- 更新日 : 2024年1月9日
経営再建とは?企業再生の事例や手法も解説
経営状態を悪化させている原因を取り除き、企業の経営状態を健全化する取り組みを「経営再建」と呼びます。自社の経営が危機にある場合、経営者は経営再建の可能性を分析した上で、さまざまな取り組みを進めることが必要です。
この記事では、経営再建の意味や事業再生との違いについて、詳しく解説します。さらに、日本における経営再建・企業再生の事例についても紹介するため、ぜひ参考にしてください。
目次
経営再建とは?
経営再建とは、企業の経営状態を悪化させている債務超過やキャッシュフロー悪化などの原因を排除し、経営の立て直しを図る取り組みです。「企業再生」「企業再建」と言われることもあります。
「事業再生」や、「法的再生」「民事再生」なども経営再建に関連する用語です。以下では、経営再建に関連する用語を詳しく解説します。
経営再建と事業再生の違い
事業再生とは、採算性が悪い事業を抜本的に改革し、収益を上げられるように立て直すことです。
企業の倒産は企業だけの問題ではなく、企業の債権者や取引先にも迷惑がかかります。倒産を回避するために、債務の一部免除や資金調達、事業縮小、リストラなどの手段を用いて、事業を黒字化することが事業再生の目的です。
経営再建と事業再生の違いは、立て直しを図る対象が企業の経営状態か、事業の収益性かという点です。企業全体の経営を立て直す場合は「経営再建」、事業の立て直しが目標である場合は「事業再生」のように使い分けられています。
ただし、どちらの用語も法律上の明確な定義はありません。経営状態を立て直すには事業の再生が必要であり、事業の再生は経営状態の立て直しにつながるため、経営再建と事業再生には大きな違いはないとも言えます。
法的再生と民事再生
法的再生と民事再生は、どちらも経営再建を進める際の手法を指します。
- 法的再生
法的再生とは、裁判所の関与・監督のもとで経営再建を進める方法です。法的再生は手続きが法律で定められているため流れが明確で、経営再建をスムーズに行えます。裁判所の関与によって当事者間の公平性も保つことができ、再生案に反対意見が出た場合は多数決の原理で進められるメリットもあります。
- 民事再生民事再生は法的再生の一種で、裁判所の関与を受けながら、経営者が中心となって経営再建を進める方法です。個人・法人を問わず利用できる一般的な方法であり、中小企業はもちろん、大企業の経営再建でも利用するケースがあります。
民事再生は現経営陣の退陣を求められない点が特徴です。現経営陣が経営権を喪失することなく、主体的に経営再建を進められます。
なお、法的再生の種類は他にも「会社更生」があります。会社更生では現経営陣の退陣が求められるため、現経営陣の経営権を維持できません。
経営再建を考えた際にすべきこと
経営再建の実行には、いくつかの準備が必要となります。経営再建を考えている方は、「経営再建が可能であるか」と「経営層の変更をすべきか」を考えましょう。
以下では、2つの項目について検討が必要である理由と、検討する際のポイントを紹介します。
そもそも経営再建が可能かどうかを分析する
経営再建を成功させるには、そもそも「自社は経営再建が可能か」を考える必要があります。経営再建にはさまざまな施策が必要であり、施策実施には多くの経営資源がかかる場合があるためです。
経営再建を考える企業は一般的に収支が赤字であり、財務状況に余裕がないケースは少なくありません。少ない再生資金では経営を立て直すだけの十分な施策を用意できず、結果として経営再建が失敗する可能性が高まります。
経営再建が成功するか、失敗するかを予測するために、経営再建の実現可能性を分析する必要があります。経営再建が可能かどうかを分析するには、自社の経営状態を悪化させている原因を明確化しましょう。
経営状態を悪化させる原因の例としては、「主力商品の市場における競争力低下」が挙げられます。商品の競争力を上げるには、「商品の付加価値向上」や「ブランド力の強化」といった施策があるものの、企業の財務に余裕がなければ必要な施策は実行できません。
