- 更新日 : 2024年9月6日
日本政策金融公庫とは?融資制度や違い、メリット・デメリットを解説
日本政策金融公庫は、融資などの事業によって地域の経済や国民生活を広く支えている金融機関です。災害や混乱時のスムーズな融資対応など、重要な役割も担います。融資制度が豊富に設けられており、民間の金融機関からの融資と比較するとメリットも多くあります。融資を検討している方は、日本政策金融公庫も選択肢に入れましょう。
目次
日本政策金融公庫とは?
日本政策金融公庫とは政府が100%出資する金融機関で、政策金融機関と呼ばれるものの1つです。2008年に、国民生活金融公庫・農林漁業金融公庫・中小企業金融公庫が統合され、日本政策金融公庫が設立されました。
日本政策金融公庫の事業目的は、経済・産業の発展や国民生活の安定です。リスクの高さなどから民間の金融機関による対応が難しい分野をサポートし、政策に沿ったサービスを提供することも、日本政策金融公庫の役割です。柱となる3つの事業を通して国民を広く支援するとともに、地域経済の活性化やグローバル化の実現など、より広範囲にわたるシナジー効果も狙います。
加えて、金融秩序の混乱や大災害の発生などの際にも、貸付によって危機対応を支援します。日本政策金融公庫から指定金融機関へ貸付を行い、指定金融機関を通して民間へ必要な資金をスムーズに融資するための役割です。
日本政策金融公庫の事業内容
日本政策金融公庫には、主軸となる3つの事業があります。以下で、それぞれを詳しく見ていきましょう。
国民生活事業
国民生活事業では、小規模事業者への事業資金や、子どもの入学などにかかる教育資金の融資を行い、国民の生活を支えています。
事業資金融資では、創業する事業者のほか、海外展開やソーシャルビジネスに取り組む事業者、事業再生・事業承継を目指す事業者などを多くサポートしてきました。経営環境の変化や災害などによって、資金繰りの悪化や対応資金の必要性が生じた事業者のセーフティーネットの役割も果たします。
地域の金融機関や商工会議所・商工会、税理士や中小企業診断士などの専門家と連携し、地域の小規模事業者の経営をサポートしています。
農林水産事業
農林水産事業では、農林漁業や食品産業を担う事業者への融資を行い、国内における食料生産体制の強化や良質な食料の安定供給を支えています。
農林水産業は気候や天候の影響を受けるため経営が不安定になりやすく、投資から利益の回収までに時間がかかるなど、リスクの高い産業です。そのため、民間の金融機関から融資を受けることが難しく、農地・山林・漁船などが担保として評価されにくいという側面があります。日本政策金融公庫は、こうした点をカバーすることで、農林水産業の事業者をサポートしています。
中小企業事業
中小企業事業では、日本の企業のうち約99%を占める中小企業を、融資や信用保険によって支えています。中小企業の成長と発展を支えることで、日本経済の基盤を支えているといえる事業です。
長期固定金利での融資によって、事業に必要な資金を安定的に供給しています。融資の目的は、創業や新たなチャレンジ、環境・エネルギー対策や企業再生、感染症対策や災害からの復旧などさまざまです。
スムーズな資金調達を支援するため、債務を保証する保険を引き受ける「信用保険業務」も行っています。
【中小企業向け】日本政策金融公庫の融資制度
日本政策金融公庫には、さまざまな融資制度があります。以下では、中小企業が使える融資制度を3つ紹介します。
新事業育成資金
新事業育成資金は、新たな技術の活用やこれまでになかった商品・サービスの提供によって、市場開拓や成長を目指す企業を支える融資制度です。融資を受けるには、成長新事業育成審査会において、新規性と成長性の認定を受ける必要があります。設備資金や長期運転資金が対象であり、限度額は直接貸付で7億2,000万円です。
女性、若者/シニア起業家支援資金
女性、若者/シニア起業家支援資金は、女性や35歳未満の若年層、55歳以上のシニア層の方が融資を受けられる制度です。これから事業を始める方に加えて、事業を開始して7年以内の方も対象となります。新規性や将来性のある事業、支援金や交付金を受けている事業に対しては、特別利率が適用される優遇措置も設けられています。限度額は直接貸付で7億2,000万円、代理貸付で1億2,000万円です。
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)は、廃業歴のある方の事業における再挑戦を支援する融資制度です。融資を受けるには、過去の廃業時の状況など要件を満たす必要があります。これから再挑戦する方や、再び事業を始めて7年以内の方が対象です。限度額は、直接貸付で7億2,000万円となっています。
日本政策金融公庫を利用するメリット
