• 作成日 : 2024年12月19日

持株会社を活用した事業承継とは?メリットや流れ、節税方法を解説

事業承継持株会社を活用することで、スムーズな承継が実現できます。しかし持株会社をどのように活用すべきか、悩んでいる経営者も多いでしょう。

スムーズな事業承継を行うためには、税金面などにも意識しながら相続や贈与から最適な方法を選択する必要があります。事業承継と持株会社について、税負担なども踏まえて詳しく解説していきます。

持株会社を活用した事業承継とは?

持株会社を活用することで、スムーズな事業承継が行えます。はじめに、持株会社がどのような会社で、事業承継にどう活用するのかを見ていきましょう。

持株会社はほかの会社を支配するための会社

持株会社とは、名前の通りほかの会社の株式を保有する会社のことです。ほかの会社の株式を保有することでその会社を支配する目的で設立され、ホールディングスとも呼ばれます。今回紹介する事業承継だけでなく、経営の効率化を図るためにもよく利用されます。

グループに複数の企業がある場合などはホールディングスがすべての会社の株式を保有することで、意思決定のスピードや経営の効率化が可能です。「〇〇ホールディングス」と呼ばれる持株会社を設立する有名企業も少なくありません。

持株会社には、次の2種類があります。

  • 純粋持株会社
  • 事業持株会社

純粋持株会社は株の保有だけが目的の会社で、事業は行いません。一方で事業持株会社は自社でも事業を行いながら、他社の支配も行っています。

事業承継に持株会社を活用するメリット

事業承継に持株会社を活用することで、次のようなメリットがあります。

  • 節税ができる
  • 後継者の経済的負担を軽減できる
  • 株式の分散防げる
  • 先代は経営者利益を確保できる

持株会社を活用する大きなメリットの1つが節税です。後継者に事業を承継するためには、株式を移転しなければなりません。相続や贈与で移転した場合、最高で税率が55%もかかるため、株価によっては大きな税負担が発生します。しかし持株会社に譲渡した場合は、譲渡益に対して20%の税率になるため、大幅な節税が期待できるでしょう。

後継者としても、相続税や贈与税を支払う必要がないため経済的な負担が軽減できます。さらに持株会社に株式を集中させることで、相続による株の分散を防げます。個人で株式を保有している場合、相続によって経営に関係ない相続人に株式が移転してしまう可能性があるためです。

先代は、個人で保有している株式を持株会社へ売却することになります。そのため先代は、これまで会社を経営してきた経営者利益を確保できる点もメリットの1つです。

持株会社を活用して事業承継する方法

持株会社を活用して、事業承継する3つの方法を紹介します。

  • 相続による承継
  • 贈与による承継
  • 株式譲渡による承継

相続による承継

相続による承継とは、先代の相続によって株式を受け取る方法をいいます。事業会社の株式を受け取ることもあれば、持株会社の株式を受け取る場合もあります。相続による承継のメリット・デメリットは次の通りです。

メリット

  • 事業承継税制の利用で相続税の負担を軽減できる

デメリット

  • 免除ではなく猶予
  • 細かい要件を満たす必要がある

株式に限らず相続で受け取った財産に対しては、相続税が課税されます。とくに業績のよい会社の株式は株価が高い傾向があるため、相続税の支払いに頭を悩ませる後継者は少なくありません。しかし相続で承継した場合は、事業承継税制を使えるメリットがあります。

事業承継税制を使えば、相続税を支払う必要がありません。相続税の支払いのために借入する後継者もいるなど、重い税負担から開放されるのは大きなメリットです。しかし注意点もあります。

事業承継税制を満たすためには、細かい要件を満たさなければなりません。要件を満たすために事業に支障が出る可能性があるだけでなく、申請にかかる手間もあります。またこの制度はあくまで税金の猶予であって、免除ではありません。廃業した場合など、将来的には納税しなければならない点は認識しておきましょう。

贈与による承継

相続を待つのではなく、先代が生きているうちに生前贈与で承継する方法もあります。贈与による承継の、メリット・デメリットは次の通りです。

メリット

  • 事業承継税制が使える
  • 後継者が早い段階で経営に参加できる
  • 後継者の資金負担を減らせる

デメリット

  • 暦年贈与は7年前までは相続税の課税対象となる
  • 事業承継税制の活用には手間がかかる

相続の場合でも、相続と同様に税金が課税されます。しかし事業承継税制を利用することによって、納税を猶予できる点も相続と同様です。また生前贈与であれば、先代が生きているうちから後継者を経営に携わせることも可能です。早いうちから経営のノウハウを伝えられるため、スムーズな承継が可能になるでしょう。

デメリットとしては、事業承継税制の利用には制約がある点や手間がかかってしまう点は相続と同様です。また毎年少しずつ贈与を行う暦年贈与を行っている場合、相続発生前7年分の贈与が相続税の課税対象となってしまう点にも注意しましょう。

