• 更新日 : 2023年7月28日

経営権とは?経営権の譲渡について詳しく解説!

「経営権」という言葉を耳にする機会が増えています。「経営権」が会社経営に関する何らかの権利を意味することは理解していても、誰がどのような権利を有しているかについてはご存じでない方が多いかもしれません。本記事では経営権の基本につき、経営権の譲渡や議決権の保有割合による株主の権利といったテーマを交えながら解説します。

経営権とは?

経営権とは、文字通り会社の経営を行う権利のことです。では、会社の経営を行っているのは誰でしょうか。一般的な株式会社の場合、会社の経営を行っているのは経営者です。多くの株式会社においては、経営権は会社の経営者が掌握しています。一方、経営者を選任するのは株主です。経営者は株主に選任され、株主の代わりに会社を経営します。よって、経営者を選任できる権利を持つ株主こそが真の意味で経営権を持っているということになります。

経営権と支配権の違い

経営権という言葉とともに、支配権という言葉もよく聞きます。後に詳しく解説しますが、経営権の真の保持者である株主は、保有する株式の議決割合によって行使できる権利を有しています。そして、権利の内容は保有する株式の議決割合によって違います。

例えば、議決権のある株式の1/2超を保有している株主は、普通決議を成立させることが可能です。さらに、議決権のある株式の2/3超を保有している株主は、特別決議を成立させることが可能です。そして一般的には、株主が特別決議を成立させる状態を確保すると、支配権を確保したと見なされます。

経営権と経営三権の違い

経営三権とは、労働者や労働組合との合意なしに会社が自由に行使できる権利のことです。具体的には、従業員に対して業務を命令できる「業務命令権」、従業員の異動や転勤などを命令できる「人事権」、会社が保有する建物などの施設や設備などの使い方を自由に決められる「施設管理権」の3つです。

経営三権は、経営者と労働者が労使交渉を行う際に両者に示された「経営者の権利」であり、労働者が関与したり、影響力を行使したりできないものです。その意味において一般的な経営権のニュアンスとは異なっています。

経営権の譲渡とは?

経営権の譲渡とは、文字通り経営権を譲渡することです。一般的な株式会社において、会社の経営権の真の保持者は、株主であると上述しました。よって一般的には、経営権の譲渡は議決権のある株式を譲渡することで行われます。なお、経営権の譲渡においては、全てのケースで議決権のある発行済株式の100%を譲渡して行われるわけではありません。例えば、議決権のある発行済株式の34%だけを譲渡する、あるいは51%を譲渡するといったケースもあります。

また、議決権のある株式を譲渡せずに、会社の事業だけを譲渡して経営権を譲渡するスキームもあります。スキームは営業譲渡とも呼ばれます。営業譲渡では売り手企業の事業に関連する資産と負債だけが買い手企業へ譲渡されます。営業譲渡後、経営権が買い手企業へ移る形になります。

議決権の保有割合によって変わる株主の権利

株式会社の経営権の真の保持者である株主は、保有する株式の議決権保有割合によって行使できる権利の種類が違ってくると上述しました。具体的に株主は議決権保有割合によってどのような権利を行使できるのでしょうか。

議決権保有割合が1%以上

議決権保有割合が1%以上の株主は、取締役に対し株主総会に提出する特定の議案を通知するよう求める権利を行使できます。また、親会社(最終完全親会社)の株主が子会社の取締役を訴える「多重代表訴訟」の提訴が可能です。

議決権保有割合が3%以上の株主は、取締役に対して株主総会の招集を請求することが可能です。さらに会社の会計帳簿などの資料の閲覧および謄写(コピー)を請求することができます。

議決権保有割合が1/3超

議決権保有割合が1/3以上の株主は、株主総会の特別決議に対して単独で否決することが可能です。特別決議の例としては「定款の変更」「営業の譲渡」「会社の解散」「減資」「合併契約の承認」などが挙げられますが、特別決議の成立には発行済株式総数の過半数を保有する株主が株主総会に出席し、その議決権の3/2以上の賛成が必要となるため、議決権保有割合が1/3以上の株主の反対により、否決することが可能になります。

議決権保有割合が1/2超

議決権保有割合が1/2以上の株主は、株主総会の普通決議を単独で可決することが可能です。普通決議の例としては「取締役・監査役の選任」「取締役の解任」「剰余金の配当」「自己株式の取得」などが挙げられますが、普通決議の成立には発行済株式総数の過半数を保有する株主が株主総会に出席し、その議決権の1/2以上の賛成が必要となるため、議決権保有割合が1/2以上の株主の賛成により、可決することが可能になります。

議決権保有割合が2/3超

議決権保有割合が2/3以上の株主は、株主総会の特別決議に対して単独で可決することが可能です。上述した「定款の変更」「営業の譲渡」「会社の解散」「減資」「合併契約の承認」といった特別決議を単独で可決できます。

一般的な株式会社における経営権の取得の場合、「取締役・監査役の選任」「取締役の解任」などの決議を単独で可決したい場合は議決権保有割合1/2以上、「定款の変更」「営業の譲渡」などの特別決議を単独で可決したい場合は議決権保有割合2/3以上の取得を目指すかたちになります。

