• 更新日 : 2023年12月4日

工務店を開業するには?必要な資格や資金、成功のコツ、一人親方との違い

工務店の開業には、主として個人事業主としての開業、フランチャイズへの加盟、法人としての開業の3つの方法があります。一人親方は自由な働き方が可能とはなるものの、下請けとしての業務に限定されがちです。工務店なら、まずは個人事業主として開業し、開業後に建築許可を取得する、あるいは法人化するなどで事業を拡大していくことが可能でしょう。

本記事では、工務店を開業する方法や、業種による立地条件の違い、選び方などを解説します。

工務店の仕事の範囲や一人親方との違いは?

最初に、工務店を開業する方法を解説します。

工務店が行う工事の範囲

工務店とは、専門の職人や施工業者をマネジメントし、工事の管理から顧客対応まで、建設業務全般を担当する総合的な工事請負建設業者です。日本の建設工事は伝統的に、大工の棟梁(とうりょう)が設計を行い、左官や土木工事業者などが行う工事の陣頭指揮を執っていました。工務店は、この大工の棟梁から派生したといわれています。

工務店の仕事内容は、以下のものが挙げられます。

  • 営業:
    顧客の要望をヒアリングしたうえで、設計士や施工管理者とも協力し、顧客の要望に応える提案書を作成します。
  • 設計:
    設計士が建築基準法や住宅性能基準を満たした、顧客の要望をかなえる建物の設計を行います。
  • 施工管理:
    建築工事がスムーズに進行するよう、工程管理や原価管理、品質管理、安全管理などを行います。
  • メンテナンス:
    建物が完成したあとも、定期的なメンテナンスや修繕工事を行います。

また、工務店の営業形態として、以下の5種類が挙げられます。

  1. 独立自営型:
    自社で営業から設計、施工管理、メンテナンスまでのすべてを行う工務店です。すべてを自社で行うため、設計や施工の自由度は高く、自分の思う通りに工務店を運営できます。
  2. 下請け型:
    大手ハウスメーカーや不動産会社などから仕事を受注し、施工管理をメインに業務を行う工務店です。設計の自由度は低いものの、営業力や交渉力が不安な人でも案件を受注しやすくなります。
  3. リフォーム型:
    木造住宅のリフォームに特化した工務店です。リフォームは安定したニーズがあるため、顧客との信頼関係が築ければ、安定した受注が見込めます。
  4. フランチャイズ型:
    フランチャイズ展開する企業の加盟店として業務を行う工務店です。フランチャイズ本部のブランド力や技術力、ノウハウを活用し、営業力の強化、あるいは高品質・低コストの住宅の建設が可能となります。

工務店の開業は個人でもできる?

工務店の開業は、個人でももちろんできます。

工務店は、特に法的な定義があるわけではありません。そのため、個人事業の商店があるのと同様に、個人事業として工務店を立ち上げることも可能です。

ただし、後述の通り、社会的信用度が高いため企業からの仕事を受けやすいこと、あるいは金融機関からの融資を受けやすいこと、節税効果が期待できることなどから、工務店は法人化するのが一般的です。その場合でも、株式会社や合同会社、合名会社は1人での立ち上げも可能です。実際に、株式会社である工務店を社長が職人も兼ねながら1人で切り盛りしている「一人工務店」も珍しくありません。

一人親方との違い

大工として独立する場合には、工務店のほかに一人親方になる方法が考えられます。一人親方とは、労働者を使用せずに1人で個人事業を行う職人のことで、自分で仕事を選べるため、高単価な報酬を得ながら自由な働き方をすることが可能です。

反面、会社として立ち上げた工務店とは異なり、社会的信用度が低いため、下請けとして仕事を受注する形が多くなります。大手企業との取引を行いながら、仕事の幅を広げていきたい場合には、工務店の立ち上げを考えるのがよいでしょう。

工務店開業に必要な建設業許可や資格

工務店の開業に必要な建築業許可や資格について解説します。

一般建設業許可

一般建築業許可とは、以下の工事を行う際に必要となります。

  1. 建築一式工事については、工事1件の請負代金が1,500万円以上のもの、または延べ面積が150㎡以上のもの
  2. 建築一式工事以外の工事は、工事1件の請負代金が500万円以上のもの

