- 作成日 : 2024年11月29日
事業承継・引継ぎ補助金とは?要件や申請方法、募集時期を解説
事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業の円滑な事業承継を支援する施策のひとつです。経営革新、専門家活用、廃業・再チャレンジの3つの枠で構成され、最大800万円の補助金が交付されます。
本記事では、事業承継・引継ぎ補助金の概要や申請方法、注意点などについて詳しく解説します。
目次
事業承継・引継ぎ補助金とは?
事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業庁が実施する中小企業の事業継続を支援するための補助金です。事業承継やM&Aを契機とした経営革新、専門家の活用、さらには廃業を含む事業再編を支援し、中小企業の持続的な成長と発展を促進することを目的としています。
この制度では、経営革新枠、専門家活用枠、廃業・再チャレンジ枠の3つの枠組みで構成されており、枠ごとに異なる目的と支援内容が設定されています。申請は年に数回行われる公募期間中に受け付けられ、審査を経て採択された事業者に補助金が交付される仕組みです。
対象となるのは枠によって異なりますが、事業承継の当事者になる中小企業、個人事業主や一部の特定非営利活動法人なども含まれます。
事業承継・引継ぎ補助金の対象
先述のとおり、事業承継・引継ぎ補助金は3つの枠に分かれており、それぞれ異なる条件と支援内容が設定されています。ここでは、それぞれどのような事業者が対象になるのかを見ていきましょう。
経営革新枠:親族内もしくは事業承継ファンドによるM&Aを実施する(した)事業者
経営革新枠は、事業承継やM&Aを通じて経営革新を実施する事業者が対象です。親族内承継やファンドを活用したM&Aを行い、経営の引継ぎを通じて新たな成長を目指す事業者が支援を受けられます。
創業支援型
創業支援型は、他の事業者から経営資源を引き継いで創業する企業が対象です。事業を引き継ぐ際に廃業予定の事業者から資源を承継し、新たな事業を開始する場合などが該当します。
創業支援型では地域経済の活性化や雇用の維持・創出に寄与する事業計画が求められ、地方創生にも貢献できるような新規事業計画が評価されます。
経営者交代型
経営者交代型は、親族間での承継や経営陣による買収(MBO)により、現経営者から新たな経営者に事業を引き継ぐ場合が対象です。
新経営者が経営革新に向けた取り組みを行うことで、補助を受けられます。たとえば、デジタル化の推進、新製品開発、海外展開の開始などが評価され、経営者交代を通じた事業計画の新規性と革新性が重要視されます。
M&A型
M&A型は事業承継ファンドからの出資を受けて事業を引き継ぐ場合や、他の事業者を買収して経営資源を獲得する場合が対象です。
M&Aを通じてシナジーを生み出し、経営基盤を強化する取り組みが評価されます。異業種との統合による新事業の創出や市場シェア拡大が期待され、補助金はシナジー効果の実現や持続可能な経営に寄与するための資金として活用されます。
専門家活用枠:M&Aを実施する事業者
専門家活用枠は、M&Aの実施に際して財務や法務などの専門家からの支援を受ける事業者が対象です。専門家活用枠は買い手支援型と、売り手支援型に分けられます。
買い手支援型
買い手支援型は、事業再編・統合に伴い他の事業者の経営資源を引き継ぐ予定の企業が対象です。財務調査やデューデリジェンス(企業価値評価)など、M&Aに必要な支援費用が補助の対象になります。
必要資金を確保することによってM&Aを通じた事業承継のリスクが軽減され、買い手の事業者が適切な判断を下せるようになるメリットがあります。
売り手支援型
売り手支援型の対象は、自社の経営資源を譲渡しようとする事業者です。企業価値算定や契約書作成など、M&Aに際して、売却準備を整えるための専門家の支援費用が補助対象です。
適正な企業価値で譲渡が行えるようサポートを受けることで、売り手事業者も円滑に事業承継が実現できるようになります。
廃業・再チャレンジ枠:事業承継もしくはM&Aに伴い廃業などを行う事業者
廃業・再チャレンジ枠は、事業承継やM&Aによって廃業を選択する事業者、または新たな事業にチャレンジする事業者を支援する枠組みです。この枠は以下の2つの型に分かれています。
併用申請型
併用申請型では、経営革新枠や専門家活用枠と併用して申請する際の一部事業廃業に関わる費用が補助されます。従業員の再就職支援や在庫処分費用などが対象となり、事業再編に伴う支出を抑えることが可能です。
再チャレンジ申請型
再チャレンジ申請型は、事業承継やM&Aの検討の結果、廃業を選択し、そのうえで廃業後に新たな事業に挑戦する事業者を支援する枠です。
廃業に伴う費用や、新たな事業の準備に係る費用が補助対象になります。
事業承継・引継ぎ補助金でいくらもらえる?
