- 作成日 : 2024年11月29日
事業承継とは?種類や流れ、支援制度まで解説
事業承継とは、経営者が企業の経営権や資産、経営理念等を次世代へと引継ぐことです。日本の後継者問題は深刻であり、黒字廃業する企業も少なくありません。本記事では、事業承継の種類や一般的な流れ、補助金制度について詳しく解説します。
目次
事業承継とは?
事業承継とは、経営者が次世代の経営者へ企業の経営権や資産、経営理念などを引継ぐことです。
経営者の高齢化は進む一方で、2023年時点の経営者年齢は平均60.5歳と過去最高を更新しています。日本における後継者問題は深刻な状況であり、このまま放置すると廃業増加にともなう貴重な雇用や技術の損失が予測されています。
中小企業の経営を維持するには、次世代を担う経営者への事業承継が欠かせません。
事業承継で引き継がれる要素
事業承継では、経営権・資産・知的財産の各要素を後継者に引き継ぐ必要があります。それぞれの概要を確認していきましょう。
経営権の承継
経営権の承継とは、代表取締役の地位と役割を後継者に引き継ぐことです。
中小企業はノウハウや取引先等の人脈が経営者個人に集中しており、円滑な運営や業績は経営者の資質に左右される傾向があります。事業承継を成功させるには、早い段階から後継者候補を選定し、十分な時間を設けて後継者育成に取り組む必要があります。
経営権を引き継ぐ際は、代表取締役を選任したうえで役員変更登記等の手続きが必要です。
資産の承継
事業承継では、企業が事業運営するために必要な資産を引き継ぎます。
具体的には、株式や設備、不動産等の事業用資産、運転資金や借入等の資金が挙げられます。これらの資産を承継する際は、契約書の作成や税金の申告といった手続きが必要です。
資産の承継は多額の税金が課される場合があるため、専門家に相談しながら慎重に進めましょう。
知的資産の承継
形のない知的財産も承継の対象です。
知的資産は「無形資産」にあたり、具体的には以下のものが挙げられます。
- 経営理念
- 従業員の技術技能
- ノウハウ
- 経営者の信用
- 取引先との人脈
- 顧客情報
知的資産を十分に引き継げないと、事業承継により会社の業績が低迷する可能性があります。知的資産は、円滑な運営や業績を左右する重要な資産です。
事業承継の種類
事業承継は、主に以下の3種類があります。
- 親族内承継
- 社内事業承継
- M&A
それぞれメリット・デメリットが異なるため、十分に比較して慎重に選定しましょう。
親族内承継(子息など)
親族内承継は、経営者の親族に承継する方法です。
経営者の子息や息女がいない場合は、甥や姪などほかの親戚に承継する事例もあります。日本では一般的に用いられる承継手法ですが、後継者不足が問題化している現在では、親族内承継を選択する経営者の割合が減少傾向にあるのが現状です。
ただ一方で、親族内承継は、後継者教育の環境を確保しやすいメリットがあります。後継者候補が事業を引き継ぐことを決心する時期にもよりますが、ほかの承継方法に比べると早い段階から十分な育成期間を設けられるのが特徴です。
社内事業承継(自社の役員や従業員)
社内事業承継は、親族以外の有能な従業員に事業を承継する方法です。
従来は親族に事業を引き継ぐのが一般的でしたが、多くの経営者が後継者問題を抱えており、血縁関係にない従業員を後継者に選定する事例が増えています。
社内事業承継は、経営者自身が後継者の資質を見極め、事業をよく知る従業員に引き継げます。従業員や取引先等の納得が得られやすく、承継後も安定した運営が期待できるのが特徴です。ただ一方で、後継者候補の資金不足の問題が生じる場合があります。
株式の取得価額は一般的に高額であり、経営者候補にとって金銭的な負担が大きくなります。株式の贈与でも対応可能ですが、受贈者に対して贈与税が課されます。金銭的な負担を理由に後継者が辞退する可能性もあるため、早い段階で候補者を探すことが重要です。
M&A(第三者企業に承継)
M&Aは、社外の第三者企業に株式譲渡や事業譲渡等で承継する方法です。
親族や従業員に適任者がいない場合、外部の人材に事業を承継できます。M&Aの特徴としては、親族内事業承継や社内事業承継に比べると、後継者に適した人材を幅広く探せることです。企業を成長させるために、相乗効果が期待できる経営者に引継ぐ方法もあります。
