- 作成日 : 2024年9月26日
バーチャルオフィスの住所で許認可は取得できる?要件を満たせないケースも解説
バーチャルオフィスとは、事務所を借りるのではなく、住所や電話・FAX番号などをレンタルできるサービスです。
バーチャルオフィスの住所で登記することは可能ですが、事業内容によっては行政機関の「許認可」が必要です。また、バーチャルオフィスの住所で許認可を受けられるかどうかは、業種によって異なります。
本記事では、バーチャルオフィスの住所を利用した許認可について詳しく解説します。
目次
バーチャルオフィスの住所で許認可申請できる?
バーチャルオフィスとは、事務所となる物件(物理的に業務可能なスペース)を借りるのではなく、住所や電話・FAX番号をレンタルできるサービスを指します。加えて、郵便物の転送にも対応したバーチャルオフィスも多数あります。
バーチャルオフィスの住所を登記の住所として利用しても、基本的には問題ありません。ただし、事業内容によっては行政機関の「許認可」が必要になります。
行政機関による許認可が必要な事業を始める場合、バーチャルオフィスの住所で許認可を「申請できるケース」と「申請できないケース」があるため、注意が必要です。
まずは、許認可の基礎知識と、起業・法人登記に許認可が必要となる業種について確認していきましょう。
そもそも許認可とは
許認可とは、「特定の事業を行うために行政機関に申請し、取得しなければならない許可」のことです。国民の安全や健康を守ることを目的に、ある一定のレベルに達した個人、または法人にのみ許認可が与えられます。
許認可は、以下の5つに分類されます。
- 届出:行政機関に事業内容を届け出て、受理してもらう
- 登録:行政機関に届け出て、名簿に登録してもらう
- 認可:行政庁の合意がないと成立しない業務について行政機関に届け出て、要件を満たす
- 許可:法律で禁止されている行為を事業とする場合に行政機関に届け出て、審査に合格する
- 免許:特定の免許を持ち行政機関に届け出て、法律に定められた要件を満たしていることを証明する
業種によって必要な許認可の種類や申請先が異なるため、会社設立を目指す際は事前に確認しておきましょう。
起業・法人登記に許認可が必要な業種
許認可が必要な業種は、1,000種類以上にのぼります。以下に、一例を紹介します。
業種 | 許認可の種類 |
---|---|
ペットシッター業 | 届出 |
理髪店業・美容店 | 開設届出 |
探偵業 | 探偵業届出 |
電気工事業 | 電気工事業者登録 |
運転代行業 | 安全運転管理者資格認定 |
飲食店業 | 飲食店営業許可 |
建設業 | 建設業許可 |
リサイクルショップ業 | 古物商の許可 |
化粧品販売業 | 化粧品・医療品製造販売業許可 |
自動車解体業 | 自動車解体業許可 |
ゴミの収集運搬業 | 一般廃棄物収集運搬業許可 |
酒類の販売業 | 酒類販売業免許 |
バーチャルオフィスの住所で許認可を申請できる業種
行政機関による許認可が必要な一部の業種では、バーチャルオフィスの住所で許認可を申請することが可能です。
バーチャルオフィスの住所で許認可の手続きができる主な業種は、次のとおりです。
- 社会保険労務士
- ペットシッター業
- 化粧品販売業
社会保険労務士
営業許可が必要な社会保険労務士は、バーチャルオフィスの住所で許認可を申請できます。社会保険労務士については、個人の事務所やオフィスに関連する要件が定められていないためです。
同じ士業でも、司法書士や弁護士の場合、バーチャルオフィスの住所のみで許認可を申請することはできません。
ペットシッター業
届出の許認可が必要なペットシッター業も、バーチャルオフィスの住所で許認可を申請できる業種です。
許認可を得るには、「物件オーナーの使用承諾書」を提出する必要があるため、バーチャルオフィスの運営元に発行を依頼しましょう。
化粧品販売業
「化粧品・医療品製造販売業許可」が必要な化粧品販売業も、バーチャルオフィスの住所で許認可を申請することが可能です。
ネットショップで販売する場合、特定商取引法によって販売元住所などの開示が義務づけられています。バーチャルオフィスで開業することで、自宅の住所を晒すことなく事業を展開できます。
バーチャルオフィスの住所で許認可を申請できない業種
残念ながら、バーチャルオフィスの住所では、許認可を申請できない業種もあります。その場合、バーチャルオフィスの住所で登記をすることは違法となる可能性があります。
許認可が必要にもかかわらず無許可で業務を始めた場合、「営業停止命令」や「刑事罰」を受ける恐れがあるため、注意が必要です。
ここでは、バーチャルオフィスの住所で許認可を申請できない業種を紹介します。
士業(税理士、司法書士、弁護士など)
