• 作成日 : 2024年11月15日

事業承継士とは?難易度や年収、他の資格との違い、相談するメリットを解説

事業承継士は、中小企業の事業承継を専門的にサポートする民間資格です。

昨今の事業承継の高まりとともに、経営者と後継者の橋渡し役として、税理士や弁護士とも連携しながら、総合的な支援を提供しています。

この記事では資格の定義や業務内容、取得方法、年収などについてくわしく説明していきます。

事業承継士とは?

事業承継士は、企業の円滑な事業承継をサポートする専門家です。一般社団法人事業承継協会が認定する民間資格であり、中小企業の事業承継問題に特化しています。

主な役割は、企業の経営状況分析から、後継者の育成計画策定、株式移転や財産分配の助言まで多岐にわたるものです。

税理士や弁護士と連携しながら、事業承継士は承継プロセス全体を包括的に支援します。

資格取得には、中小企業診断士や税理士などの国家資格保有者が対象で、講座受講と試験合格が必要です。また、資格は更新制で、3年ごとに所定の研修受講と単位取得が求められます。

近年の後継者不足や事業承継の複雑化によって、事業承継士の需要は高まっており、中小企業の存続と発展に不可欠な存在となっています。

事業承継士の業務内容

事業承継士は、経営者から後継者への円滑な事業バトンタッチを実現するため、財務・税務の専門知識を活用し、承継計画の立案から実行までをサポートします。

さらに、後継者の経営力向上に向けた育成支援や、関係者間の調整など、包括的なコンサルティングを提供します。

事業承継の計画の策定

事業承継士の重要な業務の1つが、中長期的な事業承継計画の立案の支援です。

経営者の意向と企業の状況を踏まえ、具体的な戦略を策定します。財務、税務、法務などの観点からリスク分析を行い、潜在的な課題に対する対策を提案します。

また、後継者の選定や育成計画の策定、株式移転の方法など、具体的な実行計画も立案します。さらに、従業員や取引先などのステークホルダーとの合意形成をサポートし、円滑な事業承継の実現を図ります。

税務や法務のアドバイス

事業承継士は、税務や法務に関する基本的な知識を持ち、事業承継の全体的な構想を立てる際に必要な情報を提供する役割を担います。

ただし、税務や法務に関する具体的なアドバイスは税理士や弁護士の専門分野であるため、専門家への橋渡し役を必要に応じて行い、総合的な支援を可能にします。

また、事業承継税制の改正や民法改正などの最新動向を常に把握し、クライアントの状況に合わせ、円滑な事業承継をサポートすることも重要な役割です。

資金調達の支援

経営者が安定した資金環境で円滑な事業承継を実現することも、事業承継士の大きな役割の1つです。

株式買取資金や納税資金など、事業承継に必要な資金を企業の経営状況に基づき、試算します。資金調達が必要と判断された場合、融資や各種補助金、ファンド活用など多様な手段を比較し、企業の状況に最適な方法を提案します。

また、金融機関などとの交渉時に、事業の成長性と承継計画の実現可能性を明確に説明し、好条件での資金調達を実現することも重要な業務です。

後継者の育成を支援

後継者の信頼獲得と円滑な事業承継のサポートも事業承継士の大きな役割です。

まず、後継者に対して、経営戦略やリーダーシップなどの観点から分析し、必要に応じて、経営実務研修や外部セミナー参加、OJTなどを組み合わせた育成プログラムを策定・実施します。

経営者から後継者への権限移譲では、段階的な権限委譲計画の立案や、重要な意思決定プロセスへの参加などをサポートします。また、幹部社員や取引先、金融機関などの主要ステークホルダーとの関係構築も重要な業務です。

M&Aのサポート

昨今、増加しているM&Aを活用した事業承継の提案も業務の1つです。

企業の状況や経営者の意向に基づき、M&Aの可否や最適なタイミングを判断します。ここでは事業承継士が行う業務の概要を紹介します。

  • 買収先や売却先の選定(候補企業の財務状況や事業シナジーの分析に基づく最適なマッチング支援)
  • M&Aプロセスの実務支援(交渉戦略の立案から契約書作成、デューデリジェンスの実施)
  • M&A後の統合(PMI)支援

これらの支援を通じて、円滑なM&A実現を目指します。

【参考:PMIについて】

PMI(Post Merger Integration:合併後の統合)は、一般的にM&A後の統合プロセスのことですが、事業承継においても、経営理念の共有、組織・人事の統合、企業文化の融合、ステークホルダーとの関係維持などを通じて、円滑な承継と更なる発展を実現する重要な取り組みです。

