- 更新日 : 2023年8月29日
医療業界に経営的視点は重要です!医療経営士の導入も考えてみよう
医療経営士という資格があるのをご存じでしょうか?
医療経営士は、医療と経営の両方の分野を併せ持つ専門家として認定された私的な資格です。経営のコンサルティングはよく聞きますが、医療特化型の経営コンサルとも言えます。
この記事では、医療業界における現状分析、医療経営士の導入を考えた場合のメリット・デメリットなどを解説します。
目次
現状のクリニック経営の問題点
医療経営士という資格が生まれた背景には、現状のクリニック経営の課題・問題があります。その中で主なものを見ていきましょう。
病院長に経営的視点がない
小規模なクリニックになるほど、病院長は実業務に追われがちです。医療の質を保ち、患者満足度を高めることは医療機関として重要なことですが、地域で事業を継続するためには、経営的視点も考慮する必要があります。
多くの病院長に経営的視点を考える機会が不足している、または経営的側面からのアプローチに強くないということが課題として挙げられます。
慢性的な経営難の解消が難しい
一般社団法人全国公私病院連盟が発表した「令和4年病院運営実態分析調査の概要」によると、黒字・赤字病院の割合は次のようになっています。
<令和4年6月における黒字と赤字病院の割合>
経営主体 | 黒字割合 | 赤字割合 |
---|---|---|
自治体の経営 | 11.2% | 88.8% |
その他公的経営 | 32.3% | 67.7% |
私的経営 | 47.6% | 52.4% |
出典:一般社団法人 全国公私病院連盟、「令和4年病院運営実態分析調査の概要」を加工して作成
このように、クリニックにおいてはいずれの経営主体でも赤字の方が多く、特に公的ではない一般のクリニックにおける赤字補てんや経営難の回避は大きな問題となっています。
医療業界の将来性が見えづらい
コロナ禍はひと段落したとしても、この先長期的な予想はできません。また、2025年に団塊の世代が75歳以上(後期高齢者)になるため、医療費窓口負担が1割から2割に引き上げられる人が大量に出てきます。医療業界においては受診を控えたり、自己治療が増えたりすることも予想されるため、後期高齢者の需要予測は難しいでしょう。
このように、医療業界は以前にもまして業務継続が予測しづらい状況にあると言えます。
医療業界に経営的視点を導入する利点は?
医療業界も経済活動の一部です。したがって、資源、コスト、効率、品質など一般の企業が直面する問題も抱えています。医療業界に経営的視点を導入することは、次のような利点があると考えられます。
環境改善の意味合い
経営的視点の導入により、医療事業環境の改善に役立ちます。クリニックが経営的視点を導入することで、人材、設備、薬品、他機関との関係性など限られた資源を効率的に活用し、ムダやムリを減らすことが可能となります。
業務プロセスの標準化やDX対応などの手法を取り入れることにより、生産性の向上に貢献できるでしょう。
マーケティングの意味合い
クリニックにおけるマーケティングとは、「医療サービスの利用が増えるしくみをつくること」であり、端的に言えば、患者数を増やすための手段とも言えます。例えば、クリニックがSNS広告を出して患者に親しみやすさを抱いてもらうことなどはすぐできそうです。
しかし、単にそれだけでは問題となるケースもあります。経営的視点の導入により、より効果的で継続的な広告にはどのようなものがあるかなどの問題をクリアするとともに、医療広告の規制強化などの問題にも合わせて対応するという視点を得られます。
コンサルティングの意味合い
一般的なコンサルティングとは、企業経営について相談を受けたコンサルタントが診断し、その企業に合わせて、助言・指導を行うことです。
クリニックにおいても、経営的視点の導入をコンサルタントの導入として捉え、現状分析をした上で、課題・問題を挙げ、解決方法を提案しながら伴走するといった形で入ってもらいます。例えば、何らかの方法で患者のニーズや満足度を把握することが、サービスの向上につながり、さらに信頼や評判を高める要因となり得ます。
医療業界分野の経営に関する資格とはどんなもの?
ここで医療業界において比較的新しい資格である「医療経営士」について解説します。
医療経営士は、医療機関で活躍する経営のスペシャリストとして、「医療に関する知識」と「経営に関する知識」を併せ持った人材であり、医療業界において今後の活躍が大いに期待できます。
医療経営士とは?
一般社団法人日本医療経営実践協会によると、医療経営士とは「医療機関をマネジメントする上で必要な医療および経営に関する知識と、経営課題を解決する能力を有し、実践的な経営能力を備えた人材」とされます。
医療に必要な次の4つの資源を十分に把握することで、医療期間の経営サポートや経営課題の解決を図ることを目的に生まれた資格です。
- 人的資源
- 物的・サービス資源
- 財務的資源
- 知的・情報資源
受験者や合格率は?
