- 更新日 : 2024年4月25日
個人投資家が資産管理会社を設立するメリットとは?
個人で資産を管理するより、資産管理会社を設立し法人として資産を管理する方が税制面で多くのメリットがあります。
多くの資産を運用する個人投資家は、毎年多くの税金を納税しています。個人に課せられる税金が増える傾向の税制改正が行われる中、税金を安く抑えるための選択肢として、資産管理会社の設立が注目されています。
今回は、資産管理会社の設立にまつわるメリット・デメリットをご紹介しながら、資産管理会社にかかるコストや、資産管理会社設立の流れなどを解説していきます。
目次
そもそも資産管理会社とは?
資産管理会社とは、文字通り資産管理を目的として設立された会社のことを指します。一般的な会社は、株式の発行や銀行からの融資によって得た資金を元手に収益をあげていきますが、資産管理会社は、オーナーの資産を有利に運用・管理する目的のためだけに設立されるため、プライベートカンパニーとも呼ばれることもあります。
資産管理会社を設立して資産を管理すると、個人で資産の管理に比べ税制面で優遇されるのがメリットです。そのため資産家や個人投資家の間では、積極的に資産管理会社を設立する流れが生まれています。
資産管理会社を設立すべき人は?
では、資産管理会社を設立するとメリットが得られるのはどのような人なのかを見ていきましょう。
- 個人投資家
- 資産運用や副業を行っているサラリーマン
- 相続税の発生が見込まれる資産家
- オーナー社長
それぞれ1つずつ見ていきましょう。
個人投資家
投資で一定の収益を得ている個人投資家は、資産管理会社の設立が税制面で有利に働く可能性があります。
個人の所得にかかる税金は、収入が高ければ高いほど税負担が重くなります。累進課税制度が適用される所得税は、所得金額の5%~45%です。さらに住民税も加えると、最大55%もの税金を納めなければなりません。
一方の法人税の税率は、800万円までの課税所得に対し15%、800万円を超える分には23.2%が課せられます。法人住民税を含めて30%前後の税率で収まりますので、課税所得によっては、法人化により大きな節税効果が見込めるのです。
また、個人では経費にできない支出の中には、資産管理会社を設立することで経費に組み入れられるものがあります。例えば生命保険です。法人で生命保険を契約する場合、解約返戻金率の高い保険には一定の制限がかかりますが、基本的には支払った保険料がそのまま経費として計上できます。個人でも生命保険料控除として課税所得から控除できますが、最大12万円までの上限がかかります。その点法人では上限がありませんので、高額の保険に加入するほど課税所得を大きく下げられるのです。
さらに法人の場合は、役員の自宅を法人所有にしていれば減価償却が認められますし、ローンの支払利息を経費として計上できます。また賃貸の場合、社宅の形で法人が借り入れを行えば、家賃のうち一定の割合を経費にすることができます。
また、資産管理会社を設立するとオーナーは役員となり、会社から役員報酬を受け取る給与所得者となります。個人事業主ではなくなるため、国民年金よりも手厚い厚生年金に加入できるのも大きなメリットといえるでしょう。
資産運用や副業を行うサラリーマン
個人投資家と同じく、資産運用や副業を行って一定の収益を得ているサラリーマンも資産管理会社を設立するメリットを享受できるでしょう。
個人では経費に計上できなかったものが、法人になると計上できる範囲が広がり、より利益を残しやすくなります。そのほか、勤務実態に応じて家族に給与を支払うと、すべて自分が所得を得て税金を納めるより全体の税額は少なくなり、手元にお金が残るというメリットがあります。
相続税の発生が見込まれる資産家
多額の資産を個人で相続すると、所得税や住民税のほか相続税など多くの税金を納める義務が発生します。法定相続人の人数等の状況にもよりますが、法定相続分に応ずる取得金額(正味の遺産額から基礎控除額を差し引いた残りの額を民法に定める相続分によりあん分した額)が1億円の場合の相続税率は30%と、非常に高い税率が課せられます。
資産管理会社を設立して、家族に役員報酬として少しずつ資産を移転できれば、所得税や住民税、相続税の節税が可能です。生前贈与を個人が行う場合の非課税枠は年間110万円です。これを超える資産や所得を個人間で移動させると、最高55%もの贈与税が課税されます。しかし家族を役員として、役員報酬を支払うなら、一度に多額の贈与を行った際の贈与税よりも低い税額で資産を移転させられます。
