• 作成日 : 2024年8月23日

ROIC経営とは?指標のメリットや注意点、適した事業者を紹介 Description

ROIC経営とは、ROIC(投下資本利益率)を指標に経営を行うことをいいます。この指標を重視することで金融機関や投資家へのアピールがしやすくなりますが、注意しておきたい点もあります。

本記事では、ROIC経営の特徴や注意点などを解説します。

ROIC経営とは

ROIC経営とは、ROICと呼ばれる指標を重視した経営手法のことです。ROICはReturn On Invested Capitalの略称であり、「投下資本利益率」という言葉で表現されるように、「投下した資本に対してどれだけの利益を出すことができたのか」を表しています。

つまり、ROIC経営では、どれだけ効率的に利益を生み出せているかが重要です。ROIC経営に基づく運営がなされていることで対外的にも自社の収益性や効率をアピールしやすくなります。

ROICの計算方法

ROICは次の算式から導き出すことができます。
ROIC(%)=NOPAT(税引後営業利益)÷投下資本
  • NOPAT(Net Operating Profit After Tax):本業の利益を示す指標で、税金を支払った後の営業利益から算出
  • 投下資本:事業へ投下された資本の総額で、有利子負債と株主資本を合計した金額

同じ投下資本の額に対して営業利益が大きいほどROICの値は高くなります。一方、営業利益の額が同じでも、投下資本の額が少ないならROICの値は高くなるため、「効率よく稼げた」と評価できます。

ROICの適切な値とは

一般的には7%以上のROICが好ましいと考えられていますが、「ROICは○○%以上でなければならない」などと共通の評価基準は存在しません。もちろん、できるだけ大きな値を出せた方がよいのですが、業界や業種、企業の規模、成長段階によって適切な値は異なります。そのため、他社に比べてROICの値が低い場合、その企業が劣っているとすぐに判断することは避けましょう。

特に、株主など当該企業に出資をした方としては、単純にROICを見るだけでなくリターンを表すWACC(Weighted Average Cost of Capital)も併せてチェックすることが重要といえます。ROICがこのWACCを上回っていれば「資本コストを上回る利益を生み出している」ことになるため、仮にROICの値が低くても問題ありません。

ROIやROE、ROAとの違い

ROICとは別に「ROI(Return On Investment)」「ROE(Return On Equity)」「ROA(Return On Assets)」などの指標もあります。似た用語ですが、それぞれ計算方法や評価対象が異なります。

指標計算式特徴
ROI利益額/投資額・「投資利益率(投下資本利益率)」を表し、少ない投資に対して大きな利益が生まれていると高い値になる

・投資の効率性をおおまかに評価するときに使える

ROE当期純利益自己資本・「自己資本利益率」を表し、自己資本によって最終的な利益(当期純利益)が生み出されたのかがわかる

・株主が企業の収益性を評価するのに使う

ROA当期純利益/総資産・「総資産利益率」を表し、すべての資産を使ってどれだけ純利益が出せたのかがわかる

・企業の経営効率をおおまかに評価するときに使える

上表からわかるように、ROI・ROE・ROAはそれぞれ異なる視点から企業の収益性や効率性を評価する指標です。簡単に利益率などが把握できますが、見ているポイントが部分的であるため、数値の調整によって、実質よりも高く見せることもできます。

一方、ROICでは他の指標よりも包括的な視点で企業の収益性を評価することができるのです。

ROIC経営のメリット

ROICの値を重視して経営に取り組むことで次のようなメリットが得られるでしょう。

投資家から見た企業価値の向上ROICを高める活動により企業の収益性や効率の向上が期待される。このことは企業価値の向上につながり、特にデータを入念にチェックしている投資家からも信頼を獲得できる。
融資の審査で好印象を与えられる融資を受ける際の審査では、客観的なデータが見られる。経営者の主観で「うまくいっている」と主張することで、ROICの値を示すときの説得力が増し、資金調達のアピールがしやすくなる。
経営資源の効果的な配分ROICを重視すると、利益の大きさだけでなく、限られた経営資源をより効率的に使おうと意識することになる。
事業ポートフォリオの最適化ROICを採用することで各事業の成績が評価しやすくなる。収益性の低い事業を売却したり成長性の高い事業により投資したりするなど、事業ポートフォリオの最適化を図れる。

