• 作成日 : 2025年1月10日

司法書士が法人化するメリットは?司法書士法人の設立方法や資本金も解説

司法書士の法人化は、個人事務所から法人組織への移行であり、個人事務所から法人化への以降は増加傾向にあります。

この記事では、司法書士が法人化するメリットや設立手続きや資本金について、また成功のためのポイントなども詳しく解説します。

司法書士が法人化するメリット

司法書士が法人化を選択する理由は、社会的信用の向上や税務上のメリット、業務効率の改善などが挙げられます。

ここでは、司法書士が法人化によって得られる具体的なメリットについて、詳しく見ていきましょう。

社会的信用が向上する

司法書士法人は、商号・本店所在地・目的・資本金・役員などが登記され、その存在が公になることで、個人事業よりも社会的信用力が高まります。特に、新規取引先の獲得や取引金額の増加がより容易になり、事業規模拡大が期待できるでしょう。中には個人事業主との取引を制限し、法人とのみ取引を行う企業もあります。

また、信用力の向上によって、銀行からの融資も受けやすくなる可能性があるほか、長期的な業務(後見など)においては、法人であることで依頼者により安心感を与えられるメリットも考えられます。

個人事務所よりも節税ができる場合がある

年間所得が800万円を超える場合、法人化することで節税効果が期待できます。個人事業主の場合は所得税率が最高45%まで段階的に上がる累進課税となりますが、資本金1億円以下の法人の場合は800万円以下と800円万円超で税率が異なるものの、それぞれの区分内では一律です。

そのため、一般的に年間所得800万円以上になると、法人化を検討したほうが税負担を軽減できる可能性が高まるといわれています。

また、法人化することで経費として認められる範囲が大幅に広がる点も無視できません。役員報酬や退職金制度、出張手当、慶弔金、さらには従業員を被保険者とした生命保険の保険料なども経費として計上できるようになります。特に役員報酬については、給与所得控除の適用も受けられるため、さらなる節税効果が期待できるでしょう。

他の司法書士と業務を分担できる

司法書士法人では、複数の司法書士が社員として業務を分担できます。そのため個人事務所で対応する場合よりも、各司法書士の専門性を活かした効率的な業務運営が可能になるでしょう。

例えば、不動産登記を専門とする司法書士と、商業登記を得意とする司法書士が協力することで、幅広い案件に対応できます。

また、社員である司法書士同士で案件を引き継げるため、緊急の案件にも組織として対応でき、顧客サービスの質の向上にもつながります。

司法書士法人とは

司法書士法人は、平成15年4月1日施行の改正司法書士法において認められた法人形態で、司法書士が法人格を持って業務を行える組織です。

令和2年8月1日の法改正により、一人でも法人を設立できるようになり、現在も増加傾向にあります。

参考:e-Gov法令検索 司法書士法

司法書士法人と司法書士事務所の違い

司法書士法人と個人事務所では、組織形態や業務範囲に違いがあります。個人事務所は所長と数名の補助員で構成され、所長の判断のみで意思決定ができます。また個人事務所においては、支店展開はできません。

一方、司法書士法人は支店展開が可能で、複数の司法書士による分業化や専門性の確保が可能です。さらに法人では定款に基づいた組織的な運営が必要となり、社員総会での決議事項も定められています。さらに、業務執行についても、個人事務所では所長の裁量で決定できますが、法人では社員間での合意形成が必要です。

司法書士法人と株式会社の違い

株式会社では出資者(株主)と経営者(取締役)を分けることが可能で、株主は出資額の範囲内でのみ責任を負います。一方、司法書士法人では、社員(出資者)は必ず司法書士資格を持つ必要があり、全員が無限責任社員として法人の債務に対して連帯して責任を負う、という違いがあります。

司法書士法人の代表者の肩書き

司法書士法人の代表者は、一般的に「代表社員」という肩書きを使用します。社員である司法書士は原則として各自が代表権を持ちますが、定款で代表社員を定めることが可能です。

代表社員は法人の業務を執行し、対外的な契約や手続きを行う権限を持ちます。また、代表社員は法人の業務執行について、善管注意義務や忠実義務を負い、その責任は個人の資格で行う業務以上に重要となります。代表社員の変更は登記事項となり、司法書士会への届出も必要です。

司法書士法人の社員と使用人の違い

社員は法人の所有者(出資者)であり、業務執行の決定権を持ちます。一方、使用人司法書士は法人と雇用関係にある司法書士で、社員とは異なり、原則として自分の名前で業務が可能です。

