• 作成日 : 2024年12月27日

親族内承継とは?メリットや注意点、他の事業承継の方法との違いを紹介

親族内承継とは親族に会社を引き継がせる事業承継の手法です。本記事では、親族内承継の概要やメリット・デメリット、親族内承継をする際に必要な一連の流れについて解説します。

あわせて、事業承継を検討する際の相談先や相談事例なども紹介するので、ぜひ参考にしてください。

事業承継における親族内承継とは?

事業承継とは、会社の経営権や資産を後継者へ引き継ぐことです。さらに、事業承継は引き継ぐ相手によって、次の3つに分けられます。

  • 親族内承継
  • 親族外承継
  • 事業譲渡(M&A)

なかでも、親族内承継とは経営者が自分の子どもや孫などの親族に会社を引き継いで、経営を任せていくことです。

ここでは、親族内承継と親族外承継の違いや事業譲渡(M&A)との違いについて解説します。

親族内承継と親族外承継との違い

親族外承継は、役員や従業員が事業承継をするケースを指します。家族内に後継者がいない場合や親族が事業承継を希望しない場合などに選ばれる手法です。

親族内承継と親族外承継の違いは、会社を誰が継ぐかという点です。親族内承継では自分の子供や兄弟などの親族に引き継ぎますが、親族外承継では親族以外の第三者が経営権を引き継ぐことになります。親族外承継では役員や従業員のほか、取引先などの外部から後継者を招く場合もあります。

親族内承継と事業譲渡(M&A)との違い

事業譲渡(M&A)とは、親族や社内に後継者の候補がいない場合に取られる事業承継方法です。第三者へ会社を売却することで会社を引き継ぎます。事業譲渡(M&A)であれば、親族内承継のように後継者に相続税の負担をかける必要がありません。また、従業員の雇用や取引先との関係を維持できたり、金銭面でのメリットを享受できたりします。

親族内承継と事業譲渡(M&A)の違いは、現在の経営者の引退が伴うかどうかです。一般的に事業承継では現在の経営者は引き継いだあとに引退することが前提となります。

しかし、事業承継(M&A)では引退するか、引き続き経営にかかわるかは、企業によってさまざまです。また、承継相手も親族ではなく、事業会社やファンドなどが承継の相手となる点が相違点として挙げられます。

事業承継のうち親族内承継が占める割合

実際に事業承継のうち、親族内承継はどれくらいの割合で実施されているのでしょうか。帝国データバンクの調査によると、2023年の事業承継に占める「同族承継」(親族内承継)の割合は33.1%でした。2022年の同調査では37.6%だったため、4%ダウンとなっています。

一方でこれまでトップだった「同族承継」(親族内承継)を抜いて、「内部昇格」(親族外承継)が35.5%で初めてトップとなっています。

また、判明している後継候補の中において後継者属性でもっとも多いのが、非同族の37.5%でした。これらのデータからわかるように、事業承継においては親族間承継の低下を背景に「脱ファミリー」の動きが加速していると考えられます。

参考:帝国データバンク 全国企業「後継者不在率」動向調査(2023)

親族内承継で事業承継するメリット

親族内承継で事業承継する主なメリットは、次の4点です。

  • 企業理念や文化をスムーズに引き継ぐ
  • 取引先や周囲の理解を得やすい
  • 相続税や贈与税の優遇を活用しやすい
  • 迅速な意思決定が可能

それぞれ詳しく見ていきましょう。

企業理念や文化をスムーズに引き継ぐ

親族内承継のメリットは、企業理念や文化をスムーズに引き継ぐことができる点です。経営者が親族に事業を引き継ぐ場合、経営者が日々の業務や意思決定に関わりながら、後継者に経営のノウハウや知識、経験、ビジネス戦略などを伝えます。そのため、後継者は実践的なスキルを身につけながら、業界の動向や顧客のニーズも理解できます。

長年の実務経験や業界知識を直接引き継ぐことができる点は、経営者・後継者双方にとって大きなメリットといえるでしょう。

取引先や周囲の理解を得やすい

経営権を親族へ承継する場合、取引先や周囲の理解を得やすいこともメリットです。前述のデータからもわかるように、親族内承継は日本では多くの企業で採用されてきた手法のため、従業員や取引先、金融機関からも受け入れられやすい特徴があります。

