- 作成日 : 2025年1月28日
個人事業主の住所は自宅以外でも良い?開業届や銀行、名刺などの影響を解説
個人事業主が開業届を出したり、口座を開設したりする際に住所を記載する必要があります。
個人事業主がバーチャルオフィスや賃貸オフィスなどを利用していると、自宅の住所ではなくバーチャルオフィス・賃貸オフィスなどの住所を記載しても問題ないか、気になる場合もあるでしょう。
本記事では、開業届や口座開設の申請書に自宅以外の住所を記載できるのかについて解説します。また、自宅以外の住所を利用するメリット・デメリットや、利用する方法などについても解説します。
目次
個人事業主の住所は自宅以外でも良い?
ここからは、個人事業主が住所を記載する際に自宅以外の住所を書けるのかについて「開業届を出す場合」「ビジネス用の銀行口座を解説する場合」などケースごとに解説します。
開業届
開業届に住所を書く場合、自宅以外の住所も記載可能です。
基本的には「納税地」という記入欄に自宅の住所を記載します。一方で、納税地を自宅以外の場所にして、納税地の下にある「上記以外の住所地・事業所等」という記入欄に自宅の住所を書く形でも問題ありません。
「仕事は自宅以外の場所で行うことが多いので、納税に関する書類も自宅以外の場所に送ってほしい」という場合は、納税地に自宅以外の住所を記入するのがおすすめです。
ビジネス用の銀行口座
ビジネス用の銀行口座を開設する際、自宅以外の住所は基本的に申込書に記載できません。
通常の口座を開設する場合、本人確認書類に記載されている住所と異なる住所で申請すると口座開設を断られる可能性が高いからです。
どうしても自宅以外の住所を使ってビジネス用の口座を開設したい場合は、法人口座を開設するという方法があります。法人口座であれば、賃貸オフィスやバーチャルオフィスなど自宅以外の住所で口座開設できます。
しかし、法人口座を開設する際は厳しい審査を通過しなければいけません。とくにバーチャルオフィスを自宅以外の住所とする場合、バーチャルオフィスを利用し銀行口座を悪用される可能性があるため、審査が一層厳しくなります。
また、法人口座を開設する場合は商業登記簿謄本や会社の定款といった書類の準備が必要です。法人口座の開設には手間がかかるため、ビジネス用の口座は自宅の住所を使って開設することをおすすめします。
給付金・助成金・補助金
給付金・助成金・補助金を申請する場合、住所を記入する欄に自宅以外の住所を記載することはおすすめしません。
制度の内容にもよりますが、住民票と異なる住所を記載すると給付金・助成金・補助金が受け取れない可能性があります。
なお、事業を支援する目的の補助金に関しては、申請書に「事業主の住所」「事業所所在地」の2つの記入欄が存在する場合があります。その際は、申請書の様式に合わせて自宅の住所と事業所の住所を書きわけるようにしましょう。
融資を受ける場合
融資を受けたい場合に関しては、申請書に自宅以外の住所を記載可能です。
しかし、融資を受けるには審査に通過する必要があり、申請書に自宅以外の住所を書くことで審査通過のハードルが高くなる可能性があります。
融資審査において、金融機関は申請者の事業実態があるかどうかを厳格にチェックします。貸したお金が事業に使われず、申請者のプライベートで使われてしまう事態を防ぐためです。
とくに、申請書にバーチャルオフィスの住所を記載する場合は事業実態がわかりにくくなるため、融資審査において不利になりやすいです。
確実に融資を受けたいのであれば、自宅の住所を記載して少しでも信頼してもらえるようにしましょう。
名刺や販促物
個人事業主の名刺や、チラシなどの販促物に自宅以外の住所を記載するのはとくに問題ありません。
名刺に関しては、そもそも住所の記載は必須ではありません。しかし、名刺を渡す相手によっては、名刺に住所が書いていないと信頼してもらえない可能性があります。
どうしても自宅の住所を載せたくないのであれば、バーチャルオフィスや賃貸オフィスの住所を記載しましょう。
販促物についても、自宅の住所を必ず書く必要はありません。むしろ、店舗を構えて事業を行っている場合は、自宅ではなく店舗の住所を記載するほうが集客面において重要です。
個人事業主が開業届に記入する住所の書き方