使用人の業務範囲や権限については、雇用契約で定めなければなりません。

司法書士法人を設立する方法

司法書士法人の設立には、資格証明書の取得から司法書士会への届出まで、複数の手続きが必要です。

以下で司法書士法人設立の流れを紹介します。

司法書士法人社員の資格証明書を取得する

司法書士法人の社員となるためには、まず社員となる司法書士を2名選出のうえ、日本司法書士会連合会から資格証明書を取得する必要があります。この証明書は、各都道府県の司法書士会を経由して請求します。申請時には、司法書士としての登録番号や、現在の事務所所在地などの情報が必要です。

なお令和2年の法改正により、1名でも法人設立が可能となりましたが、将来的な拡大を見据えて複数名での設立も検討するとよいでしょう。

参考:e-Gov法令検索 司法書士法

定款を作成する

司法書士法人社員の資格証明書を請求すると、一緒に司法書士会から必要書類の案内が届きます。その中で最も重要なものが定款です。定款は公証人の認証が必要な書類であり、定款は法人に必須です。

なお、定款には法人の目的、商号、本店所在地などの基本的事項を記載します。作成後は公証人の認証を受ける必要があるため、慎重な作成が求められます。

公証人の認証を受ける

定款は、公証されなければ有効性がありません。そのため作成後は公証役場で公証人の認証を受けましょう。

定款の内容に不備がありその場で訂正できない場合は、後日改めて修正後の定款を持参して認証を受けなくてはなりません。

司法書士法人の設立登記を申請する

定款が公証されたら、法務局へ司法書士法人の設立登記申請を行います。必要書類は、以下のとおりです。

  • 定款(認証済み)
  • 司法書士法人社員の資格証明書
  • 特定社員の資格証明書
  • 総社員の同意書(代表社員を定めた場合)
  • 印鑑届
  • 個人印鑑証明書

司法書士会入会の届出を提出する

無事登記が完了したら、登記事項証明書を取得したうえで司法書士会へ届け出て、完了です。

その後は、名刺などの作成といった実務的な手続きに移ります。

司法書士法人に資本金はいらない

司法書士法人は、株式会社とは異なり、設立時の資本金について法的な定めはありません。ただし、司法書士法人の社員の出資義務はあります。ただし出資は金銭に限定されるものではなく、金銭以外の財産や労務、信用でも問題ないとされています。

また資本金は不要ですが、実際の事務所運営には相応の資金が必要です。開業資金として、事務所の準備費用、家具・設備の購入費用、通信手段の準備費用、司法書士会の会費、そして当面の運転資金などが挙げられます。

参考:e-Gov法令検索 司法書士法

司法書士法人の設立を成功させるためのポイント

司法書士法人の設立には、法的な手続きだけでなく、事業としての成功を見据えた準備も求められます。

以下で、司法書士法人設立に際して心がけておきたいポイントを見ていきましょう。

独立開業前に司法書士としての経験を積んでおく

司法書士法人を設立する前に、既存の事務所で実務経験を積むことが重要です。特に不動産登記や商業登記の実務、依頼者とのコミュニケーション方法、事務所運営のノウハウなど、実践的な知識と経験が必要です。独立前に、顧客に安心して案件を任せてもらえる実力を身に付けておきましょう。

また経験を積む中で、専門分野を確立することにより、開業後の差別化にもつながります。

見込み顧客を獲得しておく

法人設立後の安定した経営のためには、開業前から顧客基盤の構築を始めることが大切です。異業種交流会や商工会議所などのイベントに参加して見込み客と積極的に人脈を構築するほか、ホームページやSNSなどで情報を発信する、セミナーを開催するといった方法なども顧客の獲得につながります。

司法書士法人の運営にかかる費用を把握しておく

事務所の運営には、固定費の管理が重要です。事務所の家賃が高すぎないか、設備や備品のリース代が多すぎないか確認し、売上が少ない段階での過剰な人員雇用は避ける必要があります。

また、経営方針を明確に定め、毎月の依頼見込みや料金設定、営業や宣伝手法を決め、利益が得られることを確認してから独立する慎重さも求められるでしょう。

司法書士の法人化を成功させるために

司法書士の法人化は、事業の拡大や継続性の確保、社会的信用の向上など、さまざまなメリットをもたらす可能性があります。しかし、その成功のためには、十分な準備と計画が必要です。

法人化を検討する際は、自身の事業の現状と将来像を明確にし、メリットとデメリットを把握することが重要です。また、税務面での影響や必要な実務対応についても、事前に専門家に相談することをおすすめします。


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