- 更新日 : 2023年11月29日
治療院経営の現状は?1人でもできる?開業・経営費用や成功のコツを解説
腰や肩などの痛み、怪我、交通事故によるむちうち、その他幅広い症状を改善するための施術をする治療院。お客様にとっては身体に不調が出たときに相談できて施術を受けられる、頼りがいがある存在です。
本記事では、治療院を開業・経営するメリット・デメリットや開業までの流れ、経営を成功するためのコツについて解説します。
目次
治療院経営の現状
そもそも治療院とは、あん摩マッサージ指圧師や鍼灸師、柔道整復師といった国家資格を持つ人が施術を行う施設のことを指し、いわゆる「接骨院」や「整骨院」、「鍼灸院」などがこれにあたります。
厚生労働省『令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況』によると、2020年時点で日本国内にはあん摩マッサージ指圧師は118,103人、はり師は126,798人、きゅう師は124,956人、柔道整復師は75,786人の有資格者がおり、治療院を開業できる資格を保有する人は合計約44万人です。
治療院の数については2020年時点であん摩マッサージ指圧を行う施術所は18,342件、はり及びきゅうを行う施術所は32,103件、いずれも行う施術所は38,309件、柔道整復の施術所は50,364件あり、日本国内には14万件近くの治療院が存在するということになります。
日本国内のコンビニの件数はおよそ5.8万件なので、店舗数だけで考えると約2.4倍の市場規模になっています。
治療院の経営は1人でもできる?
結論からいうと治療院の経営は1人でも十分できます。たとえば前出の厚生労働省『令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況』によると、接骨院1院あたりの柔道整復師は2020年時点で1.5人です。実際に多くの治療院でも1人、もしくは数人で運営されています。
お客様が少ない状態でスタッフを雇っても人件費が支払えないため、まずは1人で開業し、お客様が増えるに従ってスタッフを雇うという流れが一般的です。
治療院の経営は儲かる?年収の目安
治療院の経営者の収入は売上額や経費によって大きく左右されるため一概にはいえませんが、開業直後は年収400~600万円程度、多い人では700~800万円程度といわれています。もちろん、お客様が多ければこれ以上の年収が得られる可能性も十分あります。
治療院を経営するメリット
治療院を開業・経営することでさまざまなメリットが得られます。会社員の頃と比べて収入も生活の質も向上したと実感されている方も少なくありません。治療院を経営するメリットとしては主に以下のようなものが挙げられます。
定年なしで働くことができる
会社員の場合、どうしても定年がつきものです。昨今、定年年齢が引き上げられていますが、それでも健康で働ける状態であるにも関わらず会社を辞めざるを得ないという方も多いです。再雇用として働ける会社もありますが、給料が下がることも少なくありません。
治療院に限らず、ご自身でビジネスを行えば定年はありません。健康である限り、お客様が来院する限り、働き続けることができます。再雇用によって年収が下がらないのもメリットです。
やり方次第で高収入を得られる
会社員はいくら会社に貢献したとしても給料が決まっています。しかし、治療院の経営者はやったらやったぶんだけの見返りがあり青天井です。
治療院はお客様が来院して売上が上がれば上がるほど年収も増えます。繁盛店になればスタッフを雇う、多店舗展開をするなどして規模を拡大でき、莫大な収入が得られるかもしれません。
やりがいや生きがいにつながる
治療院ではお客様の身体のさまざまな不調を、施術によって緩和させることを目指します。症状が改善されてお客様から「ありがとう」と感謝されたときに、やりがいを感じることでしょう。また、治療院は地域密着型のビジネスです。地域住民とふれあう機会が多く、「頼りにされている」「社会に貢献できている」という実感も得られます。
治療院を経営するデメリット
以上のように治療院の開業・経営にはさまざまなメリットがありますが、いい面ばかりではありません。デメリットも少なからずあるので、それを理解した上で開業するかどうか検討してみましょう。
ライバル店が多い
治療院は非常に競争が激しい世界です。先述したとおり、コンビニよりも治療院の件数のほうが多いくらいで、いたるところに接骨院や整骨院、鍼灸院があることがわかります。競合がひしめくなかでお客様を獲得しないと生き残れません。後ほど治療院経営のコツを紹介しますので、そちらも参考にして戦略を立てましょう。
体力が必要
治療院の施術は体力が必要です。特にお客様がひっきりなしに来院する場合、休む暇もなく施術し続けなければならず、かなりハードです。定年がないので働き続けられる反面、体力面で耐えられなくなってしまったり、怪我や病気を患ったりして早期に廃業されるケースも散見されます。個人経営は身体が資本ですので、健康面には十分注意しましょう。