相続税や贈与税の優遇を活用しやすい

上場していない中小企業の株式を承継する場合には、一定の条件を満たすことで贈与税や相続税の納付猶予・免除が可能です(事業承継税制)。親族内承継であれば、このような税制上の優遇措置を活用しやすい点はメリットといえます。

迅速な意思決定が可能

迅速な意思決定が可能なことも親族内承継のメリットです。親族内承継では、一族の一体性や代々受け継がれてきた体制があるため、迅速な意思決定がしやすくなっています。

その反面、創業家一族の暴走や事業の私物化などを招かないようにすることも健全な会社経営においては欠かせません。

親族内承継で事業承継するデメリット

親族内承継で事業承継する主なデメリットは、次の3点です。

  • 親族に後継者候補がいない
  • 後継者も債務や個人保証を引き継ぐ
  • 親族同士でトラブルになるおそれ

デメリットを把握して、後悔のない事業承継を実現しましょう。

親族に後継者候補がいない

親族内承継のデメリットとして、そもそも親族に後継者候補がいない場合があります。後継者の候補となる人材がいた場合でも、その人物が経営に向いているとは限りません。

実際に帝国データバンクによる調査、「全国『後継者不在率』動向調査(2023)」によると、後継者不在率推移率を見ても50~60歳の「現役世代」を中心に大幅な低下傾向にあります。

下表を見てもわかるように、50代の後継者不在率は60.0%と、全国平均と比較すると高いですが、前年からの低下幅は全年代で最大となる5.7pt減でした。事業承継の適齢期にあたる60代も50代に次いで低下幅が大きく、初めて40%を下回る結果となっています。

また、全年代で後継者不在率は過去最低を更新する結果となっています。

年代別2022年2023年
40代86.375.1
50代79.360.0
60代65.737.7
70代42.629.8
全国平均57.253.9

参考:帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査(2023)

後継者も債務や個人保証を引き継ぐ

中小企業では、経営者が債務の保証人になっているケースが多く見られます。また、経営者から事業を引き継ぐ場合は、個人保証も引き継ぐことになり、それらが後継者への大きな負担となる点は、デメリットです。

なお、個人保証が事業承継の妨げになっている状況を受けて、2014年に「経営者保証に関するガイドライン」の運用が開始されています。一定条件を満たすことで、個人保証を引き継がなくても事業承継が行える環境が整いつつあり、親族内承継においては個人保証が解除され、後継者が新保証人として引き継がれるように変わってきています。

ただし、金融機関によっては、リスク軽減のために現経営者の個人保証を維持させたうえで後継者に対しても個人保証を付加するケースもあるため、注意しましょう。

親族同士でトラブルになるおそれ

法定相続人が複数人いる場合、親族内承継で事業用の資産や株式を承継することに反対する人が出てくる可能性があります。親族間でトラブルに発展し、結果的に事業用の資産や株式を分散することになると、その後の経営が安定しないリスクが出てくるため、注意してください。

親族内承継で事業承継する流れ

親族内承継で事業承継する流れは以下の通りです。

  1. 現在の経営状況や課題の洗い出し
  2. 後継者の指名と意思の確認
  3. 事業承継計画の策定
  4. 関係者への周知
  5. 株式・資産の移転と経営の引き継ぎ
  6. 法的手続き

まずは、経営状況や課題を洗い出したうえで、後継者の確保に努めましょう。後継者が決まったら、事業承継計画を策定し関係者への周知を行います。その後は、株式・資産の移転と経営の引き継ぎ、法的な引き継ぎを行って完了です。

ステップごとに詳しく見ていきましょう。

1.現在の経営状況や課題の洗い出し

事業承継を行う前に、現在の会社の経営現状と課題の把握に取り組みましょう。その際は、現在のビジネスモデルの持続性や市場の成長性、競争力などを評価し、経営者と会社の貸借関係や承継される資産も明確にしていくことが大切です。

会社経営状況を見える化することで、承継するものが明確になっていきます。

2.後継者の指名と意思の確認

次は後継者候補を選んで、本人の意思確認を行うステップです。後継者候補の選定においては、候補者本人の年齢や適性、意向などをふまえ、慎重に検討するようにしましょう。

また、できるだけ早い段階で候補者に継ぐ意思があるのかを確認して、お互いの意向を合わせておく必要があります。

3.事業承継計画の策定

事業承継を行ううえで欠かせないのが、事業承継計画の策定です。事業承継には5~10年の時間を要するため、事業承継の目標や方針を明示しておきます。具体的には、「いつ、どのように、何を、誰に」承継するのかについて、計画を立案しておきましょう。