経営再建が難しい場合は、事業を売却・清算したほうが債務返済につながる可能性があります。経営再建の実現可能性が高く、コスト面などで無理が発生しない場合に、経営再建を検討しましょう。
経営者・役員の変更をすべきかどうかを考える
経営再建を進める際は、現経営陣である経営者・役員についても検討が必要です。経営者・役員を変更すべきかどうかを考えましょう。
経営状態の悪化が見られる原因の1つには、経営者・役員の能力に問題があるケースが挙げられます。
しかし、経営者・役員の能力が十分にありながら、社会情勢や突発的なアクシデントによって経営が傾く可能性もゼロではありません。経営者・役員の変更を検討する際は、個々の能力や資質についての分析が必要です。
例を挙げると、経営者が高齢となっていて体力・判断力に不安がある場合は、経営者を変更する必要性が高くなります。事業継続の意欲が低かったり、経営課題を直視できなかったりする場合も、変更をしたほうが企業利益につながるでしょう。経営者・役員を変更した上で外部人材を経営者として招き、経営再建を進める手法もあります。
経営陣・役員の変更をしない場合は、経営陣を支える周囲の人材について検討が必要です。相談先として信頼できる外部の専門家を見つけておくと、経営体制の改善措置などについて助言を得られます。
経営再建・企業再生の事例
経営再建・企業再生を進めたいものの、どのような考え方・方法により、自社の再建・再生が可能であるのか疑問に感じている方は多いでしょう。以下では経営再建が成功した事例として、有名な3つの大企業で行われた経営再建・企業再生の内容を紹介します。
日本航空
日本航空は2010年1月に、2兆3,000億円の負債を抱えた状態で会社更生法の適用を申請しました。同時に、企業再生支援機構に支援の申し込みを行うことで再生手続きを開始します。日本航空が行った経営再建の施策は、主に下記の内容です。
- 機材と路線の大幅なダウンサイジング
- リストラや空港体制の縮小による人件費・固定費の削減
- 国内運航子会社や海外航空会社などのネットワーク再構築
- 子会社の売却
- リスク対策の早期実施
- 従業員の意識改革
日本航空では経営再建にあたり、経営陣の変更が行われています。会長に稲盛和夫氏、社長に大西賢氏が就任し、経営再建の施策を進めました。
また、更生計画が認可されたことで、企業再生支援機構からの出資や、債務免除による債務負担の軽減などを受けています。
さまざまな経営再建の施策が行われた結果、日本航空は翌期には1,884億円の営業利益を計上できるようになり、高収益企業への再建に成功しました。2012年9月には東京証券取引所への再上場も果たしています。
参考:稲盛和夫 オフィシャルサイト「日本航空の再生を支援(2010年)-日本航空を再生させた「フィロソフィ」と「アメーバ経営」-」
ダイエー
ダイエーは1997年に経常赤字となり、2000年と2002年にはメインバンクによる金融支援が行われるほどの経営危機となります。金融支援後も経営不振は深刻化し、2004年12月に産業再生機構による支援が行われました。
産業再生機構の支援によって行われた経営再建施策の主な内容は、下記の通りです。
- コア事業の小売業を除く、ノンコア事業と資産の整理・売却
- 半減を目途とした子会社の整理
- 不採算店舗の撤退・売却
- 衣料品や日用品の売場における外部テナントの活用
- GMS(総合スーパー)からSM(食品スーパー)への転換
- 組織改革(商品統括廃止など)
また、ダイエーでは経営再建のために「DASH80」というプロジェクトを立ち上げ、従業員などが経営再建への参加意識を高められる環境づくりを行っています。経営陣の変更も行い、会長に林文子氏、社長に樋口泰行氏が就任しました。
経営再建の結果、ダイエーは食品をコアとする小売業のビジネスモデル構築に成功しています。産業再生機構による支援計画終了後も、単体での黒字が実現できるようになりました。
参考:ダイヤモンド・チェーンストアオンライン「ダイエーの経営再建プロセス」
日本マクドナルド
日本マクドナルドは2014年頃に発覚した食品管理についての問題が影響し、2014年~2015年に2期連続での大幅赤字を計上しました。日本マクドナルドが危機を乗り越えるために選択した手段が経営再建です。