【相談者向け】事業承継士に依頼するメリット

事業承継士に依頼する最大のメリットは、専門家による包括的なリスクマネジメントです。

事業承継に関する法務、税務、財務の各側面から潜在的なリスクを特定し、予防的な対策を講じることで、円滑な事業承継を実現できます。

結果として、経営者は本業に集中でき、後継者との信頼関係構築や従業員のモチベーション維持など、より本質的な課題に注力できるのです。

事業承継がスムーズに進められる

事業承継士に依頼することで、体系的な事業承継計画の策定が可能になります。

専門家の視点から潜在的な問題点を早期に発見し、次のような適切なサポートが得られます。

  1. 事業承継の実務支援
    • 後継者の選定と育成支援
    • 最適な株式移転方法の提案
    • 税務対策の立案
  2. 関係者との調整支援
    • 関係者間の合意形成促進
    • ステークホルダーとの調整
    • 家族や従業員との関係維持

これらの総合的な支援によって、スムーズな事業承継の実現が期待できます。

専門的なアドバイスを受けられる

事業承継士は、税務・法務・財務の複合的な視点から専門的なアドバイスを提供します。

最新の法改正や制度変更にも精通しており、次のようなサポートが得られます。

  1. 幅広い専門知識に基づく支援
    • 事業承継税制の活用提案
    • M&Aによる承継手法の検討
    • 税務・法務面のリスク対策
  2. 実践的な解決策の提示
    • 事例に基づく具体的な提案
    • 企業特性に応じた戦略立案
    • 状況に応じた承継計画の策定

専門的知識と実践的な経験を活かし、企業の状況に応じた事業承継の支援によって、円滑な事業承継の実現が期待できます。

時間と労力の節約ができる

事業承継士に依頼することで、煩雑な手続きの効率化が図れ、大幅に時間が節約されます。

  1. 手続き面での負担軽減
    • 各種書類の作成代行
    • 申請手続きの代行
    • 承継プロセスの一元管理
  2. 専門家ネットワークの活用
    • 税理士との連携
    • 弁護士との協力
    • 関係機関との円滑な調整

これらの支援によって、経営者は本業に専念でき、心理的負担も軽減されると共に、より戦略的な意思決定に集中することが可能となります。

【相談者向け】事業承継士に依頼する際の注意点

事業承継士に依頼する際は、まず経験と実績の確認が重要です。過去の支援実績や成功事例を確認し、自社の状況に適した経験を持つ専門家を選ぶことが大切です。

以下の点について、事前に十分な確認を行ってください。

  • 費用体系と契約内容(着手金、成功報酬、中途解約条件など)
  • 価値観や方針の一致度
  • コミュニケーション方法と頻度
  • 機密情報の管理体制
  • 具体的な支援内容とゴール設定

事業承継は長期的なプロセスであり、密接なコミュニケーションが必要です。初回面談でこれらの点を確認し、長期的な関係構築が可能か見極めることで、円滑な事業承継の実現につながります。

事業承継士と他の資格との違い

事業承継を考えている企業経営者や事業主にとって、適切な専門家を選ぶことは成功の鍵となります。

事業承継に関係する専門家には、事業承継士、事業承継アドバイザー、事業承継プランナー、事業承継・M&Aエキスパートなどがあります。それぞれの専門家には異なる特徴があり、どのようなサポートを期待するかによって選ぶべき相手が変わってきます。

以下の表で、それぞれの資格と特徴を比較し、あなたの事業に最適なサポートを提供する専門家を見つけるための参考にしてください。

名称特徴主なサポート内容支援形態
事業承継士
  •  事業承継全般の総合的支援
  •  中小企業支援に特化
  •  他の専門家との連携が強み
  •  承継計画の策定
  •  後継者育成支援
  •  総合的なアドバイス
個別支援または

継続的支援

事業承継アドバイザー
  •  金融機関職員向けの資格
  •  基礎知識習得が目的
  •  初期相談対応に特化
  •  基本的な相談対応
  •  専門家への橋渡し
  •  金融支援の提案
金融機関での支援が中心
事業承継プランナー
  •  中小企業庁認定の資格
  •  初期診断が得意
  •  支援機関との連携
  •  経営状況の分析
  •  課題の整理
  •  支援策の検討
公的支援機関での支援が中心
事業承継・M&A
エキスパート
  •  M&A専門の知識
  •  企業価値評価
  •  事業再編の専門家
  •  M&A全般の支援
  •  企業価値算定
  •  事業再編提案
専門的なアドバイザリー業務

事業承継士は、総合的な視点でサポートを行うため、税務や法務、経営のあらゆる側面をカバーしながら事業の引き継ぎを支援します。

事業の状況や目的に合った専門家を選ぶことで、よりスムーズで効果的な事業承継が実現できるでしょう。

事業承継士の資格を取得するには?

