- 作成日 : 2024年12月27日
事業承継の手続きの流れは?必要書類や費用・相談先についても解説
事業承継の手続きは、後継者の選定・育成から計画策定、引き継ぎまで段階的に進めていく必要があります。スムーズな承継のためには、早期の準備と専門家への相談が重要です。本記事では、手続きの流れや必要書類、税金、相談先について詳しく解説します。
目次
事業承継の手続きの流れ
事業承継の手続きの流れは、以下のとおりです。
- 現在の経営状況を把握する
- 後継者を選定・育成する
- 事業承継計画を策定する
- 親族や従業員などの関係者へ周知する
- 事業承継を実施する
- 後継者への引継ぎを行う
それぞれについて見ていきましょう。
現在の経営状況を把握する
事業承継の手続きを始める際、自社の現状を正確に把握することが重要です。自社の財務状況はどうなっているのか、どのような経営課題を抱えているのか、どのような経営資源があるのかなどを分析します。
まず、財務状況を詳細に分析し、収益構造や資産、負債、純資産の状況を明確にします。この過程で、キャッシュ・フローの見通しや潜在的なリスクを把握することが重要です。
また、相続に関する課題も検討する必要があるため、法定相続人・自社株の評価・納税方法などを整理し、必要に応じて相続税対策を講じます。
さらに、後継者が見つからない場合には、M&Aを視野に入れる必要があるため市場調査や評価を行い、会社売却の可能性を探る必要があります。
後継者を選定・育成する
事業承継を進めるためには、まず、ふさわしい後継者を決定する必要があります。後継者の選定においては、単に血縁や経験だけでなく、経営者として必要な資質を有しているかどうかも重要な点です。リーダーシップや決断力、コミュニケーション能力などを総合的に判断するようにしましょう。
後継者が決定した後、事業を円滑に引き継ぐための育成計画を策定し、実行していく必要があります。育成方法としては、社内のさまざまな部署を経験させるジョブローテーションや、外部研修への参加、経営関連の書籍による知識の習得などが考えられます。
後継者を育成する過程では、現経営者が積極的にノウハウを共有し、後継者が経営者としてのスキルを着実に身につけられるようサポートすることが重要です。
事業承継計画を策定する
事業承継計画を策定する際には、承継時期や後継者育成の方針、さらに株式譲渡の具体的な方法を明確に定めることが重要です。事業承継計画には、事業承継に関連する詳細な内容を盛り込み、円滑な移行を目指す必要があります。
策定にあたっては、現経営者や後継者に加え、経営陣・M&A仲介会社・弁護士などの専門家と連携し、多角的な視点を取り入れることが重要です。
また、親族への事業承継ではない場合には、親族への丁寧な説明と合意形成が不可欠となるため、十分なコミュニケーションを心がけましょう。
親族や従業員などの関係者へ周知する
事業承継を進める際には、親族や従業員などの関係者に対し、適切なタイミングで周知を行うことが重要です。
親族に対しては、株式や事業資産の相続に関する方針を明確に伝えましょう。相続権を持つ親族から理解を得るよう努めることによって、相続を巡るトラブルの回避につながります。
また、従業員に対しては、後継者の存在を早期に周知し、信頼関係を築いていかなければなりません。経営権の移行前から業務の引継ぎを進め、後継者の実績を積み上げることで、従業員の理解と協力を得やすい環境が整います。
また、取引先や金融機関にも事業承継計画を公表し、経営の継続性に対する信頼を得ることも必要です。
事業承継を実施する
事業承継の手続きには、株式譲渡と事業譲渡があります。そのうちの、経営資源のすべてあるいは一部を移転する事業譲渡は、手続きが複雑化する傾向にあるため、注意しなければなりません。
一方で株式譲渡は、会社組織の変更を伴わず株主が入れ替わるだけであり、相続や贈与、売買など手続きがシンプルです。
いずれの場合も契約書の作成と締結が必要です。また引継ぐ人が個人事業主の場合は、先代による廃業と後継者による開業の2段階の手順を踏む必要があります。
承継手続きを円滑に進めるためには、事業規模や後継者の意向を考慮し、専門家に相談しながら計画を進めることが重要です。