また、個人が所有する資産は、相続人に受け継がれる際に相続税が発生します。相続税の納税期限は、相続人が被相続人の死亡を知ってから10ヵ月以内です。現金を相続した場合には、その中から納税すればよいですが、不動産を含む資産を相続した場合にはそうはいきません。納税額を捻出するために不動産の売却や物納のため、相続した不動産を手放さなければならない恐れがあります。
しかし資産管理会社に不動産を保有させておけば、不動産そのものは相続の対象ではなくなります。被相続人が保有する資産は管理会社の株式となりますので、相続割合に応じて株式を分割するだけで済みます。
分割しにくい資産の相続は相続人間のトラブルに発展しやすいため、そうした問題を未然に防げる点も資産管理会社設立の大きなメリットです。
オーナー社長
自社株の相続が悩みの種というオーナー社長も、資産管理会社のメリットを享受できるといえるでしょう。
資産管理会社の自社株について普通株式と無議決権株式を発行し、後継者予定者へ普通株式を、それ以外の者には無議決権株式を相続等させます。
無議決権株式とは、株主総会における議決権がない、または制限されている株式です。相続人全員に普通株式を相続させてしまうと、会社の経営方針に関する衝突が起きた場合に、意見の統一を図るのが非常に困難となる恐れがあります。
その点、財産としての価値は持ちつつも議決権がない無議決権株式を後継予定者ではない相続人に相続させておくことで、会社の事業承継がスムーズになります。
資産管理会社を設立するメリット・デメリットは?
資産管理会社を設立して節税するのにもいくつかメリット・デメリットがあります。1つずつ見ていきましょう。
ここまで資産管理会社の設立によって恩恵を受けられる人々をご紹介しました。多額の資産を持つ個人投資家ほど、多くのメリットを享受できますが、一方で会社設立によるデメリットにも注意しなければなりません。改めてどのようなメリットとデメリットがあるのか見てみましょう。
資産管理会社を設立するメリット
これまでご紹介しました資産管理会社を設立するメリットについて、ここで1度おさらいしておきましょう。
- 相続税や所得税の節税効果がある
- 所得の分散効果がある
- オーナーが厚生年金保険に加入できる
- 個人事業主よりも広い範囲の経費が認められている
- 相続・贈与がスムーズになる
これらのように、財産が多ければ多いほど大きなメリットを得られることをご紹介しました。加えて税制上のメリットとして、法人は繰越控除の期間が個人よりも長い点が挙げられます。
繰越控除とは、当年の損失を翌年以降に繰越し、翌年以降の所得から繰越控除できる税制度のことを指します。個人では最長3年間まで繰り越せますが、法人では最長10年まで繰越しができるため、損失が発生した分の税金をしっかり取り戻すことができるでしょう。
資産管理会社を設立するデメリット
一方で、資産管理会社の設立には、少なからずデメリットも存在します。
まず、会社設立時に必要な多額の費用が挙げられます。法人の設立には登録免許料を含む法定費用などの費用が必要です。これは会社に形態によって金額が異なり、合同会社設立には約15万円、株式会社設立には約25万円と、それなりの金額がかかります。
また、法人にすることによって法人税、事業税などの税金を納める義務が発生するほか、従業員の厚生年金保険をはじめとする、社会保険料の事業者負担も必要です。さらに、従業員や外注先の源泉徴収や年末調整といった経理処理の事務負担が大きくなることも、資産管理会社設立のデメリットといえるでしょう。
税制面でも、個人にはない制度があります。個人では損失が出た年には住民税が免除されますが、法人では損失が出たとしても均等割という法人住民税は必ず納めなければなりません。納税額は自治体によりますが、最低でも7万円は課税されます。
また、資産管理会社が保有している資産は、個人が使用する目的で使用できません。使用する場合は役員報酬や配当として処理するため、総合課税の対象となります。課税額によっては、所得税と住民税を合わせて最大で約55%もの税金を納めなければなりません。
これらのように、資産管理会社の設立には法人ならではの費用や制度があるため、必ずしも節税になるとは限らないのです。
資産管理会社にかかるコストは?
