- 更新日 : 2022年10月7日
会社設立時の資本金はいくらにすべき?金額の決め方、払込方法を解説!
株式会社や持分会社(合同会社等)の利益追求をする法人は、出資をする人がいなければ設立することができません。それでは会社設立に必要な資本金(出資額)はいくらから認められるのでしょうか。資本金1円での設立に問題はないのでしょうか。
今回は、運転資金などを見越した資本金額の決め方、資本準備金や借入金の取扱い、資本金を入金するために必要な発起人個人の口座の準備や通帳コピー、払込証明書の作成、資本金入金時の仕訳まで解説していきます。
目次
資本金とは?
株式会社などには、必ず「持ち主」=「出資者」がいます。必ずしもこの出資者と経営者が同一とは限りませんが、ここでは出資者と経営者が同一なものとして解説していきます。
資本金とは、事業者が準備した会社の運転資金(設備投資含む)のことをいいます。平成18年に商法(会社法)の改正があり、会社を設立登記する際の資本金は1円からでもできることになりました。
それ以前は、株式会社1,000万円以上、有限会社300万円以上という基準がありましたが、現在では少ない資金でも登記できることとなっています。では実際のところ、いくらくらいの資本金で会社を設立すればいいのでしょう。
資本金の最低金額はいくらから?1円でもいい?
会社設立直後はもちろん決算書がありません。なので、取引先や銀行が会社の信用度をはかるには、資本金がどれくらいあるのかを見るしかないのです。資本金を1円で設立したとして、その会社は一体その資本金で何ができるでしょう。
会社を大きくするために1円で投資できるものがあるでしょうか。事業者の自己資金があるといっても口先だけで取引先は確認のしようがありません。
「商品を買いたい」といってもそれを買うお金がどこにあるのかわからなければ、商品は売ってもらえません。ちゃんと「安定した経営ができます」という証拠を提示するためにも、ある程度の資本金は計上したほうがよいでしょう。
資本金=信用度
銀行融資を受けるにも、資本金が大切です。お金が返ってこなさそうな会社に融資はしませんよね。創業時には各銀行で「創業融資」という枠があります。各金融機関でいくらまで、と決まっていますが、さらに自己資金「〇分の〇」という基準が設けられています。
たとえば日本政策金融公庫では、初期投資および運転資金に対して自己資金10分の1の基準となっているので、100万円の自己資金で最大900万円の融資が受けられます。ただし、これはあくまで「最大」であって必ず受けられるわけではありません。
事業計画の内容から回収可能性を考えて融資額を決定していくのです。融資額に対して自己資金の比率が高ければ高いほど回収可能性が高い、と判断してもらえます。
初期投資と運転資金も銀行借り入れに頼る会社なのか、初期投資とある程度の期間の運転資金を準備したうえで、「何かあったときのために」借入をしておく会社なのかで、金融機関の印象が変わってきます。
あくまで「安すぎる」資本金では、取引先からも金融機関からも信用を得られないと考えたほうがいいでしょう。
資本金の平均は?
設立時の平均資本金についての公的データはありません。一方、既存企業の資本金については以下の通りです。
資本金額 | 企業数(単体法人) |
---|---|
100万円以下 | 498,453社 |
100万円超 200万円以下 | 75,635社 |
200万円超 500万円以下 | 1,138,951社 |
500万円超 1,000万円以下 | 710,143社 |
1,000万円超 2,000万円以下 | 144,930社 |
2,000万円超 5,000万円以下 | 150,263社 |
5,000万円超 1億円以下 | 52,730社 |
1億円超 5億円以下 | 11,270社 |
5億円超 10億円以下 | 1,587社 |
10億円超 50億円以下 | 2,990社 |
50億円超 100億円以下 | 733社 |
100億円超 | 1,052社 |
計 | 2,788,737社 |
資本金額が200万~500万円の企業がもっとも多いことが分かります。当面の運転資金として300万円くらいを資本金として設定している企業が多いと考えられるでしょう。
また業種によっては許認可を得るために、最低限の資本金額が定められていることはあります。たとえば旅行業として許認可を得るためには、基準資産として300万円以上(地域限定で事業を行うときは100万円)が求められます。業種によっても必要な資本は異なるので、開業するときは許認可の基準も確認しておきましょう。
許認可が取れない場合もある
事業によっては最低資本要件が決められているものもあります。例としては有料職業紹介事業(500万円以上)、一般労働者派遣事業(2,000万円以上)があげられます。
資本金を決める前に、まず許認可が必要か、それには資本要件がないのか、といったことは調べておかなければなりません。
会社設立時の資本金額の決め方は?