後継者への引き継ぎを行う
後継者への事業承継では、「経営権」「事業資産」「知的資産」の3つの引継ぎが重要です。
経営権については、株式譲渡を通じて承継を行います。このとき、後継者が議決権の過半数を取得して会社の支配権を確保するとともに、遺言で株式承継を明確化しておくことも重要です。
事業資産は、経営者個人名義のものを後継者に譲渡する方法や、会社によって買い取る方法があります。親族内承継の場合には、相続トラブルを防ぐため会社による買い取りが効果的な選択肢となるでしょう。
目に見えない知的資産の承継も、事業承継においては重要です。長年培ってきた経営ノウハウや顧客との信頼関係を継承することで、事業の安定と成長につながります。円滑な事業承継のために、後継者への丁寧な指導や引継ぎ計画の作成を行いましょう。
事業承継の手続きに必要な書類
事業承継の手続きに必要な書類は、以下の事業承継によって異なります。
- 親族内承継に必要な書類
- 親族外承継に必要な書類
- M&Aによる事業承継に必要な書類
- 個人事業主の事業承継に必要な書類
それぞれについて解説します。
親族内承継に必要な書類
親族内承継には、事業の円滑な引継ぎに不可欠な法的書類の準備が必要です。必要書類は、状況に応じて主に以下の5種類があります。
- 生前贈与契約書
将来の紛争リスクを回避するため、贈与内容を書面化
- 株式譲渡契約書
後継者へ会社株式を移転する際の取り決めを書面化
- 事業譲渡契約書
事業譲渡に関する当事者間の合意事項や条件の明確化
- 遺言書(公正証書遺言)
後継者への株式集中を明確化し、相続人間でのトラブルを防ぐために作成
- 遺産分割協議書
遺言書がない場合、相続人全員の合意による遺産分割内容を記録
これらの書類は、状況に応じて必要なものが異なります。専門家へ相談し、適切な書類を準備するようにしましょう。
親族外承継に必要な書類
親族外承継の場合に必要な書類は以下の通りです。
- 株式譲渡承認請求書
株式に譲渡制限がある場合に、会社に対して株式譲渡の承認を求める書類
- 株式譲渡契約書
譲渡の条件や権利移転に関する合意内容を記載した契約書
- 株式名義書換請求書
株式譲渡後に、株主名簿の名義変更を申請するために、経営者と後継者が共同で作成する書類
- 株主名簿
株式譲渡後、新しい株主情報が正確に反映されることを確認するための書類
M&Aによる事業承継に必要な書類
M&Aを利用して事業承継を行う手続きには、多くの段階があります。それぞれの段階で必要な書類が異なります。
【候補先企業の選定】
- ロングリスト
最初に候補となる企業を幅広くリストアップ - ショートリスト
ロングリストからさらに条件に合う企業の絞り込み
【候補先への打診】
- ノンネームシート
自社の情報を伏せた状態で候補先企業に提示する書類 - 秘密保持契約書
機密情報の漏えいを防ぐために締結
【条件交渉と合意】
- 意向表明書
買収条件を提示する際に利用 - 基本合意書
交渉が進んだ段階で作成する合意書
【最終契約の締結】
最終的には、M&Aの手法に応じた契約書を作成します。ここで用いられるのは「株式譲渡契約書」や「事業譲渡契約書」などです。これによって、事業承継が正式に完了します。
個人事業主の事業承継に必要な書類
個人事業主が生存中に事業承継を行う際、先代と後継者でそれぞれ準備すべき書類があります。
【先代が準備する書類】
【後継者が準備する書類】
それぞれの必要書類は、事業内容や規模、従業員の有無によって異なるため、事前に税務署や専門家に確認することが重要です。
個人事業主の事業承継についてはこちらもご覧ください。
事業承継の手続きにかかる費用
事業承継の手続きに共通してかかる費用は、以下のとおりです。
それぞれについて、解説します。
相続税と贈与税
オーナー経営者の事業承継において、相続税と贈与税は大きな課題となります。以下、相続税と贈与税について詳しく見ていきましょう。
相続税
相続税は、オーナー経営者が亡くなった際、親族が株式やその他の財産を相続する際に発生する税金です。後継者が相続人となる場合、相続税を納付しなければなりません。