資産管理会社を設立するメリット・デメリットについて見てきましたが、ここからは資産管理会社にかかるコストについてみていきましょう。資産管理会社のコストは「設立コスト」「維持コスト」「資産移転コスト」の3つに分類されます。それぞれどのようなコストを意味しているのか、1つずつ見ていきましょう。
設立コスト
設立コストは、文字通り法人を設立するために必要なコストです。資産管理会社を設立するには、株式会社の場合は約25万円の費用がかかります。
さらに会社設立の手続きを司法書士へ依頼する場合は、司法書士への報酬も発生するため、数万円~十数万円の費用が加算されます。
なお、設立には一般的に開業資金となる資本金の用意が必要ですが、資産管理会社は事業目的の設立ではないため、多くの資本金の準備は必要ないでしょう。
なお、会社の設立に関しては、以下の記事でも詳しく説明していますので併せて参考にしてみてください。
維持コスト
維持コストは、会社経営を継続し法人を維持するためのコストです。資産管理会社における維持コストは、主に法人税等と税理士への報酬等を指します。
法人税等は、大きく法人税と法人住民税に分けられます。法人税は会計期間中における会社の利益に対して課税される税金のため、利益が出なければ納税の義務はありません。一方で法人県民税や法人市民税などの法人住民税は「法人税割」と「均等割」の2つから成っています。
法人税割は法人税の税額を基準に決められるため、赤字ならば発生しません。一方で均等割は資本金額と従業員数によって決められるため、赤字であっても最低でも5万円の法人住民税が発生します。
こうした法人の税計算や経理処理や煩雑なため、専門家による対応が求められます。社内に会計の専門家がいないようなら、顧問として契約する税理士への報酬も維持コストになるといえるでしょう。
資産移転コスト
資産移転コストは、個人への資産の移転を法人のコストとして捉えるものです。前述の通り、資産管理会社が保有する資産は、たとえ資産管理会社のオーナーであっても、個人のためは使えません。
資産管理会社の資産を個人使用するためには、役員報酬や配当として個人に移転させる必要があります。ただし移転させればそれだけ資産管理会社が持つ資産は減りますので、会社を維持させられる範囲に留めておくように注意すべきでしょう。
またオーナー個人へ移転された資産は、総合課税の対象となり、所得税・住民税が課税されます。移転した資産額によっては最大約55%の課税が待っていますので、個人としての税負担額も視野に入れた移転が臨まれます。
資産がいくらから法人設立すればよい?
個人に比べ、法人に課せられる所得税は上限が低く抑えられています。そのため法人化イコール節税というイメージを持つ人は大勢いますが、税制度上、誰もが必ず節税になるとは限りません。
個人の所得税は累進課税制度となっており、所得額のレンジによって税額が変わります。課税所得330万円から695万円未満までの税率は20%となっていますが、330万円を超えた途端にすべての所得に20%の課税が発生するわけではなく、330万円未満の部分は低い税率が適用されます。
そのため、800万円未満に対する法人税率15%を超える所得税率のレンジに入ったとしても、すぐに法人税額を超えるとは限りません。また法人税も800万円を超える部分は23.2
%の税率となるため、所得税との差がさらに広まるレンジがあります。
所得税と法人税だけを考えた場合、課税所得800万円程度を境に法人税が安くなり始めます。ただし住民税や事業税といった他の税金や、法人でのみ組み入れられる経費の影響などもあるため、一概に800万円から得になるとは言い切れません。
総納税額は、資産額や経費の内訳など、さまざまな要素が絡み合って決まりますので、個人の課税所得が700万円を超えた付近から法人化を検討するのがよいでしょう。
資産管理会社設立の流れは?