工務店の独立開業を目指す場合は、法人化するか、しないかにかかわらず、この一般建築業許可の取得を目指すのが一般的です。

建築業許可は、大臣許可と知事許可の2種類があります。

  1. 2つ以上の都道府県に営業所を設ける場合:国土交通大臣の許可が必要
  2. 1つの都道府県にのみ営業所を設ける場合:都道府県知事の許可が必要

また、建築業や土木業など、29種類の業種ごとに許可を得ることが必要です。

一般建築業許可を取得するためには、以下の要件を満たすことが必要です。

  • 経営業務管理責任者の設置:
    建設業の経営管理業務に所定の年数携わった経験が必要
  • 専任技術者の設置:
    一定の学歴、あるいは実務経験、取得している資格が必要
  • 自己資本が500万円以上あること:
    貸借対照表や預金残高証明書の提出が必要
  • 欠格要件に該当しないこと:
    暴力団関係者ではないこと、破産者ではないことなどが必要
  • 適正な社会保険への加入すること:雇用保険と健康保険、厚生年金保険、労災保険への適宜加入が必要

特定建設業許可

特定建設業許可とは、工事の一部または全部を、契約金額が4,500万円以上(建築工事業の場合は7,000万円以上)で下請け業者に出す場合に必要です。

工務店を立ち上げたら、当初は規模があまり大きくない工事を請け負うことから始めるかと思います。その場合には、特定建設業許可は必要ありません。特定建設業許可は、工務店がある程度軌道に乗り、事業規模や仕事の幅を拡大しようと思ったときに取得するので十分です。

なお、特定建設業許可を取得する場合には、一般建設業許可と比べて、専任技術者や資本金などの要件は厳しくなります。

あると有利な資格

建設業許可のほかに、工務店を運営するためにあると有利な資格を紹介します。

  • 建築士:
    建物の設計や工事監理を行える国家資格です。1級建築士と2級建築士、木造建築士の3種類があり、設計・監理できる建物の構造や延べ面積などがそれぞれで異なります。
  • 建築施工管理技士:
    建設現場で工程管理や品質管理、安全管理などの施工管理を、現場監督として行える国家資格です。1級と2級があり、管理できる工事の規模がそれぞれで異なります。
  • 電気工事士:
    電気設備の工事が行える国家資格です。第一種と第二種があり、携われる電気工事の範囲がそれぞれで異なります。

工務店の開業方法

工務店の開業方法について解説します。開業方法は、主として個人事業主としての開業、フランチャイズへの加盟、および法人としての開業の3つがあります。

個人事業主として開業する

前述の通り工務店は個人事業主としても開業できます。税務署に開業届などの種類を提出するだけでスタートできる個人事業主としての開業は、手軽な開業方法だといえるでしょう。

一般建設業許可についても、最初は取得しなくても、建築一式工事なら1,500万円未満、一式工事以外の場合は500万円未満の小規模な工事なら受注できます。小規模な工事を受注しながら経験を積んだあと、一般建築業許可を取得して法人化を目指すこともできるでしょう。

なお、個人事業主として開業する場合でも、従業員を雇用する場合には雇用保険と労災保険への加入は義務付けられ、また従業員が5人以上となったら健康保険・厚生年金保険にも加入しなくてはなりません。

フランチャイズに加盟する

大手ハウスメーカーなどが展開するフランチャイズに加盟し、屋号や営業ノウハウ、商品ラインナップなどの提供を受ける形での工務店開業も考えられます。

フランチャイズに加盟すれば、ハウスメーカーのブランド力や宣伝力などを利用できるため、営業力に不安がある場合でも顧客の獲得が容易になります。また、経営指導を受けられるため、経営不振のリスクも抑えることができるでしょう。

その一方、フランチャイズに加盟すれば、一定のロイヤリティの支払いが必要です。また、契約解除や事業の終了にも条件があるため、フランチャイズ契約前に契約内容を確認しておく必要があるでしょう。

法人として開業する

法人として工務店を開業する方法には、以下の選択肢があります。

【株式会社】

株式会社は株式を発行することにより株主からお金を集め、それを資本として経営を行います。社会的な信用度が高いため、大手企業との取引も容易になり、また金融機関からの融資は受けやすくなるでしょう。万が一倒産した場合でも有限責任となるため、自分が出資した金額以上の支払い義務は生じません。

その一方、設立費用が20万円以上となり、経済的負担がやや大きいのがデメリットといえるでしょう。

【合同会社】

合同会社は経営者と出資者が同じであるため、株主総会は不要となり意思決定はスピーディーです。設立費用も株式会社より安く、また決算公告義務もないため、運営費用の削減が可能でしょう。

その一方、株式会社に比べれば社会的信用度が高いとはいえないため、顧客や取引先からの信頼が得られにくいこともあります。また、株式の発行ができないため、資金調達の方法が金融機関からの融資や助成金などに限定されることもデメリットといえるでしょう。

