円、大阪府約728万円、神奈川県約643万円、福岡県約583万円という計算になります。

なお、個人タクシードライバーの場合、以上はあくまでも売り上げの金額であり、所得の計算にはそれから燃油代や保険料といった費用を控除する必要があります。

個人タクシーの開業に助成金・補助金はある?

個人タクシーの開業に使える助成金や補助金はあるのでしょうか。個人タクシーの開業に特化した助成金や補助金は特に見当たりませんが、開業時に必要な資金調達手段として、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」や「中小企業経営力強化資金」などが使える可能性があります。

個人タクシーの開業に失敗しないために

タクシー事業の新規許可は総量規制により原則として認められていないとされており、個人タクシーの新規開業は事実上困難な状態にあります。一方で、これまで人口30万人以上の都市部に限られていた個人タクシーの営業範囲を過疎地でも認めるようになるなど、個人タクシーに対する社会的ニーズは相応に高まってきています。そうしたトレンドの中、個人タクシーの開業に失敗しないポイントは何でしょうか。

法人タクシードライバー時代に人脈を作っておく

個人タクシーの開業に失敗しない第一のポイントは、法人タクシードライバー時代に先輩個人ドライバーとの人脈を作っておくことです。現在、個人タクシーの開業は、譲渡譲受により開業するケースがほとんどとされています。つまり、個人タクシーを開業するには、引退する先輩ドライバーの事業を譲受する必要があるのです。法人タクシードライバー時代に人脈を作っておかないと、個人タクシー事業の「譲渡人」を見つけるのが困難になります。

タクシー配車アプリに登録する

個人タクシーの開業に失敗しない第二のポイントは、タクシー配車アプリに登録することです。個人タクシーで開業する場合、基本的に集客を自分で行う必要があります。集客に苦戦して売り上げ低迷に悩む個人タクシー事業者は少なくないでしょう。そんな中、「GO」や「Uber Taxi」「S.RIDE」などのタクシー配車アプリに登録することで集客が楽に行えるようになります。また、最近はタクシー配車アプリを利用するユーザーが増えているので、個人タクシー事業者がタクシー配車アプリに登録することはほとんど必須でしょう。

個人タクシー組合に加盟する

また、個人タクシーを開業したら、個人タクシー組合に加盟することも重要なポイントです。東京都の場合、個人タクシー組合には「ちょうちん」と呼ばれる「日個連東京都営業協同組合」と、「でんでん虫」と呼ばれる「東京都個人タクシー協同組合」があります。組合に加盟することでタクシー車両購入資金を借り入れたり、無線配車のネットワークに参加したり、決済サービスなどのサポートが受けられるようになります。

計画をしっかりして個人タクシー開業を成功させよう!

以上、個人タクシーの開業方法につき、許可・資格や条件などの詳細を交えて解説しました。タクシードライバーの不足を受け、個人タクシードライバーの上限年齢を80歳へ引き上げるなど、特に地方の過疎地において個人タクシードライバーに対するニーズが高まっています。一方で、個人タクシードライバーになるには法人タクシードライバーの経験が最低10年必要であり、相応の時間としっかりした計画が求められます。個人タクシーの開業を目指す人には、計画をしっかりと立てて、着実に開業を成功させることをおすすめします。


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