• 作成日 : 2024年11月15日

事業承継で起きやすい問題とは?具体例や解決策、相談先を解説

事業承継の際に起こる問題は、中小企業にとって深刻な課題となり得ます。後継者の不在や育成の遅れ、さらに相談先が見つからないことなどについて多くの経営者が苦慮しています。

本記事では、これらの具体例や解決策について解説し、専門家への相談や公的制度の活用など事業承継をスムーズに進めるための対策も紹介します。

中小企業に起こりやすい事業承継問題

中小企業における事業承継は、経営の安定と継続に大きな影響を与える重要な課題です。中小企業では、経営資源が限られているため、後継者の育成や選定、従業員や取引先との調整が困難になりやすい傾向にあります。

中小企業が事業承継を行う際によく見られる問題点は下記の通りです。

  • 後継者の不在・育成に時間がかかる
  • 事業継承について相談先が無い
  • ワンマン経営による弊害
  • 従業員や取引先からの反発

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

後継者の不在・育成に時間がかかる

事業承継には、平均で5〜10年かかるといわれています。後継者の育成には、時間がかかるためです。また、後継者が決まっていたとしても、経営者として十分な能力を発揮できるようになるまでには時間がかかります。

会社や事業への理解や、社内での関係構築に時間が必要です。さらに、現経営者が多忙なため、後継者の育成に十分な時間を割けない場合もあるでしょう。

したがって、中小企業の経営者は自身が事業承継を完了したい時期から逆算し、事業承継を計画的に進める必要があります。

事業継承について相談先が無い

事業承継は、多くの経営者にとって初めての経験であり、ノウハウのある相談相手が必要です。しかし、相談相手が見つからないという問題が存在します。

事業承継はデリケートな問題であるため、家族にさえ相談しづらい経営者も少なくありません。税理士や銀行担当者に相談したとしても、具体的な解決策を見出せないケースもあるでしょう。

また、適切な相談相手が地域的に見つからないケースも存在します。結果として、誰にも相談できずに廃業を選択してしまう経営者も多いです。

近年では、事業承継を支援するサービスが充実してきました。しかし、高齢の経営者を中心に、情報収集がうまくできず、サービス利用に至らないケースも散見されます。

ワンマン経営による弊害

中小企業では、オーナーと経営者が同一人物であることも多く、社長への権力集中によりワンマン経営になりがちです。

この経営スタイルは、リーダーシップの発揮には有効ですが、事業承継の遅れや失敗につながるリスクがあります。役員や従業員がイエスマンばかりになると、経営者の誤った判断が修正されず、そのまま実行されてしまうケースもあるでしょう。

さらに、経営者が高齢化し健康状態や判断能力が衰えた場合、事業承継プランの設計が困難になります。また、後継者の選定がなかなか進まず、経営者の死去によって会社が窮地に立たされる可能性もあります。

従業員や取引先からの反発

事業承継における課題の一つは、従業員や取引先からの反発です。

たとえ後継者が経営者としての資質や経験を有していたとしても、後継者と取引先や従業員の間に軋轢が生じた場合、売上の減少や生産性の低下といった経営問題が発生し、事業の存続が危ぶまれることもあります。

こうした事業承継問題を防ぐためには、承継前から従業員や取引先とのコミュニケーションを重視し、信頼関係を築いておくことも必要でしょう。

2025年問題が事業承継に及ぼす影響

2025年問題は、中小企業の事業承継に大きな影響を及ぼすと懸念されています。

ここでは、中小企業庁の「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」のデータをもとに、2025年問題が事業承継に及ぼす影響について解説します。

経営者の高齢化と後継者の不在

中小企業庁の「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」によると、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は、約245万人に達すると予想されています。

そのうち、約半数である127万人は後継者が未定との想定です。さらに、後継者が未定である経営者の約半数が黒字廃業のリスクを抱えており、今後10年間で60万件以上のM&Aニーズが生じると見込まれています。

