- 更新日 : 2021年9月17日
自己破産後の新たな会社設立のやり方と制約
業績やキャッシュフローの悪化を理由に会社をたたみ、同時に自己破産を選択することがあります。しかし、その後状況が改善し、同じ業種あるいは異なる業種で起業したいと考える人もいるでしょう。
自己破産後でも、新たに会社を設立することはできるのでしょうか。また、会社設立にあたって融資は受けられるのでしょうか。この記事では、自己破産後の会社設立とその注意点、再度起業するための方法について解説します。
目次
自己破産後でも新たに会社を設立できる?
自己破産とは、裁判所において収入や財産の状況から「借金の返済が見込めない」と認めてもらうことです。自己破産の手続きを行うと、一部を除いて借金の返済は不要になります。
会社の倒産にともなって自己破産するケースのほか、個人的に借りたお金を返済できなるケースもあり、自己破産に至るパターンはさまざまです。自己破産の手続きを行うと、裁判所の判断によって借金を帳消しにできますが、「信用がなくなるから、自己破産後の起業はできないのでは?」と考える人もいるでしょう。
しかし、自己破産は取締役の欠格事由には該当しないため、自己破産後でも新たに会社を設立することは可能です。ただし、自己破産の事実があるため通常の起業とは異なり、制約があります。
自己破産によって受ける制約は?
「自己破産後であっても会社は設立できる」と説明しましたが、2006年5月に会社法が施行されるまでは、自己破産をした人は取締役に就任できませんでした。つまり、自己破産した人が経営者として起業することはできなかったのです。
しかし、中小企業では会社の債務を個人でも保証しているケースが多いため、自己破産によって再起ができないとなると、経済が活性化しません。そのため会社法が施行され、自己破産中であっても再び起業できるようになったのです。
ただし、自己破産した人に制限なく起業を認めると問題が生じるおそれがあるため、自己破産をした人には一定の制約があります。
自己破産手続き中の制約
自己破産を行うことによって、どのような制約を受けるのでしょうか。自己破産手続き中の制約について見ていきましょう。
財産の処分が自由に行えない
自己破産の手続きを行っても、借金の返済が全額免除されるわけではありません。生活に支障のない範囲で、残りの財産は債権者への返済に充てられます。これを「破産財団に属する財産」といいます。自己破産手続きを行うと、破産財団に属する財産を自由に処分することはできなくなります。
資格や職業に制限がある
自己破産の手続き開始から破産免責許可までの間は、弁護士や司法書士などの職業に就けなくなります。
居住地や通信に制限がある
自己破産手続き開始から破産免責許可までの間は、資産隠しを防ぐために裁判所から許可のない居住地の変更は制限され、郵便物は破産管財人に閲覧されます。
一時的に取締役を退任する必要がある
民法では役員の自己破産は委任終了事由になるため、自己破産開始の決定にともない、取締役を退任しなくてはなりません。ただし、これは一時的な委任終了であって、その後の株主総会などで選任されれば取締役に復帰できます。
自己破産後も残る制約
特定の職業に就けない、許可なく居住地を変更できないなど、厳しい制約があるのは自己破産手続き開始から破産免責許可までの間です。許可が下りれば、これらの制約はなくなります。
法律上の制約はなくなっても、自己破産した人が起業するのは簡単ではありません。自己破産の事実は、事故情報として金融機関やクレジットカード会社などが審査で利用する信用情報機関の情報として記録されるためです。
いわゆるブラックリストといわれるもので、事故情報は5~10年ほど残ります。自己破産後は、これによって会社設立に支障が出ることがあります。
これまでのように融資を受けられない
自己破産をした人は、通常よりも融資の返済が滞るリスクが高いと判断されるため、自己破産をすると金融機関からの融資が受けられなくなります。仮に融資を受けられたとしても、少額や高金利での融資になるでしょう。
ローンの利用やクレジットカードの作成に支障が出る
ローンやクレジットカードも、利用者にとっては借金です。自己破産をするとローンを組めなくなるほか、基本的にはクレジットカードの作成もできなくなります。
信用情報に傷が残る
取引先への債務を残したまま倒産した場合や、従業員を抱えたまま倒産した場合は、これまでの付き合いが断たれてしまうでしょう。法的には再度起業できても、実際は取引先との関係などによって事業がうまくいかないことがあります。
自己破産後に再度起業する方法は?