事業承継・引継ぎ補助金の具体的な補助額は事業の内容や対象枠によって異なり、事業者の規模に応じた補助率が設定されています。
補助対象の経費には、設備費、店舗借入費、人件費、原材料費などが含まれます。以下の表は、枠ごとに補助金の補助率や上限額をまとめたものです。
項目 | 経営革新枠 | 専門家活用枠 | 廃業・再チャレンジ枠 |
---|---|---|---|
補助率※ | 補助対象経費の2/3(600万円超~800万円相当部分は1/2) | 補助対象経費の2/3または1/2 | 補助対象経費の2/3または1/2 |
上限額 | 最大600万円(賃上げ実施で800万円) | 最大600万円(M&A未成約なら300万円) | 最大150万円 |
補助期間 | 交付決定日から1年以内に支出した経費 |
※補助率は対象の要件によって異なる
経営革新枠
経営革新枠の補助上限額は通常600万円ですが、一定の要件を満たす賃上げを実施する場合は800万円まで引き上げられます。補助対象となる経費には、設備投資費用や店舗などの改築工事費用などがあります。
専門家活用枠
専門家活用枠は、買い手支援型と売り手支援型で補助率が異なり、買い手支援型は2/3以内、売り手支援型は1/2または2/3以内です。補助上限額は600万円ですが、廃業費が発生した場合上限150万円が上乗せされます。
補助下限額は50万円です。
廃業・再チャレンジ枠
廃業・再チャレンジ枠の補助上限額は150万円で、下限額は50万円です。廃業支援費や在庫廃棄費、解体費、また再チャレンジ時の準備費用、資格取得費用などの経費が補助対象です。
事業承継・引継ぎ補助金の申請方法
事業承継・引継ぎ補助金の申請は「jGrants」という電子申請システムを通じて行います。申請するためには専用のアカウントの作成が必要です。
以下で、事業承継・引継ぎ補助金を申請する流れやアカウントの取得に必要なものなどを解説します。
事業承継・引継ぎ補助金を申請する流れ
公募要項などは変更される可能性があるため、申請前に最新の公募を確認しておきましょう。そのうえで、状況に合わせて申請する枠を決め、要件を満たせるかを確認しましょう。
申請の流れは、以下のとおりです。
- gBizIDプライムアカウントの取得
jGrantsを利用するために必要なgBizIDプライムアカウントを取得します。取得には1〜2週間程度かかる場合があるため、余裕を持って準備しましょう。gBizIDプライムアカウントの取得に必要な手続き・書類については後述します。 - 必要書類の準備
認定支援機関確認書、住民票、決算書など、申請に必要な書類を準備します。書類は申請する枠や事業形態によって異なるため、公募要項で確認しましょう。 - jGrantsでの申請
準備した書類をPDFなどの電子データに変換し、jGrantsの申請フォームに入力・添付して申請します。 - 審査・採択
事務局による審査を経て、採択結果が通知されます。採択された場合は、交付申請の手続きに進みます。
- gBizIDプライムアカウントの取得
gBizIDプライムアカウント取得に必要なもの
gBizIDプライムアカウントの取得には、以下のものが必要です。
- 法人の場合:印鑑証明書(発行日より3ヶ月以内のもの)、法人代表者印を押した申請書、法人代表者のメールアドレス・SMS受信が可能な電話番号
- 個人事業主の場合:印鑑登録証明書(発行日より3ヶ月以内のもの)、実印を押印した申請書、メールアドレス・SMS受信が可能な電話番号
「gBizID」のホームページから申請します。「gBizIDプライム作成」をクリックし、申請書をダウンロードしましょう。
必要事項を記載し押印したうえで、完成した申請書と印鑑証明書もしくは印鑑登録証明書を指定の場所に送付します。書類到着後に審査が行われ、審査完了後SMSでの本人確認を経てアカウントパスワードが設定されます。
