- 更新日 : 2023年10月25日
建築士として独立・開業するには?必要な資格や失敗を防ぐコツも解説
「建築士として開業したいけど、将来性があるか不安……」という方もいるでしょう。建築業界は人手不足が続いており、独立・開業する建築士の需要は高い状況です。
本記事では建築士として独立・開業するメリットやデメリット、開業の流れなどを解説します。建築士のフリーランスとして開業を予定している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
建築士として独立・開業する働き方
建築士として独立したいが、需要があるか気になるという方もいるでしょう。建設業界は深刻な人手不足の状況にあり、建築士は将来性の高い職種です。国土交通省が公表した2020年4月1日時点における建築士の登録者数は、以下のようになっています。
- 一級建築士 371,184人
- 二級建築士 775,032人
- 木造建築士 18,364人
特に20代の一級建築士は約2,000人と、全体の1%にも届きません。若い年齢の建築士が不足しているのが実情です。今後も少子高齢化が進み、建築士の不足はより深刻化する傾向にあります。
建築士の数は少ないにもかかわらず、ニーズは高まっている状況です。現在多くの建物の老朽化が進んでおり、建物を解体して新たな建物を建築するために建築士の知識と技能が求められています。
近年は技術が著しく進化し、AIに代替される業務も増えています。建築士にも影響があるのではないかという懸念もあるでしょう。確かに、建築業界でもAI代替の影響を受ける仕事があります。特に、敷地調査などの調査業務や基本設計のプランニング、図面作成、見積もりなどの業務は代替が進んでいます。
しかし、AIに代わる業務が増えても、建築士の需要が下がるわけではありません。これらのAIに代替した業務で収集した情報を分析し、クライアントに最適な提案をする仕事をAIが代替することはできません。むしろ、面倒な作業をAIが代替することで建築士の負担が軽減するため、より専門性の高い業務に専念できる可能性があります。
建築士として開業するメリット ・デメリット
建築士は将来性が高く、独立後の需要もあることが予想されます。建築士としての開業はさまざまなメリットがある一方、デメリットな部分も少なくありません。開業する際は、メリット・デメリットを把握しておきましょう。
建築士として開業するメリット
建築士として独立・開業した場合、スキル次第では会社員のときより高い年収を狙える点がメリットです。会社員の場合、毎月決まった給与で働いているため、どれだけ成果を上げても決められた金額しかもらえません。
昇給・昇格はありますが、実力のある方は収入が見合わないと感じることもあるでしょう。独立すれば受注する仕事に制限はなく、得た売上はそのまま自分の収入になります。
また、仕事量を自分の都合に合わせて調整でき、自由度が高いこともメリットです。仕事をする場所にもとらわれず、自宅や開設した事務所など好きな場所を選べます。
建築士として開業するデメリット
建築士として独立すると、高収入を狙える一方、収入が減る可能性もあります。特に開業したばかりは仕事が軌道に乗らず、会社員の時代よりも年収は下がるかもしれません。
軌道に乗ったあとも、仕事量や受注金額により収入は変わるため、収入が安定しないこともあります。十分な準備と計画性がないと、独立に失敗する可能性があるでしょう。
建築士は儲かる?年収の目安
会社員と独立した場合とでは、建築士の年収は異なります。厚生労働省の調査によれば、建築士を含めた建築技術者の平均給与は約37万円で、賞与などを含めた年収は約569万円です。給与所得者全体の平均年収は458万円であることから、高い水準といえるでしょう。
一級建築士の資格を持つ場合は、さらに高い金額になります。会社員でも高い年収であるため、独立した場合はさらに高収入を狙うことが可能です。
参考:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」
参考:国税庁「令和4年分 民間給与実態統計調査」
建築士が独立・開業するために必要な資格
建築士として開業するには、資格の取得と実務経験が必要です。また、収入を増やすためには、関連資格も取得しておくと役立つでしょう。
ここでは、建築士の開業に必要な資格や実務経験について紹介します。
建築士の資格
建築士として独立する際は、建築士の資格が必要です。資格は一級建築士・二級建築士・木造建築士の3種類で、建物の規模や用途、構造に応じて取り扱う業務範囲が定められています。このうち、一級建築士には取り扱いできる建物の面積・高さに制限がありません。
一級建築士の受験資格は大学や短大などで指定科目を修めて卒業しているか、二級建築士・建築設備士の資格を取得しているなどの要件が定められています。
実務経験を積む
