• 作成日 : 2023年5月26日

資本金1000万円以下は節税できるって本当?利用できる軽減制度

資本金1000万円以下は節税できるって本当?利用できる軽減制度

起業して資本金1,000万円以下の会社を設立した場合、どのような節税ができるでしょうか?

法人を設立すると確定申告時には、法人税だけでなく法人住民税や法人事業税なども申告・納付が必要となります。この記事では、資本金が1,000万円以下の株式会社を設立した場合におけるメリットやデメリットを解説します。

資本金とは何か?

会社を設立する際に株主が出資するお金のことを資本金と言います。

では、株式会社の設立時に必要となる資本金は最低でいくらなのでしょうか?また、資本金の多い少ないで会社運営にどのような違いが考えられるのでしょうか?

ここでは、株式会社設立における「資本金」の役割について説明します。

資本金とは調達した資金のこと

資本金とは、会社を立ち上げる際に株主がその会社に出資したお金のことであり、事業を行うための元手です。

会社が事業資金のために金融機関などから借り入れをした場合には、その借入金はいつか返済しなければなりません。この借入金などを「他人資本」と言います。他人資本は、借入金のほか、未払金買掛金などがあり、貸借対照表の負債の部に表示されます。

これに対し、資本金は返済の義務がなく、「自己資本」と呼ばれます。自己資本は貸借対照表においては次の図のように純資産の部に表示されます。貸借対照表上では会社から見て返済すべき「他人のお金」と返済不要の「自分のお金」に分けて表示されており、調達源泉が「他人か自分か」という違いが明らかにわかります。

資本金(他人資本 自己資本)

なお、株式会社の資本金は、設立後に増やしたり(増資)減らしたり(減資)することも可能です。増資や減資の際には、株主総会、つまり経営者ではなく株主の承認が必要となります。

資本金が大きいほど信用力がある

資本金の大きさは、会社の信用力に影響します。

資本金が大きいと、社会から信用されているため、会社が借入金をする場合や大きな投資をする場合に実行しやすいと言えるでしょう。

例えば、同じ業種で同程度の業績をもつ2つの会社A社とB社があったとします。

A社の資本金が1億円、B社の資本金が1,000万円であった場合、それだけでA社のほうが信用力があるとは言えないかもしれません。

会社を評価する方法はいろいろな方法がありますが、まずは、お金を貸す側から見ると「安全性の高い」会社に貸したいと考えます。

次の図はかなり極端ですが、このA社とB社のある時点での貸借対照表を示しています。両社は同じ業績で貸借対照表に同額の売掛金と買掛金が示されたと仮定します。どちらの会社のほうが安心してお金を貸せるでしょうか?A社であることは明らかです。

A社はB社より資本金が多い部分に預金があります。たとえ売掛金に未回収が発生したとしても預金からの返済が可能です。預金ではなく、建物を購入したとしてもその建物を売却して換金することができます。

資本金 売掛金 預金

このように、資本金の額はそのまま財務諸表である貸借対照表に反映されます。財務諸表に示されない事項も多々あり一概には言えませんが、資本金が多いと対外的な信用力につながります。

資本金が大きいほど会社の規模も大きい

そもそも会社の規模が大きいとは何を指しているのでしょうか?

会社の規模を表す指数としては、従業員数や売上高とともに、資本金や資産総額も挙げられます。したがって、会社の規模という場合には、その場面や文脈で変わってくることもあるし、従業員数をはじめとする各要素の総和とも言えます。

一般に資本金が大きい場合には、返済不要の調達源泉が大きいことを意味するため、より大きなリスクを取って事業を展開することが可能と言えます。

起業するのは資本金1円でも可能

2006年施行の会社法改正によって最低資本金制度はなくなり、資本金が1円でも会社を設立することができるようになりました。

実際のところは、資本金1円から設立可能といっても、あまり資本金を低く設定しすぎると会社としての信頼を損ないかねません。自己資本がなく他人資本で運用している会社だと思われる可能性もあります。

また、金融機関から融資を受けるときの審査や、新しい取引先との取引を開始するにあたっても、資本金の金額は大きく影響します。

資本金1,000万円未満で消費税が免税される?

資本金の金額は納税においてさまざまに影響します。

まずは消費税と資本金の関係について見ていきましょう。

資本金1,000万円未満なら設立後1年は免除される

消費税法においては中小事業者の事務負担などへの配慮から、基準期間における課税売上高が1,000万円以下の場合は、消費税の納税を免除することとされています。この基準期間とは、法人の場合は前々事業年度のことを言います。

したがって、新たに設立された法人(資本金1,000万円未満の会社に限る)は、設立1期目と2期目においては基準期間がありませんので、原則として納税義務が免除されます。

この免除のためは、法人設立届出書に所定事項を記載することとなりますが、それがない場合には「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」を提出する必要があります。

しかし、事業年度開始日における資本金が1,000万円以上である法人については、納税義務の免除はありませんので要注意です。

参考:
No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき|国税庁
No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例|国税庁
[手続名]消費税の新設法人に該当する旨の届出手続|国税庁

条件を満たせば2年目も免除される

上記の説明のとおり、資本金1,000万円未満の会社は原則として法人設立2年目も消費税が免除となります。

しかし、基準期間のない法人設立2年目でも、その事業年度開始日の資本金が、1,000万円以上である法人などには、納税義務は免除されませんので気を付けましょう。

また、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも特定期間(前事業年度開始日以後6か月間)の課税売上高が1,000万円を超えた場合には、その課税期間から課税事業者となる等の規定もあるので要注意です。

