- 作成日 : 2024年12月9日
子会社の利益を吸い上げるケースとは?違法な場合や配当金の決め方を解説
親会社(持株会社)が子会社の利益を吸い取ることがあります。親会社の利益を確保するため、株主還元に充てるためなど、さまざまな理由がありますが、違法にならないか注意しなければなりません。
今回は、子会社の利益吸い取りに焦点を当て、行う理由、利益吸い上げの事例等について紹介します。誤って「利益供与」とみなされないよう、きちんと理解しておきましょう。
目次
子会社の利益を吸い上げるケースとは?
子会社の利益を吸い上げるパターンとして、以下のような例があります。
- 配当金の支払い
- 貸付金による利息
- 経営指導料
- 業務受託料
- 従業員の出向
配当金の支払い
内部留保として貯めた資金を親会社が吸い上げるという例です。親会社は子会社の大株主となっていますので、多額の配当金を支払うという方法で利益が吸い上げられます。なお、100%子会社の場合、原則として法人税課税対象にはなりません。子会社側も損金として扱われません。
貸付金による利息
資金援助の目的で親会社から子会社に資金を貸し付ける場合があります。外部からの借入を削減できるという利点もありますが、利息という形で利益を親会社に支払うケースもあります。
経営指導料
経営指導を名目に子会社から利益を受け取るケースです。経営指導料は親会社の益金扱いとなります。子会社にとっては損金扱いです。
業務受託料
親会社が子会社の人事業務、総務業務を請け負い、その対価を受け取るというものです。業務受託料は親会社では益金扱いとなり、子会社にとっては損金扱いになります。
従業員の出向
親会社の従業員が子会社に出向し、子会社(この場合は出向先)から給与を受け取るという形で利益を吸い上げるケースもあります。子会社にとって税務上は自社従業員の場合と変わりありません。
しかし、従業員が出向元(この場合は親会社)と雇用契約を結んだまま出向した場合、出向先の給与が低い場合は出向元が不足分を負担する必要があります。
なぜ子会社の利益は親会社に吸い上げられるのか
親会社が子会社の利益を吸い取る理由を2つご紹介します。
儲かっているように見えるため
親会社の利益が上がっているように見せるため、子会社の利益を吸い上げる場合があります。詳細を確認すればわかることではありますが、一見すると、親会社が儲かっているように見えるので、対外的には効果的といえるでしょう。
グループの株主還元や投資に充てるため
複数の子会社を持つ企業の場合、各子会社から利益を吸い取り、それをグループ企業の設備投資や株主還元に用いることがあります。グループ全体の発展には有益だといえるでしょう。
子会社の利益の吸い上げに関する事例・ニュース
利益吸い上げの例を3つご紹介します。親会社(持株会社)に配当を渡す予定だったにも関わらず実現できなかった例も挙げていますので参考にしてください。
ユニ・チャーム
2023年の報道ですが、ユニ・チャームは中国の全額出資子会社から、日本円にして約198億円の配当を受け取ったと発表しています。この配当はグループの成長のための投資や株主還元に充てられる予定としました。なお、円安の影響で為替換算時に受取金額が増えたとのことです。
リクルートホールディングス
2022年の報道ですが、リクルートホールディングス(以下、リクルートHD)は米国の全額出資子会社「RGF OHR USA」から日本円にして約3,657億円の配当を受け取ると発表しています。リクルートHDによると、「グローバルでの資金管理の最適化を目指して実施した」とのことです。
「RGF OHR USA」は運転資金を残し、過去数年分の利益をまとめてリクルートHDに渡したという報道も出ています。ちなみに、資金使途については「グループの資金需要に応じて判断する」としています。
パーソルホールディングス
パーソルホールディングス(以下、パーソルHD)は2023年3月期の決算で、子会社からの配当金が分配可能額を超過していたため、取り消したことを発表しています。超過の理由として「計算過程における事務的なミス」としています。
子会社からの配当金が無くなったことで、パーソルHDの2023年3月期の個別決算では、売上高は前期比8%増、純利益は63%減となりました。ただし、内部でのやり取りだったため、業績見通しや株主への配当に変更は出ていません。
子会社から親会社への配当金の決め方や制限
子会社の配当金を親会社に支払うという方法で利益を渡す場合があります。その際の配当金の決め方や制限について確認しておきましょう。
子会社から親会社への配当制限
子会社が配当金を支払う場合、分配可能額が定められています。分配可能額は以下の式で算出してください。
また、配当後に純資産が300万円以下になる場合は配当ができません。
配当金の支払いルールの決め方・例
配当金の支払いルールの例をいくつかご紹介します。
- 当期純利益を基準に決める
当期純利益が大きくなるほど配当金が大きくなりますが、当期純利益がない、もしくは少ない場合、配当金は支払われない可能性もあります。
- 資本を基準に決める
利益に関わらず配当金が支払われます。子会社側には利益が出ていなくても支払わなければならないというデメリットがあります。
- 配当性向
上場企業の配当性向30%を目安するルールです。
- キャッシュフローを基準に決める
子会社のキャッシュフローが損失の場合、配当金は支払われません。
子会社が赤字の場合
子会社が赤字であっても、純資産が300万円を上回っていれば配当はできます。ただし、子会社の経営に影響を及ぼす可能性がありますので、慎重に判断しなければなりません。
子会社から親会社への配当金は税金がかかるか
子会社から親会社に支払う配当金の税金について確認しておきましょう。
子会社から親会社に支払う配当等の場合は源泉徴収不要
100%子会社から支払われる配当金の場合、源泉徴収および納付が不要となります。さらに、益金不算入になるため、配当分に対しては法人税がかかりません。
100%子会社ではない場合
100%子会社ではない場合でも、以下に該当すれば源泉徴収は行われません。
「配当等の支払に係る基準日において、当該内国法人が直接に保有する他の内国法人の株式等(当該内国法人が名義人として保有するものに限る)の発行済株式等の総数等に占める割合が3分の1超である場合における当該他の内国法人の株式等に係る配当等」
子会社から親会社への配当金に関する会計処理
子会社からの配当金を親会社が受け取った場合の会計処理の注意点は以下の通りです。
- 完全子会社からの配当は益金不算入
- 帳簿上では子会社の配当金額分を有価証券の帳簿価額から減額する必要がある
子会社の利益吸い上げが利益供与とみなされる場合
子会社からの利益吸い上げは原則違法ではありません。しかし、以下に該当する場合「利益供与」とみなされる可能性もあるため注意してください。
定期的に定額の支払いがある場合
「毎月」など、定期的に定額の支払いがあると、利益操作を疑われる恐れがあります。発注書・請求書を作成し、記録を残しましょう。
金額の根拠が不明な場合
支払われる金額の根拠が不明な場合も要注意です。何に対して支払われているかの記録を残してください。
子会社から利益吸い上げを行う際は違法にあたらないか要確認!
親会社が子会社から利益を吸い取るは「利益が上がっているように見せるため」「グループの株主還元や資本投資に利用するため」などさまざまです。一見すると、あまり良くないことのように思えますが、グループ全体の活性化に役立ちますので、良い面もあることも認識しておきましょう。
また、100%子会社の場合、受け取った配当金は全額益金不算入になります。さらに、配当金に係る所得税の源泉徴収も行われないという利点もあります。
ただし、同じグループ内であっても「分配可能額」を超えた配当はできません。この点は留意しましょう。
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