このことから、経営者の第三者承継に対するニーズが、今後急速に増加する可能性があります。

雇用問題

中小企業庁の試算によると、事業承継の問題を放置し続けた場合、企業の廃業による雇用減少により、2025年までに約650万人の雇用が失われると推計されています。

このような状況を踏まえ、雇用を守り経済の安定を維持するためにも、事業承継を円滑に進め、企業内における世代交代を行うことが急務となっています。

社会的影響

2025年問題は、放置すれば中小企業・小規模事業者の廃業を加速させ、約22兆円ものGDPが失われる可能性もあると推計されています。これは、単なる経済損失に留まりません。

地域社会を支えてきた中小企業の廃業は、雇用を失わせるだけでなく、地域経済の縮小、技術や伝統の消失をもたらします。これらの影響が連鎖的に広がれば、地域経済全体の衰退につながる恐れがあります。

参考:中小企業庁 中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題

事業承継をスムーズに行うための対策

事業承継は、企業の存続と発展を左右する重要な経営課題です。後継者への円滑な事業承継を実現するためには、時間をかけて計画的に準備を進める必要があります。スムーズな事業承継を実現するためのポイントについて、以下で解説します。

早期に準備を開始する

事業承継には後継者の育成や税金対策など、多くの時間を要します。後継者による承継で5〜10年、M&Aの実施も早くて半年程度はかかるため、早期の準備が不可欠です。

健康問題が発生してからでは間に合わず、場合によっては廃業に至るケースもあります。そのため、事業承継には数年単位での計画が必要です。

専門家に相談し、後継者との意思確認を重ねながら計画を立てることで、スムーズな引継ぎが実現しやすくなります。早めの準備と十分な時間をかけることが、事業承継成功への鍵となるでしょう。

経営状況や課題を明確にする

事業承継を円滑に進めるためには、経営状況や財務状態を正確に把握することが重要です。前経営者のみが知る簿外負債の存在は、承継後の混乱を招く可能性があるため、早めに明確化しておく必要があります。

後継者が安心して引継ぎに臨めるよう、財務諸表を定期的に作成し、会社の現状がわかりやすい状態にしておくことが望ましいでしょう。

また、後継者の不安を解消するためには、金融機関との信頼関係を構築することも重要です。場合によっては、事業承継時に個人保証の引継ぎが不要となるケースも考えられます。

事業承継の手法や計画について専門家に相談する

事業承継には、高度な専門知識が求められます。自社のみで進める場合でも、知識不足は意思決定の遅れや誤った選択につながるため、慎重に進めなければなりません。

そこで、税理士や弁護士、公認会計士、中小企業診断士といった専門家への相談がおすすめです。専門家のサポートを受けることで、リスクを抑えながら円滑な事業承継が可能となり、妥当な判断や状況に適した選択肢が選べるため、時間的なロスも防げます。

公的制度や優遇税制を活用する

事業承継をスムーズに進めるためにも、公的制度や優遇税制を積極的に活用しましょう。

国や自治体の制度、例えば「事業承継・引継ぎ支援センター」では、中小企業の相談対応やM&Aの支援を行います。「事業承継・引継ぎ補助金」は、新しい取り組みを行う企業へ支援を提供しているのが特徴です。「事業承継税制」は、贈与税や相続税の猶予制度により、後継者への資産移転時の税負担を軽減します。

これらの制度については、以下で詳しく解説します。

事業承継に関する国の施策

国は中小企業の事業承継を円滑に進めるため、さまざまな支援策を講じています。相談窓口の設置やガイドラインの制定、税制優遇措置など、多角的なアプローチで企業の継続と発展を後押ししています。主な施策について見ていきましょう。

事業承継・引継ぎ支援センターの設置

事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業の事業承継を総合的にサポートする公的機関です。各都道府県に設置されており、親族内承継や社内承継、M&Aによる第三者承継など、さまざまな形態に対応しています。

