- 更新日 : 2023年11月30日
介護施設経営の基礎知識|難易度・平均年収・資格も紹介
昨今、少子高齢化の影響で介護施設の需要も高まっています。介護の仕事は大変というイメージもあるかもしれませんが、なくてはならない仕事です。介護施設を運営することで社会に貢献することもできます。
今回は介護施設経営の現状や経営者の平均年収、基礎知識についてご紹介します。
目次
介護施設経営の現状
まずはデータに基づきながら介護施設経営の現場について見ていきましょう。
介護サービスにおける収支差率
介護施設の経営状況を評価する際には「収支差率」という指標を使います。収支差率とは売上金額に対する利益の割合のことです。
という計算式で求められ、収支差率がマイナスだと赤字ということになります。一般企業でいうところの利益率に相当する考え方です。
厚生労働省の『令和2年度介護事業経営実態調査結果の概要』によると、令和元年度の介護老人福祉施設の平均収支差率は1.6%、介護老人保健施設は2.4%、介護療養型医療施設は2.8%、介護医療院は5.2%でした。
社会福祉法人の経営状況
大多数の介護老人福祉施設は社会福祉法人が運営しています。したがって、介護施設経営の現状を知るためには、社会福祉法人の経営状況も把握しておくことが大切です。
独立行政法人福祉医療機構が発表している『社会福祉法人の現況報告書等の集約結果』によると、令和4年4月1日現在日本国内には21,053の社会福祉法人が存在しています。
設立認可からの経過期間は41~45年が2,892法人と最も多く、次いで16年~20年が2,801法人となっています。ある程度歴史がある社会福祉法人が多くを占めていますが、1~5年の法人も563件となっているため、新規参入者も一定割合存在します。
サービス活動の収益規模は1億~2億円未満が25.6%と最も多いのですが、10億円以上の法人も12.3%存在しています。
サービス活動収益に対するサービス活動増減差額の割合を示すサービス活動増減差額率は全国平均が2.6%、中央値が1.56%ですが、マイナスとなっている、つまり赤字経営に陥っている社会福祉法人も相当数あるのが実情です。
介護事業の倒産件数
東京商工リサーチの調査によると、2022年の介護事業者の倒産件数は143件で過去最多となっています。内訳としては通所・短所入所介護事業が69件、訪問介護事業が50件、有料老人ホームが12件、その他が12件でした。
やはり介護事業の倒産増加の要因としては新型コロナウイルスの感染拡大が挙げられます。特に通所・短所入所介護事業の倒産件数が多いことから、感染を懸念して利用を控える人が増加したのに加え、感染対策も実施しなければならないこともあり、利益が減少して倒産に至ってしまった事業所が増加したことが考えられます。
介護施設経営の難しいポイント
以上のように、介護施設の経営は簡単なことではありません。ここからは介護施設の経営が難しい理由について考えてみましょう。
制度改正への対応
介護に関する法制度は毎年のように変わっていきます。介護施設はそれに柔軟に対応していかなければなりません。例えば、令和4年には介護報酬改定による待遇改善が実施されました。施設が受け取れる介護報酬が多くなりましたが、同時に介護職員の給与引き上げも求められます。
こうした制度変更、法改正に対応しきれず廃業してしまう介護施設も少なくありません。
利益確保
率直なところ、介護施設は利益率が低いビジネスモデルといえます。介護施設の収入源は、介護報酬です。介護報酬は原則として1割を利用者が負担し、9割は介護保険を原資とした介護給付金となりますが、これだけでは人件費や光熱費などの経費を賄いきれないケースもあります。一般の企業であれば利益率が高い商品やサービスを追加する、他の事業に参入するなど、さまざまな方法で収益が改善できますが、介護施設の場合はそのようなわけにはいきません。
利益を上げるには入居一時金やサービス利用料などを増額するなどの方法がありますが、金額を上げすぎると利用者が集まらなくなってしまいます。
人材確保
今、介護業界は深刻な人手不足に陥っています。夜勤がある、力仕事が多い、利用者によっては関係の構築が難しいなど、ただでさえ介護職の仕事はハードです。一方で、前述のとおり介護報酬は限られているので、介護職員の給料を上げようにも上げられない場合もあります。少子高齢化で働き手が減っていることに加え、最近では「介護=きつい」というイメージが持たれがちで、なかなか人材が集まらない傾向があります。
人手不足で長時間労働や休日出勤が慢性化して介護職員の負担が重くなった結果離職が発生し、さらに新しい人材が来ないため、ますます職員の負担が重くなるといった悪循環に陥っている介護施設もあるようです。
他の介護施設との差別化
