- 作成日 : 2024年9月26日
事業継承の際に資金調達すべきケースは?調達方法・使える制度についても解説
事業承継で株式や事業用財産を買うときにはまとまったお金が必要となりますので、資金調達を行うことがあります。親族内承継でもらい受けるとしても納税の負担がかかりますのでやはり資金の備えは欠かせません。
具体的にどのようなケースで資金調達が必要となるのか、また、事業承継に伴い資金調達をするときの方法などをここで解説いたします。
目次
事業継承の際に資金調達すべきケース
事業承継の方法にもいろいろありますが、大きく①第三者承継と②親族内承継の2つに分けることができます。どちらの場合も資金が必要となるケースがありますので、それぞれの特徴と何のために資金が必要になるのかを押さえておきましょう。
第三者承継の場合
まず「第三者承継」についてですが、これは現在の経営者の親族や従業員、役員以外の第三者が事業を引き継ぐことをいいます。他の会社をすでに経営している方や投資家などが買収するケースが第三者承継にあたります。
具体的には、株式譲渡や事業譲渡といった方法で承継が行われます。
株式譲渡 | ・株式会社の事業承継で利用される方法。 ・株主を変更することで別の会社や個人に会社が譲渡され、従業員や取引先との関係は維持したまま事業を続けられる。 |
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事業譲渡 | ・事業の運営に必要な設備や知的財産権、顧客などを譲渡することで承継する方法。 ・譲渡対象の資産が具体的に特定されることから、譲渡を受ける方が想定外の債務などを引き継いでしまうリスクが低い。 |
どの方法で事業承継を行うにしても、後継者側はまとまった資金を用意しなくてはなりません。適切に株価や事業を評価し、その価格の支払いをする必要がありますので、その際に資金調達を行います。
親族内承継の場合
親族内承継は、現在の経営者の子どもや孫、兄弟などの親族が経営を引き継ぐことをいいます。日本においては比較的一般的な事業承継の手法で、多くの場合は株式や事業用財産などを贈与・相続することで引き継ぎが行われます。
ただ、親族内承継といっても金銭のやり取りが生まれることはありますし、仮に無償での譲渡であったとしても課税の問題が避けられません。
経済的価値の大きな資産を譲渡したときはその分大きな贈与税や相続税がかかりますので、その税負担に耐えられる資金力を持っていなければなりません。また、税負担が問題にならないとしても、引き継いだ後の運転資金や組織改革のために資金が必要となるケースもあります。
事業継承の際に資金調達する方法
事業承継に対する資金対策として、次のような手段を検討してみましょう。
- 金融機関からの一般的な融資
- 事業承継税制の利用
- 日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」の利用
- 信用保証協会による保証制度の利用
一般的な資金調達方法である金融機関からの融資も利用可能ですが、事業承継に特化した優遇措置もありますので、まずはそちらを検討してみてください。例えば、資金調達ではありませんが、贈与税や相続税の負担を軽減する「事業承継税制」などもあります。
資金調達に直接関わる日本政策金融公庫や信用保証協会による制度もチェックしてみましょう。
日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」
日本政策金融公庫では創業を考えている方に向けてさまざまな融資制度を設けています。事業承継を機に資金が必要となった方であれば「事業承継・集約・活性化支援資金(企業活力強化貸付)」が利用できます。
この制度を活用すれば最大7,200万円(うち運転資金の限度額は4,800万円)の融資を受けることができますので、事業承継やM&Aを円滑に進めやすくなるでしょう。
日本政策金融公庫では同制度を利用できる方を次のようにリストアップしています。これに該当する場合は資金調達の一手段として検討してみてください。
- 現経営者と後継者で「中期的(融資後10年以内の実施見込み)な事業承継計画」を策定している方
- 「安定的な経営権の確保」などにより事業承継を行う方
- 「経営承継円滑化法に基づく認定」を受けた方
