- 更新日 : 2023年11月14日
会社設立前にインボイス制度を理解しよう!新設法人・開業者向けに解説
個人事業主が会社設立をする場合、気になるのが消費税の納税についてです。
特に現在は納税していないという方の場合、免税事業者のまま企業を立ち上げたいのならば、何に気をつけるべきなのかを確認しておく必要があります。また、消費税納付は2023年10月より施行された「インボイス制度」とも関連があるため、同時に押さえておきましょう。
目次
会社設立にも影響のあるインボイス制度
会社設立を考えているのならば、消費税納付の観点からも2023年10月1日より施行されたインボイス制度を把握しておく必要があります。どのような制度なのか、詳しくご紹介します。
インボイス制度とは
画像:【インボイスかんたんガイド】インボイス制度・消費税に関する用語集
インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」です。「適格請求書」とは正しい税率や消費税額等を伝えるために、所定の事項が記載された請求書等を指します。「所定の事項」とは以下6つの項目です。
- 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- 取引年月日
- 取引内容 ※軽減税率の対象品目であることを記載
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜又は税込)及び適用税率
- 消費税額 ※端数処理は一請求書当たり、税率ごとに1回ずつ行う
- 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
なお、適格請求書は請求書という形に限定されるわけではありません。納品書、レシートであっても、所定の事項が記載されていれば「適格請求書」と認められます。
インボイス制度についてはこちらの記事もご覧ください。
適格請求書発行事業者に求められること
適格請求書を発行できるのは「適格請求書発行事業者」に限定されます。適格請求書発行事業者には誰でもなれるわけではなく、登録を受けることが必要です。なお、登録を受けるためには「課税事業者」であることが必須となります。
適格請求書発行事業者から商品の仕入等を行うと、買い手(取引先)側は消費税納付をする際に仕入税額控除が可能になります。仕入税額控除自体は現在でも可能ですが、2023年10月1日以降は適格請求書発行事業者からの仕入でないと、適用されません。そのため、免税事業者は取引先確保等のために、あえて適格請求書発行事業者になるという選択肢を考える必要があるでしょう。
適格請求書発行事業者登録までの流れは次の通りです。
- 事業者が登録申請書を納税地の所轄税務署に提出する。e‐TAXを利用しての提出も可能。(個人事業主であればスマートフォンでの手続きも可)
- 提出された登録申請書を元に、税務署が審査を行う。審査後、登録と公表、登録簿への記載が行われる。
- 事業者に登録された旨の通知書が届く。
登録申請書の提出から登録通知を受けるまでにかかる期間は、登録件数や審査に要する期間によって異なってきます。最新の情報は国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」にて公表されています。
会社設立時は基本的に免税事業者
インボイス制度とは何かを確認したところで、現在、免税事業者である個人事業主は会社設立時に課税事業者、もしくは免税事業者どちらを選択すべきかを考えてみましょう。
法人が課税事業者になる条件
画像:【インボイスかんたんガイド】インボイス制度・消費税に関する用語集
法人が免税事業者になるためには「課税期間の基準期間(※)における課税売上高が1,000万円以下」という条件を満たす必要があります。
※基準期間:前々事業年度(ただし、前々事業年度が1年未満の場合は事業年度開始の日の2年前の日の前日から1年後までに開始した事業年度を合計した期間)
つまり、基準期間内の課税売上高1,000万円以下であれば免税業者です。また、新設法人の場合、設立1期目、2期目は前々事業年度の売上がありませんので、こちらも免税事業者となります。
ただし、新設法人でその課税期間の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていなかったとしても、以下の場合は注意してください。
特定期間の課税売上高(原則その事業年度の前事業年度開始日以後6ヶ月の期間)が1,000万円を超えた場合(なお、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することもできる)
上記の場合は、その課税期間から課税事業者となります。
なお、免税事業者であっても、税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出すれば課税事業者にはなれます。しかし、提出後2年間は免税事業者に戻ることはできませんので、メリット・デメリットをよく考えて、免税事業者のままでいるか、課税事業者になるかを決めましょう。
法人が免税事業者でいるメリット
法人が免税事業者になるメリットは「消費税の納税義務がない」という点です。本来ならば消費税として納めるはずのお金が会社に残ることになります。「少しでも会社にキャッシュを残しておきたい」と考える法人にとってはメリットが大きいといえるでしょう。
法人が免税事業者でいるデメリット
手元にキャッシュを残せるという点は免税業者のメリットですが、以下のケースの場合はデメリットが生じますので、確認しておいてください。
大きな設備投資等の予定がある、または売上が少ない事業年度がありそう
課税事業者の場合、支払った消費税が預かった消費税よりも多くなると税金の還付が受けられます。設備投資等で支払額が非常に多くなる事業年度や売上が少ないため預かった消費税より支払った消費税が多い事業年度がありそう、というような場合は免税事業者のままでは還付のメリットはありません。
免税取引を行う場合
海外への輸出取引の場合、消費税が免除されます。仕入等で消費税を支払っており、支払った消費税が預かった消費税より多くなっても、免税事業者であれば税金の還付は受けられません。
仕入税額控除を利用したい取引先がある
