- 更新日 : 2024年5月1日
個人事業主は保険に加入するべき?社会保険との違いや備える理由を解説!
ひと口に保険といっても実にさまざまな種類のものがあります。個人事業主としてはどのような保険に加入していると安心できるのでしょうか?社会保険は社会生活の中に潜むさまざまなリスクに備えて強制的に加入する保険ですが、これらでは不十分なのでしょうか?
この記事では、個人事業主が加入しておくべき保険について解説します。
目次
個人事業主は保険に加入するべき?
個人事業主に限らず、わが国ではすべての国民が病気や事故に備え、かつ、医療費負担の軽減を図るための医療保険制度に加入することとなっています。これを国民皆保険と言います。
また、健康面だけではなく、年老いたときやいざというときのために、働いている世代全体で支えようという考えで作られた公的年金制度があります。国内に住む20歳以上60歳未満の人は、法律で国民年金への加入が義務付けられています。これを国民皆年金と言います。
これらの保険・年金は、介護保険や労働保険(労災保険及び雇用保険)などとともに「社会保険」と総称され、該当する人はすべて加入することとされています。社会保険は、一定の公的な費用負担により、被保険者やその被扶養者が病気、高齢、介護、失業などのリスクに備えることができます。
個人事業主として、はたしてこれら社会保険だけで十分と言えるのでしょうか?
個人事業主の社会保険では物足りない?
個人事業主の保険について検討するには、まず、強制的に加入となる社会保険によってどこまでカバーされるのかを整理しておく必要があります。まず、個人事業主の加入する社会保険について内容を確認していきましょう。
個人事業主が加入できる社会保険は原則3つ
ここで重要なのは、個人事業主自身が加入できる社会保険は原則3つであることです。
個人事業主は、パート、アルバイトを問わず従業員を雇用すると労働保険の適用事業者となります。個人事業主が加入手続きをすると、労働保険料の納付義務が発生します。この労働保険は、労災保険(労働者の業務上等の傷病等に対する保険給付)と雇用保険(労働者の教育訓練や失業保険給付など)からなるものであり、個人事業主自身への給付はありません。
したがって、原則として次の3つ(国民健康保険、介護保険、国民年金)が個人事業主自身が加入できる社会保険であると言えます。
国民健康保険
国民健康保険は、職場などの健康保険(協会けんぽ、健康保険組合、共済組合など)の加入者、75歳以上など後期高齢者医療制度の加入者以外の人等を対象とした保険制度です。したがって、個人事業主は原則として国民健康保険の対象となります。
国民健康保険の種類としては、市区町村などが保険者となる市町村国保と、業種ごとの国民健康保険組合(国保組合)があります。国保組合は、同種同業による組合員により組織されます。
同種同業による組合員で構成 例)医師・弁護士・建設業・税理士・食品販売・青果市場など多数あり | ||
上記以外 |
国民健康保険の保険料については、市町村国保の場合、それぞれの市区町村の条例や規約などに定められ、国保組合は個々の組合により決まっており、全額自己負担となります。
国民健康保険の給付内容は、療養の給付をはじめ、高額療養費の支給や出産育児一時金の支給などがあります。なお、原則として加入者が75歳以上になれば、「後期高齢者医療制度」に移行します。
介護保険
介護保険制度とは、65歳以上の高齢者介護を社会全体で支え合う仕組みのことです。介護保険は、40〜64歳の介護が必要となった人などについても適用されます。個人事業主でも会社員でも、40歳になると介護保険への加入が義務付けられます。
介護保険の保険料は、加入している健康保険と一緒に徴収されますので、個人事業主の場合は国民健康保険料とともに徴収され、全額自己負担となります。介護保険の給付を受け、介護保険サービスを利用するためには要支援・要介護認定が必要となります。
国民年金
国民年金は、年金保険料を納めることで、老齢、障害、死亡によって本人や家族の暮らしが脅かされないように保障する制度です。国内に住む20歳以上60歳未満の人は国民年金の加入者となり、こちらも全額自己負担です。
年金というと、老齢年金ばかりがクローズアップされますが、障害や死亡によるリスクにも対応するものです。
10年以上年金を納付した人が65歳から受け取る老後の年金 | ||
国民年金の加入中に、病気やけがで障害が残ったときの年金 | ||
国民年金に加入中の人が亡くなったときの遺族のための年金 |
参考:これだけは知ってほしい 国民年金は“想定外のリスク”に対応できる「国の保険」です。|日本年金機構
会社員に比べて社会保険が充実していない
会社員の場合は、一般に上記にプラスして労働保険がありますし、年金についてもさらに厚生年金があります。
つまり、厚生年金制度は「国民年金」を基礎として、厚生年金をプラスする「2階建て構造」となっているため、最終的に給付される金額は大きく異なります。
また、保険料納付時において、国民健康保険の保険料は加入者が全額負担するのに対し、健康保険においては会社と加入者が半分ずつ負担する「労使折半」となります。
また、先述のように労働保険は従業員を守る保険であるため、原則として個人事業主自身を守る保険にはなりません。
このように、個人事業主は会社員にくらべ、社会保険の充実度という意味では足りないと言わざるを得ません。
個人事業主が保険に加入して備えるべき理由
個人事業主が社会保険だけでなく、自ら保険に加入して備えるための理由として、次のことが挙げられます。
国民健康保険では傷病手当金が受給できない
