- 作成日 : 2025年1月30日
事業承継におけるお家騒動とは?事例や回避する方法を解説
お家騒動とは、企業の跡取りに関わる家族間のトラブルのことです。お家騒動は大企業でも発生する問題であり、関係者を巻き込み、会社の経営を揺るがす大きなリスクに発展することもあります。本記事では、お家騒動が起きる原因や回避方法、発生した場合の解決策について解説します。
目次
事業承継のお家騒動とは?
お家騒動とは、企業の支配権をめぐる争いのことです。経営陣同士の対立のほか、企業の大株主と経営陣の対立などが挙げられます。
特に問題になりやすいのが、親族間の争いです。家族だからこそ感情的になりやすい、家族だからビジネス上の話し合いがおざなりになってしまうなどの問題があります。
親族間の争いの中でもよくあるのが、現経営者が亡くなった場合に発生する問題です。後継者の指名がなかった場合、親族の誰が次の経営者についてもめることがあります。また、後継者が決まっている場合でも、これまでの経営方針と後継者の経営方針が異なるために、後継者とそのほかの経営陣が対立するケースもあります。
事業承継でお家騒動が起きた事例
事業承継に関するお家騒動について、事例をいくつか紹介します。
A社の事例
A社は、親子間の対立がお家騒動としてさまざまな関係者を巻き込むことになりました。A社では、創業者の子である後継者が事業を承継し、創業者から多くの株を譲渡されていたのです。
しかし、市場の変化もあり、依然として大株主であった創業者と社長としてかじ取りをしていた後継者の間に経営方針に大きな食い違いが発生します。株主総会では、大株主の創業者と後継者が真っ向から対立する形となりました。
結果として、機関投資家などからの支持を得た後継者の経営方針が採用され、創業者は会社を離れることになりました。なお、その後は後継者が改革を進めていきますが、経営状態が悪化し、大企業に吸収されたのちに消滅しています。
B社の事例
B社のお家騒動は、創業者が亡くなったことで表面化しました。創業者は、生前、子への事業の引き継ぎと、会社の株式を引き継ぐ子が贈与税や相続税を支払えるようにするためのスキームを考えていました。
しかし、創業者の死によって、創業者の子と実質的に経営権を握っていた従兄弟との間で対立が発生します。このことが原因で、創業者が後継者に考えていた子への事業の引き継ぎはうまくいきませんでした。
B社の筆頭株主であった創業者の子は、その後、経営陣とコミュニケーションが取れなくなったことなどを理由に、経営をけん制できる他社に持ち株を売却しています。B社経営陣と新たに筆頭株主となった他社の間で対立が起きたものの、最終的にB社は他社の実質的な子会社になりました。
C社の事例
C社は、日本国内だけでなく、海外にも大きなグループを展開する企業です。実質的な人事権は創業者が担っており、創業者の子が日本と海外、それぞれの経営を担っていました。
しかし、日本のグループ企業の経営を担っていた長男が、突如として経営陣から外されてしまいます。長男が、次男の経営する海外グループの持ち株を増やしたことが、創業者の逆鱗に触れたように思われていました。
しかし、その後、創業者は長男を経営から排除したのは許せないとの声明を出します。兄弟の対立については決着がついておらず、創業者が将来を見越して後継者を確立しなかったことも原因の一つとして考えられています。
事業承継でお家騒動になる原因
事業承継でお家騒動に発展する主な原因を取り上げます。
相続人同士の意見の対立
事例でも取り上げたように、相続人同士、あるいは旧経営者と後継者間の意見の対立がお家騒動の原因となることもあります。特に、当事者間での解決が困難となるほど対立が深刻化した場合に、お家騒動に発展することが多い傾向です。
相続人の間で意見の共有ができておらず経営の方向性がまとまらない場合、事業承継自体は行われたものの旧経営者の意向と後継者の経営方針が全く異なることで問題になってしまう場合などがあります。特に、大株主である旧経営者と新経営者のお家騒動は、旧経営者の事業に介入したい気持ちや、後継者に丸投げできない気持ちなども関係してくるでしょう。
後継者候補が複数いる場合の競争
後継者候補が複数存在する場合、経営者であった被相続人の意向が、かえって競争の火種となることがあります。例えば、会社の株式を後継者候補に平等に分割しようとした場合です。相続人は、被相続人の死亡と同時に権利義務を承継します。ただし、遺言や遺産分割協議などによって相続分が決定するまでは、相続人全員の共有となります。この間、株式の議決権行使には相続人全員の同意が必要です。