士業のうち、税理士、司法書士、弁護士などの開業にあたっては、「物理的に業務可能なスペース」を備えている必要があることから、バーチャルオフィスの住所のみでは許認可を申請できません。業務上、面談の実施や機密情報の取り扱いが必要となるためです。
また、物理的に業務可能なスペースがあることを証明する目的で提出する「賃貸借契約書」は、バーチャルオフィスでは発行できない書類となります。
一方、前述のとおり、社会保険労務士に関してはバーチャルオフィスの住所のみで許認可を申請することが可能です。
職業紹介業・人材派遣業
職業紹介業や人材派遣業も、バーチャルオフィスでは許認可を得られない業種です。
厚生労働大臣の許可が必要となる「職業紹介業」は、申請の際に実体のある事業所を備えている必要があります。そのため、バーチャルオフィスの住所のみでは許認可を申請できません。シェアオフィスやレンタルオフィスであれば、条件によっては許可を得ることが可能です。
「人材派遣業」は、同じく「許可」が必要となる職業紹介業よりも、さらに要件が厳しい業種です。開業時に20平方メートル以上の事業所やオフィスと契約している必要があるため、実体のないバーチャルオフィスでは要件を満たせません。
建設業・不動産業
建設業や不動産業も、バーチャルオフィスでは許認可を得られません。
「建設業」の許認可を得るためには、請負契約の締結などが可能な実体のある事務所が必要です。また、「居住部分とは明確に区分した事務スペースが確保されている」「玄関に商号を表示する」といった基準も満たす必要があります。
「不動産業」の許認可を受けるには、「事務所として独立性が確保されている」「自社スペースを24時間365日使える」などの要件を満たさなければならず、バーチャルオフィスでは対応できません。
古物商許可が必要な業種
古物商許可を得るためには、独立した営業所が必要です。さらに以下の要件も求められるためバーチャルオフィスの住所では申請できません。
- 古物の売買、交換、レンタルを行う拠点である
- 管理者が常駐している
- 古物台帳の備え付けや買取品の記録、契約書の作成、商談スペースがある
- 古物商プレートを掲示する
バーチャルオフィスの住所で許認可を申請するメリット
バーチャルオフィスの住所で許認可を申請できるケースでは、次のようなメリットを得られます。
- レンタルオフィスよりも費用を抑えられる
- 自宅や賃貸物件の住所を非公開にできる
- 郵便物転送などのサービスを受けられる
各メリットについて解説します。
レンタルオフィスよりも費用を抑えられる
メリットの1つめは、レンタルオフィスよりも費用を抑えられることです。
バーチャルオフィスの場合、実際にオフィスを借りる必要がありません。一般的なオフィスの賃料に比べて格安であるうえに、敷金・礼金・保証金なども不要なため、初期費用と固定費の両方を削減することが可能です。
会社設立にかかる費用を抑えられることは、大きなメリットといえるでしょう。
自宅や賃貸物件の住所を非公開にできる
自宅や賃貸物件の住所を非公開にできる点も、メリットに挙げられます。
法人の本店所在地は、登記事項として一般公開されます。情報開示によって社会的信用が高まる一方、自宅や賃貸物件の所在地を不特定多数の目に晒すことは防犯やプライバシーの面から気になる、というケースもあるでしょう。
個人情報の開示に抵抗がある場合であっても、バーチャルオフィスであればプライバシーを守りつつ社会的信用を高めることが可能です。
郵便物転送などのサービスを受けられる
郵便物転送をはじめとする各種サービスを受けられることも、メリットのひとつです。
バーチャルオフィスでは以下のように、事業運営に役立つさまざまなサービスを利用できます。
- 郵便物の受け取り・転送サービス
- 電話代行サービス
- 受付代行サービス
- 秘書代行サービス
例えばバーチャルオフィスの住所を郵便物の送り先として設定している場合、郵便物転送サービスを利用すれば、郵便物が届く度にオフィスへ受け取りに行く手間が省けます。自宅の住所を知らせることなく郵便物のやり取りができる点も魅力です。
代行サービスをうまく活用して雑務の負担を減らすことで、コア業務に専念しやすくなります。利用できるサービス内容はバーチャルオフィスによって異なるため、必要なサービスを備えたオフィスの利用を検討するとよいでしょう。
バーチャルオフィスの住所で許認可申請する際の注意点
バーチャルオフィスの住所で許認可申請する際は、メリットだけでなくデメリットも存在します。特に、次の3点には注意が必要です。
- 業種によっては違法となる可能性がある
- 法人口座を開設できない可能性がある
- 銀行融資を受けられない可能性がある
各注意点について解説します。
業種によっては違法となる可能性がある
業種によっては違法性が生じる点に注意が必要です。