株式譲渡による承継

先代の保有している株式を、後継者が買い取って承継する方法もあります。株式譲渡による承継のメリット・デメリットは次の通りです。

メリット

  • 後継者の地位が安定する
  • 遺留分を気にする必要がない

デメリット

  • 後継者に資金が必要
  • 先代に譲渡所得税は発生する

株式を買い取ることによって、相続や贈与を待たず早い段階で経営を承継できます。また株主が先代以外にもいる場合でも、ほかの株主からも買い取ることで株式を後継者に集中させることが可能です。そのため、後継者の地位を安定させられるでしょう。

また相続ではほかの相続人とも遺産分割を行う必要があり、遺留分にも気を使う必要があります。株式譲渡であれば遺留分を気にする必要もなくなりますが、後継者に買い取るための資金は必要です。また先代に譲渡所得が発生した場合は、所得税が課税されます。

事業承継で持株会社を活用する際の注意点

事業承継で持株会社を活用する際の、注意点は次の4つです。

  • 譲渡益に税金がかかる
  • 税務署から指摘が入る可能性がある
  • 配当金が少ないと融資の返済が滞るリスクがある
  • 株式保有特定会社に注意する

譲渡益に税金がかかる

持株会社を使ったスキームでは、先代が保有している株式を持株会社が買い取ります。そのため先代は売却資金を得られますが、売却によって利益が発生した場合「譲渡所得税」が課税されます。

譲渡所得税の税率は20.315%と相続の最大税率に比べると低いですが、所得税の税率は一律です。そのため相続財産によっては、相続や贈与で移転したほうが税金は安い場合があります。税金を抑えるうえで、どちらの方法を選択すべきかについては、税理士とも相談しながら慎重に検討しましょう。

税務署から指摘が入る可能性がある

持株会社を活用した事業承継のスキームの場合、税務署から指摘が入る可能性があります。持株会社を活用することで、事業承継にかかわる税金を圧縮できることは前述の通りです。そのためあまり節税が目立ってしまうと、節税対策として税務署に見られてしまい指摘が入ってしまう可能性があります。

節税が目的ではなく、株式の分散を防ぐためであったり、資金調達のしやすさであったりと、持株会社を活用した合理的な理由を説明できるようにしておきましょう。

配当金が少ないと融資の返済が滞るリスクがある

持株会社を活用した事業承継では、配当金を減らすと融資の返済に支障が出てしまう可能性があります。持株会社を使って事業承継するためには、先代が保有している株式を持株会社が買い取らなければなりません。持株会社には買い取るための資金がない場合が多いため、銀行からの借入金を使います。

持株会社で事業を行っていない場合、毎月の返済は株式からの配当で行います。業績のよい会社であれば株価も高額になるため、借入の金額も高額になることが多いでしょう。そのため配当金を減らすと毎月の返済に影響が出てしまう可能性があることは、注意点として認識しておきましょう。

株式保有特定会社に注意する

持株会社を活用した事業承継では、持株会社が株式保有特定会社に該当しないように注意する必要があります。株式保有特定会社とは、総資産のうち50%以上が株式等を占める会社のことです。

株式特定保有会社に該当してしまうと、株式の評価方法が変わり株価が高くなってしまう可能性があります。せっかく持株会社を使って節税をしたにもかかわらず、今度は持株会社の税金関係が高くなってしまいます。持株会社で不動産を購入するなどして、株式保有特定会社に該当しないように注意しましょう。

持株会社を活用した事業承継の流れや手続き

持株会社を活用した事業承継の流れは、次の通りです。

  1. 後継者が持株会社を設立
  2. 金融機関から資金を借りる
  3. 先代経営者から株式を買い取る
  4. 譲渡承認の請求を行う
  5. 持株会社の取締役会で承認手続をする
  6. 子会社の株式配当を原資として返済を行う

1.後継者が持株会社を設立

持株会社を活用した事業承継では、まず持株会社を設立します。この際、新設する持株会社は後継者が100%出資するようにしましょう。さらに持株会社が事業会社の株式を100%保有します。

このように後継者が持株会社の株式を100%後継者が保有することで、持株会社を通じて承継する会社の議決権の確保が可能です。後継者は間接的に事業会社の経営権を握れるためスムーズな事業の引継ぎが可能になり、経営の安定性を確保できます。

2.金融機関から資金を借りる

設立した持株会社は、事業会社の株式を先代から買い取る必要があります。買い取るための資金が持株会社や後継者にあれば問題ありませんが、一般的には銀行借入を利用する場合が多いでしょう。優良企業であればあるほど株価が高いため、借入も高額になってしまうことも多いです。