自己破産後の起業は法的には可能ですが、基本的に融資を受けられないため資金調達がネックになります。自己破産後に会社を設立する方法として、どのようなものが考えられるでしょうか。
自己資金を貯めてから起業する
自己破産によって融資を受けられないのであれば、起業に必要なお金を自分で用意するしかありません。融資ではないため返済の必要はありませんし、少ないリスクで起業できます。
ただし、自己破産の手続きによって、生活に必要なものを除き、財産は弁済に充てられるため、少しずつコツコツお金を貯めるほかありません。起業に必要な金額にもよりますが、再度起業するまでには時間がかかるでしょう。
初期費用があまりかからない業種で起業する
店舗が必要な業種や大型・専門の機械が必要な業種などは、多額の初期費用がかかります。そのような業種だと、自己資金を貯めて再度起業するのはなかなか難しいでしょう。
初期費用がネックになるなら実店舗を必要としない業種など、初期費用があまりかからない異業種で起業することも検討するとよいでしょう。
再挑戦支援資金を活用する
過去に廃業した個人や法人は、日本政策金融公庫の「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」を受けられることがあります。再挑戦支援資金を利用できるのは、以下のすべてに該当する場合です。
- 新たに開業予定または開業からおおむね7年以内である
- 過去に廃業歴のある個人または法人の経営者である
- 廃業の理由がやむをえないものなどであった
- 廃業時の負債が新事業に影響しない程度に整理または整理される見込みである
自己破産の経験は、問われていません。審査にもよりますが、自己破産をした人でも融資を受けられる可能性があります。再挑戦支援資金を利用すると、個人の場合は最大7,200万円(うち、運転資金4,800万円)、中小企業の場合は最大7億2,000万円(うち、運転資金2億5,000万円)まで融資を受けられます。
再度起業する業種でまとまった資金が必要になる場合や、早期に起業したい場合は、再挑戦支援資金の利用を検討するとよいでしょう。
自己破産後でも起業はできるがさまざまな制約がある
自己破産をしても、その後起業することはできます。しかし、自己破産の手続き中は一部の職業に就けないなどの厳しい制約があり、手続き完了後も自己破産の事実によって融資などを受けにくくなるため、注意が必要です。
自己破産後に再度会社を設立したい場合は自己資金を貯めつつ、再挑戦支援資金を活用することを検討しましょう。
よくある質問
自己破産後も会社設立はできる?
法的な制限はないため、自己破産後でも会社を設立できます。詳しくはこちらをご覧ください。
自己破産後の会社設立で注意すべき点は?
自己破産後は、基本的に金融機関などから融資を受けられなくなります。詳しくはこちらをご覧ください。
自己破産後に再度起業する方法は?
自己資金を貯めて起業する、初期費用が少ない業種で起業する、再挑戦支援資金を利用して起業する方法などがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
合同会社の設立登記はオンライン申請できる?法務局への申請手順を解説!
個人事業ではない法人の形態として、株式会社や有限会社はよく知られていますが、2006年に会社法改正によって新設された合同会社は、歴史も浅いため、一般的な認知度はあまり高くないものと思われます。 合同会社は、設立費用が安価、定款の認証が不要、…
詳しくみる神戸市で会社設立!自分ですべき?専門家に依頼すべき?お得な方法は?
神戸市での会社設立をはじめ、日本で株式会社や合同会社を設立する際は、主に【①無料の会社設立サービスを利用して自分で進める、②専門家である税理士や司法書士に依頼する、または③法務局のサイトを参照しながら自分で手続きを行う】という3つの主な方法…
詳しくみる四日市で会社設立!設立費用を下げるポイントは?
四日市での会社設立をはじめ、日本で株式会社や合同会社を設立する際は、主に【①無料の会社設立サービスを利用して自分で進める、②専門家である税理士や司法書士に依頼する、または③法務局のサイトを参照しながら自分で手続きを行う】という3つの主な方法…
詳しくみる法人が印鑑証明を取得するための4つの方法
印鑑証明書は、個人と同様に、法人についても不動産の売買や契約など、重要な取引をするのに必要です。印鑑証明を受けるには、会社実印の印鑑登録をする必要があります。 法人の印鑑登録の方法と、印鑑証明書の請求の方法について解説します。 法人の印鑑登…
詳しくみる会社設立時は一人社長でも社会保険加入が必須!手続きの流れ・必要書類を解説!
会社の役割は、価値のある商品やサービスを取引先に提供し、儲けを出すことで社長自らの生活向上を図るだけではありません。社長自身はもちろん、従業員の生活基盤を守ることも重要な役割です。雇用保険や労災保険などの社会保険への加入も会社の重要な役割の…
詳しくみる発起人の決定書とは?書き方や記入例、押印について解説
株式会社の設立にあたり準備が必要な事項や書類のうち、「発起人の決定書」は設立に直接携わる人(々)の意思表示を明記するための書類の一つです。 会社設立における発起人の決定書の意義や作成方法、ケース別の記載例やフォーマット、設立に必要な他の書類…
詳しくみる