事業承継・引継ぎ支援センターは、後継者不在の企業と起業希望者とのマッチングや、事業承継計画の策定支援・M&A仲介会社の紹介など、事業承継のあらゆるフェーズで中小企業を支援しているのが特徴です。

参考:事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継ガイドラインの制定

事業承継ガイドラインは、中小企業庁が中小企業の経営者向けに公表している指針です。このガイドラインにより、廃業を避けつつ事業承継を促進することが期待されています。

事業承継ガイドラインでは、事業承継の方法や考え方、具体的な進め方が示されており、中小企業の経営者が円滑に事業承継を行うための重要な参考資料となっています。

また、中小企業庁のサイトにはさまざまな情報が掲載されており、これらを活用することにより事業承継に向けた理解を深められるでしょう。

参考:中小企業庁 事業承継

事業承継税制の制定

事業承継においては、親族への株式の引継ぎに伴う贈与税や相続税の負担が大きな課題です。この問題を解決するために、政府は「事業承継税制」を導入しています。

事業承継税制では、2028年までの時限措置として、一定の条件を満たした場合に、税の猶予や免除が可能となります。

適用を受けるためには「事業承継計画書」を作成する必要があり、手続きが煩雑です。専門家に相談しながら、税負担軽減の方法を検討するようにしましょう。

事業承継で悩んだ際の主な相談先

事業承継を検討する際、多くの経営者がどこに相談すべきか悩むことでしょう。専門家や公的機関、金融機関などさまざまな相談先がある中で、自社に適したサポートを受けることが重要です。ここでは、それぞれの相談先について紹介します。

士業など専門家への相談

事業承継に関する相談は、税理士・弁護士・公認会計士・中小企業診断士などの専門家に依頼できます。専門家は、事業承継に精通しており、手続きや法律・税務・経営など、さまざまな側面からサポートの提供が可能です。

事業承継計画の策定支援・株式評価・遺言書作成・相続税対策・事業価値向上に向けたアドバイスなど、多岐にわたります。専門家のサポートを受けることで、スムーズかつ円滑な事業承継をスムーズに進められるでしょう。

公的機関によるサポート

中小企業庁は、事業承継に関する2つの相談機関を設置しています。

「事業承継・引継ぎ支援センター」は、経営者向けのアドバイスや情報提供を行い、具体的な案件のサポートまでも担当しています。

これらの公的機関によるサービスは無料で利用できるため、費用面で不安を抱える経営者にとっては心強い存在です。

商工会議所によるサポート

商工会議所は、中小企業の事業承継の支援サービスを無料で提供しています。事業承継診断による自社分析、準備段階での相談対応、さらに売却先企業とのマッチングなどです。

これらのサービスを利用するには、早めの登録が重要です。また、より専門的な機関の斡旋も行っています。商工会議所は、後継者不足に悩む中小企業にとって心強い味方となるでしょう。

金融機関への相談

中小企業の廃業は、金融機関にとっても死活問題です。そのため、多くの金融機関は、顧客である中小企業に対し、事業承継の支援サービスを提供しています。日頃から取引があり、信頼関係を築けている金融機関であれば、相談しやすいでしょう。

ただし、金融機関は事業承継支援を専門に行っているわけではありません。相談後、専門機関を紹介されるケースがほとんどです。事業承継までの時間がない場合は、最初から専門機関に相談するほうがよいでしょう

事業承継の課題を克服し、未来へつなげよう

後継者の不在や育成の遅れ、適切な相談先の不足・ワンマン経営の弊害・従業員や取引先からの反発など、さまざまな課題が存在します。

2025年問題により、経営者の高齢化が進む中、後継者の確保は急務となっています。円滑な事業承継を実現するためには、早期に準備を開始し経営状況を明確にしつつ、専門家の助言を得て進めることが重要です。

事業承継を通じて企業価値を高め、次世代へと事業をしっかりと引き継いでいきましょう。


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