• 作成日 : 2024年9月6日

動物園の経営は難しい?開業に必要な許認可や費用、失敗を防ぐコツを解説

「動物園の経営に携わりたい」と思っている人もいるのではないでしょうか。本記事では、動物園は難しいのか、開業に必要な許認可や費用などについて解説します。

あわせて、動物園経営で失敗を防ぐコツや動物園経営をする際に必要な事業計画書の書き方や定款の役割についてもまとめたので、ぜひ参考にしてください。

動物園の経営は難しい?

まずは、動物園の経営について見ていきましょう。現実的に、動物園経営は難しいといえるでしょう。

そもそも動物園の運営母体は、公立と民間の2つです。公立動物園の例としては、上野動物園が挙げられます。上野動物園は東京都が東京動物園協会を指定管理者として、東京動物園協会が運営を担当しています。

公立動物園は、動物園事業収入+税金+(寄付)で運営されており、動物園事業の収益のみでは完全赤字なのが現状です。

公営の動物園の入園料は一般的に、500〜600円程度に設定されることが多く、中学生以下は入園料無料、入園料自体が無料という施設もあります。また、動物園には市民の憩いの場という側面があるため、入園料を値上げすることも難しいようです。

そのため、園内の食堂や売店での飲食や物販などが重要な収益源となっています。しかし、収入の多くが動物の餌代や管理維持の電気代、施設維持費・メンテナンス代などで消えています。

また、公立動物園では収益が発生する場合、公立であるがゆえ、事業計画外のことができなかったり、何かするためにはさまざまな工程を経る必要があったりするため、自由度が低いといえるでしょう。

実際に、上野動物園の指定管理者である東京動物園協会の2021年度決算は、次のようになっています。

2021年度決算単位:千円
動物園・水族園の管理運営事業経常収益 7,818,561
経常費用 6,363,539
損益 △75,242

このように、上野動物園でも赤字となっています。

一方の民間動物園は、鉄道会社や営利企業などが動物園を運営しています。静岡県にある伊豆シャボテン動物公園は、伊豆シャボテンリゾート株式会社が、東武動物公園は東武レジャー企画株式会社が運営を担当しています。

動物園事業による収益が経営に大きく影響するため、民間動物園では高めの料金設定が一般的です。また、収益を増やすために、園内に有料の餌やり・触れ合い・写真撮影・動物ショーなど収益化できる取り組みも多くなされています。

参考:公益財団法人東京動物園協会 営改革プラン 2023 年度改訂版

3億円の赤字からV字回復を遂げた旭山動物園の事例も

動物園経営は難しいですが、なかにはV字回復を遂げた動物園もあります。例えば旭山動物園は、3億円の赤字から見事に業績を回復させました。

1967年に開園した旭山動物園は、80年代まで年間40万〜60万人が来場する旭川市のシンボルとして愛されていましたが、90年代に入ると少子化や新しいレジャー施設の流行の影響で徐々に来園者数は減少していきます。

1996年には過去最低の26万人にまで落ち込み、「市の経営のお荷物」として売却や閉園が検討されるようになりました。しかし、同年に新園長に着任した小菅氏によって、抜本的な改革が考案され、V字回復への軌跡が始まります。

そこで採用されたのが、「行動展示」です。これまでの展示は「生物展示」と呼ばれる、動物が自然にいる環境を再現するものでした。それに対し、旭山動物園では、動物が持つ行動特性を最大限に生かし、動物がイキイキと活動する様を伝える「行動展示」を採用することにしたのです。

その案を持って市と掛け合うことで、1億円の予算を獲得することに成功します。予算をもとに、広々とした木々に覆われた施設全体を網で囲み、鳥が飛び回る自然の姿を観察できる「ととりの村」やオランウータンが高所のロープを渡る「オランウータン舎」などの行動展示に着手しました。

結果的にそれらの展示が次々とヒットし、来場者数が激増し2003年には82万人にまで到達します。2004年7月には、月間入場者数が上野動物園を抜いて日本一を記録するなど、新たな挑戦に取り組み続けた結果、3億円の赤字からV字回復を遂げられました。

動物園の年収はどのぐらい?

公立の動物園の園館長になる役職としては、おおよそ部長職が該当し、年収は1,000万円超となるケースが多いようで、実際に2019年に公募された千葉市動物公園園長の年収は1,000万円でした。

民間施設の場合はその施設の年間売り上げによって異なります。園館長で800万円前後のところもあれば、1,000万円を超えるところもあります。

動物園経営に必要な許認可

動物園経営において、必須の資格はありません。ただし、業務内容によって必要な登録があります。

動物を取り扱っている事業者は営利/非営利問わず動物取扱業者と呼ばれます。動物取扱業者とは、動物の繁殖から飼育、保管、展示、貸し出し、販売、競りあっせん、譲受飼養を行う人のことです。さらに、動物取扱業者には、第一種と第二種があり、それぞれ該当するのは次のような人です。

第一種動物取扱業者:有償/無償を問わず反復・継続して事業者の営利を目的として動物の取り扱いを行う人

第二種動物取扱業者:飼養施設を営利目的とせず、一定数以上の動物の取り扱いを行う人

このうち、第一種動物取扱業者は、事業所や業種により都道府県知事か政令指定都市の長の登録を受けなければなりません。第一種動物取扱業者は、業種によって該当する業者が異なります。動物園の場合は「展示」に該当するため、第一種動物取扱業者としての登録が必要です。