例えば協会けんぽにおける健康保険においては、業務外の病気やケガで療養したり、4日以上仕事を休んだりする場合などに「傷病手当金」を受け取ることができます。
傷病手当とは、労働者が病気やケガで仕事ができないときに加入者本人が受け取れる公的な補助制度です。1日当たりの支給額は、前12ヵ月間の各標準報酬月額の平均額÷30日×2/3などですので、およそ通常給与の2/3が担保されます。
一方、国民健康保険には、市区町村によってはコロナ関連における傷病手当金を実施するところもありますが、コロナ以外の疾病やケガに対応するものではありません。
老齢基礎年金しか受けられない
先述のように、会社員は基本的に厚生年金に加入します。この厚生年金には国民年金も含まれるので、会社員のほうが受給できる年金額が「老齢基礎年金+厚生年金」となり、金額が多くなります。
令和4年6月支払い分からの国民年金は、満額で月64,816円です。老齢基礎年金のみの個人事業主は、老後の資金の足りない分を他の方法で準備する必要があると言えます。
遺族年金や障害年金も受給額が少ない
個人事業主が受ける国民年金でも、一定の加入者が死亡した場合に遺族年金が支給されます。令和4年4月以降の遺族基礎年金は月64,816円で、一定条件にあてはまる子どもがいれば加算があります。
これが、遺族厚生年金であれば、死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の約3/4を受け取ることが可能です。
さらに障害基礎年金は、障害の程度にもよりますが、最も重度の1級の場合は月81,020円で、一定条件にあてはまる子どもがいれば加算があります。
これが、障害厚生年金であれば、年金の加入期間や過去の報酬に応じて得られる報酬比例部分の年金額の1.25倍で、生計を維持されている65歳未満の配偶者がいればさらに加算されます。
会社員の場合は、老齢年金同様、遺族年金も障害年金も、国民年金の部分と厚生年金の部分とを併せて受け取ることができます。
個人事業主が加入するべき3つの保険
個人事業主は、基本的に傷病手当もなく、将来の年金も少ない状態で会社員よりも高リスクです。そこで、ある程度の保障を民間の保険で準備することをおすすめします。保険料は全額自己負担となりますが、保険によっては確定申告で所得控除が見込めます。
最初から高額の保険に入るのではなく、事業や世帯の状況を見ながら、徐々に見直しをするほうがよいでしょう。
入院や手術で受給できる「医療保険」
社会保険である国民健康保険ではカバーしきれない部分に備えて、民間の医療保険があります。病気やケガで病院にかかると、国民健康保険によって3割の自己負担で治療を受けられますが、入院・手術が必要な場合には、入院中の食事代や差額ベッド代などがかかります。
このような場合に、民間の医療保険では、入院1日あたり10,000円給付などのような契約により、社会保険では手の届かない部分を補えます。特定の病気にかかった場合などに一時金として高額な保険金が給付されるものなど、さまざまな種類の医療保険があります。
傷病手当金の代わりとなる「就業不能保険」
所得補償保険、就業不能保険などは、病気やケガなどで自宅療養を余儀なくされ、従来どおりに働けない場合に医師の診断により、給付を受けることのできる保険です。
医療保険との違いは入院を必要としないことで、就業が不可能と診断されれば保険金を受け取れる点です。個人事業主は、傷病手当金がでない分はこのような保険が効果的です。
老後に備える「個人年金保険」
個人事業主は、年金については原則として国民年金だけです。そこで、年金の補てん目的で加入する私的年金の1つに個人年金保険があります。もちろん、会社員が加入してさらに年金の積み増しをすることも可能です。
契約時に定めた年齢から、5年・10年などの一定期間または亡くなるまで、一定額の年金が受け取れる保険です。年金受取人がその年金を受け取る前に亡くなった場合には、払い込んだ保険料に相当する死亡給付金が遺族に支払われるものなどもあり、家族の安心にもつながります。
一定の要件を満たす個人年金保険料は、確定申告の際、「個人年金保険料控除」を受けられます。個人年金保険料は、運用方法もさまざまあり、「変額年金」と言って年金保険料の運用実績次第で将来受け取る年金額が変動するものもあります。
個人事業主は保険でリスク管理をしよう
会社員と異なり、個人事業主はある程度、自分で自分や家族を守るすべを考えなくてはなりません。事業におけるリスク管理も大切ですが、自分自身のリスク管理も欠かせません。
民間の医療保険や就業不能保険などは、社会保険同様、経費には計上できず、生命保険料控除に使える程度です。したがって、資金繰りが可能な範囲内での利用を心掛けましょう。
よくある質問
個人事業主が加入できる社会保険は?
個人事業主自身が加入できる社会保険は、国民健康保険、介護保険、国民年金保険などです。労働保険料も支払いますが、対象は従業員となります。詳しくはこちらをご覧ください。
個人事業主が保険に加入すべき理由とは?
国民健康保険では傷病手当金が受給できず、高齢になっても老齢基礎年金しか受けられず、遺族年金や障害年金も受給額が少ないからです。詳しくはこちらをご覧ください。
個人事業主におすすめの3つの保険とは?
入院や手術で受給できる「医療保険」、傷病手当金の代わりとなる「就業不能保険」、老後に備える「個人年金保険」などですが、事業や家族の状況を踏まえ継続できる範囲で保険に入りましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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