一方で、M&Aは希望の条件を満たした売却先を見つけるのが困難な場合があります。売却価格や従業員の雇用等の条件面で折り合いがつかず、事業承継に時間がかかる事例も多いです。また、短期間で経営者の熱意や能力を見極めることが難しいと感じる経営者もいます。
【調査データ】社内事業承継が親族内を上回る
株式会社帝国データバンクが発表した後継者不在率の動向調査によると、2023年の事業承継は、「社内事業承継」が「親族内事業承継」を上回ることが明らかになりました。
M&Aによる事業承継も緩やかではありますが、近年は増加傾向です。後継者不在の課題を抱える経営者が増えるなか、親族外事業承継に舵を切る動きが進んでいます。
事業承継の流れ(親族内・社内事業承継)
後継者候補の選定や育成期間を踏まえると、事業承継は計画的に進める必要があります。ここからは、親族内事業承継・社内事業承継の流れを確認していきましょう。
①事業内容や資産状況の把握
事業承継に向けた準備として、まずは事業内容や資産状況の可視化から始めましょう。
現在の財務状況や将来の見通し等を確認し、自社の強みと弱みを客観的に把握します。経営状況や経営課題に関しては、経営者だけで進めるより、専門家や金融機関の協力を得たほうが効率的です。
第三者の視点が加わることで、自分では気づけない課題を見つけられる可能性があります。
②後継者の選定・意思確認
親族内・社内から適任な後継者を選定し、本人の意思を確認しましょう。
後継者候補が事業の承継を望んでいるかどうか、また経営の意欲や適性を確認します。候補が複数人いる場合は、承継後に揉めないように関係者を集めて意見調整を図りましょう。
後継者の選定後の後継者育成には、十分な時間を設けて経営者として必要な能力を高めます。経営者として必要な能力は短期間で習得できません。できる限り早い段階で後継者候補を選定して意思を確認し、事業承継に向けた準備を進めましょう。
③事業承継の計画を立てる
中長期の経営計画に承継時期や課題、具体的な対策を盛り込んだ「事業承継計画」を作成します。
事業承継計画書を作成する目的は、以下のとおりです。
- 現経営者と後継者の認識を合わせるため
- 親族や従業員間で揉めることを防ぐため
- 取引先や金融機関の理解を得るため
事業承継計画書の作成には時間がかかります。事業承継を円滑に進めるには、自社の課題を把握したうえで速やかに作成に着手することが重要です。
事業承継計画書の作成は、以下の手順で進めましょう。
- 現状の把握
- 関係者の意思確認
- 承継の方法、後継者の確定
- 事業承継計画書の作成
- 事業承継計画表の作成
事業承継計画書の各種書式は、日本政策金融公庫の公式サイトでダウンロードできます。
④後継者の教育
事業承継後に会社を潤滑に経営していくためには、後継者教育が必要です。
後継者育成には、以下の方法があります。
社内 | 社外 |
---|---|
|
|
後継者候補に必要な知識や能力を確認し、それらを習得できる機会を与えましょう。
⑤株式・事業用資産の受け渡し
事業承継は、自社株や事業用資産等の資産を移転することが必要です。
買取資金を調達できれば、現経営者から経営者候補に自社株が譲渡されます。取締役会に株式譲渡承認請求書を提出して承認を得てから、正式に締結されるのが一般的です。
また、事業用資産等の資産を移転する手続きもあわせて進めましょう。税務や法的な手続きは、公認会計士や税理士など専門家の協力を求めることが望ましいです。
⑥個人保証の処理
事業承継において障壁になるのが個人保証です。
現経営者が個人保証の対象者の場合、後継者候補が受け継ぐのが一般的です。ただし、後継者候補が難色を示した場合、事業承継や相続が円滑に進まない可能性があります。このような問題を解消するために、政府主導で「経営者保証ガイドライン」が制定されました。
経営者保証ガイドラインに定められた要件を満たせば、個人保証を解消できます。
参考:中小企業庁 経営者保証
事業承継にかかる費用
事業承継では、さまざまな費用がかかります。後継者に金銭的な負担を強いる場合もあるため、事業承継にかかる費用を把握しておくことが大切です。
どのような費用がかかるのか確認していきましょう。
税金費用
事業承継に課せられる税金は、「相続税」と「贈与税」です。