また、相続人の人数が多く、被相続人の所有する株式が分割して相続される場合、後継者が経営に集中できなくなる可能性があります。会社の重要事項を決めるには、発行株式数あるいは議決権の過半数の支持を得なければならないためです。相続を機に後継者候補の競争や対立に会社が巻き込まれる可能性があります。
事業承継に関する事前準備の不足
事業承継のための準備不足もお家騒動の原因の一つです。経営者自身が事業承継に消極的で後継者に任せられないと考えている場合、経営者に万が一のことがあった際に事業承継の準備ができていないために社内が混乱という可能性もあります。例えば、誰を後継者にするか、どのように引き継ぐかが問題に発展することがあるでしょう。
経営者と後継者の間で認識の齟齬が生じていたり、双方で十分にコミュニケーションが取れていなかったりする場合も、経営方針の違いでもめるでしょう。
事業承継でお家騒動を回避するには?
事業承継に伴うお家騒動を回避するためのコツを5つ紹介します。
早めに事業承継計画書の作成を進める
お家騒動を回避するためにできることの一つが、早めの事業承継計画書の作成です。事業承継計画書とは、事業承継の時期や承継方法、事業承継の課題をカバーするための対策などをまとめた書類のことです。事業承継計画書を関係者に共有することで、どのような方向性で事業承継を進めていくのかを示せます。経営者と後継者の方向性の共有や認識をすり合わせるのに有効です。
また、事業承継は、後継者によっては社内で混乱が起きてしまう可能性があります。事業承継計画書であらかじめ後継者を示しておくことで、後継者争いなどのトラブルの回避に役立ちます。
事業を成長させられる後継者を選ぶ
経営陣の大半が親族で占められているような企業では、経営者の子などに事業承継を考えるのが自然な流れかもしれません。一方で、親族内での承継が適切でないケースもあります。例えば、後継者候補である子が経営者になるのを望んでいない場合です。無理に事業承継をすると、事業の継続が厳しくなる可能性もあります。ほかに、親族がいても、経営者として適性のある人物を見つけるのが難しい場合も考えられるでしょう。
事業承継に伴うお家騒動を回避するには、従業員や取引先などが納得できるような事業の成長に貢献できる後継者を選択することも重要です。親族内での事業承継のほかに、親族以外の従業員への事業承継やM&Aによる他社への事業承継なども考えられます。
選んだ後継者に適切な教育を行う
後継者を決定した後は、後継者に必要な教育を行う必要があります。適性のある後継者を選定しても、経験や能力が選定の時点で十分でないこともあるためです。また、後継者教育を行わずに事業承継を進める場合、後継者に対する不満が高まり、後継者と他の経営陣が社内で対立する可能性があります。今後の経営のためにも、後継者教育の時間は必ず確保しましょう。
後継者教育の方法として考えられるのが、社内教育と社外教育です。社内教育とは、後継者が経営者から直接指導を受け、経営を学ぶ方法です。経営方針やノウハウを引き継ぎやすいほか、会社に対する知見を深め、従業員との関係を構築できるメリットがあります。社外教育とは、後継者を他社に入社させて経験を積ませる方法であり、取引先や規模の大きい同業他社、関連会社などに入社するケースが一般的です。後継者が他社の経営手法を学ぶことで、より広い視点で経営に取り組めるメリットがあります。
生前贈与で相続の財産を減らす
生前贈与とは、相続が発生する前に金銭や自社株などを贈与することです。生前贈与を有効に活用することで、相続時の財産を減らせる場合があります。相続時の財産が減少することによる主なメリットは、事業承継に関わる相続税を減らせる可能性があること、後継者へのスムーズな事業承継ができることです。
ただし、生前贈与は特別受益として相続財産に持ち戻されることもあります。後継者へのスムーズな事業承継を検討する際には、弁護士や税理士などの専門家に事前に相談されることをおすすめします。
遺言書を作成する
事業承継を円滑に進めるには、後継者に株式や会社に関する資産の相続を集中させることが重要です。そのためにも、被相続人の意思を明らかにする遺言書を作成します。
遺言書を作成しない場合に問題になるのが、遺産分割協議です。遺産分割協議で相続人同士が対立して決着がつかない場合、遺産相続の時期に遅れが生じます。また、遺産分割協議中は相続人が相続財産を共有することになるため、会社の経営権に問題が生じる可能性があるでしょう。
遺言書を作成することのメリットは、被相続人の意思を相続に反映できることです。相続人の権利である遺留分(配偶者や子などの一定の相続人に保障される最低限の相続分)には注意する必要がありますが、遺産分割協議によるリスクを回避できるメリットがあります。
事業承継でお家騒動が起きたら?