建築士として働くには、実務経験が必要です。2020年まで一級建築士の受験資格には一定期間の実務経験が必要とされていましたが、2020年より建築士免許の登録要件に変更されました。
そのため、試験自体は実務経験がなくても受験が可能です。試験に合格したあとに建築に関する実務経験を積み、その合計が2〜4年以上あれば、一級建築士として登録できます。
実務経験は、主に建設会社や設計事務所、ハウスメーカーなどで、建築士として一定期間働くことが必要です。
年収増加に役立つ資格
建築士以外の関連資格も取得しておけば、仕事の幅が広がり、年収増加に役立ちます。関連資格には、次のものが挙げられます。
- 宅地建物取引士
- 一級建築施工管理技士
- 建築設備士
- インテリアコーディネーター
宅地建物取引士の資格は、宅地建物取引に関する知識やスキルが求められる場面で役立ちます。設計から施工までのプロセスを一括して担当する場合は、一級建築施工管理技士の資格が必要になるでしょう。
また、建築設備士があれば、複雑化した建築設備の設計や工事監理に関するアドバイスができます。インテリアコーディネーターは、家具やカーテン、照明など建物内部の装飾をトータルにプロデュースする仕事であり、建築士としての仕事の幅が広がります。
これらの資格があれば他の建築士と差別化でき、仕事を有利に進められるでしょう。
建築士が独立・開業するための費用の目安
建築士として独立・開業するためには、事務所の開設や登記申請、デスク・パソコンといったオフィス用品の購入などに資金が必要です。金額は、賃貸する事務所の規模や従業員を雇うかによって変わります。
従業員を雇う際は、毎月の給与や社会保険の保険料なども発生します。全体の目安としては、500万円程度の資金が必要になるとみてよいでしょう。
また、仕事がすぐに軌道に乗るとは限らず、しばらくは受注できない時期が続くかもしれません。数ヶ月は収入がないことも想定し、生活費の確保も必要です。
建築士が独立・開業するための流れ
建築士を開業するまでにするべきことは多く、一定の時間がかかります。ここでは、開業までの一連の流れを解説します。
建築士の資格を取得する
まず、建築士の資格取得が必要です。二級建築士でも独立・開業は可能ですが、より多くの仕事を受注するためには、一級建築士の資格が必要でしょう。
試験は年1回、学科試験と設計製図試験が行われます。学科試験に合格した方のみ設計製図試験を受けられ、両方に合格することで一級建築士の資格を取得できます。
大学や短大などで指定科目を修めて卒業していれば受験できるため、まず資格を取得することから始めましょう。
経験や実績を積む
建築士として免許登録するには、2年以上の実務経験が必要です。また、独立して建築士事務所を設立する際は、専任の管理建築士を配置しなければなりません。管理建築士とは、建築士事務所の建物の設計、工事監理など、技術的な事項を統括する建築士です。
一級建築士に合格した場合でもすぐに建築士になれるわけではなく、免許登録に2年以上の実務経験が必要です。
また、管理建築士を雇わない場合、自身が資格を取得しなければなりません。管理建築士になるためには、原則として建築士事務所に所属する建築士として3年以上の設計等の業務に従事し、管理建築士講習の課程を修了することが必要です。
そのため、合計5年の実務経験が必要になります。
建築士事務所の登録をする
建築士として開業するに際し、建築物の設計や建築工事契約に関する業務などを行うには建築事務所の登録が必要です。
登録するには申請書を作成し、窓口に提出して手数料を支払います。建築士事務所協会の審査を経て、登録証が交付されるという流れです。
登録申請に必要な書類は法人と個人で異なるため、各都道府県の建築士事務所協会のサイトなどで確認し、必要な書類を揃えてください。
管理建築士の講習を受講する
前にも説明したとおり、建築士事務所の登録には管理建築士が1人以上常駐しなければなりません。
開業する建築士が管理建築士の資格を得る場合、建築士として3年以上設計や工事監理などの業務に従事している実務経験を満たしたのち、講習を受講する必要があります。
講習は「公益財団法人 建築技術教育普及センター」が開催し、建築士法その他関係法令に関する科目と建築物の品質確保に関する科目の計5時間の講義が行われます。講義後、1時間の修了考査を受けて資格を取得するという流れです。
建築士として独立・開業する
管理建築士の講習を修了したら、建築士として開業できます。開業したら、仕事は自分で探さなければなりません。会社員時代に築いた人脈に頼ったり、新規顧客を獲得するための営業をしたりして案件を取得します。
営業の際は、これまで携わってきた案件・実績を整理し、アピールしていくとよいでしょう。
建築士が独立・開業に活用できる助成金・補助金
建築士が独立・開業する際は、助成金・補助金を受給することもできます。助成金・補助金に明確な定義はありませんが、助成金の多くは厚生労働省が主催しており、主に雇用支援を目的に実施されます。また、補助金の多くは経済産業省が主催し、受給には審査が必要です。