ここからは、個人事業主が開業届に住所を記載する際に、どのように書けば良いか解説します。
自宅を納税地にする場合
自宅を納税地にする場合は、開業届の「納税地」の欄に自宅の住所を記載します。「納税地」欄は開業届の一番上に存在します。
「納税地」欄には「住所地」「居所地」「事業所等」のいずれかを選択する箇所がありますが、自宅を納税地にする場合は「住所地」にチェックを入れましょう。住所地とは生活の拠点である場所のことで、多くの場合は自宅が該当します。
なお、「納税地」欄の下にある「上記以外の住所地・事業所等」欄は空欄のままで問題ないです。
自宅以外を納税地にする場合
自宅以外を納税地にする場合は、まず「納税地」欄の「居所地」「事業所」のどちらかにチェックを入れましょう。それぞれの意味は以下の通りです。
- 居所地
生活の拠点ではないものの、一定の期間継続して居住している場所のことです。別荘やセカンドハウスが該当します。また、普段海外で生活している人が国内に居住している場合は、その場所が居所地になります。 - 事業所
住所地以外で仕事をする場所のことです。事務所や店舗が該当します。
どちらかにチェックを入れたら、該当する住所を「納税地」欄に記載します。そして「納税地」欄の下にある「上記以外の住所地・事業所等」欄に自宅の住所を記載しましょう。
個人事業主が自宅を事業用住所にするメリット・デメリット
ここからは、個人事業主が自宅を事業用住所にするメリット・デメリットについて解説します。
個人事業主が自宅を事業用住所にするメリット
個人事業主が自宅を事業用住所にするメリットとして、賃貸オフィスなどを借りないため、出費を抑えられるという点が挙げられます。
賃貸オフィスを事業用住所にする場合、入居時に礼金・保証金・敷金などを支払う必要があるほか、机や椅子などの備品を購入しなければいけません。さらに、賃貸オフィス用の家賃を毎月支払う必要があるため、出費が非常に多くなります。
バーチャルオフィスを利用する場合は賃貸オフィスほどの費用はかかりませんが、少なからず月額料金の支払いは必要なので、やはり自宅を事業用住所にするほうがコストを抑えられます。
また、自宅を事業用住所にする場合、手続きや入居の準備などに関する手間を省ける点もメリットです。バーチャルオフィスや賃貸オフィスを借りる場合、最初に所定の手続きが必要です。
賃貸オフィスに関してはインターネット回線の手続きやオフィス用具の搬入なども行わなければいけないので、事業を始めるための準備に大きな手間を要します。
一方で、自宅を事業用住所にする場合はとくに手続きがいらないので、すぐに事業を始められます。
個人事業主が自宅を事業用住所にするデメリット
個人事業主が自宅を事業用住所にするデメリットとして挙げられるのが、仕事とプライベートの区別をつけにくいという点です。
オフィスと異なり自宅には娯楽が多いため、仕事に集中できなくなる可能性があります。自己管理ができない人の場合、仕事がなかなか進まず納期に遅れてしまうおそれもあります。
また、自宅を事業用住所にする場合、プライバシーに関する問題が起こり得る点にも注意です。
たとえば、名刺に住所を記載したい場合、自宅を事業用住所にしていると自宅の住所を書かざるを得なくなります。自宅の場所を不特定多数の人に公開するため、安全面に関しては不安が生じてしまいます。
事業用住所を公開したい場合は、自宅以外の住所を利用するほうが安心です。
個人事業主が自宅以外の住所を利用する方法
ここからは、バーチャルオフィス・賃貸オフィスなどのケース別に、自宅以外の住所を利用する方法を解説します。
バーチャルオフィス
バーチャルオフィスを利用する場合、まずは気になるバーチャルオフィスを探し、運営業者に専用フォームなどから問い合わせます。業者によっては内覧を申し込めるケースがあるので、可能であれば実際に足を運んで、どのような施設であるかを確認しましょう。
利用するバーチャルオフィスを決めたら、必要書類を準備します。主な必要書類は以下の通りです。
- 顔写真入りの身分証明書のコピー
- 住民票
- 印鑑証明書
- 希望の転送先に送られる、公共料金(水道・ガスなど)の明細のコピー
必要書類を提出すると審査が行われ、審査に通過すれば入会金や初月の料金を支払うことでバーチャルオフィスを利用できます。