日本政策金融公庫の融資には、主に4つのメリットがあります。日本政策金融公庫の位置づけを確認しながら、どのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
融資が受けやすい
民間の金融機関に比べると、日本政策金融公庫からは融資を受けやすい傾向にあります。その理由は、日本政策金融公庫が中小規模の事業者や創業を支援するために作られた金融機関であるためです。民間の金融機関からは融資を受けにくい事業者も、日本政策金融公庫での融資は受けられる可能性があります。
日本政策金融公庫からの融資を受けていることで、民間の金融機関からの信用度が高まる傾向にあります。そのため、将来的に民間の金融機関からの融資も受けやすくなるでしょう。
無担保・無保証の融資制度がある
日本政策金融公庫の融資制度によっては、土地や建物などの担保や保証人が不要なものもあります。借入の際に代表者自身が法人の連帯保証人となる場合は、万が一事業が軌道に乗らず倒産してしまったときに、代表者の財産から負債を弁済しなければなりません。そうなると、倒産後の生活にも影響を及ぼします。しかし、無担保・無保証の融資であれば、代表者や連帯保証人の財産を守れるため安心です。
金利が低い
日本政策金融公庫の融資における金利は、民間の金融機関よりも低めに設定されています。金利が高くなればその分、総返済額も増えるため、「返済できないのではないか」と不安を抱きがちです。しかし、低金利であれば「融資を受けて頑張ってみよう」と前向きに捉えられるでしょう。
返済期間が長い
前述した「新事業育成資金」や「女性、若者/シニア起業家支援資金」では、最長の返済期間が運転資金で7年、設備資金は20年と長めに設定されています。返済期間が長ければ、ひと月ごとの返済額も低くなるため、無理のない返済計画を立てやすいこともメリットの1つです。
一方で、返済期間が長くなれば利息の金額は多くなります。その結果、返済期間が短い場合と比べると、総返済額も増えることは理解しておきましょう。
日本政策金融公庫を利用するデメリット
日本政策金融公庫の融資にはメリットが多くある一方で、知っておきたいデメリットもあります。以下では、日本政策金融公庫を利用する際に考えられる2つのデメリットを見ていきましょう。
近くに支店がない場合がある
地域によっては、近くに日本政策金融公庫の支店がない場合もあります。支店は全国各地にあるものの、沖縄県にはありません。支店があっても県庁所在地に1か所のみの地域もあるなど、地域によって支店の数にはばらつきがあります。支店自体はあっても、取り扱う業務が限られていることもあるため、注意が必要です。
中小企業事業の融資では繰り上げ返済ができない
国民生活事業の融資では繰り上げ返済ができますが、中小企業事業の融資ではできません。「事業が軌道に乗り、ある程度の資金が貯まったタイミングで早期に完済したい」という場合には、中小企業事業の融資は不向きといえるでしょう。
日本政策金融公庫から融資を受ける流れ
日本政策金融公庫で融資を受ける際は、以下の流れで行われることが一般的です。
- 問い合わせ
- 申し込み・必要書類の提出
- 面談
- 審査・結果通知
- 融資
- 返済開始
まずは、受けたい融資制度を担当する部署に問い合わせましょう。融資制度によりますが、電話やインターネット、窓口などでの問い合わせが可能です。相談して内容を理解した上で、申し込みを行うか検討しましょう。
申し込みの際には、必要書類を準備しなければなりません。多くの場合では、複数年度分の税務申告書・決算書の提出が求められます。このほか、法人の登記事項証明書や納税証明書など、取り寄せの必要な書類を求められることもあります。融資によっては、創業計画書や企業概要書など、新たな書類の作成も必要です。
必要書類とともに申し込みをしたのち、公庫職員による面談も実施されます。店舗や工場、事業所などの訪問を受ける場合もあります。
書類や面談の内容を踏まえて審査が行われ、融資決定となった際は契約のための手続きが必要です。公庫職員の指示に従い、進めましょう。
契約手続きが完了したら指定口座に融資金が振り込まれ、以降、返済が始まります。
なお、農林水産事業の融資では、政策に沿って事業計画書の提出や自治体からの承認が必要となる場合もあり、上記とは異なる流れとなります。
日本政策金融公庫から融資を受ける際に役立つテンプレート
日本政策金融公庫から融資を受ける場合には、所定の書式に則った手続きが必要です。ここでは、日本政策金融公庫の書式と、事業計画書のテンプレートをご紹介します。
日本政策金融公庫の借入申込書
日本政策金融公庫から融資を受けるためには、ホームページに掲載されている「借入申込書」での申請が必要です。また、経営計画策定に役立つ各種資料なども提供されているので、ぜひご活用ください。
事業計画書のテンプレート