動物園開業・経営に必要な資金・費用

動物園開業・経営に必要な資金・費用について解説します。

初期費用

初期費用については、動物園の規模や飼育する動物の数、敷地面積などによってさまざまであるため、一概にはいえません。

たとえば、動物の仕入れ費用については、上野動物園の場合、45種類370頭を仕入れた際の価格は、約10億円でした。どういった動物を扱うのかで、仕入れ価格はまったく異なります。

もし手軽に始めたいのであれば、移動式動物園を検討してもよいかもしれません。移動式動物園とは、お客さんのところに動物を移送し、広場などに檻おりや柵を設置して展示する形態の動物園です。

展示されている動物は、比較的飼育が容易なものが多く、購入費用も低く抑えられます。たとえば、ロバやポニーであれば50万円程度、ヤギやヒツジなどは10万円以内、カンガルー科のワラビーで15万円程度のようです。

まずは、自分が経営したい動物園をはっきりさせることから始めましょう。

ランニングコスト

動物園の運営には、ランニングコストもかかります。主なランニングコストとしては、次のようなものです。

  • 施設のメンテナンス費用
  • 動物の維持管理費用(食事代、水道光熱費
  • スタッフの人件費
  • 動物を新規で仕入れる際の仕入れ費用 など

資金調達方法

これらの初期費用やランニングコストを調達する方法としては、従業員が100人以下、または資本金が5,000万円以下の企業であれば日本政策金融公庫のサービス業向けの制度融資のほか、一般的な中小企業向けの金融支援を活用できる可能性があります。

動物園開業・経営の流れ

動物園開業・経営の流れを紹介します。前提として、動物園は公営のものが多いため、動物園を経営する場合には、公の施設の指定管理者となることが現実的です。ただし、近年では一般企業と自治体がタッグを組んで公立施設をプロデュースしたり、運営のコンサルティングを任せたりする場合も増えてきています。そのため、そういった事業を行っている民間企業で公立施設や動物園運営に携わる方法も考えられるでしょう。

民間の企業が公立施設をプロデュースする場合の流れは、以下のとおりです。

  1. 全国の自治体に出向き、自治体や地域住民等へヒアリングを行う
  2. それをもとに施設のコンセプト・デザインを決定する
  3. 自治体や設計会社などと連携して完成に導く
  4. 完成後もイベント企画やイベントを実施しアピールする

運営を民間に依頼した場合、民間のコンサルティング業では、飼育ゾーンの基本計画を作り、動物の生態系にあった展示・飼育方法の検討、動物園の再整備などを担当します。

続いて、公立施設(動物園含む)の指定管理者になる手順を紹介しましょう。

指定管理者になるには、施設ごとに募集される「指定管理者募集要項」等に沿って、申請書や事業計画書等の書類を提出します。その後、提出した申請書や事業計画書等に基づいて審査が行われる流れです。

第一種動物取扱業の登録

動物を取り扱っている業者は、営利/非営利にかかわらず動物取扱業者と呼ばれます。動物園を運営する場合、第一種動物取扱業の登録が必要です。第一種動物取扱業は営業を始めるにあたり、事業所がある所管の都道府県あるいは政令指定都市の長に登録の申請を行いましょう。

<第一種動物取扱業の登録に必要なもの>

  • 第一種動物取扱業登録申請書
  • (飼養施設を有する場合)飼養施設の平面図及び飼養施設の付近の見取図
  • 「動物の愛護及び管理に関する法律」第12条第1項第1号から第6号までに該当しないことを示す書類
  • 事業所および飼養施設の土地および建物について事業の実施に必要な権原を有することを示す書類
  • 動物取扱責任者研修の修了証の写し
  • (申請者が法人の場合)登記事項証明書、役員の氏名および住所

そのほかに必要なもの

そのほかに必要な届出としては、次のようなものがあります。

  • 消防署へ:防火対象物使用開始届など
  • 税務署へ:個人事業の開業届または法人設立届などが必要

従業員を雇った場合には、労働基準監督署、ハローワーク、年金事務所への届出として次のものが必要です。

動物園経営で失敗しないために

動物園に限らずですが、収益を安定・向上させるためには、入園者数を増やす必要があります。来園者が飽きないように、施設のリニューアルを定期的に行いましょう。

また、入園料以外の園内での飲食収入や物販収入を強化することも収益の安定には欠かせません。物販施設や飲食施設を拡充させ、動物園全体を魅力的に演出できるように工夫しましょう。

来園者を飽きさせない工夫としては、展示する動物の展示方法の工夫がおすすめです。旭山動物園の採用以降、行動展示という手法を導入する動物園が増えています。また、夜間の動物の行動を楽しめるように夜間開園(ナイトズー)を導入する動物園も増えてきました。

展示方法を工夫することにより、動物園が魅力的な体験をできる場としての価値が生み出され、来園者を引きつける要素のひとつのきっかけになるかもしれません。

動物園経営のコツを押さえて開業しよう

動物園経営には、公立と民間の2つがありますが、経営自体は甘いものではありません。赤字になっている動物園が多いのが実情です。

しかし、工夫次第では旭山動物園のように魅力的な施設として輝き続けられることも証明されています。動物園経営に失敗しないためにも、本記事で紹介した運営の流れやコツなどを押さえたうえで開業することをおすすめします。


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