インボイス制度の施行後は適格請求書でないと仕入税額控除が受けられません。先述した通り、適格請求書発行事業者になるためには、課税事業者である必要があります。仕入税額控除を利用したい取引先がある場合、インボイス制度施行後は適格請求書を発行できない免税事業者は避けられる恐れがあります。
とはいえ、取引相手が経費で商品を購入するわけではない個人消費者、免税業者の零細企業などがメインであるケースの場合は、先方も仕入税額控除を利用する機会がないため、免税事業者のままでもそれほど影響はないでしょう。
会社設立のタイミング
適格請求書を発行したい個人事業主が、2023年10月1日のインボイス制度施行と同時に適格請求書を発行できるようにし、かつ免税できる期間をフル活用するのであれば、2021年10月より前に会社設立するのがベストと言われていました。
しかし、インボイス制度施行を機に、法人のメリットを享受するためにも法人化を検討するのもよいでしょう。一般的に、個人事業主に比べて法人の社会的信用は高いと考えられているため、取引上有利に働くケースが期待できます。さらに、「役員がいる場合は役員報酬が給与所得控除の対象となる」「退職金を損金にできる」「10年間の欠損金の繰越控除が可能」というメリットも見逃せません。
今からでも個人事業から株式会社や合同会社などに法人成りをするといったことを検討する価値は大いにあるでしょう。
会社を設立したらインボイス制度開始に備えよう
ここまでで、免税事業者のままでいることのメリットとデメリットを確認しました。インボイス制度施行を踏まえると、「適格請求書の発行ができる」「消費税の還付が受けられる場合がある」という点から、課税業者になっておいたほうがメリットは多いといえます。
では、新設法人が課税業者を選択する場合に行っておくべきことを確認しましょう。
課税事業者は適格請求書発行事業者の登録を
課税事業者になりたい場合は、インボイス制度に対応するために適格請求書発行事業者の登録をしてください。2023年10月1日の施行後でも、登録申請書を提出する必要がありますので、忘れずに手続きをしましょう。
納税額を確認しておく
現在、免税事業者である場合は消費税として納税すべき額を把握していないかもしれません。起業して課税事業者になる場合は、来るべき納税時期に備えて、自社がどの程度の納税額になるのかを確認しておきましょう。
経理方法は消費税を考慮したものに
法人の経理は以下の2種類から選ぶことができます。
税込経理方式
売上高、仕入高に消費税額と地方消費税額を含める経理方式。取引の度に売上の中から消費税分を区別する必要がないため、毎日の経理処理は簡単になるが、申告の際には、消費税分を算出する必要がある。
税抜経理方式
売上高、仕入高から消費税と地方消費税を外して計算する経理方式。毎日の経理処理で売上と消費税を分ける必要があるため、煩雑になるが、申告の際の処理は税込経理方式に比べて手間がかからない。
例えば少額減価償却資産の判定等の際には税抜経理方式のほうが有利の場合がありますので、各経理方式の特徴を理解した上で選ぶようにしましょう。
簡易課税制度の検討も
消費税額を算出する作業をなるべく省きたい、という場合は「簡易課税制度」の利用も検討しましょう。
簡易課税制度とは、消費税の基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合、納税地の所轄税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した新設法人は、みなし仕入率で課税仕入高を計算できるという制度です。みなし仕入率は業種ごとに定められています。
ただし、簡易課税制度の選択には気をつけないといけない点もありますので覚えておいてください。主に以下の2点です。
- 簡易課税制度を2年は継続しないといけない
- 複数の事業を営む法人が事業区分をしていない場合は、その事業のうちいちばん低いみなし仕入率が適用される
画像:【インボイスかんたんガイド】インボイス制度・消費税に関する用語集
また、免税事業者がインボイス発行事業者を選択した場合には、3年間売上にかかる消費税額の2割のみを納めればよい特例措置(2割特例)もあります。なお、2割特例を適用するに当たっては、事前に届け出る必要はありません。消費税の申告時に消費税の確定申告書に「2割特例の適用を受ける旨」を記載することで適用を受けられます。インボイス発行事業者を選択した場合の負担が心配な方は、こちらも検討しましょう。
参考:2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要|国税庁
インボイスの作成方法
インボイス制度に対応した適格請求書に書式の定めはありません。先述した適格請求書に適合する所定の事項についての記載があれば、書式は自由に作成することができます。
しかし、一から適格請求書を作成しようとすると、必要な項目が漏れてしまう可能性もあります。必要な項目を抑えつつ見やすい適格請求書にするには、適格請求書のテンプレートやインボイス制度対応の請求書作成ソフトを活用するとよいでしょう。
税理士監修済のインボイス制度に対応した請求書のテンプレートは、以下のリンクよりご利用いただけます。
インボイス制度対応の請求書作成ソフトなら、テンプレートで簡単に作成できて保管まで一元管理できる「マネーフォワード クラウド請求書」のご利用がおすすめです。
インボイス制度に備えて会社設立の検討を!
インボイス制度の施行で、企業は適格請求書の発行が可能になります。適格請求書を発行することで、取引先は仕入額控除の利用ができるため、営業面から考えるとメリットが大きいといえるでしょう。
ただし、適格請求書発行事業者になるには課税事業者である必要があります。現在、個人事業主で免税事業者であっても、課税事業者になれば、消費税の納税義務が生じます。
もし、課税事業者になることを検討するのであれば、この機会に会社設立も検討してみてはいかがでしょうか。法人成りをすれば、「役員報酬が給与所得控除の対象となる」など、多数のメリットがあります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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