バーチャルオフィスを利用するメリットとして挙げられるのが、リーズナブルな価格で自宅以外の住所を持てる点です。バーチャルオフィスの月額費用の相場は1,500~30,000円と幅広く、安いものを探せばコストを抑えつつ住所を利用できます。
一方で、賃貸オフィスを借りる場合に比べると、法人口座を開設したり融資を受けたりするのが難しくなる点はデメリットです。賃貸オフィスを借りる場合より事業の実態がわかりにくいため、金融機関からの各種審査についてハードルが上がる点を頭に入れましょう。
賃貸オフィス
賃貸オフィスを利用したい場合は、まず不動産会社に相談します。「どのエリアの物件を借りたいか」「どれくらいの広さの部屋を借りたいか」などを相談して、物件の候補を絞りましょう。
賃貸オフィスを利用する際も内覧を行うので、部屋の広さ・明るさ・騒音などを総合的にチェックし、快適に仕事ができるかどうかを慎重に判断しましょう。
入居したい物件が決まったら、必要書類を準備して申し込みます。個人事業主が賃貸オフィスを借りる場合、以下の書類を求められるケースが多いです。
- 個人事業主の身分証明書
- 個人事業主の印鑑証明書・実印
- 連帯保証人の身分証明書
- 連帯保証人の印鑑証明書・実印
- 事業内容をまとめた書類
- 収入を証明できるもの(課税証明書・納税証明書・確定申告書など)
バーチャルオフィスの場合と異なり、連帯保証人を立てたり、事業内容や収入がわかるものを求められたりと必要書類が多いです。漏れのないように準備しましょう。
必要書類を提出すると審査が行われ、審査に通過すれば不動産会社と契約を締結できます。契約書を提出し、敷金・礼金などを入金すれば入居を始められます。
賃貸オフィスを借りるメリットは、バーチャルオフィスの借りる場合より社会的信用を得やすい点です。賃貸契約を結ぶことで継続的に事業を行うという意思が伝わるため、取引先やクライアントからの信頼を高めやすいです。
法人口座を開設したり融資を受けたりする場合も、バーチャルオフィスを借りるケースよりは審査に通る可能性が高くなります。
一方で、賃貸オフィスを借りるデメリットは費用が高いことです。賃貸オフィスの費用はエリアや広さなどによって大きく異なりますが、最低でも毎月15,000円前後はかかります。
毎月の支払いには家賃だけでなく水道光熱費もかかりますし、敷金・礼金をはじめ初期費用も多いです。社会的信用を得られる代わりに、相当の出費がかかる点を頭に入れる必要があります。
実家など
個人事業主が自宅以外の住所を利用する場合、実家を住所とする方法もあります。開業届に実家の住所を記載すると、税務署からの書類は実家に郵送されます。
実家を住所とするメリットは、手続きや費用負担が一切発生しない点です。バーチャルオフィスや賃貸オフィスを利用する場合に比べると、自宅以外の住所を取得する手間は大きく省けます。
一方で、実家を住所とするデメリットは、税務署からの書類の確認に手間がかかる点です。税務署からの書類が現住所ではなく実家に郵送されるため、書類を取りに帰るなどの手間が発生します。
また、実家を住所とするにあたって、家族の了承を得ることも必要です。家族が納得する理由を伝えられるなら問題ないですが、難しければバーチャルオフィスなどの利用を検討しましょう。
個人事業主が転居などで住所変更をする際の手続き
ここからは、個人事業主が転居などで住所変更をする場合、どういった手続きを踏めば良いのかを解説します。
開業届の住所変更(税務署)
個人事業主が転居を行い、納税地としている住所が変更になった場合には開業届を再提出する必要があります。開業届は国税庁のホームページでPDFをダウンロードするか、税務署の窓口に向かうことで入手可能です。
開業届を再提出する必要が出てきた場合は、住所が変わってから1ヶ月以内に提出すると定められています。しかし、実際は1ヶ月が過ぎた後でも提出は可能で、提出が遅れたからといって罰則を受けることもありません。
住所を変更した際に開業届の再提出を忘れていた場合は、なるべく速やかに対応しましょう。
所得税の納税地の変更(税務署)
個人事業主が転居によって納税地が変わった旨を届け出る場合「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」を税務署に提出します。納税地の変更に関する届出書の提出は必須ではなく、確定申告の際に納税地が変わった旨を記載する形でも問題ありません。
