- 更新日 : 2024年9月25日
家賃収入を法人化すべき基準は?メリット・デメリットや手続きを解説
家賃収入がある場合に法人化するかどうか判断する基準は、不動産所得を含めた所得全体の金額です。所得が800万円を超える場合は、法人化を検討しましょう。
本記事では、家賃収入を法人化するタイミングやメリット・デメリット、必要な手続きや注意点を解説します。法人化のほかに節税が期待できる方法も紹介するため、参考にしてください。
目次
賃貸経営での家賃収入を法人化すべきタイミングは?
賃貸経営で家賃収入を得ている場合、法人化するかどうか判断する目安は不動産所得を含めた所得全体の金額です。その理由は、個人事業主と法人に課税される税率の違いにあります。所得が低ければ個人事業主の方が納税額は少なくなりますが、高くなれば法人の方が節税となるでしょう。以下では、個人事業主と法人の所得にかかる税率の違いと、法人化を検討すべきタイミングについて見ていきましょう。
個人事業主と法人の主な違い
個人事業主と法人で大きく異なるのが税率です。それぞれの税率は、以下のようになっています。
〇個人の所得にかかる税金と税率
所得金額 | 所得税 | 控除額 |
---|---|---|
195万円未満 | 5% | 0円 |
195万円以上330万円未満 | 10% | 97,500円 |
330万円以上695万円未満 | 20% | 427,500円 |
695万円以上900万円未満 | 23% | 636,000円 |
900万円以上1800万円未満 | 33% | 1,536,000円 |
1800万円以上4000万円未満 | 40% | 2,796,000円 |
4000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
〇法人の所得にかかる法人税率
資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分 | 適用除外事業者以外の法人 | 15% |
---|---|---|---|
適用除外事業者 | 19% | ||
年800万円を超える部分 | 23.2% | ||
上記以外の普通法人 | 23.2% |
以上のように、個人と法人では所得金額ごとにかかる税率が異なります。個人は累進課税であり、所得が多くなるほど税率が上がります。一方、法人にかかる税率はほぼ一律です。
加えて、法人は個人事業主よりも経費にできる費用の種類が多くなることも、大きな違いの1つです。
法人化を検討すべきタイミング
家賃収入のある個人事業主が法人化を検討すべきタイミングは、所得が800万円を超えたときです。たとえば、不動産所得を含む所得全体が800万円の場合は、個人事業主であれば所得税率は23%、法人であれば法人税率は15%、19%です。この場合は、法人の方が低い税率となるため、節税が期待できます。
多くの不動産を有しており、今後多額の家賃収入が見込める場合は、法人化した方が節税となる可能性が高いです。不動産所得のほかに所得があり、合計すると所得全体が高額になる場合も、法人化を検討すべきといえるでしょう。
賃貸経営を法人化するメリット
賃貸経営を法人化することで考えられるメリットは以下のようにさまざまです。
法人化による6つのメリットを、以下で詳しく見ていきましょう。
節税が期待できる
法人化の大きなメリットは、節税が期待できることです。前章で解説した通り、個人と法人では課税所得に適用される税率や税の仕組みが異なります。所得金額800万円をボーダーラインの目安として、法人化するかどうかを判断しましょう。
法人化に伴い、家族を役員として報酬を支払うことで経費として処理できることも節税につながります。たとえば、1人に900万円の所得がある場合よりも、同世帯の2人に450万円ずつの所得がある場合の方が、それぞれに適用される税率が低くなるため節税が見込めます。同世帯に入る金額は同じでも、納税額が大きく異なる場合も少なくありません。
相続税対策となる
賃貸事業を法人化することで、将来の相続税を節税することにつながります。個人所有の不動産や蓄積された財産を引き継ぐ場合は、評価額や金額が大きいほど多額の相続税が発生します。
しかし、不動産の所有者を個人から法人に移すことで、個人ではなく法人の資産へと蓄積されるため、相続税の節税となるでしょう。
経費に計上できる費用の種類が多い
法人化によって、経費として計上できる費用の種類が個人事業主よりも多くなります。
たとえば、個人では事業主自身への給与や退職金は経費に計上できませんが、法人化すると役員報酬や役員退職金として経費に計上できます。
また、家族に支払う給与に関する要件が少なく、経費として計上しやすくなる点もメリットといえるでしょう。個人事業主の場合の家族従業員は専従者としての取り扱いとなり、配偶者控除や扶養控除の対象外です。しかし、法人化して家族を従業員とすると、こうした控除を受けられるようになる可能性もあります。
欠損金の繰越期間が長くなる
個人事業主よりも法人の方が、不動産経営で出た赤字を繰り越せる期間が長くなります。個人事業主は3年しか繰り越しできませんが、法人は10年繰り越せるため、赤字を所得と相殺して法人税を抑えることが可能です。
短期で売却する場合は譲渡税が低くなる
不動産を所有期間5年以内に売却する場合は、個人事業主よりも法人の方が譲渡利益に課される税率が低くなります。もし事業がうまくいかず、物件を売却することになった場合は、法人の方が節税になるでしょう。
事業継承しやすい
賃貸事業を法人化することで、家族や第三者への事業の引継ぎがしやすくなります。個人事業主であれば、事業に関する資産は個人のものであり、引き継ぐためには相続や譲渡などの複雑な手続きが必要です。
しかし法人化することで、こうした引継ぎは自社株を引き継ぐことで完了するため、手続きを容易に済ませられます。
賃貸経営を法人化するデメリット
法人化には多くのメリットがある一方で、以下のデメリットがあることも事実です。
- 設立・維持にコストがかかる
- 利益にかかわらず法人住民税の納付が必要
- 長期所有した不動産を売却する場合は譲渡税が高くなる
法人化を検討する際に押さえておきたいデメリットを見ていきましょう。
設立・維持にコストがかかる
法人化するには、手続きや費用が必要です。法人設立の手続きを専門家に委託する場合は、10万円単位の費用を見越しておく必要があります。
加えて、社会保険に関する事務や支払い、行政手続きなど、さまざまな事務を行わなければなりません。法人化したあとに維持するためにもコストがかかります。
利益にかかわらず法人住民税の納付が必要
法人化すると、利益があってもなくても法人住民税の納付をしなければなりません。法人住民税には、利益の大小にかかわらず事業者の規模によって課税される「均等割」の部分があるためです。赤字である場合や事業を行っていない場合にも納付が必要であることは知っておく必要があります。
長期所有した不動産を売却する場合は譲渡税が高くなる
法人が短期で物件を売却する場合は税率が低い一方で、取得から5年以上経過した物件を売却する場合は、課税所得によりますが、譲渡税は個人の方が低くなる場合があります。そのため、手持ちの物件の年数や将来性も、法人化するかどうかの判断に活かすとよいでしょう。
法人化する際の会社形態はどう判断すべき?