事業承継士の資格を取得するには、一般社団法人事業承継協会が実施する試験に合格し、認定を受ける必要があります。

資格取得後は3年ごとに更新が必要で、その期間内に30単位の継続研修の受講が必要です。資格は専門知識だけでなく、実務能力やコミュニケーション力も重視されます。

参考:一般社団法人事業承継協会 資格更新と継続研修 

事業承継士の難易度

事業承継士の試験では、資料分析力、提案書作成能力、財務分析力などの実務的なスキルが求められ、特に面接試験では実務経験に基づく課題解決力が重視されます。

さらに、経営分析能力や文書作成能力も重要視され、事例研究やグループディスカッションを通じた実践的なスキルの習得が必要です。

中小企業診断士や税理士と比較すると、事業承継士は事業承継に特化した専門性が求められる点が特徴です。

税理士や弁護士が事業承継士を取得するメリット

税理士や弁護士が事業承継士の資格を取得するメリットは、既存の専門知識に加えて事業承継の実務的なノウハウを獲得できる点です。

この結果、クライアントに対して、税務・法務面の助言だけでなく、デューデリジェンスから事業計画策定、後継者育成まで、中長期的な視点での包括的なサービスを提供することが可能となります。

さらに、事業承継士のネットワークを通じて、M&Aや事業再生の専門家との協力体制を構築することで、新たな案件の創出や、より高度な支援体制の確立も期待できます。

事業承継士の年収はどのぐらい?

事業承継士の年収は、経験年数や実績、所属する組織によって大きく変動します。

フリーランスの場合や企業に所属する事業承継士の違いだけでなく、地域や業界によっても、事業承継士の年収は異なります。

キャリアステージに応じて、事業承継士の年収は変化するため、経験を積み、実績を重ねることが必要です。

将来的には、独立開業や、コンサルティング会社での活躍など、キャリアの選択肢も広がるでしょう。

事業承継士の資格を活かせる働き方

事業承継士の資格は、多様な働き方を可能にします。企業内でのコンサルタントとしての活動、金融機関や保険会社での業務、さらには独立して事業承継コンサルタントとして活躍することも可能です。

自分の専門性を活かしながら、業種に関係なく、さまざまな企業の事業承継をサポートできる点が特徴です。

コンサルティング会社

事業承継士は、大手コンサルティングファームや中小企業向けコンサルティング会社でも能力を発揮できます。

大手ファームでは、複雑な事業承継案件を扱い、戦略的なアドバイスを提供します。中小企業向けコンサルティングでは、よりきめ細かなサポートが求められ、オーナーとの密接な関係構築が重要です。

キャリアの選択肢が広がり、経験を積むにつれて、より高度な案件や管理職としての役割が期待できます。

金融機関・保険会社

金融機関や保険会社でも、事業承継士の専門知識が大いに活かされます。

例えば、事業承継に伴う資金調達や、相続税対策のための保険商品の提案など、事業承継関連の金融商品の開発が業務となります。

また、リスクマネジメントの観点から、事業承継に伴う財務リスクの分析や対策立案も重要な業務の1つです。

金融知識と事業承継の専門知識を融合させることで、顧客に高付加価値のサービスを提供できる点が大きな強みです。

会計事務所・税理士事務所

会計事務所や税理士事務所では、事業承継士の資格が税務面からの事業承継支援に大きく貢献します。

相続税や贈与税の計算、節税対策の立案、財務分析や事業価値評価の実施などが想定される業務で、経営相談から長期的な事業承継計画の策定まで、幅広いサポートを提供できます。

会計・税務の専門知識と事業承継支援のスキルを組み合わせることで、クライアントに対してより包括的なサービスを提供できる点が大きな強みとなるでしょう。

法律事務所

法律事務所では、事業承継士の資格を持つ弁護士として法的側面から事業承継をサポートします。株式譲渡や事業譲渡に関する契約書の作成、株式移転の手続き支援、遺言書作成のアドバイスなどが想定される主な業務です。

また、事業承継に伴う紛争の予防や、紛争発生時の解決策の提案も重要な役割です。

事業承継士としての知識と弁護士としての法的スキルを融合させることで、クライアントに対してより包括的で実効性の高いアドバイスを提供できるでしょう。

事業承継士は中小企業の未来を支える専門家

少子高齢化が進む中、事業承継の需要は増加の一途をたどり、より高度な専門性が求められているのが事業承継士です。

さらに、AIやクラウドを活用した新たな支援形態が登場し、デジタルトランスフォーメーション(DX)やサステナビリティといった新しい経営課題への対応力も事業承継士には必要となっています。

従来の専門知識に加え、このような時代の変化に応じた柔軟な支援能力が求められる事業承継士は、中小企業の発展を支える重要な存在なのです。


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