日本マクドナルドの経営再建は、自社の独自性を強化する方向で行われました。具体的な経営再建の施策は下記の通りです。
- 「タウンミーティングwithママ」による消費者リサーチ
- Webサイトでの徹底した情報開示による「安心安全」の訴求
- フランチャイズ加盟店の裁量を拡大
- スマホアプリ「KODO」を利用した従業員の意識改革
日本マクドナルドが行った経営再建の施策は、「食品管理の問題」と「消費者からの信頼回復」に集中している点が特徴です。
日本マクドナルドは自社の課題と向き合い、強みであるマーケティング戦略やフランチャイズ戦略を強化することにより、2016年12月には業績のV字回復に成功しました。
参考:NTT東日本「信用失墜したマクドナルドの、起死回生の地道な手段」
事業再生・企業再建支援資金とは
事業再生・企業再建支援資金とは、経営再建などが必要な中小企業を対象に、経営再建に必要な設備資金・運転資金を日本政策金融公庫(日本公庫)が融資する制度です。経営再建資金の融資を通じて、地域経済における産業活力の維持を図ることを目的としています。
- 利用対象者
経営再建などが必要な中小企業は、下記の要件をすべて満たすことで事業再生・企業再建支援資金が利用できます。
- 過剰債務の状況に陥っているなど指定の条件に当てはまり、早急に経営再建を行う必要がある
- 相応の債務償還能力があり、かつ適切な経営再建計画を策定でき、金融機関など関係者からの支援体制が構築されていて、自助努力による経営再建が見込める
- 事業再生・企業再建支援資金の利用後も、継続性がある経営再建についての指導を行うことで、経営再建の円滑な遂行ができる
また、経営再建が必要な中小企業以外も、「認定支援機関の経営改善計画策定支援事業によって経営改善に取り組んでいる」などの要件を満たしていれば利用できます。
- 融資限度額・基準利率
事業再生・企業再建支援資金の融資限度額は「7億2,000万円」です。基準利率は上限2.5%で設定されており、要件を満たす場合には特別利率が適用されます。 - 返済期間
返済期間は、設備資金が20年以内、運転資金が15年以内(どちらも据置期間2年以内)です。運転資金の返済期間については、要件を満たす場合は20年以内に延長できます。
出典:日本政策金融公庫「事業再生・企業再建支援資金(企業再建・経営改善支援関連)」
【中小企業向け】日本公庫を活用した企業再生
最後に、日本公庫が中小企業の企業再生をサポートした事例を3つ紹介します。
【金融取引の正常化】資本性ローンを含む再生貸付支援により金融取引の正常化等を支援した事例
日本公庫の融資・支援によって財務体質の強化が図られ、金融取引の正常化も実現できました。
【資本性ローン】メイン行と連携した外部専門家紹介及び資本性ローンにより経営改善を支援した事例
また、企業が資金繰りに追われることなく改善策の実施ができるよう、資本性ローンによる資金繰り支援も行っています。
日本公庫の融資・支援によって経営管理体制が強化され、財務体制の強化および資金繰りの安定化が果たせました。
【債権の不等価譲渡】再生ファンドを活用した不等価譲渡により当社の再生に取り組んだ事例
日本公庫の再生支援によって旅館業者の財務体質が改善され、経営の早期再建が実現できました。
成功事例から自社に役立つアイデアを探し出そう
経営再建に着手した場合、そもそも経営再建が可能であるのか分析した上で、経営者の能力を見極める必要があります。経営者の能力に問題がある場合は、役員などの変更も必要です。
実際に経営再建を進めるためには、経営再建を成功させた企業の事例を確認することがおすすめです。さまざまな事例を確認して、自社の経営再建に活用できるアイデアを探してください。成功事例から優れたアイデアを探し出し、自社の経営再建に役立てましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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