• 作成日 : 2024年12月27日

事業承継について銀行に相談するメリットは?相談できる内容や料金も解説

銀行は融資先の経営状態をよく把握していることから、事業承継の相談相手として適しています。資金調達にとどまらず節税方法や経営の改善、承継先など幅広い領域における相談が可能です。本記事では、事業承継の相談を銀行にするメリット・相談内容・手続き・注意点を解説します。

事業承継について銀行に相談するメリット

銀行に対して事業承継の相談をする利点は、ハードルの低さです。融資元に経営や税金の話を気軽にもちかけられる他、基本的に相談料は発生しません。銀行に事業承継のアドバイスを受けるメリットについて、詳しく解説します。

会社の資金繰りや経営状況を把握している

事業承継を銀行に相談する大きなメリットは融資元の金融機関を活用して、一から企業理念を説明したり、事業計画書を提出したりせずに済むことです。

常日頃から銀行の融資を受けている企業は、会社の資金繰りや経営状況が筒抜けです。融資元は現在自社が置かれた状況を把握しているため、一社一社に応じた適切なアドバイスが期待できます。

後継者とのスムーズな関係の構築を図る上でも、取引がある銀行の活用は有意義です。早い時期に相談して計画的に承継の準備を進めれば、経営者の交代に伴うトラブルを未然に防止できます。

実際、銀行は中小企業や小規模事業者の事業承継にかかわる初めての相談先として、頻繁に利用されています。

贈与税・相続税などの税金対策の相談ができる

銀行は融資以外にも、贈与税・相続税・法人税など税金周りの知識が豊富な機関です。日々多くの企業と取引をして培ったノウハウをいかして、さまざまな税制のアドバイスをしています。

ただし個別具体的な税務相談を業務で実施できるのは法律上、税理士に限られます。相談内容次第では、銀行の窓口では解決できない可能性もあると頭に入れましょう。

銀行の権限がない領域や知識や経験が及ばない分野では、提携先の税理士や公認会計士の紹介を受けられます。

銀行によっては無料で相談できる

もう1つのメリットは相談料や着手金が発生せず、相談時に費用がかからない点です。地方銀行をはじめ、事業承継の無料相談に応じる銀行は少なくありません。

銀行は提携の公認会計士や税理士、M&A仲介会社を紹介し、相談者から報酬をもらわずとも紹介料で利益が出るためです。しかし事業承継の窓口として考えた時、金融機関で対応可能なのは初歩的な問い合わせにとどまります。

いわば事業者と外部の専門機関との橋渡し役に過ぎず、実務を担うのは紹介した士業やM&A会社です。

相談者は銀行から紹介された専門家を活用する際に、依頼料の支払いが必要です。また業務の一環で事業承継の相談に応じる金融機関とアドバイザリー契約を結んだ時は、銀行に対する手数料が発生します。

事業承継について銀行に相談できる内容は?

事業承継に関して銀行に相談できる内容は次の通りです。

  • 事業承継先の紹介
  • 自社株の評価
  • 税金対策
  • 経営対策

相談内容の詳細を解説します。

事業承継先の相談

後継者不在かつ事業を続ける意思がある企業の場合、銀行から事業承継先のあっせんを受けられます。相談者は買収先候補を探している顧客企業とのコネクションをいかして、迅速に相手方を見つけることが可能です。

銀行経由の承継先とのマッチングでは系列支店を活用した固有のネットワークを活用して、M&A会社では見つからない買収先に巡り合える可能性があります。

また紹介経由で承継先を見つけた場合、金融機関と強固な信頼関係を築いて、融資を受けやすい環境の構築にも役立ちます。

自社株に関する相談

銀行では中小企業と多数接触してきた経験をいかして、非上場の中小企業の株式価値を判定できます。非上場企業では誰もが価値を算定できる株価が存在しないため、企業価値評価を行って価値を明らかにします。

