- 作成日 : 2024年11月21日
事業承継コンサルティングとは?支援内容や選び方、注意点を解説
事業承継を自分たちだけで行うのは非常に難しいため、外部のサポートを活用するのも一つの方法です。
この記事では、スムーズな事業承継をサポートしてもらえる事業承継コンサルティングのサービス内容や選び方についてご紹介します。
目次
事業承継コンサルティングとは?
事業承継コンサルティングとは、事業承継をスムーズかつ確実にできるようサポートしてくれるサービスです。事業承継は会社の事業を新しい経営者に引き継ぐことですが、その過程でさまざまな判断すべきことや行うべき手続きがあります。これらに関して助言・実行のサポートをするのが事業承継コンサルティング事業者の役割といえるのです。
事業承継の概要については、次の章でさらに詳しくご紹介しています。
事業承継コンサルティングの業務に関する資格
事業承継は会社や経営者、後継者の将来に関わる重要な事項のため、可能な限り専門的な知識やスキルを持った人を見極めて依頼するのが妥当です。その判断材料の一つとして資格が挙げられます。事業承継コンサルティングは、主に以下の資格保有者が担当しています。
国家資格 | 中小企業診断士、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士、行政書士など |
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民間資格 | 事業承継士、事業承継アドバイザー、事業承継プランナー、M&Aスペシャリストなど |
国家資格
国家資格とは国が法律に基づいて与える資格のことです。国家資格保有者は、特定の分野において豊富な知識と高いスキルを持っていると国から正式に認められた人といえます。
また、独占業務ができるという点も国家資格を取得する大きな特徴です。例えば、弁護士は訴訟や裁判所への申立などの法律行為を、税理士は税務申告や税務手続きを代行することが認められ、これらは無資格者が行うことはできません。
民間資格
民間資格は民間企業などが認定する資格です。士業のような独占業務を行うことはできませんが、やはり保有者は特定の分野で豊富な知識と高度なスキルを持っていることが証明されます。
また、民間資格はより高い専門性が求められるのが特徴です。例えば、弁護士は法律が、税理士は税務が専門であり、その一環として事業承継をサポートします。一方、事業承継士や事業承継アドバイザーは事業承継に特化した資格であるため、より幅広くかつ専門的なサポートが期待できます。
事業承継コンサルティングのサービス内容
事業承継コンサルティングでは事業承継に関するさまざまな支援を行ってくれますが、主に以下のようなサービスが挙げられます。
事業承継の計画の策定
事業承継は、短期間で完了できるものではありません。現在の経営者が担っている膨大な業務を少しずつ後継者に引き継いでいく必要があります。事業を譲渡するためにはさまざまな手続きも行わなければなりません。また、会社の現状を把握する、従業員や取引先との関係を構築する、ということにも時間がかかります。数年間かけてようやく実現する一大プロジェクトなのです。
どのように事業を承継していくのか、いつまでに何をするべきか、トラブルが発生した場合はどのように対処するのか、といった事業承継の計画が非常に重要です。事業承継コンサルティングは、まず会社や経営者・後継者の状況などを把握して、事業承継計画を提案してくれます。
財務や法律面の承継支援
事業承継には会社法や税法、民法、経営承継円滑化法など、さまざまな法律が絡み、多くの手続きを行わなければなりません。贈与税や相続税、消費税、所得税、法人税などの税金もかかります。さらに、経営者が交代した後でも安定した経営が続けられるよう、財務管理も重要です。
事業承継コンサルティングでは、事業承継に必要な手続き、財務管理のサポートやアドバイスもしてくれます。
後継者の育成を支援
事業承継において特に重要となるのが後継者の育成です。経営者に必要な実務スキルや業界の専門知識、経営マインド、あるいは人間性など、さまざまな素養を、事業を譲渡するまでに向上させなければなりません。もし後継者の育成が不十分であった場合、事業承継をした途端に経営が行き詰まってしまう可能性もあります。
事業承継コンサルティングでは、後継者の育成計画や進捗状況の管理などをサポートし、コンサルタントによっては直接後継者に経営ノウハウや財務管理のしかたなどを指導します。
M&Aへの支援
少子高齢化の影響で後継者不足に悩まれている経営者の方も少なくありません。近年では親族や従業員に経営を継がせるのではなく、M&Aで外部の人材に経営を託すという選択をされる経営者の方も増えてきました。優秀な経営のプロに任せられる、後任者が従来行っている事業とのシナジー効果が期待できる、売却益が得られるなどのメリットがあります。
M&Aという手段を選択した場合、買い手の募集や取引の仲介、条件交渉、契約など一連のタスクを事業承継コンサルタントが支援してくれます。
事業承継コンサルティングを提供している主な機関
事業承継コンサルティングサービスはさまざまな機関や会社が提供しています。それぞれの特徴やメリット・デメリットについてご紹介します。