コミュニケーション能力が求められる
治療院ではお客様が抱えられている不調に対して、適切な施術を行うことが求められます。そのため、コミュニケーションがとれないとお客様の悩みが聞き取れず、良い施術が提供できません。また、治療院はサービス業に近い側面もあるため、接客態度が悪いとお客様が来なくなってしまいます。そういった点でもコミュニケーション能力は非常に重要です。
治療院の開業・経営にかかる費用
治療院を開業して経営を続けていくためにはさまざまな費用がかかります。ここからは開業時にかかる初期コストと、運営・経営していくために必要となるランニングコストに分けて、それぞれ詳しく見ていきましょう。
開店時の初期コスト
治療院の開業に必要となる初期コストはケースバイケースですが、おおむね400~500万円が目安です。内訳は物件の取得費が100万円、内装工事費が200万円、施術機器や器具の費用が100万円、備品・消耗品代が20万円、広告宣伝費が30万円程度となります。
特に大きいのは、物件取得費や内装工事費など物件にかかわる費用です。たとえば自宅で開業する、内装をシンプルなものにするといった方法でコストを削減することもできます。
運営・経営のランニングコスト
治療院の運営・経営にかかる月間のランニングコストの目安は20~50万円です。内訳は賃料が10~20万円、水道光熱費が5万円、消耗品代が5~10万円、宣伝広告費が10万円程度となります。
上記はあくまで一人での開業を想定したケースです。スタッフを雇う場合は別途人件費がかかりますので、ランニングコストも100万円以上かかる可能性があります。
治療院の開業・経営の流れ
治療院の開業は一朝一夕というわけにはいきません。戦略の策定も含めてさまざまな準備を行う必要があります。ここからは、治療院を開業するまでの流れについて見ていきましょう。
事業計画を立てる
治療院に限らず事業計画は開業準備、そして経営を続けていく上での基本となります。「どのような目的で開業するのか」「どのような治療院を開業したいのか」「開業のためにはどれくらいの資金が必要となるのか」「ランニングコストはどれくらいかかるか」「売上や利益はどれくらい見込めるのか」「開業資金をどのようにして集めるのか」を1枚の事業計画書にまとめましょう。
コンセプトとターゲットの設定
次に治療院のコンセプトとターゲットを決めましょう。「どんな施術を提供したいのか」「どのような悩みを解決できるのか」といったコンセプトを決めることで、治療院の特徴や強みが見えてきて、後述する差別化にもつながります。その上で、来てほしいお客様の年代や性別、職業、居住地、抱えている不調などをイメージしてターゲットを絞りましょう。
物件の選定と購入
上記が具体的に定まったら、開業する商圏内で物件を探します。治療院の間取りは「6.6平方メートル以上の専用の施術室を有すること」「3.3平方メートル以上の待合室を有すること」など、法令で要件が定められているので、これを満たせるような物件を探すか、内装工事を行わなければなりません。
また、物件は物件取得費や賃料はもちろん、通いやすさや近隣にターゲット層が生活しているかどうか、競合の有無なども考慮して選ぶことが大切です。物件を契約したら業者と打ち合わせをして内装工事を進めます。
施術器具や事務機器の準備
施術に必要な機器や器具、設備を調達します。こちらも初期費用の中では大きな割合を占めますが、ご自身が理想とする施術を実現できるものを選びましょう。レンタルやリースを活用することで、初期費用を抑えることも可能です。
事務用品も机、椅子、パソコン、プリンタ・スキャナ、電話、POSからコピー用紙や筆記用具まで、意外と多くのものを調達しなければならずコストがかかります。また、ネット回線や電話回線も整備しておかなければなりません。
抜け・漏れがないよう、まずはチェックリストを作成してみましょう。
開業に必要な届出・許可
治療院を開業する場合、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師という施術に必要な資格を保有しているのは大前提となります。それ以外にもさまざまな手続きが必要です。保健所には物件の工事前に相談を行い、営業開始1週間前までに開設届を出し、開設検査を受けた上で確認書の発行を受けなければなりません。また、所管の消防署による消防検査も必須です。
他にも会社を設立するのであれば法人設立の手続きが必要となり、個人であれば税務署に開業届を提出します。スタッフを雇うためには社会保険の手続きも必要です。
集客活動・SNS・ホームページの作成
治療院はお客様が来てくれなければはじまりません。特に開業直後は知名度が低いため、積極的な集客が大切です。
チラシを作成して配布あるいは地域のお店に置いてもらう、看板を設置する、フリーペーパーに広告を掲載するといった宣伝活動に加えて、ホームページの作成、SNSで情報を発信するといったネットを活用した集客方法も取り入れ、まずは地域の人たちに治療院が開業することを知ってもらいましょう。
治療院の経営を成功させるには?