どちらも原則として後払い方式であるため、開業資金には利用できません。実際に資金を支出したあと、申請が通ってから支給される仕組みです。
建築士の開業ではどのような助成金・補助金を利用できるのか、みていきましょう。
建築士として開業することにより利用できる助成金
建築士の開業で利用できる主な助成金は、以下のとおりです。
- 雇用調整助成金
- キャリアアップ補助金
- 両立支援等助成金
雇用調整助成金は、事業活動を縮小するとき、従業員の雇用維持を目的に、休業手当などに対して給付される助成金です。キャリアアップ助成金は、非正規雇用を正規雇用にしたり、有期契約を無期契約に変更したりする際に受給できます。
両立支援等助成金は、従業員の職場と家庭を両立させた事業主に給付される助成金です。主に、従業員の育児・介護休業をサポートする取り組みに支給されます。
建築士として開業することにより利用できる補助金
建築士の開業では、次のような補助金の受給が可能です。
- 小規模事業者持続化補助金
- IT導入補助金
- ものづくり補助金
小規模事業者持続化補助金は、販路開拓等や業務効率化の取り組みに支払われる補助金です。広告費用や外注費など、幅広い分野で利用できます。
IT導入補助金は、ITツールや業務効率化に役立つソフトの導入に対して申請できる補助金です。ものづくり補助金は、中小企業などの生産性向上に役立つ設備投資をサポートする補助金であり、建築士の事務所でも利用可能です。
建築士の独立・開業で失敗を防ぐコツ
建築士として独立・開業する際は、失敗しないためにコツを押さえることが大切です。ここでは、独立・開業で失敗を防ぐために必要なポイントを解説します。
開業資金に加え十分な運転資金を用意する
独立・開業してすぐに仕事が見つかるとは限りません。当面は収入が不安定になる可能性があります。収入がないことも想定し、数ヶ月から1年程度生活できるだけの貯蓄が必要です。
仕事を探す際は、できるだけ元請けの仕事を選びましょう。独立直後は下請けの仕事が多くなりがちですが、下請けは中間マージンをとられるため利益が少なく、次の依頼があるかもわからないため不安定です。できるだけ元請けの仕事をとるようにすると、収入を増やして次の仕事にもつながりやすくなります。
独立前にクレジットカードを作成する
独立前にはクレジットカードを作成しておくことも大切です。独立した直後のフリーランスは社会的信用を得にくく、クレジットカードの審査に通らない可能性があります。
法人になる場合はクレジットカードを作成できる場合もありますが、あくまでも法人用です。個人で利用するクレジットカードをまだ所持していない場合は、会社員のときに作成しておきましょう。
経理・経営の知識をつける
建築士として独立する場合、建築士以外の経理や経営、マーケティングの知識も必要です。毎年、確定申告の申告が必要であり、事業を進めるためには経営者の視点で事務所を運営しなければなりません。
これらの知識を身につけないまま開業すると、思うように収益が上がらず、経営がうまくいかないといった事態にもなりかねません。
積極的に人脈を広げる
独立・開業には人脈作りが大切です。人脈から仕事を受注できるケースは少なくありません。独立前に人脈を作っていると、独立後の大きな助けになります。手が回らない仕事を回してもらったり、自分が忙しくてさばききれない仕事を紹介したりすることも可能です。
会社員として経験を積む際は、情報交換をしながら交友関係を広げることを心がけましょう。
SNSなどで集客する
仕事を獲得するために、自社サイトやSNSを活用するのもおすすめです。独立前にサイトの構築やSNSのアカウントを作り、集客方法を作っておくと、開業後に役立ちます。
どれだけ優秀な建築士でも、集客できなければ収入を得られません。独立前にサイトの閲覧数やSNSのフォロワーを増やしておくと、独立後の集客がスムーズになります。
ただし、自社サイトやSNSの運用は、即効性があるものではありません。独立を決めたら早めに運用を始め、継続してアピールしていくことが大切です。
建築士は独立・開業しても需要が高い仕事
建築業界は人手不足が深刻化しており、建築士の需要は高まっています。将来性が高く、独立・開業後も活躍できる可能性があります。
建築士として独立するには、一級建築士などの資格を取得し、実務経験を積むことが必要です。開業には事務所の開設やオフィス用品などの費用とともに、収入が安定するまでの運転資金を用意しておかなければなりません。
順調に事業を運営するため、建築士以外にも経理や経営の知識を身につけておきましょう。独立後に安定して仕事を得るには、会社員時代に人脈を築くことも大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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