会社設立時の資本金が少なすぎると信用力などの面でデメリットがあると紹介しましたが、どのような基準で決めるとよいのでしょうか。資本金額の決め方のポイントや資本準備金や借入金との関係を解説します。
初期投資と半年分の運転資金を資本金として用意する
まずは、初期投資と運転資金でどれくらいかかるのかが基準になります。初期投資に満たない金額で設立することももちろん可能ですが、そうすると足りない金額は事業者が自己資金から会社に資金を融通しなければなりません。
会社にお金を貸す形にすると、役員借入金となって貸借対照表の負債の部に勘定されます。役員借入金が増えると、会社の自己資本比率(総資産額に対する自己資本金額の割合)は下がってしまいます。
自己資本比率の計算のもとになる自己資本は資本金などで構成されるため、自己資本比率が低いということは、返済が必要な他人資本の多い財政面でのバランスが悪い会社と見られる可能性が高くなります。そのため、会社設立時にきちんと事業計画書を作成し、初期投資および半年分の運転資金くらいは資本金として計上している会社も多いです。
消費税免税の観点から資本金1,000万円以上にするか考える
法人は、その名の通り「法によって生まれた人格」です。私たちのような人間のことを法律上は「自然人」といいます。私たち自然人は、必ずどこかに居住地を置いてそこに住んでおり、その住んでいる地に「住民税」を支払っています(ふるさと納税は特例です)。
法人も「人」である以上、住んでいる地に住民税を支払わなければなりません。この住んでいる地というのは本店所在地や、営業所がある地域になります。この住民税をどれくらい課税するのか、基準のひとつになっているのが資本金です。
法人住民税の額は法人税割と均等割の2種類で構成されており、法人割は法人税額に対して一定の割合で税額が決まります。均等割は、法人の資本金額や常時雇用する従業員数によって課税されるものです。赤字の場合、法人税額はゼロになるため法人税割は発生しませんが、均等割は赤字でも発生します。
法人住民税の均等割のうち、最低ラインになるのが資本金1,000万円以下です。資本金が1,000万円以下のとき、均等割の額は、従業員が50人以下の事業所で7万円(都道府県民税2万円、市町村民税5万円)、従業員が50人超の事業所で14万円(都道府県民税2万円、市町村民税12万円)になります。法人住民税の均等割を最低基準で抑えておくために初期投資が多額にかかっても、資本金を1,000万円としている会社もあります。
また資本金1,000万円未満の事業者は、設立から2期目まで消費税の納税義務を免除される点も大切なポイントです。設立当初は何かと支出が増えます。資本金は後で増やすこともできるので、消費税節税のためにも最初の2期は資本金を1,000万円未満にしておくことも検討できます。
節税対策として資本準備金に振り分けることもできる
資本準備金は、会社設立時に出資を受けた額のうち資本金に組み入れなかった額、資本剰余金を取り崩して配当する際に法律上積立てなければならない額などをいいます。
会社は、会社設立や増資などで出資を受けたときは、払込額のうち2分の1を超えない金額については資本金ではなく資本準備金に計上できます。つまり、出資額の最大半分を資本準備金にできるということです。
資本準備金は資本金と同じように自己資本であり性質は似ていますが、資本金ではないため、資本金額を基準とする課税に対して節税効果を得られます。たとえば、資本準備金を活用して資本金を少なくすることで、資本金を基準とした中小企業の法人税の課税の特例が認められたり、設立後の消費税の一定期間の免税が認められたりします。
資本準備金について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参照ください。
借入金は資本金として計算できないため注意
会社設立後に、返済の予定がない役員借入金を組み替える方法はありますが、設立時に役員からの借入金や金融機関などからの借入金を利用して資本金にすることはできません。
資本金は返済の必要がない自己資本で、借入金は返済の必要がある他人資本だからです。借入金は他人資本として、借入金や長期借入金などの勘定科目で貸借対照表上に表示することになります。もし借入金を資本金とした場合は、見せ金とみなされ、法律に抵触することがあります。
設立時にある程度の額を資本金としたいときは、出資者を募るか、出資をする設立者自身が資本金に組み込める額をある程度準備しておかなくてはなりません。
増資と減資とは?