親族間で事業承継をする場合、現経営者から後継者に自社株の所有権を移さなくてはなりません。この時、相続税や贈与税の計算のために株価算定が必要です。

銀行に自社株の評価を依頼すれば、事業用資産の評価額の算定以外にも、納税資金が足りない時の対処法や節税方法も含めた総合的サポートを期待できます。

税金対策の相談

銀行は法人税や相続税の負担軽減を意識した一次的な窓口として機能します。現在の経営者が死亡した場合、親族内承継を選択すれば相続人の後継者に対して相続税が課されます。

相続税の税率は、法定相続分の取得割合に応じて10〜55%の累進課税が適用され、基礎控除額も法定相続人の数によって変わります。中小企業の事業承継においては、非上場株式の承継時に相続税と贈与税が猶予になる事業承継税制への対応も必要です。

このように事業承継にかかわる税制は複雑であり、承継先によっても適用条件や納税猶予の割合が変わります。法律に則った正しい手続きで適切な額を納税するには、専門家のサポートが不可欠です。

経営相談

金融機関を介する事業承継にかかる資金調達や、適切な後継先の選定を相談できます。事業承継のコンサルティングや経営支援部門をもつ銀行も登場し始めており、専門的な支援が可能です。

銀行は融資先の経営相談には積極的に対応していますので、事業承継に至るまでの経営改善や後継者不在に悩む場合など、事業承継相談に関しても経営者の意向を踏まえた包括的なサポートを期待できます。

事業承継について銀行に相談する流れは?

事業承継を銀行に相談する際の大まかな流れは、次の通りです。

  • ステップ1:事業承継に向けた準備の必要性の認識
  • ステップ2:経営状況や経営課題等の把握
  • ステップ3:事業承継に向けた経営改善
  • ステップ4:事業承継計画の策定
  • ステップ5:事業承継・M&Aの実行

事業承継に関する相談では、早めの動き出しが肝要です。後継者の育成・教育や諸々の手続きに要する準備期間を考慮して、事業を譲り渡す5〜10年前には準備に取り掛かり始める必要があります。

次に後継者への承継を円滑に進めるため、経営状況や経営課題、経営資源の見える化に着手します。また、承継前には経営改善に着手しなくてはいけません。後継者候補が後を継ぎたくなるような、魅力的な土壌作りが大切です。製品やサービスの競争力強化、内部統制の向上、資金調達力の強化に励みましょう。

具体的に事業承継を進めるにあたり、自社や周囲の環境を整理した上で将来を見据えた事業承継計画の策定が求められます。単に計画を作るにとどまらず、取引先や従業員、金融機関などの関係者と共有しておくと円滑な承継につながります。

親族内承継や従業員承継以外の第三者へのM&Aを検討する場合、仲介者の選定や企業価値評価、後継者との契約手続きも必要です。

事業承継について銀行に相談する場合の手数料は?

事業承継についての地方銀行への相談は、初期段階では手数料が不要です。メガバンクや外資系投資銀行の場合、M&A仲介手数料や着手金を求められる可能性が高いでしょう。

仲介会社への手数料相場は、一般的に成約金額の3〜5%です。例えば承継先との契約金額が5,000万円の場合、150万〜250万円の手数料負担が生じます。なお、メガバンクや外資系銀行は大規模なM&A案件のみで、中小企業の相談は基本的に受け付けていません。

仲介手数料の発生条件は、取引成立時に費用を支払う完全成功報酬型と着手金・手付金、中間手数料が伴うケースに分かれます。

前者は取引が成立しない時の無駄なコストを削減できる反面、手数料が割高です。後者は事前に正確な費用を見積もることに適した方法ですが、確実に成果が出るとは限らないため費用対効果の観点が求められます。

成功報酬の代表的な算定方法は、以下の通りです。

  • レーマン方式:譲渡額や資産額を基準に一定の料率を乗じて手数料を算出する方法
  • 移動総資産レーマン方式:株式売却額に負債総額を加算した上、手数料を算定する方法

事業承継について銀行に相談する際の注意点

事業承継の相談を銀行に行う場合、承継先の選択肢が狭まる傾向があります。金融機関はM&Aの専門機関との橋渡し役にとどまり、実務を担う主体にならないことにも注意しましょう。事業承継を銀行に相談する際の詳細な注意点は、次の通りです。