年度の途中で増資すると申告が必要になる場合も

増資するには株主総会が必要ですが、その時期はいつでも問題ありません。

したがって、設立2年目の途中で増資をして資本金1,000万円以上になってしまうと、設立2年目の決算においては消費税の納税義務が発生しますので、気を付けましょう。

インボイス制度における留意事項

2023年10月から導入されるインボイス制度においては、資本金1,000万円未満の新設法人であっても適格請求書発行事業者を選択した場合には消費税の課税事業者となります。

資本金1,000万円未満の新設法人が適格請求書発行事業者となるには、原則として法人設立後に、課税選択届出書と登録申請書を提出する必要があります。

ただし、経過措置により、2023年10月1日から2029年9月30日までの日の属する課税期間中に適格請求書発行事業者の登録には、課税選択届出書の提出が不要となる特例があります。

ただし、インボイス制度導入において適格請求書発行事業者になるかどうかはその法人の任意です。

参考:インボイス制度に関するQ&A目次一覧|国税庁

資本金1,000万円以下で法人住民税を安くできる?

法人住民税には、道府県民税と市町村民税があります。これらは、その会社の事務所等が所在する都道府県及び市町村からそれぞれ課税される地方税です。

法人住民税にはさらにそれぞれが2種類に別れ、資本金や従業者数に応じて定額が課税される均等割と法人税額に応じて課される法人税割とがあります。

法人住民税の均等割は資本金の金額で納税額が変わる?

法人住民税の均等割は、黒字か赤字かにかかわらず課税されるものです。これは個人住民税の均等割に似ています。

法人住民税の均等割のうち、都道府県民税は法人の資本金等の額で、市町村民税は法人の資本金等の額と従業者数で払う税金の額が変わってきます。

引用:総務省|地方税制度|法人住民税

法人住民税

したがって、同じような規模法人であれば同一区分内においては同一の額となります。

法人税割の場合は法人税額を基準に算出する

法人住民税の法人税割は、法人税を基準にしています。したがって、均等割と異なり黒字の会社ほど税額が高くなります。逆に、会社が赤字で課税所得が出なかった場合などには、法人税割は課税されません。

なお、この記事で記載したほか、資本金が税金に関係するものとしては以下のものなどがあります。

税金税金と資本金との関係
国税法人税資本金1億円以下の普通法人の課税所得のうち800万円までは税率15%と比較的低く設定されています。
国税地方法人税法人税額に連動します。したがって、資本金1億円以下とそうでない場合には影響を受けます。
地方税法人事業税*資本金が1億円を超える会社は、所得、付加価値、資本金を課税標準とする外形標準課税の対象となります。

参考:総務省|地方税制度|法人住民税・法人事業税

資本金1,000万円超えで増える負担とは?

資本金の額は税制以外においても影響を受けます。

下請法(下請代金支払遅延等防止法)にスポットを当てて見ていきましょう。

資本金が1,000万円を超えると下請法の対象になる

下請法は、親事業者による下請事業者への優越的立場の濫用を取り締まることを目的とした法律です。例えば、下請法では下請事業者に非がないにもかかわらず、親事業者が「発注後に」下請代金の額を減らすことは禁じられています。

下請法の適用は親事業者及び下請事業者の資本金によってその適用が区分されています。

例えば次のような場合には下請法が適用され、親事業者に対する義務や禁止事項が要請されます。

資本金 下請法の適用

出典:下請法の概要 | 公正取引委員会を加工して作成

資本金が多いと連動して多くの税金が高額になる

見てきたように、資本金の額によって税制だけでなく、下請事業者として下請法の適用を受けるため早期に売掛金の回収ができるなどの措置も受けられます。

反対に、資本金が多いと税金も連動して高額になることが多くなります。

例えば、法人においては「欠損金の繰越控除」という制度があり、事業の欠損を繰り延べることにより節税ができます。

しかし、資本金が1億円超の法人では、この繰越できる欠損金が制限されるため、資本金が1億円以下の法人と比べると結果的に法人税が多くなります。

また、中小企業経営強化税制などにおいて取得した資産の特別償却などが適用できるのは資本金が1億円以下の法人ですので、中小企業においては税制による優遇策も設けられています。

このように、資本金と税制は深いつながりがあると言えます。

参考:
No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除|国税庁
No.5434 中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)|国税庁

会社設立時は節税のために資本金を抑えるのもおすすめ

スモールスタートという言葉があります。スモールスタートとは、ビジネスの開始時点では少ない資金や人員でやりくりし、徐々に拡大していく戦略を言います。

会社設立時においては、リスクを最小限に抑え、経営者自身のスキルを磨き、顧客のニーズを間近に把握するためにもスモールスタートがよいという考えがあります。そうすると、自ずから資本金も抑えることになるかと思います。

起業にあたって重要な項目の一つである資本金の設定にスモールスタートの考え方を取り入れてはどうでしょうか?

よくある質問

資本金1,000万円未満の場合、インボイス制度による影響は?

インボイス制度を導入しない場合、資本金1,000万円以下の新設法人は、設立1期目と2期目においては基準期間はありませんので、原則として設立1期目と2期目は納税義務が免除されます。詳しくはこちらをご覧ください。

法人住民税が0円になる方法はありますか?

ありません。法人住民税のうち、均等割は資本金や従業員数と連動するため、赤字であっても申告・納税義務があります。 詳しくはこちらをご覧ください。


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