経営権を確保するための方法

実際に経営権を確保するために、通常はどのような方法が採られるのでしょうか。保有する株式の議決権保有割合によって株主が行使できる権利の種類が違ってくると何度も書きましたが、一般的なM&A(企業の買収・合併)においては、買収の目的を設定した上で(例:買収した会社の取締役の選任を行う、買収した会社複数社を合併させるなど)、その目的が実現できる議決権保有割合以上の株式の取得を目指します。

双方の合意による取得

株式の取得方法としてまず挙げられるのが、買収側企業と被買収企業の双方の合意による取得です。中小企業の場合、会社の株主と経営者が同じである「オーナー企業」が多く、経営者同士がM&Aに合意して被買収企業のオーナー経営者が保有する会社の株式を買収側企業のオーナー経営者へ売り渡すといったケースが多くあります。

また、オーナー経営者が自社の従業員へ持ち株を譲渡し、従業員が新しいオーナー経営者になるMBO(Management Buyout)またはEBO(Employment Buyout)というスキームが使われるケースもあります。

株式公開買付

上場企業の場合、株主に対して株式の譲渡を呼び掛ける株式公開買付が行われることがあります。株式公開買付はTOB(Takeover bid)とも呼ばれ、不特定多数の株主に対して買付価格や買付期間などの情報を公告し、証券取引所外で買い取るスキームです。買収側企業にとっては買収価格の算出がしやすく、買収そのものの手続きも比較的シンプルであるというメリットがあります。一方、株式公開買付においては買取価格が市場価格にプレミアムを乗せた価格になるケースが多く、買収コストが相応に大きくなるというデメリットがあります。

株式等売渡請求

株式等売渡請求とは、2014年の会社法改正により導入された制度で、対象会社の議決権保有割合が90%を超える株主(特別支配株主)が、対象会社の承認を得た上で、他の少数株主が保有する対象会社の株式の全部を強制的に取得できるものです。少数株主を排除し、経営権を完全に掌握するために使われます。上述した通り、たとえ議決権保有割合が1%超の少数株主でも、「多重代表訴訟」の提訴が可能であるなど経営上のリスクになり得ます。株式等売渡請求を行うことで、このようなリスクを解消できます。

経営権の譲渡で起こりやすい問題

実際の経営権の譲渡では、トラブルが生じるケースが少なくありません。経営権を譲渡するにあたり、まずは条件面で当初から折り合わないケースが多く、ディールが成立しないで終わることもあります。また、当初は条件面で折り合っていたとしても、話を進めていくうちに事業環境が変わってしまったり、従業員や取引先の引き継ぎでトラブルが生じたりすることもあります。

事業承継の場合

事業承継で経営権を譲渡する場合、起こりやすい最大の問題は後継者不足です。帝国データバンクが行った調査によると、2022年の全国・全業種約27万社の後継者不在率は57.2%で、前年の61.5%から4.3ポイント低下したものの依然として高い水準にあります。また、60歳以上の後継者のうち50%超が将来的な廃業を予定しており、「後継者難」を理由とする廃業が約3割に迫っています。経営者が事業継承を望んでいても、後継者が存在しない、または見つからないというケースが多いのが実態となっています。

M&Aの場合

M&Aによる経営権の譲渡の場合、起こりやすい問題は企業文化の違いにより社内であつれきが生じる場合があることです。特に買収企業が業種や業態が違う企業を買収する場合に起こりやすいでしょう。企業はそれぞれ歴史と文化を持っており、社員の仕事のやり方もそれぞれです。一方、M&Aによる経営権の譲渡がなされた場合、被買収企業の社員は買収企業の文化や仕事のやり方に合わせるよう促されるケースが多く、ときとして文化や慣習的な対立に至ることもあります。経営権を掌握した後の合併企業の文化をどのようなものにするのか、経営者はあらかじめイメージしておく必要があります。

経営権の譲渡は株式譲渡で行われることが多い

一般的に経営権の譲渡は株式譲渡で行われます。その理由は、営業譲渡などの他のスキームよりも手続きがシンプルでスピーディーだからです。株式の売り手と買い手が合意し、買い手が対価を支払って支配権が行使できる株主になれば、その時点で経営権譲渡は終了です。営業譲渡による経営権譲渡のように従業員の転籍や資産・負債移転手続きなどが必要なく、被買収企業をそのままの状態で取得することが可能です。

経営権を正しく理解し、自社の経営に役立てよう!

以上、経営権の基本について、経営権の譲渡や議決権の保有割合による株主の権利といったテーマを交えながら解説しました。M&Aキャピタルパートナーズによると、日本国内のM&A市場における売買件数は、1985年の年間260件から2021年の年間4,300件へと、35年で16倍以上に増加しています。我が国でM&Aが一般化しつつあることを示しており、このトレンドは今後さらに拡大するでしょう。経営権を正しく理解し、M&Aを戦略的に活用して、自社の経営に役立ててください。


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