バーチャルオフィスを利用すること自体に、違法性はありません。ただし、一部の業種においてはバーチャルオフィスの住所で許認可申請をすることが違法になるケースがあります。また、許認可が必要な業務を無許可で開始した場合、営業停止命令や刑事罰につながる可能性があります。
事前に必ず「バーチャルオフィスの住所で許認可申請が可能な業種かどうか」を確認しておきましょう。
法人口座を開設できない可能性がある
注意点の2つめは、銀行の法人口座を開設できない可能性があることです。
多くの場合ではバーチャルオフィスでも法人口座を開設可能である一方、銀行によっては難しいケースもあります。
厳しい判断の背景には、かつてマネーロンダリング(資金洗浄)や、投資詐欺などの犯罪に銀行口座を利用される事件が横行した、という事情があります。犯罪を防止するため、犯罪収益移転防止法などに基づくチェック体制が厳しくなっているのです。
審査基準は金融機関によって異なるものの、以下のように金融機関が「実体がある」と判断できる情報が多いほど、法人口座を開設できる可能性が高まるでしょう。
- すでに事業実態がある
- しっかりとした事業計画を立てている
- 滞りなく書類が提出されている
銀行融資を受けられない可能性がある
銀行融資を受けられない可能性もあります。
事務所の所在地がバーチャルオフィスの場合でも、銀行融資を受けること自体は可能です。
ただし前提として、銀行融資を受けるためには、融資元の銀行口座を開設・保有している必要があります。そのため、希望の銀行がバーチャルオフィスでの口座開設に対応していなければ、融資を受けられません。
また、融資の審査には業種・事業計画・面接などさまざまな要素が考慮されるため、法人口座を開設できても銀行融資を受けられない可能性があります。
銀行融資ではないですが、以下の制度は、バーチャルオフィスでも比較的融資を受けやすい、とされています。
- 新創業融資制度:原則として無担保・無保証人で利用できる、日本政策金融公庫で受けられる融資制度
- あっせん融資制度:地方自治体・信用保証協会・金融機関の3機関が協力し、事業者が低金利・長期の借入をできるよう支援する制度
バーチャルオフィスの住所で許認可申請を行うまでの流れ
バーチャルオフィスの住所で許認可申請を行うまでの流れとして、以下の5ステップを解説します。
- バーチャルオフィスを利用できるか確認する
- バーチャルオフィスを契約する
- 定款を作成し認証してもらう
- 登記に必要な書類を提出する
- 申請先に許認可の申請を行う
バーチャルオフィスを利用できるか確認する
業種によっては、新しく事業を始める際に行政機関の許認可が必要となり、なかにはバーチャルオフィスでの起業が認められない場合もあります。
開始する事業に許認可が必要な場合、まずは「バーチャルオフィスを利用して営業できるかどうか」を、業種別の受付窓口に問い合わせて確認しておきましょう。
バーチャルオフィスを契約する
バーチャルオフィスを契約します。
登記の際は、必ず「バーチャルオフィスと契約済みで許可を得ている住所や電話番号」を利用してください。
定款を作成し認証してもらう
以下に挙げるような、会社の基本的な規則を定めた「定款」を作成します。
- 事業の目的
- 商号
- 本社所在地
- 資本金額(出資財産額)
- 発起人の氏名・住所
株式会社を設立する場合、会社の所在地と同一の都道府県にある公証役場で、定款の認証を受ける必要があります。公証役場で作成した定款は、バーチャルオフィスの運営会社に認証してもらいましょう。
登記に必要な書類を提出する
登記申請書や各役員の就任承諾書などの法人登記に必要となる必要書類を準備し、管轄の法務局へ提出しましょう。必要書類は、登記を行う法人の形態などによって異なります。必要に応じて専門家に相談しましょう。
法人登記が完了したら、登記簿謄本をバーチャルオフィスに提出します。
申請先に許認可の申請を行う
新しく事業を始める際に必要になる、行政機関の許認可手続きを申請します。
申請先や必要な許認可は、業種によって異なります。また、申請にあたり、バーチャルオフィスに書類を発行してもらわなければならないケースもあるため、必要な際は手配しておきましょう。
バーチャルオフィスの住所で許認可を取得する際は事前に確認しよう
バーチャルオフィスを、登記の住所として利用することは可能です。初期費用や固定費を抑えつつ、事業を始められるでしょう。ただし事業内容によっては、行政機関による「許認可」を得なければなりません。
バーチャルオフィスの住所で許認可を取得できる業種がある一方、取得できない業種もあります。
対応可否や申請先、必要となる許認可の種類は、業種によって異なります。事業をスタートする前に、しっかりチェックしておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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