増資とは資本金を増やすことで、対義語は減資です。2005年に制定、2006年から施行された会社法では最低資本金の取り決めは撤廃され、1円の資本金でも会社を設立できるようになりました。
しかし、資本金の意味がなくなったわけではありません。資本金を増やすこと、あるいは減らすことにはさまざまなメリットやデメリットがあります。
増資のメリット
新規に取引を開始する際、取引先が信用できる会社なのかどうかを判断する材料の1つとして資本金を確認することがあります。増資をして資本金額を増やせば、会社の信用度が増すため、新規開拓しやすくなるでしょう。
金融機関に融資を申し込むと、金融機関は会社の返済能力を測る材料の1つとして、資本金を確認することがあります。増資をして資本金が多い状態で融資を申し込めば、審査に通過しやすくなることもあるでしょう。
増資のデメリット
増資により、中小企業向けの軽減税率が適用されなくなることもあるので、注意が必要です。たとえば法人税は、資本金が1億円以下の企業の場合、800万円以下の課税所得に対しては軽減税率が適用されます。しかし資本金が1億円を超える企業は、この法人税軽減措置が適用されないため、納める法人税額が高額になります。
資本金額が1,000万円を超えると、法人住民税の均等割額が高くなることもあるので注意しましょう。消費税も資本金によって変わることがあります。たとえば、資本金が1,000万円未満の企業は設立から2期目までは消費税の納税義務を免除されることがありますが、資本金が1,000万円以上の企業は設立時から消費税の納税義務があります。
増資の手続きには、お金がかかることもデメリットです。増資をしたときは法務局で登記事項の変更を行いますが、その際、増資した金額の0.7%もしくは3万円のいずれか高いほうを登録免許税として納めなくてはいけません。たとえば1,000万円の増資をしたときは7万円の登録免許税が必要になります。
減資のメリット
減資をすると、法人税や法人住民税の均等割額が減ることがあります。有償減資のときは、配当を実施できることもメリットです。また、減資した資金を会社の立て直しに活かすこともできます。
減資のデメリット
有償減資を実施すると、会社の資産が減るというデメリットがあります。信用力が低下することもある点もデメリットです。取引先が減資の事実を知り、経営不振ではないかと不安に感じることもあるでしょう。
その他にも、減資にはさまざまなメリットやデメリットがあります。次の記事で詳しく解説しているので、ぜひご確認ください。
会社設立時の資本金の払込方法は?
資本金額の決め方について説明してきましたが、資本金を決めたら、どのようにして資本金を払い込めばよいのでしょうか。会社設立時の資本金の払い込み方を3つのステップに分けて説明します。
発起人個人の口座を用意して資本金を払い込む
1株以上の設立時発行株式を引き受け、設立後は会社の株主になる人を発起人といいます。会社を設立するときは、発起人の定めた銀行(発起人の個人口座)などに資本金となる金銭を発起人自身が払い込まなくてはなりません。
資本金払い込みの時点では会社の銀行口座は存在していませんので、発起人個人の銀行口座などが必要になることに注意しましょう。資本金の払い込みは、会社設立で取り決めた株式の引受数に基づいて行われます。
発起人個人の銀行口座・通帳のコピーをとる
資本金の払い込みが完了したら、所定の口座に会社設立時に取り決めた金額が振り込まれた証明が必要です。通帳があれば払い込み内容と金額がわかるページ、銀行口座番号などが記載されたページのコピーをとります。
インターネットバンキングを利用して払い込んだ場合は、銀行口座番号や名義人、払い込みの内容や金額がわかる明細書などのページを代わりに印刷します。
払込証明書を作成する
払込証明書は、出資金の払い込みを証明するための書類です。払込金額の総額、払込株数、1株あたりの払込金額、払込日付、本店所在地、会社名、代表取締役の氏名を記載して作成します。
会社設立時の資本金の払い込み方法について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参照ください。
資本金を入金したときの仕訳は?
資本金の入金は発起人個人の銀行口座などに行われます。入金時点では会社の銀行口座が存在していないため、以下の仕訳例のように、一旦法人に帰属する現金として受け、貸方に資本金(資本準備金がある場合は資本準備金も記載)をもってきます。
(例)会社設立にあたり、発起人が資本金100万円を発起人の個人口座に払い込んだ。なお、全額を資本金にするものとする。
次の仕訳は、発起人の個人口座の資金を、会社の預金口座に入金したときの仕訳です。資本金を当座預金以外の資産に充てた場合は、建物や土地などの資産の科目に振り替えます。
(例)会社の当座預金を開設したため、会社設立時に払い込まれた資本金100万円を当座預金に全額払い込んだ。
資本金は決め方も使い道も自由!上手に活用しよう
会社法が施行されたことで、最低資本金の規定がなくなり、自由に金額を設定できるようになりました。しかし、自由に決められるからこそ、慎重に資本金額を決めることが必要です。
資本金が多いと信用度を増すことになりますが、軽減税率が適用されなかったり、起業するまでに時間がかかったりすることもあります。資本金が少なすぎることもデメリットになることがあります。信用を得にくくなることがあり、新規事業の開拓や金融機関からの融資が難しくなることもあるかもしれません。適切な金額を決め、適切なタイミングで増資や減資を行いましょう。
よくある質問
資本金とは?
資本金とは、事業者が準備した会社の運転資金(設備投資含む)のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
資本金はいくらにすべき?
1.初期投資と運転資金 2.受けたい融資金額 3.許認可が取れるかの観点から資本金の金額を考えるとよいでしょう。詳しくはこちらをご覧ください。
資本金によって税金が変わる?
法人住民税のうち均等割は、会社の資本金の額と常時雇用している従業員の人数でその金額が決まります。法人住民税の均等割の最低金額は資本金1000万円以下、従業員数50人以下で7万円です。詳しくはこちらをご覧ください。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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