マイナンバーカードがあれば、オンラインでの申請も可能です。
また、交付申請に必要な書類は補助金の枠や状況によって異なり、10枚以上が必要なケースもあります。詳細は以下の事業承継・引継ぎ補助金の公式サイトの該当ページでご確認ください。
参考:GビズID GビズIDで行政サービスへのログインをかんたんに、事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)、事業承継・引継ぎ補助金 専門家活用、事業承継・引継ぎ補助金(廃業・再チャレンジ)
事業承継・引継ぎ補助金の公募を確認する方法
事業承継・引継ぎ補助金の公募情報は、事業承継・引継ぎ補助金事務局の公式Webサイトで確認できます。公募情報を見逃さないために、こまめにチェックすることをおすすめします。
過去の公募の情報なども掲載されているため、申請を考えている方は目を通してみるといいかもしれません。ただし、対象や要件などは都度変更になる可能性があるため、申請する際には最新情報を必ず確認してください。
参考:事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金の注意点
事業承継・引継ぎ補助金は税負担に悩む企業にとって心強い存在ではありますが、注意点もあります。
良かれと思っての利用が後悔につながらないよう、注意点も把握しておきましょう。
申請すれば必ず交付されるわけではない
事業承継・引継ぎ補助金は、申請さえすれば交付される、というものではありません。審査に通過する必要があります。
審査では、事業計画の実現可能性や経営革新性、地域経済への波及効果などが評価されます。採択率を高めるためには、綿密な事業計画の策定が求められます。
なお、申請回数に制限はないため、一度不採択になっても次の公募回に申し込むことは可能です。
ほかの補助金・助成金との併用ができない
原則として、同一の事業に対して複数の補助金を併用することはできません。そのため事業承継・引継ぎ補助金以外の補助金を用いて行っている事業は対象外です。
ただし、事業承継・引継ぎ補助金の廃業・再チャレンジ枠は、一定の条件を満たせば経営革新枠、専門家活用枠との併用申請ができます。
交付は経費の支払い完了後になる
補助金の交付は、原則として補助事業完了後の精算払いです。つまり、いったんは自己資金で経費を支払う必要があります。
そのため、補助金ありきの事業承継計画は無理が出る可能性が非常に高いといえます。補助金を申請する場合であっても、事業実施に必要な資金繰りを事前に計画しておきましょう。
書類の不備に気を付ける
書類の不備は、不採択になる可能性があります。必要書類が多く申請準備には手間がかかりますが、公募要項をよく確認し、記載ミスや漏れがないように細心の注意を払いましょう。
提出前には、複数回チェックすることをおすすめします。書類の作り方やどの書類が必要なのか悩んだら、専門家に相談することも検討しましょう。
事業承継・引継ぎ補助金をうまく活用しよう
事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継をスムーズに進め、中小企業が次世代へと成長をつなぐための強力な支援制度です。
自社の事業承継や将来のビジョンに応じて、補助金の活用を検討してみてください。中小企業の持続的な成長を目指し、資金面からも手厚く支援されるこの制度を活用することで企業と地域社会にとって大きな変革の一歩を踏み出せるかもしれません。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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