銀行の顧客を優先的に事業承継先に選定する

家族や従業員以外に承継させる第三者承継の場合、事業承継先は銀行の取引先に限定されます。相手方の選択肢が狭まり、最良の承継先と巡り合えない可能性があります。また、銀行が融資を検討する企業が優先的に選ばれる可能性が高いことも、懸念材料です。

融資先を増やして自行の利益を出すため、買い手側に有利になる交渉条件を設け、銀行主導で承継先を選定するといった利益相反のリスクがあります。

実務を担う主体にならないケースが多い

事業承継は銀行の本業ではないため、推進・実行は外部の専門家となるケースが一般的です。紹介先のM&A仲介会社や担当者と相性が合わず、事業承継が上手くいかない可能性もあります。

また、銀行側で実施した企業価値の評価が、紹介先の算定結果とかけ離れるケースも珍しくありません。

案件の規模次第では対応できない場合がある

地元の中小企業支援に特化した地方銀行の場合、大規模なM&Aや逆に小さすぎる案件は専門外で断られる可能性があります。具体的にはリソースや経験、ノウハウを考慮して対応が難しいと判断できるケースや、小規模過ぎて支援しても利益にならないケースが該当します。

すでに関わりがある銀行ならまだしも、取引実績のない地方銀行やメガバンクなどに相談をもちかける際には注意が必要です。

事業承継について相談できる銀行以外の場所は?

銀行以外に事業承継の相談ができる支援機関は、以下の通りです。

  • M&A仲介会社
  • 弁護士・税理士・公認会計士
  • 公的機関

各機関の特徴やメリットを解説します。

M&A仲介会社

M&A仲介会社は、中小企業のM&Aや事業承継の支援を得意としています。デューデリジェンス(買収監査)をはじめ、事業承継の手続きを主体的に推進できるのは銀行にない特徴です。

手数料体系は着手金・中間金・成功報酬からなりますが、近年は完全成果報酬型の事業者が増えています。M&A仲介会社の活用は、豊富な取引先と信頼関係構築のノウハウをいかして、理想的な承継先との出会いを実現できる可能性が高い方法です。

弁護士・税理士・公認会計士

弁護士や税理士、公認会計士を頼ると、相続や贈与、契約書の作成など各士業の専門分野でサポートが期待できます。必ずしもすべての専門家を活用する必要はなく、事業承継先の紹介を行っている専門家もいるため、相談者は自社が依頼したい分野に特化した支援を受けられます。

弁護士は利益の最大化を目指した関係機関や利害関係者との調整が得意で、M&A契約にあたり契約書の作成を依頼できるのもメリットです。

また税理士への依頼では、事業承継税制の活用や相続税対策など税務に特化した支援を受けられます。会計の専門家である公認会計士は、財務諸表の監査や事業承継に向けた経営改善のアドバイスができる相談先です。

公的機関

事業承継の相談ができる公的機関は、銀行が支援不可の小規模な事業承継の相談先として適しています。例えば以下のような機関が該当します。

  • 事業承継・引継ぎ支援センター:国が営む事業承継の公的な支援窓口。経験豊富なスタッフによる包括的な支援を受けることが可能
  • よろず支援拠点:中小企業や小規模事業者の経営にまつわる相談に応じる機関
  • 中小企業活性化協議会:全国各地の商工会議所が運営し、地域全体で中小企業の経営改善や事業再生を支援する機関

いずれの機関も47都道府県に支部があり、相談に費用はかかりません。さらに従業員が数名程度の企業でも利用でき、資金力や人手不足で事業承継がままならない事業主のセーフティネットとして機能します。

銀行は事業承継の最初の窓口として適している

銀行は事業承継を検討し始めた中小企業の最初の相談役として適しています。融資元の金融機関であれば自社の資金繰りや経営状況などの内情に通じ、親身になって話を聞いてくれる可能性が高いです。

銀行はさまざまな提携先とのコネクションをいかして、適切なタイミングで最適な専門家の紹介が可能です。事業承継を検討する企業ははじめに取引がある金融機関に相談すれば、実行まで見据えた満足度の高いサポートを期待できます。

参考:中小企業庁 事業承継ガイドライン


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