医療経営士の認定試験は3級から1級まであり、医療経営士になるにはまず3級の資格認定試験に合格しないといけません。2010年に始まった試験であり、2023年各級の受験者や合格率などは次のとおりです。
級 | 累計受験者数 | (累計)合格率 | 合格者累計 |
---|---|---|---|
医療経営士3級 | 54,318名 | 42.7% | 23,182名 |
医療経営士2級 | 8,856名 | 27.2% | 2,412名 |
医療経営士1級 | (二次*)152名 | 78.9% | 120名 |
*1級については、先に一次試験があり、合格者のみが二次試験の受験資格を得られます。直近の一次試験の合格率は40%です。
合格率に見るように、難易度は受験する級によって異なります。まずは、教材をもとに3級にチャレンジしてみるのもよいかもしれません。
この資格に向いているのはどんな人?
医療経営士認定試験の受験者の多くは病医院勤務者であり、次いで医薬品の製造・卸売、医療関連企業勤務者、医療機器想像・販売などとなっており、ほとんどが医療業界に関係する人となっています。しかし、少数ながら金融機関勤務者(合格者の4.5%)、個人(合格者の10%)なども見受けられます。
この資格に向いている人としては、まず、現代ではどの業界でも求められるITスキルがある人と言えます。医療経営士においても、DX化推進の動きは例外ではありません。
医療経営士の認定試験には次のようなテーマがあります。これらの分野に興味のある方、知識を持っている方は向いていると言えるでしょう。
- 医療経営概論
- 経営理念・ビジョン/経営戦略
- 医療マーケティングと地域医療
- 医療ITシステム
- 組織管理/組織改革
- 人的資源管理
- 事務管理、財務管理、資金調達
- 医療法務
これらをすべて網羅した知識の習得は難しくとも、所属する組織や人的ネットワークによって周辺知識をカバーできる環境にある方は資格取得にチャレンジされてはいかがでしょうか?
また、クリニックの経営には個人・法人を問わず、患者のプライバシーを守らなければならない(個人情報保護)など広い知識が求められますが、これらに明るい方は向いていると言えるでしょう。
資格を取得するメリット
一般の法人は設立、運営において会社法に従うこととされていますが、医療法人については「医療法」に従うこととされています。したがって、医療法に明るく、一般企業の経営だけでなく、医療法人の経営ルールを兼ね備えているコンサルタントになれば、仕事の幅は広がります。
実際、医療業界におけるマーケティングの将来性は有望視されています。ITを中心とした「医療と技術」は、医療産業において世界的に市場が拡大すると予測されています。国が対応を急いでいるDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、診察・治療、クリニックの運営のどれを取っても効率化、サービスの向上が期待できます。
さらに、医療データを収集し、分析を進めることにより高度な診断・治療の可能性も出てきます。また、クリニックなどの医療機関であれば、ある程度の社会的信用もありますのでクライアントとしても問題はないと思われます。
医療業界分野で経営支援を受けるメリットとデメリット
例えばクリニックの病院長がまずは財務体質の強化を図ろうと、専門家に依頼して効率的な財務システムを導入したとします。快適な財務システムができたとしても、そもそも無駄の多い医療機器を先に更改すべきだったということが後でわかったり、包括的な基幹システムを導入して、その後財務システムを連携させるべきだったりするということもあり得ます。
この例は、経営全体を客観視できていないことによるものです。
医療業界に経営的視点を導入する場合、まずは病院経営の全体像を浮き彫りにして、経営者や幹部と共有する必要があります。そのためには、客観的な視点として、医療経営士のようなコンサルタントが適していると思われます。
医療業界に経営的視点を導入するメリットとしては、客観的視点に基づいて次のことが期待できるということです。
- 資源の最適化
- 生産性の向上
- サービス品質の向上
- イノベーションの促進
反面、デメリットとしては次のことも予想されます。
- 従来の経営の見せたくない部分も明らかになる
- ある程度の期間を要する
- コンサル費用がかかる
- システムが変わることで従業員への教育が必要である
経営に変革を起こすことは、組織の質を変えることにもつながります。メリットだけではありませんが、将来を見据えた今、実行すべきことは何かを考えるべきでしょう。
将来的な医療経営を見据えてみよう
小さなクリニックと大病院では、経営支援と言っても、内容も方法も大きく異なってくるかと思います。
クライアントの抱えている課題・問題に寄り添って、少しずつでも解決への糸口が見えるよう、そして、クライアントがある程度の評価を下すまで踏ん張る優秀な医療経営士の支援は一考に値するかと思います。
管理会計などでは、「まずは3カ月先の予測ができること」を目標にすることがあります。医療においてもまずは、近い将来の経営環境が今までよりも改善されることが明らかになることを目標にされてはどうでしょうか?
よくある質問
医療業界は新規参入に向いている?
医療業界は、医療側面以外の視点からの新規参入にも向いた業界であると言えます。特に、経営的視点や技術を取り入れるような分野は明るいと言えるでしょう。詳しくはこちらをご覧ください。
赤字解消につながる?
単に赤字解消を目指すのではなく、その原因を突き止め、経常的に黒字となる経営体質を作り上げることが経営的視点の導入です。したがって、結果的には赤字も解消されます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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