治療院の開業までにはさまざまな準備がありますので、それらを乗り越えたら一安心したくなります。しかし、開業はゴールではなくスタート。むしろここから治療院の経営を続けていくほうが大変です。残念ながら経営に失敗して廃業してしまわれる方も少なくありません。ここからは安定的に経営していくためのポイントについて紹介します。
定期的な経営状況の確認
まずは「毎月どれくらいの売上があるか」「経費はどれくらいかかっているか」「借入をしている場合は返済が滞りなくできているか」「利益はしっかり上がっているか」など、定期的に経営状況を確認しましょう。
財務状況を把握しておらずどんぶり勘定で経営を続けた結果、赤字となってしまう会社や個人事業主も少なくありません。いくらお客様が来院して売上が上がっていたとしても、それ以上に経費がかかっていてはいつまで経っても儲かりません。経営状況を把握し、利益が十分に上がっていないのであれば、集客方法や経費の使い方などを見直す必要があります。
他院との差別化を図る
治療院は非常に競争が激しい世界なので、他院との差別化が必須です。「他の人にはできない独自の技術やメソッドがある」「他院では導入していない機器や器具を使っている」「対応がいい」「内装にこだわっている(おしゃれ、高級感がある、落ち着く空間など)」「通いやすい(駅から近い、駐車場が広い)」「営業時間(夜間や土日祝も対応できる)」など、さまざまな角度から差別化ができます。
治療院の強みを洗い出し、それをチラシやホームページ、SNSなどでアピールしましょう。
安易な値下げや安売りをしない
特にお客様が来院していないと、「なんとか集客したい」という想いが強くなって、どうしても値下げや安売りに走りがちです。もちろん、キャンペーンや来院特典などで戦略的に行う場合は問題ありませんが、安易に値下げをすると利益が上がらなくなってしまいます。たとえお客様が増えたとしても、忙しいだけで全然儲からないという事態にもなりかねません。近隣の競合との価格競争に陥り、どんどん値段を下げざるを得なくなるという負の連鎖に陥ることも考えられます。
値下げや安売りをするのではなく、独自の強みを押し出して集客しましょう。本当に良い施術を提供してお客様を満足させることができれば、むしろ若干価格が高くても来院してくれる可能性があります。
メニューを絞り商品力を高める
施術メニューを必要以上に増やすというのもよくありがちです。確かに事業を存続させるうえでは多角経営も重要ですが、無秩序に「あれも・これも」と手を出してしまうと、結局強みや特徴がない治療院になってしまい、一つひとつの施術メニューの質も低下してしまいます。
治療メニューを絞り、それに特化して施術の質を高めていくほうが重要です。
リピート率を高める
新規顧客を獲得するのも大切ですが、一見さんだけではやがて頭打ちになってしまいます。特に治療院ではリピーターの獲得が肝です。まずは施術の質を高めたりコミュニケーションや雰囲気作りを工夫したりして、「また来たい」と思える治療院作りを目指しましょう。
それに加えて割引回数券を販売する、値下げキャンペーンを実施するなどして特典をつける(こうした戦略的な値下げは問題ありません)、SNSに登録してもらって定期的に情報を発信するといった方法があります。
治療院開業向けの事業計画書テンプレート(無料)
こちらから自由にお使いいただけるので、ぜひご活用ください。
治療院はやりがいがあるビジネス。コツを意識して安定的に継続していこう
治療院は地域に密着し、身体の不調に悩まれている方の役に立てる、やりがいのある仕事です。軌道に乗れば稼げる可能性もあり、定年に縛られることなく働き続けることができます。一方で競合も多く、安定的に経営を継続するのは簡単なことではありません。
しっかりと儲けて、より多くのお客様に貢献するためにも、今回紹介したコツを意識して開業・経営に臨みましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
【利益供与】子会社と親会社の具体例と判断基準、会計処理を解説
利益供与とは会社が取引先や資本関係にある会社に対して利益を供与(提供)することです。利益供与は法律で厳しく制限されているため、決まりを守らず行ってしまうと重大なトラブルに発展する恐れがあります。 本記事では、利益供与の定義や子会社と親会社間…
詳しくみる工場経営の基本戦略!運営のポイントや課題の対応策、おすすめの本を紹介
製品を生産する製造業の工場経営においては、人材、設備、原材料、資金などを効率的に管理することが欠かせません。しかしながら、儲かる経営を意識して利益を創出し続けるにはさまざまな課題もあります。 この記事では、工場経営についてのおすすめの解説書…
詳しくみるBS経営とは?財務諸表の見方と経営分析との関係をわかりやすく解説
BS経営とは、経営管理の手法の一つで、貸借対照表(Balance Sheet)を重視した経営スタイルを指すものです。 この記事では、貸借対照表と他の財務諸表との違いをわかりやすく説明しながら、初心者でもわかるようにBS経営について解説します…
詳しくみる脱毛サロンの経営は難しい?開業から失敗を防ぐコツ、儲かるポイントを解説
脱毛サロンの経営は特別な資格がなくてもスタートできるため、開業人気が高まっています。脱毛サロンを立ち上げて軌道に乗せるには、失敗を防ぐコツや儲かるポイントを押さえることが肝心です。 この記事では脱毛サロンの開業に必要な費用および開業の流れ、…
詳しくみるレジリエンス経営とは?3つの企業事例も紹介
レジリエンスとは、困難やストレスなどに対して、しなやかに立ち向かい回復力を持って乗り越える能力や性質を指します。これは経営だけではなく、組織、自然などあらゆる対象について使われます。 この記事では、レジリエンスをビジネスに用いた考え方につい…
詳しくみる経営用語-ドメインとは?企業事例10選も紹介
事業ドメインとは、企業が経済活動を行う事業領域のことです。企業が事業活動を行う総合的な領域を指す企業ドメインに対し、事業ドメインはその中で展開する個別の事業領域を指します。 本記事では企業ドメイン・事業ドメインの概要や、セブン-イレブン・マ…
詳しくみる