実際に資産管理会社を設立する場合、以下の手順で進めましょう。
- 会社情報を決める
- 会社設立に必要なものを準備する
- 法務局に提出する
1)会社情報を決める
社名、本店所在地、資本金の額、決算月など、会社の基本的な情報を決めます。社名の前後どちらかには必ず「株式会社」「合同会社」という名称を入れなければならず、また使用できる記号に制限があります。
株式会社・合同会社ともに、資本金は1円以上ならいくらでもかまいません。一般的な法人では対外的な取引の必要があるため、信用という面でもある程度の資本金が必要ですが、資産管理会社はあくまで個人の資産を管理するための会社ですので、資本金の額にはこだわらなくてもよいでしょう。
決算月は何月に定めても、法的には問題ありません。しかし一般的には2~3月は個人の確定申告の時期のため、税理士の繁忙期にあたります。じっくりと時間をかけて決算を行うためにも、この期間は避けた方が無難でしょう。
2)会社設立に必要なものを準備する
法人設立には3種の印鑑と定款が必要です。印鑑は代表者印、角印、銀行印の3種が必要であり、このうち代表者印は会社の実印として法務局への登録が必要とされます。
会社の基礎的なルールとなる定款を作成したら、公証役場で認証を得ます。なお、認証が必要なのは株式会社のみですが、合同会社でも必ず定款は作成しなければなりません。
3)書類を提出する
最後に各所へ届出を行います。設立登記は法務局、青色申告承認申請書は税務署、法人設立届出署は都道府県・市区町村など、提出しなければならない書類は多岐にわたります。
会社設立の詳しい流れについては以下の記事を参照してください。
資産管理会社の設立は慎重に検討しましょう
資産管理会社は、上手に設立すれば節税効果が期待できる一方、メリット・デメリットを把握しなければかえって高い税金を払う可能性があります。資産管理会社の設立は本当に自分にとってメリットとなるのか、慎重に検討しましょう。
よくある質問
資産管理会社を設立するべき人は?
個人投資家や資産運用・副業を行うサラリーマン、相続税の発生が見込まれる資産家、オーナー社長が該当します。詳しくはこちらをご覧ください。
資産管理会社を設立するメリット・デメリットは?
資産管理会社を設立するメリットは、所得税や住民税、相続税といった各種税金の節税効果が期待できることです。デメリットは設立や維持のコストがかかることです。詳しくはこちらをご覧ください。
資産運用会社はいくらから法人設立すればいい?
所得税と法人税は、課税所得800万円前後で逆転します。ただしその他の税金などの影響もあるため、課税所得700万円程度で、資産管理会社の設立を検討するとよいでしょう。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
個人事業主と法人の違いの関連記事
新着記事
歯科技工士の事業計画書の書き方は?テンプレートをもとに記入例を解説
歯科技工士は、専門性の高い職種であるため、独立開業の際には専用設備や精密機器の購入など、高額な初期投資が必要となります。創業時には、これらの設備費や運転資金を融資で対応するのが一般的です。この記事では、歯科技工士の事業計画書の作成方法や、資…
詳しくみる電気工事の事業計画書・創業計画書の書き方は?テンプレート・記入例つき
電気工事の事業計画書や創業計画書は、創業融資を受けたり、資金繰りの見直しを行ったりする際に重要な書類です。今回は、電気工事の事業計画書の重要性や書き方、日本政策金融公庫や補助金などの開業時の資金調達方法、事業計画書作成のポイントについて解説…
詳しくみる雑貨屋の事業計画書の書き方は?テンプレートをもとに記入例やポイントを解説
雑貨屋を開業する際には、事業計画書が非常に重要です。「どのような事業を行うのか」「どれくらい売上や経費が見込まれるのか」を明確にし、それに基づいて事業を進めていかないと計画通り運営が進まない可能性が高くなります。 この記事では雑貨屋の事業計…
詳しくみる工務店の事業計画書の書き方・記入例は?資金調達や経営改善のポイントも解説
工務店を開業する際、事業計画書は欠かせません。「工務店で独立したい」「自分の技術で稼ぎたい」と考えていても、計画がなければ行き詰まりやすく、資金調達も難しくなるでしょう。 この記事では、工務店開業を目指す方に向けて、事業計画書の書き方や資金…
詳しくみる建築士の事業計画書の書き方は?テンプレートをもとに記入例やポイントを解説
事業計画書とは、これから事業を始める方が計画や見通しをまとめるための重要な書類です。建築士として独立し事務所を開く場合も、事業計画書の作成は欠かせません。 この記事では、建築士事務所の開業を考えている方のために、事業計画書の書き方や具体的な…
詳しくみる解体業の事業計画書の書き方は?創業融資など資金調達のポイントも解説
解体業を開業するためには、事業計画書の作成が非常に重要です。計画書があれば、開業準備がスムーズに進むことで、資金調達がしやすくなり、安定した経営へとつながるでしょう。 この記事では、これから解体業で独立開業を目指す方に向けて、事業計画書の書…
詳しくみる