経営コンサルティング会社
経営コンサルティング会社は、経営に関するアドバイスやサポートをする会社です。財務やマーケティング、業務改善、人事など、さまざまな経営課題を分析し、解決するために、パートナーとして支援してくれます。その一環として事業承継コンサルティングサービスを提供しているコンサルティング会社も多いです。
幅広い経営に関する知識を持っており、事業承継以外にも安定的に経営が継続できるようさまざまな角度からの提案が期待できます。ただし、コンサルタントによって得意な分野や知識レベルは異なるため、見極めが非常に重要です。
会計事務所・税理士事務所
会計事務所や税理士事務所は公認会計士や税理士が在籍し、会計監査や財務管理、税務申告、節税対策などの、会計・税務関連の支援を行う士業事務所です。
事業承継では贈与税や相続税などの税金がかかります。また、正確に申告手続きを行わなければなりません。会計事務所・税理士事務所であれば、税金の負担を軽減できるような事業承継の提案をしてくれ、税務手続きも代行してくれます。
ただし、会計・税務が本業であるため、マーケティングや人事などの分野は必ずしも得意とは限りません。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターとは国が設置している事業承継の相談窓口です。相談員が常駐しており、事業承継に関連する幅広い相談を受け付けてくれ、必要に応じてアドバイスやM&A先の紹介を受けることができます。
公的機関なので信用性が高いこと、全国に相談窓口があって気軽に相談できること、無料で相談できるので金銭的な負担が抑えられることがメリットです。
ただし、会社の実情に合わせたアドバイスやサポートのきめ細やかさ、スピード感のあるレスポンスは民間のコンサルティング会社のほうが得意としています。
商工会・商工会議所
法人や個人事業主を支援している商工会・商工会議所でも事業承継の相談をすることができます。事業承継・引継ぎ支援センターと同様、無料で相談できることと、その地域の実情に合わせたアドバイスや後継者探しのサポートをしてくれることがメリットといえます。また、融資や補助金・助成金などの提案もしてくれる、会員になれば他の経営者などとも交流できる点もメリットです。
ただし、会員になると会費を支払わなければならない、交流会やイベント、セミナーなどに参加しなければならないなどのやるべきことが増える可能性もあります。
金融機関・生命保険会社
銀行や信用金庫などの金融機関、生命保険会社でも事業承継に関する相談を受け付けている場合があります。金融機関であれば資金調達や資金繰りの面から、生命保険会社であれば資産形成の面からアドバイスをくれます。
ただし、金融機関や生命保険会社と取引をしていないと相談を受け付けてくれない可能性があることと、後継者の育成や人事など専門分野以外に関するアドバイスは必ずしも得意ではないという点は留意しておきましょう。
M&Aコンサル会社
第三者に事業を譲渡する場合はM&Aコンサル会社に相談するというのも手です。譲渡先の募集や選定、条件交渉、契約、引き継ぎまでM&Aの一連のタスクをサポートしてもらえます。特にM&Aで難しいのは譲渡先の募集や選定、条件交渉ですが、M&Aコンサル会社ならしっかりと仲介してしてもらえるでしょう。
一方、コンサルティング料や仲介手数料などの負担が大きいこと、親族内継承、社内承継に関してはサポート外になるという点は注意が必要です。ただし、親族内承継・社内承継かM&Aかで迷われている場合は、一度相談してみてはいかがでしょうか。
事業承継コンサルティングに依頼するメリット
報酬を支払って、事業承継コンサルティングを利用する意義はどこにあるのでしょうか。ここからは事業承継コンサルティングを依頼するメリットについて考えてみましょう。
事業承継がスムーズに進められる
事業承継は多くの経営者、後任者にとってはじめての経験になります。どのように進めればいいのか、どのようなタスクや手続きを行えばいいのか、戸惑われることと思います。
事業承継コンサルティングを利用すれば、会社や経営者・後継者の事情に合わせて事業承継の計画を提案し、進め方や行うべき事柄についても整理してもらえるため、スムーズな事業承継が実現につながるでしょう。
専門的なアドバイスを受けられる
事業承継では財務、法律、税制など、さまざまな専門的知識が求められる機会が多い傾向です。他にも人材育成や株・資産の譲渡方法など、あらゆる面で知識やノウハウが必要となります。
事業承継コンサルティングを依頼すれば、専門知識やこれまでの実績から培ったノウハウに基づいて、最適な方法をアドバイスしてもらえるでしょう。
時間と労力の節約ができる
経営者や後継者は多くの業務をこなしながら事業承継を進めていかなければなりません。また、考えるべきことや判断すべき事柄も非常に多く、引き継ぎ期間中は相当な負担がかかるでしょう。
事業承継コンサルティングを依頼すれば、事業承継に関わる業務を代行して、判断についてもアシストしてもらえるので、負担を大幅に軽減でき、本来すべき業務や引き継ぎなどに専念できるようになります。
事業承継コンサルティングに依頼する際の注意点