事業承継の際に問題になり得ることに、相続税・贈与税を挙げる経営者は多いです。たとえば、経営者から自社株式を相続または贈与を受けた場合、後継者に贈与税・相続税が課せられます。後継者は、自社株式の相続または贈与により金銭的な負担を強いられます。
ただし、事業承継税制を活用すると、自社株式にかかる贈与税・相続税が猶予されます。事業承継税制とは、中小企業の事業承継を支援する期間限定の特例です。一定期間にわたって要件を満たすと、猶予された税額は免除されます。
参考:国税庁 事業承継税制特集
所得税
後継者に自社株を譲渡した場合、譲渡所得に所得税(15.315%)・住民税(5%)が課税されます。親族内・親族外承継、M&Aなど承継手法にかかわらず必ず発生する費用です。
そのほか、税金の扱いは以下のとおりです。
法人税 | 事業承継において法人税は課税されません。ただし、M&Aによる事業譲渡の場合は、譲渡益(キャピタルゲイン)に対して法人税が課されます。 |
---|---|
消費税 | 法人税と同様に、消費税は課されません。ただし、事業譲渡の場合は消費税が課せられます。 |
登録免許税・不動産取得税 | 不動産(土地、建物)の所有権移転に際しては、登録免許税や不動産取得税が課せられます。 |
専門機関への報酬
事業承継の支援や手続き等で専門機関を利用した場合、以下の報酬や手数料がかかります。
- 税理士・会計士への報酬
- M&A仲介会社の手数料
- 弁護士への報酬
- 司法書士への報酬
近年は、無料相談を受け付けている専門機関も多いです。報酬や手数料の具体的な金額を知りたい場合は、一度相談してみることをおすすめします。
事業承継を支援する補助金
事業承継を支援する補助金制度には、「事業承継・引継ぎ補助金」があります。利用条件や補助上限額など補助金制度の概要を確認していきましょう。
事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金は、M&A時の専門家活用費用や事業承継・引継ぎ後の設備投資や販路開拓、設備廃棄費用等の支援を受けられる制度です。
事業承継・引継ぎ補助金は、以下の3種類に分かれます。
- 経営革新事業
- 専門家活用事業
- 廃業・再チャレンジ事業
それぞれの概要を、以下の表にまとめました。(2024年10月時点)
経営革新事業 | 専門家活用事業 | 廃業・再チャレンジ事業 | |
---|---|---|---|
補助内容 | 経営革新等への挑戦にかかる費用を補助 | M&Aにおいて専門家等の活用費用を補助 | 既存事業を廃業するための費用を補助 |
補助率 | 補助対象経費の2/3(600万円超~800万円相当部分は1/2) | 補助対象経費の2/3または1/2 | 補助対象経費の2/3または1/2 |
補助上限 | 800万円以内 | 600万円 | 150万円以内 |
支援対象者 | 中小企業・小規模事業者(個人事業主含む) | 中小企業・小規模事業者(個人事業主含む) | 中小企業・小規模事業者(個人事業主含む) |
参考:事業承継・引継ぎ補助金
事業の事業承継において課題となりやすいポイント
2023年に中小企業庁が事業承継に関する調査を実施した結果、後継者決定企業において、以下の課題を抱える企業が多いことがわかりました。
- 後継者の経営能力
- 相続税・贈与税の問題
- 後継者による株式・事業用資産の買取
- 取引先との関係の維持
もっとも多い回答は全体の約3割を占める「後継者の経営能力」で、多くの後継者決定企業が、後継者の選定に課題を抱えています。
事業承継の準備は計画的に進めよう!
後継者問題を抱える経営者が増えるなか、中小企業の経営を維持するには事業承継が不可欠です。
ただし、後継者の選定を誤ると安定した経営は望めません。とくに、中小企業はノウハウや取引先等の人脈が経営者個人に集中するため、円滑な運営や業績は経営者の資質に左右されます。
事業承継を検討しているなら、早い段階から後継者候補を選定し、後継者育成に取り組むことが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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