- 「経営者個人保証の免除など」を金融機関に申し入れたことで取引金融機関からの資金調達が困難になっており、公庫が融資に際して経営者個人保証を免除する方
- 事業承継を契機に経営多角化や事業転換など新たな取組みを図る方 など
日本政策金融公庫HPから詳細が確認可能です。
信用保証協会による保証制度
資金調達を成功させるには相手方からの信用を得なくてはなりません。「事業を閉鎖せず安定的に続けられそうか」「継続して返済をしてくれそうか」といった視点から審査を受けることになります。その際、不動産などの担保を提供したり、保証人を付けたりすることで信用を獲得する方法もありますが、それは保証人などにとって大きなリスクとなり、思い切った経営ができなくなる側面も持ちます。
そこで役に立つのが信用保証協会による保証制度です。事業承継を支援するため次のように多くの制度が用意されています。
- 事業承継特別保証
- 事業承継サポート保証
- 経営承継関連保証
- 特定経営承継関連保証
- 経営承継準備関連保証
- 特定経営承継準備関連保証
- 経営承継借換関連保証
例えば「事業承継特別保証制度」の場合、経営者保証は不要で、専門家による確認を受けていれば保証料率を軽減する措置なども用意されています。利用にあたっては事業承継計画書や財務要件など確認書などの添付資料を準備し、金融機関を経由して申し込みを行います。
保証限度額や対象資金、保証期間などの詳細は事前に確認のうえ利用すべきですが、返済リスクについて不安がある方は一度チェックしてみてください。
事業継承において調達した資金の用途
資金調達を行う際は資金使途についてもチェックしておきましょう。当然、事業承継向けに優遇された制度であれば資金の使い道も事業承継に関するものに制限されます。
例えば上でも紹介した日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」であれば、次のように定められています。
事業承継計画を実施するために必要な設備資金および長期運転資金
信用保証協会の「事業承継特別保証」であれば、次のように定められています。
事業資金
既存のプロパー借入金(個人保証あり)の本制度による借り換えも可能
(ただし、一定の期間内に事業承継を実施した法人に対しては、事業承継前の借入金に係る借換資金に限る)
他の保証サービスでも、各制度の趣旨に合わせて“事業会社の株式取得資金”や“事業用資産の取得資金”、“事業用資産等に係る相続税又は贈与税の納税資金”などと資金使途が定められています。
事業継承での資金調達に悩んだ場合の相談先
事業承継のために行う資金調達で悩んでいる方は、次に掲げる機関や専門家への相談をご検討ください。
- 事業引継ぎ支援センター(事業承継に関する公的な相談窓口。専門コーディネーターが事業承継計画の策定や資金調達など多様な相談に応じてくれる。)
- 商工会・商工会議所(地域の事業者に対して総合的な支援を行っている機関。地域の事情に合わせたアドバイスも期待できる。)
- 税理士・公認会計士(事業承継に伴う税務や会計処理の代行、財務状況の分析など、個別具体的な調査や助言をしてくれる。)
- 弁護士(事業承継に係る法的な問題についてのサポート、トラブルへの対処をしてくれる。)
- 中小企業診断士(事業承継計画の策定や経営課題の解決など、経営に関するアドバイスをしてくれる。)
公的な機関であれば低コストあるいは無償でサポートをしてくれますが、一般的な内容に留まるケースも多いです。一方で税理士や中小企業診断士などは報酬の支払いが発生する反面、より最適化された、具体的なアドバイスまで期待することができます。
事業承継時に優遇される制度を使って資金調達をしよう
資金調達の目的が事業承継でも、そうでなくても、一般的な融資を申請して審査に通れば同じように借入をすることができます。しかし、事業承継の場合にのみ利用できる制度がありますので、そちらを利用した方が通常より事業者側の負担を軽くすることができます。
無条件で利用できるわけではありませんので制度の内容をよくチェックしなければなりませんが、事業承継のために資金を集めるのならまずは利用できる優遇措置がないかどうかを探してみると良いでしょう。
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