また、事業承継計画は、後継者や親族、会社幹部、金融機関などとビジョンを共有するための重要なツールでもあります。しっかりとした内容に仕上げ、関係者と共有しておくことで協力が得られやすくなるほか、信頼関係維持にもつながります。

4.関係者への周知

後継者が決まって、事業承継計画の策定が済んだら、従業員や取引先などの関係者へ、事業承継について周知します。周知する際は、早めに周知したり事業承継のプロセスを周知したりするようにしてください。そうすることで、取引先が取引を中止したり、従業員が離職したりするリスクを低減できます。

5.株式・資産の移転と経営の引き継ぎ

会社の資産である株式や事業資産などは、後継者に引き継ぐことになります。後継者が自社株の割合を高く持つほど経営を安定させられますが、自社株の割合は株主総会での議決権に直結するため、親族内承継でトラブルになりやすい部分です。必要に応じて、ほかの法定相続人と調整する必要も出てくるでしょう。

トラブル防止につなげる意味でも、事業承継の早い段階で資産割合などを明確にしておくことが大切です。

また、現経営者が会社の借入の個人保証や個人資産を担保に入れている場合には、後継者に替える必要があります、変更がスムーズに行えるように、金融機関と交渉をしておくことが重要です。

6.法的手続き

正式に後継者に経営権を移すためには、会社の定款変更や役員の変更などの法的手続きも必要です。また、前述した資産の移転には相続税や贈与税の問題も関わるため、税理士や弁護士などの専門家と相談しながら進めると事業承継の手続きがスムーズです。

親族内承継で後継者に株式を承継させる方法

親族内承継で後継者に株式を承継させる方法は、次の3つです。

  • 生前贈与で株式を無償で譲り渡す
  • 相続で自社株を渡す
  • 自社株を売買して渡す

それぞれのメリット・デメリットを把握して、自社にあった方法を選べるようになりましょう。

生前贈与で株式を無償で譲り渡す

1つめが生前贈与で株式を無償で譲り渡す方法です。生前贈与による親族内承継では、現経営者が存命中に後継者に株式を贈与します。メリットとしては段階的に株式を贈与することによって、後継者は多くの資金を用意しなくて済む点です。

デメリットとしては、贈与税がかかる点です。贈与税は相続税より税率が高くなりやすいため、最終的に支払う税負担が大きくなる可能性があることには注意しましょう。

相続で自社株を渡す

2つめの方法が、現経営者が亡くなったあとに相続で自社株を承継する方法です。

メリットとしては、相続税には基礎控除額があるため、贈与税額と比べて総額が安くなる可能性が高いことがあります。

※基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数

デメリットとしては、承継に時間がかかることや、相続財産が後継者に集中することで納税するための資金の問題や遺産分割の問題が生じやすいことです。

納税資金を確保する方法としては、資産を事前に現金化しておく方法や借入で対応する方法などがあります。また、遺産分割でのトラブルを抑えるためにも、遺言書を作成しておくことをおすすめします。

自社株を売買して渡す

3つめが、株式売買による方法です。この方法では、現在の経営者に対して後継者が株式の対価を支払って、自社株を自分に集約させます。

メリットは、現経営者が生きている間に株式の売買を行うため、相続問題が発生しにくく、他の相続人とトラブルになることを防げる点です。デメリットは、株式を買うためのまとまった額の資金を用意する必要がある点や適切な株価算定が必要な点です。

本来の価格よりも安い価格で売買を行うと本来の価格との差額部分を贈与とみなされ、贈与税の負担が別途求められるため注意しましょう。

親族内承継でかかる税金と節税方法

親族内承継でかかる税金は、主に相続税・贈与税・所得税・復興特別所得税・住民税です。それぞれの税金についても押さえておきましょう。

相続税・贈与税

相続で事業承継した後継者に対してかかる税金が、相続税です。相続税を算出するためには、まず課税遺産総額を出し、法定相続分で按分します。各人の取得金額が算出されたら、以下の表を元に税率と控除額を出しましょう。

それぞれの相続税は、各人の「取得金額✕税率−控除額」で算出できます。

法定相続分に応ずる取得金額税率控除
1,000万円以下10%

1,000万円超から3,000万円以下15%50万円
3,000万円超から5,000万円以下20%200万円
5,000万円超から1億円以下30%700万円
1億円超から2億円以下40%1,700万円
2億円超から3億円以下45%2,700万円
3億円超から6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