事業承継コンサルティングを依頼することで、前述のようなメリットが得られます。一方で注意すべき点もいくつかあります。以下のような点を意識してコンサルティング事業者を選びましょう。
相談費用は無料か
事業承継コンサルティングを依頼する際にはまずコンサルタントに事業承継に関する課題や悩みごとを相談する必要があります。初回相談を無料としている事業者もあれば、都度相談料がかかる事業者もあるなど、それぞれ違いがあります。
まずは相談料がかかるのか否か、かかるのであればいくらになるのかを確認しておきましょう。
費用や報酬体系の確認
事業承継コンサルティングに依頼する際には費用や報酬の額や体系についても確認しておきましょう。事業継承コンサルティングでは、月々の報酬に加えて計画の策定や株式の算定などを依頼した場合には都度費用がかかる可能性があります。また、来社の場合は交通費や日当も必要になる可能性が生じるでしょう。
一度、見積書を出してもらい、他社とも比較検討されることをおすすめします。また、料金について不明瞭な点がある場合は遠慮なく尋ねてみましょう。
サービス内容の範囲の確認
事業承継コンサルティングのサービス内容は、各事業者で異なります。どういったサービスを提供してくれるのか、どこまでは月額報酬の範囲で行ってくれ、どこからが別途費用がかかるのかを確認しましょう。
特に、費用や業務範囲はトラブルになりがちな事柄です。ホームページや資料、あるいは初回面談でサービス内容を確認し、不明点はすべてクリアにし、納得したうえでコンサルティング契約を結びましょう。
事業承継コンサルティングに依頼する流れ
ここでは事業承継コンサルティングを利用して事業承継を完了させるまでの流れを、親族内、社内事業承継の場合、M&Aの場合というケース別で見ていきましょう。
親族内、社内事業承継の場合
まずは事業承継コンサルティング事業者や機関を選定します。料金やサービス内容などに納得できたら契約を締結し、いよいよ事業承継がスタートです。コンサルタントが会社の状況、例えば保有資産や経営者・後継者、会社の状況についてヒアリングを実施しておおまかな事業承継計画を策定し、株式の評価額なども算出します。
その後、後任者が決まっていない場合は後任者選定や方向性の策定(親族内承継、社内承継、M&Aのいずれを選択するか)を決めます。後任者が決まっていれば後任者の育成や業務の引き継ぎも進めましょう。同時に株式・会社財産の譲渡や経営権の移行計画の策定、補助金や事業承継税制の活用の検討など、有利にかつスムーズに事業が承継できるよう戦略を策定します。
後任者の育成や業務の引き継ぎが完了したら事業譲渡となり、主に株式譲渡や資産贈与、贈与税・相続税の申告などの手続きを行います。
M&Aの場合
決算書やノンネームシートなど、開示する書類を準備すると同時に、譲渡先の選定を行います。候補が決まったら秘密保持契約を締結し、経営者同士がトップ面談を行い、そこで両者が合意したら基本合意書の締結となるのです。
譲渡先企業がデュー・デリジェンス(買収先の事業状況や財務状況の調査)を実施し、再度条件についてすり合わせをし、最終契約を締結してM&Aが成立します。
事業承継コンサルティングの選び方
良い事業承継コンサルティング会社や事業者を選ぶためには、まず自社の課題やニーズを明らかにしましょう。例えば、税金や節税で困っているのであれば税理士、M&Aを考えているならM&Aコンサルティングというように、相談先も変わってきます。なお、事業承継コンサルティング会社に依頼して、税金の問題が発生した際に顧問税理士に相談するというように、相談先を複数確保するという方法もあります。
次に実績に着目しましょう。実績があればそれだけノウハウや事例も豊富なので、より自社に合ったサービスが受けられる可能性が高まります。また、コンサルタントの保有資格でその人がどの分野に強いのか、どの程度の知識があるのかがわかるので、それも判断材料になり得ます。
担当者の対応も非常に重要です。コンサルタントとは事業承継が完了するまで付き合っていかなければなりません。サービスの内容や知識・スキルはもちろん大切ですが、やはりいちばん重要なのは相性です。課題や悩みに対して最適な提案してくれるか、質問に対して的確に回答してくれるかを確認してみましょう。そのためにも、まずは直接会って話をされることをおすすめします。
事業承継コンサルティングの力も借りて事業承継を成功させよう
事業承継はすぐにできるものではありません。数年間はかかる大仕事であり、やるべきことや手続きも多く、専門的な知識やスキルも求められます。
さまざまな仕事を抱えているなかで、自分たちですべてをこなすのは非常に大変です。負担を軽減するためにも、事業承継を有利にかつスムーズに進めるためにも、外部の力を借りられることをおすすめします。
相談先はコンサルティング会社や士業事務所、公的機関の窓口などさまざまありますが、今回ご紹介したポイントを意識して適切な相談先を選びましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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