おおむねどの施設でも提供するサービスの内容自体にはそれほど大きな差はありません。そのため、差別化がしづらいのも介護施設の経営が難しい理由です。
例えば、ホテルであればユニークな部屋やプランを用意する、魅力的な食事を出す、物販事業を展開する、イベントを開催する、期間限定のクーポンを発行する、企業とタイアップしてツアーを企画するなど、さまざまな差別化施策が可能です。介護施設でもサービスの質や職員の接遇の改善、あるいは食事や行事の改善などで差別化が図れますが、インパクトが強い施策はしにくいでしょう。また、リソース的にも大胆な差別化がなかなかしにくい状況にあります。
こうした理由から介護施設の経営はなかなか難しいのが実情です。開業する前には以上のこともしっかりと意識しておきましょう。
なお、介護施設の開業の流れや手続きについてはこちらの記事で詳しくご紹介します。
介護施設経営の初期費用・ランニングコスト
介護施設を開業するためには物件取得費、内装工事費、事務所内の備品代、車両購入費などがかかり、おおむね200~1,000万円ほど必要です。特に介護事業の場合は、必要な設備や人員、物件の広さなどが決まっているため、どうしても初期費用がかかってしまいます。
ランニングコストとしては賃貸料や人件費、水道光熱費、食材費、車両費、消耗品費、広告宣伝費などがかかり、1カ月あたり200~300万円程度は見ておく必要があるでしょう。
また、企業の場合は開業後にすぐに売り上げが得られれば、それを当面の運転資金に充てることができますが、介護の場合はそういうわけにはいきません。介護報酬が支払われるまでにはタイムラグがあるからです。
介護報酬が支払われるまでの流れ
介護報酬は利用者が全額を直接介護施設に支払うわけではありません。そもそも介護報酬の1割は利用者が負担をし、あとの9割は国民が納めた介護保険料から賄われ、提供した保険適用サービスに応じて国民健康保険団体連合会(国保連)から介護施設に支払われます。
介護施設は国保連に介護給付の請求を毎月行います。その後介護報酬の支払い手続きが行われるのですが、おおむね請求から入金まで1カ月半~2カ月ほどかかってしまいます。そのため、介護施設を開業しても2カ月間くらいはほぼ収入がないため、開業時には初期費用と2カ月分以上の運転資金を確保しておくことが必須です。
介護施設経営者の平均年収は?
介護経営者の年収に関する統計データはありませんが、おおむね400~1,000万円程度といわれています。前述のとおり、介護施設は差別化が難しく、利益が上げにくいビジネス構造となっているため、やはり一般的な企業の経営者と比較すると、儲けにくいというのが実情です。
ちなみに、令和3年度介護労働実態調査「事業所における介護労働実態調査 結果報告書」によると、介護施設で雇用されているサービス提供責任者の平均年収は約390万円となります。
介護施設経営におすすめの資格「介護福祉経営士」
介護施設を開業するためには管理者を対象とした指定前研修を受けなければなりません。この研修を受けて、自治体に指定申請を行うことで、介護保険指定事業者として介護施設を開業できるようになります。
介護施設経営を行うのであれば、この研修以外にも「介護福祉経営士」という資格を取得されることをおすすめします。介護福祉経営に関わる法制度や財務会計、リスクマネジメント、コンプライアンス、人材育成などの知識の習得と、それらを実務の現場で発揮できる人材、良質な介護サービスを創出するためのイノベータ―の育成を目的として、一般社団法人日本介護福祉経営人材教育協会が運営している認定資格です。
介護福祉経営士の資格を取得する過程で介護施設に必要となる専門知識を習得でき、取得すれば利用者やその家族からの信頼向上にもつながります。
介護施設経営について学びたい、介護施設経営に興味があるという方は、まずは介護施設経営士の資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。
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介護施設経営は厳しいけどやりがいがある仕事
介護施設は差別化が難しく利益が出しにくいという性質上、経営をしていくのは簡単なことではありません。事前にしっかりと準備しておくことが大切です。
一方で、今後も高齢化によって介護の需要が伸びていくのは間違いありません。介護施設を運営することで、社会に大きく貢献することができます。介護の仕事が好きな方、やりがいがある事業をしたい方は、参入を検討してみる価値も大いにあります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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