参考:国税庁 No.4155 相続税の税率 相続税の速算表

一方の贈与税とは、生前贈与で事業承継した後継者に対して課される税金です。贈与税の課税方法は暦年課税と相続時精算課税の2つがあります。

暦年課税の場合の基礎控除額は110万円です。1年間の贈与の合計額が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。

相続時精算課税制度とは、2,500万円までであれば受贈者が贈与税を納めずに贈与を受けられる制度のことです。ただし、贈与者が亡くなった際に、贈与財産の価額と相続財産の価額の合計金額から相続税額を計算し、相続税を一括で納付しなければなりません。

なお、2024年1月1日以降の贈与については、取得財産価額の合計に基礎控除110万円が適用されます。

所得税・復興特別所得税・住民税

所得税・復興特別所得税・住民税は、株式譲渡した現経営者に対してかかる税金です。相続や生前贈与とは逆で、株式を渡した側にかかります。

利益を得た経営者に課される税率は、譲渡益に対して所得税15%、住民税5%です。また、2037年までは、各年分の基準所得税額に2.1%乗じた額を復興特別所得税として納付しなければなりません。

事業承継を検討する際の相談先

事業承継を検討する際の相談先としては、事業承継・引継ぎ支援センターがあります。事業承継・引継ぎ支援センターとは、47都道府県に設置されている国の公的相談窓口です。

事業承継・引継ぎ支援センターでは、親族内承継や第三者への引継ぎなど、中小企業の事業承継に関するあらゆる相談に対応しています。具体的には、次のようなことを行う組織です。

  • 地域の支援機関や金融機関と連携し、事業承継の計画的な準備の働きかけを行う
  • 「事業承継計画」策定支援を通じて、事業承継に関する悩みや課題解決のサポートを行う

ここでは、事業承継・引継ぎ支援センターで取り扱った事業承継の事例を2つ紹介します。

有限会社池上旅館の事例

まずは、有限会社池上旅館の事例を紹介します。池上旅館は、現経営者(長女)の父親が4代目として継いだ旅館です。4代目は常に新たな経営戦略を描いてきた人物で、それまでの路線とは決別し、客数を限定した高級路線を打ち出しました。

後継者へ引き継ぐことも検討していましたが、経営悪化とともに多額の負債を抱えていたこともあり、事業承継に踏み切れずにいました。そんなとき、長女が後を継ぐことを決意し夫とともに運営に携わることになります。

多額の負債があるなかでも事業承継ができるのか不安を抱えていたタイミングで、事業承継・引継ぎ支援センターからダイレクトメールが長女の元に届きました。それをきっかけに同センターへ相談したところ、事業承継特別保証制度を活用すれば保証人の解除が目指せることを知り、事業承継に向けた具体的な対策の支援を受けることになりました。

参考:〈事例4〉有限会社池上旅館|親族内承継の事例紹介|事業承継・引継ぎポータルサイト

株式会社一ノ関時計店の事例

一代で築き上げた株式会社一ノ関時計店は、高い技術力を頼りにさまざまな依頼が舞い込む時計店です。しかし、仕事に邁進しするあまり、承継については後回しになっていて、先代も気づけば80歳手前となっていました。

そんなおり、母親が倒れてしまいます。しかし、家業を継ぐつもりだった息子ともぶつかってうまく承継が進みませんでした。

そこで、商工会議所を通して事業承継・引継ぎ支援センターに相談します。事業承継計画の策定では、事業承継・引継ぎ支援センターの提案にしたがって当事者全員で本心をぶつけ合いました。第三者が入ることで問題解決の近道となり、無事事業承継を行えました。

参考:〈事例8〉株式会社一ノ関時計店|親族内承継の事例紹介|事業承継・引継ぎポータルサイト

親族内承継の特徴を理解して事業承継を成功させよう

親族内承継とは事業承継の手法の一つで、経営者が自分の子どもや孫などの親族に会社を引き継ぐことです。親族内承継で事業承継することで、企業理念や文化がスムーズに引き継がれる点や取引先や周囲の理解を得やすい点などがメリットとして挙げられます。

一方で、後継者も債務や個人保証を引き継ぐ必要があることや親族同士でトラブルになるおそれがあることなどは、デメリットとして理解しておきましょう。

本記事で紹介した事業承継の流れや方法を把握して、後悔のない親族内承継を実現しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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