3.先代経営者から株式を買い取る

金融機関からの借入で資金調達が完了したら、調達した資金を使って先代経営者から株式を買い取ります。持株会社が事業会社の100%株主になることで、後継者が間接的に事業会社の経営権を確保することが可能です。持株会社と事業会社の完全親子関係が成立することで、後継者が安定して事業運営を行える環境が整います。

4.譲渡承認の請求を行う

子会社化する会社によっては、株式の譲渡承認の申請が必要になる場合もあります。会社によっては定款で、第三者による買取を防ぐために譲渡制限を定めている場合があるためです。譲渡申請の承認には、取締役会や株主総会の決議が必要になります。

5.持株会社の取締役会で承認手続をする

譲渡承認の請求が行われた場合は、取締役会や株主総会で決議が行われます。決議が行われると、申請した持株会社に承認通知が発送され、譲渡ができるようになります。取締役会で決議するためには、過半数以上の承認が必要です。

6.子会社の株式配当を原資として返済を行う

ここまでのプロセスを通じて、持株会社と事業会社で完全な支配関係が構築されます。事業承継が完了した後は、持株会社は銀行に対して返済を行わなければなりません。前述のように返済原資は事業会社からの配当金になります。そのため後継者は事業会社の経営を軌道にのせて、安定的に配当を支払える環境を継続しなければなりません。

持株会社の事業承継にかかる税金と節税方法

持株会社を活用した事業承継でかかる税金には、主に次の3つがあります。

  • 所得税
  • 贈与税
  • 相続税

それぞれの税金の内容や、節税方法を紹介します。

株式の譲渡による所得税

株式を後継者が保有する持株会社に譲渡する場合、先代経営者には譲渡所得が発生する場合があります。譲渡所得の計算方法は、次の通りです。

【譲渡所得の計算方法】

譲渡所得 = 譲渡収入 -(取得費 + 譲渡費用)

つまり先代経営者が株式を取得した金額より高い価格で譲渡した場合に、所得税が発生します。所得税は譲渡所得に対し、一律20.315%で計算します。

譲渡所得税を節税するためには譲渡収入を減らす、つまり株価を下げることが有効です。未上場企業の株価の算定には、純資産や利益が影響します。そのため特別配当を実施して純資産を減らしたり、減価償却や法人保険を活用して利益を減らしたりする対策が有効です。

株式の贈与による贈与税

後継者へ贈与で株式を承継する場合、贈与税が課税されます。贈与税は贈与する金額によって、下記の通り税率が定められています。

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%

400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1,000万円以下30%90万円
1,500万円以下40%190万円
3,000万円以下45%265万円
4,500万円以下50%415万円
4,500万円超55%640万円

※贈与により財産を取得した者が、直系尊属(父母や祖父母など)から贈与により取得した財産にかかる場合

参考:国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

贈与税を節税するためには、毎年税率の低い範囲内の金額で少しずつ贈与する暦年課税を利用する方法があります。また相続時精算課税制度を利用すれば、2,500万円までは贈与税がかかりません。(相続が発生した際に、贈与分が相続税の課税対象になります。)ほかにも、前述した事業承継税制を活用することで、贈与税の支払いを猶予できます。

株式の相続に伴う相続税

後継者へ相続で株式を引き継ぐ場合、後継者に対して相続税が課税されます。相続税は受け取った財産の額に応じて、次の税率で課税されます。

相続する財産の金額税率控除額
1,000万円以下10%

1,000万円超から3,000万円以下15%50万円
3,000万円超から5,000万円以下20%200万円
5,000万円超から1億円以下30%700万円
1億円超から2億円以下40%1,700万円
2億円超から3億円以下45%2,700万円
3億円超から6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

参考:国税庁 No.4155 相続税の税率

相続税は承継する株式だけでなく、他の財産を含めた課税価格に対して課税されます。そのため相続税を節税するためには、相続財産を圧縮する必要があります。相続財産を圧縮する最もポピュラーな方法が、不動産の購入です。

不動産は時価に対して相続税評価額が低い傾向にあるため、財産の中に不動産を入れることで相続税を圧縮する効果があります。また相続の場合でも必要な要件を満たせば、前述した事業承継税制も利用できます。

持株会社を活用すればスムーズな事業承継が行える

事業承継は、多くの企業経営者が頭を抱えている深刻な問題です。その理由には後継者不足などさまざまな理由がありますが、理由の一つに税負担などの資金面があります。しかし事業承継に持株会社を活用することで、税金面の負担を軽減することも可能です。

また持株会社に株式を集中させることで、相続などによる株式の分散を防げる効果もあります。後継者がスムーズに事業を引き継いで経営を安定させるためには、株式の保有は欠かせません。持株会社をうまく活用することで後継者が支配権を獲得でき、スムーズな事業承継が行えるでしょう。


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