融資を受ける際には、正確な情報が記載されており、実現可能性の高さを裏付ける事業計画書が必要です。記載項目が多く、自分で作ることは大変であるため、テンプレートを使うと漏れなく迅速に作成できるでしょう。
以下のリンクから、事業計画書のテンプレートをダウンロードできます。事業の状況や今後の展望を客観的に捉えるために、ぜひお役立てください。
日本政策金融公庫の審査に通るコツ
日本政策金融公庫の融資は比較的受けやすい傾向があるものの、審査に通過するのは簡単ではありません。以下では、日本政策金融公庫の融資における審査に通過するために知っておきたいポイントを紹介します。
新たな事業に関する実績を積み上げる
融資の審査を通過するためには、事業に関する実績が重視されます。新たな事業に関する実績が少ないと、事業を継続できる可能性が低いとみなされ、審査に通過しにくいものです。
事業に関する経験を積み、信頼に値するとアピールできる実績を増やすよう努めましょう。事業内容に関連した経験が豊富な従業員を雇用する、という方法もあります。
支払いの遅延や滞納をしない
日頃から、支払うべきものの遅延や滞納をしないことも大切です。公共料金や税金の支払いもしかりです。クレジットカードやローンの支払いの履歴は、個人信用情報機関(CIC、KSC)を通して公庫職員にチェックされます。支払いをしていても、期限に遅れていることが多い場合はやはり不利になるでしょう。支払うべきものはその都度きちんと支払っておくことが大切です。
矛盾のない事業計画書を作成する
事業計画書には正確な情報を記載し、矛盾や偽りのないようにしましょう。過去の情報は、思い違いで誤った情報を記載することがないようにしっかりと確認して記載することが大切です。将来的な見通しに関しても、根拠のある数字を記載して実現の可能性が高いことをアピールする必要があります。
融資を受けるなら日本政策金融公庫を検討しよう
日本政策金融公庫は、小規模事業者・中小企業・個人などに対して、幅広い融資や支援を行っている金融機関です。主軸となる事業は、国民生活事業・農林水産事業・中小企業事業の3つです。
加えて、民間の支援が難しい分野のカバーや、非常時のセーフティーネットとしての役割も担っています。日本金融政策公庫の融資は低金利であることや長期間の返済が可能であることから、借りやすいといえるでしょう。「事業を安定させるために融資を受けたい」「民間の金融機関で融資を受けられなかった」という方は、日本政策金融公庫の融資を検討してみましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
法人口座におすすめの銀行は?手数料や開設のメリットを比較して選び方を解説
基本的にはどの金融機関でも法人口座を開設できます。しかし、振込手数料や月額基本料、ATM手数料は安いか、維持費は無料か、海外送金やネットバンキングは利用しやすいか、開設時間などは、金融機関によって異なるため注意が必要です。株式会社や合同会社…
詳しくみるファクタリング会社開業に許認可は不要?貸金業登録が必要なケースも解説
許認可とは、特定の事業を行うために必要な申請手続きのことです。ファクタリング会社を開業する際は、財務局長または都道府県知事への貸金業登録という許認可が必要となるケースがあります。 本記事では、ファクタリング会社における許認可が必要・不要なケ…
詳しくみる会社設立の流れ・作り方【チェックリスト付】簡単に解説!
会社を作る際の流れは、【会社概要の決定→定款の作成・認証→資本金の払い込み→登記申請書類の作成】というように進みます。 会社設立に必要な費用は、株式会社・合同会社によって異なりますが、合計金額はおおよそ20~25万円です。 会社設立の際によ…
詳しくみる旅行会社の定款の書き方!事業目的の記載例・テンプレート
旅行会社を設立するには、定款の作成が必要です。しかし定款に何を記載して、どうやってつくればよいかがわからない方も多いでしょう。 定款には記載すべき事項が決められており、正しく記載しないと効力がありません。今回の記事では旅行会社の定款の作成方…
詳しくみる消費税の免除を2年間受ける要件とは
起業して2年間は消費税が免除される場合があるのをご存じですか? 平成23年の税制改正で要件が少し厳しくなったものの、要件を満たす場合は消費税が免除されます。この特典を受けるための要件について解説します。 資本金1,000万円未満であること …
詳しくみる相模原市で会社設立する方向け!設立費用を抑える方法を解説
相模原市での会社設立をはじめ、日本で株式会社や合同会社を設立する際は、主に【①無料の会社設立サービスを利用して自分で進める、②専門家である税理士や司法書士に依頼する、または③法務局のサイトを参照しながら自分で手続きを行う】という3つの主な方…
詳しくみる