相続税は、相続した金額に応じた累進課税が適用されます。基礎控除額を超える相続財産にのみ相続税がかかるため、正味の遺産額が基礎控除額以下の場合は相続税が発生しません。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。
贈与税
贈与税は、先代が生前に親族や第三者に無償で事業承継により贈与を行う場合に、受贈者が負担する税金です。贈与税は、暦年課税と相続時精算課税の2種類です。
暦年課税では、1年間(1月~12月)に発生した贈与に対して課税されます。年間110万円を超えた部分に税金がかかり、超過分に対して税率が適用されます。
相続時精算課税は、60歳以上の人から18歳以上の子や孫に贈与する際に選択できる制度です。この制度を利用すると、2,500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けられます。ただし、2,500万円を超えた部分には一律20%の税金が課されます。
事業承継税制
事業承継税制は、非上場会社の株式を相続や贈与によって後継者が取得する際に、一定の条件を満たすことで相続税や贈与税の納税を猶予できる制度です。この制度を利用することで、後継者は多額の税負担を軽減し、円滑な事業承継が実現できるでしょう。
事業承継税制において納税が猶予された税金は、後継者が死亡したときや一定期間が経過した後、次世代への承継時に免除されるため、事業承継税制を活用することで結果的に税負担を軽減できる可能性があります。
2018年1月から2026年3月末までの期間は、特例措置として特例承継計画を提出した場合に猶予割合が拡充されます。
事業承継税制は手続きが複雑です。そのため、税理士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることが重要です。
法人税・事業税・地方法人税・法人住民税
事業承継では、M&Aの場合であっても原則として法人税は発生しません。ただし、事業譲渡を選択した場合、譲渡益に対して法人税が課税されます。
譲渡益とは、譲渡代金から、譲り渡す事業の資産と負債の差額を差し引いた金額です。また、法人税が発生する場合には、事業税・地方法人税・法人住民税といった地方税も課税対象となります。
消費税
事業承継では、課税資産の譲渡が行われる場合、消費税が発生します。課税対象となるのは、無形固定資産や土地以外の有形固定資産などです。
消費税の納付義務者は譲渡側ですが、実際には譲受側が負担します。譲渡側は、課税資産の対価に消費税を加算して請求をします。受け取った消費税は納付に充てられるため、譲渡側の負担は実質的に発生しません。
登録免許税・不動産取得税
事業承継では、不動産を取得する場合、不動産取得税の納税が必要です。また、不動産の登記変更手続きには、登録免許税が発生します。
さらに、事業に必要な許認可を新たに取得する場合も、登録免許税がかかります。これらの税金は、事業承継の内容によって金額が異なるため、事前に専門家へ相談し、正確な金額を把握しておきましょう。
事業承継の手続きについての相談先
事業承継は、専門性の高い手続きやノウハウが必要となるため、専門家への相談が必要です。相談できる窓口としては、「事業承継・引継ぎ支援センター」「税理士」「金融機関」「商工会議所」「コンサルティング会社」などが挙げられます。
これらの専門家は、事業承継に関する豊富な知識や経験を有し、事業計画策定・企業価値評価・各種手続き・資金調達など、事業承継を総合的にサポートしてくれるでしょう。自社の状況やニーズに合った専門家を見つけ、相談することが重要です。
円滑な事業承継で、大切な会社を次世代へつないでいこう
事業承継は、「経営状況の把握」から「後継者の選定・育成」「計画策定」「関係者への周知」「実施」「引継ぎ」まで、段階的に進める必要があります。手続きにはさまざまな書類や費用を必要とし、専門的な知識が求められます。早期に事業承継の準備を始め、専門家のサポートを受けながら、次世代へ会社をつないでいきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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