「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」も国税庁のホームページでPDFをダウンロードするか、税務署の窓口に向かうことで入手可能です。
なお、転居によって税務署の管轄が変わった場合は、住所変更後の税務署に提出するので間違えないようにしましょう。提出は以下のいずれかの方法で行えます。
- 税務署の窓口への持参
- 税務署への郵送
- 税務署の窓口にある「時間外収集箱」への投函
- 電子申告
国民健康保険の再加入
個人事業主が転居によって住所を変更する場合、国民健康保険の転出・転入手続きが必要です。住所変更前の役所で転出手続きを、住所変更後の役所で転入手続きをそれぞれ行います。
手続きに必要な書類として、転出の場合は本人確認書類と保険証、転入の場合は本人確認書類が必要です。自治体によっては他の書類が必要になる可能性もあるため、事前に各自治体のホームページを確認しましょう。
国民健康保険の転出・転入手続きは、引っ越しをしてから14日以内に行うと定められているため、余裕を持って手続きしましょう。
個人事業主の住所が自宅以外でも良いかはケースによって異なる
個人事業主が開業届を記入したり口座を開設したりする際、自宅以外の住所を書いていいかどうかはケースによって異なります。開業届には自宅以外の住所を記入しても問題ありませんが、口座を開設したり融資を受けたりする場合は自宅の住所を書くほうがおすすめです。
個人事業主が自宅以外の住所を利用する場合、バーチャルオフィスを利用する・賃貸オフィスを借りるなど複数の方法が考えられます。それぞれの方法にメリット・デメリットがあるので、自宅以外の住所がほしい場合はどの方法で取得するかをよく考えましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
フリーランスでも消費税を払わなければならない場合とは
消費税は商品やサービスにかかる間接税です。フリーランスのなかには「自分の事業には関係ない」と思っている方もいるのではないでしょうか。 フリーランスで事業を行っている場合も、一消費者として消費税を払うのではなく、納税者として国に消費税を納めな…
詳しくみる開業届の職業欄の書き方とは?複数職業の場合や事業税も解説
個人事業主や自営業者、フリーランスなどで個人が事業を開始する場合、所轄の税務署長に「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)を提出することになります。この開業届を記入する際に、迷いやすい項目のひとつが「職業欄」です。 この記事では、開業届に…
詳しくみる開業届と失業保険ガイド!バレる?タイミングはいつがいい?
失業保険は、雇用保険の「基本手当」のことです。雇用保険に加入していた人が何らかの理由により離職した場合、失業中の生活を心配なく過ごし、早く再就職するために支給されます。この記事では、再就職中の起業と開業届、失業保険の関係などを考えていきます…
詳しくみるコーヒースタンドの開業方法・流れは?必要な資金や資格についても解説!
コーヒーが好きな方、カフェで働いた経験があり、独立開業を考えている方は、コーヒースタンドがいいかもしれません。手軽においしいコーヒーが楽しめるコーヒースタンドは今、人気が高まっています。 今回はコーヒースタンドを開業するメリット・デメリット…
詳しくみるドーナツ屋の開業と経営のコツは?必要な資格や設備も解説
ドーナツ屋は、狭い坪数で特別な修行がなくても開業が可能なため、個人事業として開業するには比較的ハードルが低いといわれています。そのため「ドーナツ屋を開業したい」と考える方もいるのではないでしょうか。この記事では、ドーナツ屋の開業と経営のコツ…
詳しくみるイラストレーターは開業届の提出が必要?書き方やメリットも解説!
クライアントの要望に応じて、手書きやパソコンでイラストを作成し販売する「イラストレーター」を仕事にしている方がいます。イラストレーターは、報酬を得ていても趣味なのか仕事なのかあいまいなケースがあり、「開業届」を提出する必要があるのか疑問に思…
詳しくみる