工務店の開業資金

工務店の開業資金、および助成金や補助金、融資などの情報について解説します。

工務店の開業資金

工務店を法人として設立し、建設業許可を取得した場合の開業資金の目安は、以下の通りです。

項 目概 要金額目安
会社設立法人登記や保険加入30万円
建設業許可申請費手数料、行政書士への依頼費用19万円
事務所取得・改装費敷金や礼金、保証金、リフォーム100~300万円
車両取得費トラック200万円
事務所備品費デスクやパソコン、コピー機50万円
広告宣伝費ホームページ、チラシ30万円
その他運転資金500万円
合 計約1,000万円

以上の通り、約1,000万円が、工務店の開業資金の目安となります。

開業時の融資について

工務店開業時の融資については、日本政策金融公庫の新創業融資から受けられる可能性があります。日本政策金融公庫は政府が100%の株式を保有する政府系金融機関で、中小企業の支援を目的の1つとしています。新創業融資は、新規事業の開業資金・運転資金を無担保・無保証人で最大3,000万円まで融資する制度です。

参考:新創業融資|日本政策金融公庫

開業時の資金調達に使える補助金について

工務店開業時の資金調達に使える補助金として、全国商工会連合会が小規模事業者の販路開拓に必要な経費の一部を、創業枠は200万円まで補助する「小規模事業者持続化補助金」のほか、全国のさまざまな自治体が実施している創業者向け補助金・給付金があります。

参考:小規模事業者持続化補助金|全国商工会連合
参考:創業者向け補助金・給付金(都道府県別)|J-Net 21

工務店開業に必要な機材

工務店開業に必要な機材として、以下のものが挙げられるでしょう。

機 材概 要
事務所
倉庫資材保管用
トラック資材運搬用
測量機器トランジット、レベル、トータルステーションなど
測定機器シュミットハンマー、コンクリート測定器、水分計など
施工管理用機材カメラ、パソコン、スマートフォン、タブレットなど
住宅地図住宅地図、住宅地図アプリなど
参考資料建築工事共通仕様書、建築施工管理技術マニュアルなど
参考法令建築基準法や都市計画法などについて

工務店開業・経営で失敗しないために

工務店の開業・経営で失敗しないためにはどうすればよいかを解説します。

WebやSNSでアピールする

工務店を探すのにWebやSNSを検索する人は多くいます。Web・SNSでのアピールはしっかりと行いましょう。具体的には、以下の方法が挙げられます。

  • 自社ホームページを立ち上げる:
    立ち上げ後も情報発信を継続的に続けると、より効果的です。
  • MEO対策・SEO対策を行う:
    Googleマップでの上位表示対策(MEO対策)、Google検索での上位表示対策(SEO対策)は、ネット検索が一般に普及している近年、欠かせません。
  • 工務店のみを掲載した専門型ポータルサイトに登録する:
    購買意欲の高いユーザーを集客できます。
  • SNSで発信する:
    不特定多数の人への拡散が期待できます。
  • Web広告を打つ
    年齢・性別・ホームページの閲覧履歴などを元に、自分が獲得したい顧客層へ向けた広告発信が可能です。

チラシなど紙媒体での広告を打つ

WebやSNSだけではなく、紙媒体での広告も、特に年齢が比較的高い層には有効です。紙媒体での広告には以下のようなものがあります。

  • チラシのポスティング:
    新聞を購読していない層への情報発信が可能です。
  • 電車やバス、駅などの交通広告:
    視認性が高い広告です。
  • 新聞・タウン誌の広告:
    特に高齢の顧客を獲得したいと思う場合は有効です。

設計段階から請け負う

可能であれば、工事を設計段階から自社で請け負うこともおすすめです。設計段階から請け負えば、客単価が上がるのはもちろん、注文住宅を建てたいと思う人からの依頼が期待できるため、顧客の獲得にもつながります。

設計を外注すれば、管理が難しくなる、あるいは意見の食い違いでスピーディーな対応ができなくなる、などのデメリットもあります。

地域密着型の人脈を築く

工務店の受注は人脈により得られるところも多くあります。地域での人のつながりを大事にし、口コミで仕事が得られるような関係性を構築しましょう。従業員や大工をしていた時代に知り合った人が、工務店を始めてから関係が近くなり、仕事を紹介してくれるようになる、という例も多くあります。

工務店向けの事業計画書テンプレート(無料)

事業計画書のテンプレート・フォーマット

こちらから自由にお使いいただけるので、ぜひご活用ください。

建設業の事業計画書・創業計画書テンプレート・作成例

地域で人脈を作りながら、工務店の開業を成功させよう

工務店は個人事業からでも開業できます。工務店の開業を成功させるためには、建築許可の取得や法人化などの手続き面の整備もさることながら、やはり顧客の獲得が重要です。顧客獲得のポイントとなる地域での人脈を作りながら、工務店の開業を成功させましょう。


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