不動産経営を行う個人が法人化する際の会社形態の主な選択肢は、株式会社と合同会社です。
両者の大きな違いの1つに、設立費用があります。株式会社よりも合同会社の方が設立費用を抑えられるため、少ない負担で法人化したい場合は合同会社を検討するとよいでしょう。もし事業を大きくしていきたいのであれば、株式会社を設立して将来に備えることも一案です。
法人化する際に必要な手続き
法人化するためには、法務局や税務署などに対する公的な手続きと、社内で行う手続きや取り決めが必要です。以下では、法人化するためにはそれぞれどのようなことが必要となるのかを具体的に紹介します。
登記申請書・開業届の提出
個人事業主から法人化するために必要な手続きの1つが、法務局への登記です。登記申請書を作成し、必要な添付書類をそろえなければなりません。登記を行う前に、設立する会社概要の決定や定款の作成・認証、資本金の払い込みなどの準備も必要です。
加えて、税務署に開業届や青色申告承認申請書の提出も忘れずに行いましょう。
法人化するための詳しい手続き内容は、以下を参考にしてください。
不動産の管理方式の決定
賃貸事業を法人化するにあたって、不動産の所有や管理方式についても決定しなければなりません。必要に応じて、個人と法人の間で契約を交わす必要もあります。不動産の主な管理方式には、以下の3つがあります。
管理方式の種類 | 特徴 |
---|---|
不動産所有方式 | 不動産の所有を個人から法人に移す方式。法人は不動産の管理全般を行い、家賃収入も全額法人の所得となる。不動産取得時に費用がかかる場合があり、土地や建物に関する権利や課税について注意が必要 |
管理委託方式 | 不動産の所有は個人のままで、管理業務のみを法人に委託する方式。管理委託料として、個人は家賃収入の5〜10%を法人に支払うことが一般的。家賃の大半は個人の所得となるため、所得分散によるメリットは少ない |
一括転貸方式 | 個人の所有する不動産のすべてを法人が借り上げ、管理をはじめ借主とのやり取りなど賃貸事業の一切を法人が行う方式。法人は個人へ家賃を支払う。法人の収入は賃貸収入の10~15%といわれており、管理委託方式に比べると所得分散の効果はある |
所得分散による節税効果や相続税対策を狙うのであれば、不動産所有方式が適しているといえます。ただし、不動産取得税がかかることや権利に関するトラブルなども想定しておき、対策しておく必要があります。
賃貸経営を法人化する際の注意点
所得金額は賃貸経営を法人化するかどうかの1つの目安ではありますが、必ずしも法人化した方がよいとは限りません。事業の将来性などを考慮して、総合的に判断することが大切です。
法人化することで、個人の取り分を役員報酬や役員賞与として経費計上できるようになるものの、金額を自由に変更できるわけではありません。あらかじめ税務署に届け出る必要があり、金額や時期を変更してしまうと役員報酬や役員賞与の全額が経費計上できなくなってしまいます。役員報酬などによる節税を狙ったにもかかわらず、所得を圧縮できなかったために納税額も増えてしまうことも考えられるため、取り扱いには注意が必要です。
法人化以外に考えられる節税方法
法人化のほかにも節税する方法はあります。節税を目指すには、経費を計上して所得を減らすことが有効です。賃貸収入にかかわる経費には、以下のようなものが考えられます。
- 建物部分の価格が高い物件を購入し、減価償却費の金額を高める
- 耐用年数の短い中古物件を購入し、一度に計上できる減価償却費を増やす
- 修繕を行い、修繕費を経費として計上する
- 退職や廃業の際に受け取れる小規模企業共済に加入し、掛金を経費に計上する
実践できそうなものがあれば、ぜひ取り入れてみてください。
家賃収入が多く節税したい場合は法人化を検討しよう
家賃収入を法人化する目安の1つが、所得金額です。多くの家賃収入を得ており、将来的にも収入が期待できそうであれば、法人化することで節税が期待できます。法人化にはさまざまなメリットがあり、うまく使うことで節税に加えて相続対策なども可能です。デメリットも踏まえて、家賃収入の状況を総合的に判断し、法人化するかどうかを検討しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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