ROICはごまかしにくい指標のため、ROEやROAだけで評価する場合に比べてより本質的な投資対効果に着目した経営が実現できるようになるでしょう。

ROIC経営の注意点

ROIC経営を取り入れるときは、以下の点に注意しましょう。

事業の成長段階を考慮すること成熟した事業、すでに安定した収益基盤のある企業ならROICでの評価が適しているが、立ち上げ間もない事業や今まさに成長の過程にある事業に対してROICで単純に評価してしまうと、将来性ある事業を切り離してしまう恐れがある。
事業の特性にあった評価を下すこと特性やリスク、成長性などが大きく異なる事業間では、望ましいROICの値も異なる。すべて画一的に評価してしまうとよい状態とよくない状態をきちんと見分けることができなくなってしまう。
中長期的な視点から評価を下すこと短期的なROICの値に一喜一憂せず、数年の期間を設けて推移を見て、今後の成長性なども考慮して評価することが大事。また、目の前のROICを高めることに集中しすぎて過度なコスト削減などに取り組むべきではなく、長期的な成長を考えてコスト管理を行うことが必要。

ROIC経営を活用すべき事業者

製造業やインフラ、不動産など、多額の資本を投下して事業を行う事業者にはROIC経営が比較的適しています。

ほかには、複数の事業を展開する事業者もROICを採用することで事業の管理・整理がやりやすくなるため、投資家からの出資を検討している事業者であれば特にROIC経営が適しています。
投資家がROICの値を見ている可能性がありますので、この値を競合他社より高めておくことで資金調達も有利に進められるでしょう。

サービス業やIT企業など、投下資本が比較的少ない事業だとROICによる適切な企業価値の評価が難しい傾向にあります。ほかにも創業間もない事業者や、近い将来大きな成長が見込まれる事業についてもROICでの評価が難しいでしょう。

注目企業のROIC

著名な大企業だとROICの値を公開して財務状況や今後の経営方針などを説明している例も存在します。ここでは、その例を以下に取り上げましょう。

  • 株式会社日立製作所:2024年においてROIC10%の達成を目標として掲げている。ROIC向上に向けて、各事業の社内KPIの設定、事業戦略の策定・見直しなどを行い、現場レベルでの取り組みにつなげている。
  • オムロン株式会社:ROICによって公平な評価ができる点に着目し、これを採用。中長期的な視点での事業ポートフォリオの管理を実践しており、各事業の規模や収益性を高める取り組みを進めている。
  • 富士フイルムホールディングス株式会社:ROICをKPIとして重視し、資本効率の向上を目指している。具体的にはバイオCDMO・半導体材料を中心に、2027年度以降のROIC9%以上の達成を目標に掲げている。

資本コストへの意識が求められるようになっており、近年はROICを経営指標の1つに取り入れる企業は増えています。ただ、業種によって平均値は大きく異なるため、単純に比較をすることはできないが、事業別に開示されているROICの値を見ることも重要といえます。

参考:2024中期経営計画 進捗発表ポートフォリオマネジメントの 進化と実践中期経営計画「VISION2030」を策定

ROIC経営で企業価値向上を目指そう

ROIC経営は、企業が投下資本に対してどれだけの利益を生み出しているかを測る指標「ROIC」を重視する経営手法です。ROICを意識し、これを向上させることが、企業の資本効率を高めて持続的な成長と企業価値向上につながります。

ただし、ROIC経営を導入する際には事業フェーズや事業特性を考慮すること、適切な目標と評価期間を設定することが大事です。

「ROIC経営を取り入れたから財務状況はよくなる」などと万能の解決策ということではありませんが、自社の状況に合わせて適切に活用することが改善につながっていくことでしょう。


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