事業承継に伴うお家騒動が起きた場合、社内や親族間だけでは解決が難しいケースがあります。お家騒動の早期解決を図るには、専門家の力を借りるのが賢明です。例えば、遺産分割で解決の道が見えない場合は、弁護士に相談するなどの方法があります。株式取得に問題を抱えている場合は、法的な問題であれば弁護士、相続税上の問題であれば税理士の力を借りる方法もあるでしょう。
しかし、専門家に相談しても、状況次第では早期の解決が難しいケースもあります。例えば、相続人がそれぞれ異なる弁護士に相談し、遺産分割協議がさらに複雑化するケースが挙げられます。事業承継に伴うお家騒動は、事前に回避できるような対策を打っておくことが重要です。
事業承継について相談・依頼できる専門家
事業承継についての主な相談先は下記の通りです。それぞれの特徴について紹介します。
相談先 | 対応業務 | おすすめの企業 |
---|---|---|
事業承継・引継ぎ支援センター |
| 事業承継全般の相談先を探している企業 |
税理士・公認会計士 |
| 相続税対策や株式の評価額などの相談をしたい企業 |
弁護士 |
| 相続や後継者対策などの相談をしたい企業 |
政府の事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、国が設けた中小企業向けの事業承継の相談窓口であり、各都道府県に相談窓口が設置されています。こちらのセンターでは、事業承継に関するあらゆる疑問を相談することが可能です。親族内承継や第三者承継などのサポートも行われているため、承継方法を知りたい経営者や、事業譲渡を相談したい経営者の相談先としておすすめです。事業承継計画書の作成支援もあるため、将来の事業承継に向けて計画書を作成したい場合にも活用できます。
税理士・公認会計士
税理士は法人税や相続税などの税務の専門家で、公認会計士は企業の財務に関する専門家です。税理士や公認会計士にも、事業承継に関する相談ができる場合があります。
税理士や公認会計士に相談するメリットは、相続税や資金調達などについて詳細な相談ができることです。事業承継に伴う相続税の納税について相談したい場合などにおすすめです。ただし、税理士や公認会計士でも得意分野が異なります。相続税の申告実績や事業承継の支援実績があるか確認しておきましょう。
弁護士
親族への承継や後継者が確定していない場合の事業承継については、後継者候補が対立してトラブルが生じることもあります。弁護士はトラブル解決などの役割も担っているため、事前の遺留分の対策や遺産分割についての相談先としておすすめです。
M&Aで親族や従業員以外に事業を譲渡する場合も、弁護士を活用することが効果的です。M&Aでは譲渡先との交渉や契約などの手続きが要されるため、弁護士に依頼することで負担を軽くできます。このため、弁護士は、M&Aを検討しているものの不安がある場合には、適切な相談相手となるでしょう。
事業承継ではお家騒動に注意する
企業の規模に問わず、事業承継に伴うお家騒動が発生する可能性があります。お家騒動は、当事者だけでなく関係者も巻き込むことになるため、お家騒動が起きないように事前に対策しておくことが重要です。事前に専門家に相談するなど、将来の事業承継に向けて準備を進めておきましょう。
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