- 作成日 : 2022年12月22日
日本人がベトナムで起業・会社設立する方法は?法人設立の流れや注意点を解説
海外企業の進出が増加傾向にあるベトナム。ODA(政府開発援助)を活用したインフラ整備、低賃金の労働力によって外資の製造業を誘致していることが背景となっています。
ASEAN(東南アジア諸国連合)内で最も高い成長率を記録していることから、日本企業の進出も増えています。この記事では、ベトナムで起業・会社を設立する際の形態、手続きのほか、知っておくべき注意点について解説します。
目次
日本人がベトナムで起業・会社設立する方法は?
日本では株式会社や有限会社が一般的ですが、ベトナムでも同様です。外国人投資家は株式会社を設立することは許可されているものの、その数は多くありません。
日本人が設立する形態としては有限会社が最も一般的であり、法人の8割を占めているといわれています。ただし、創業者としての出資者の人数によって2種類があります。
有限責任会社(LLC):出資者1人の場合
組織体制は出資者が組織と個人では異なります。組織の場合は、委任代表者が1人のときは会長、社長、監査役が管理組織となりますが、委任代表者が複数で7人までのときは、管理組織は社員総会、社長、監査役です。出資者が個人の場合は、管理組織は会長、社長ですが、両者の兼務も認められています。
有限責任会社(LLC):出資者2人以上の場合
出資者が2~50人の組織、または個人である有限会社が「二人以上有限会社(LLC)」です。出資者の責任範囲は、一人有限会社と同様、払込資本金の範囲です。資本金の増資、減資についても一人有限会社と同じ扱いとなります。組織体制は、社長、社員総会の会長、社員総会および監査役会で構成されます。
株式会社(JSC):出資者3人以上
出資者数が3人(組織または個人)以上の場合、「株式会社(JSC)」として設立することができます。人数に上限はありません。
資本金の増資、減資が可能であり、会社が株式の買い戻し、第三者への譲渡、または株主総会の決定によって株主が会社へ出資した資本金を回収することができます。
創立株主は、設立時に株式会社の予定売買株式の20%以上を購入・登録するだけでも構いません。この場合、残りの予定売買株式は会社設立後3年以内に集めることができます。
ただし、出資者が3人以上必要であり、株主総会が最高の決定機関となるため、有限会社に比べて経営の意思決定が迅速にできないというデメリットもあります。ベトナムで株式会社の形態が少ない理由の一つともいえるでしょう。
ベトナムで起業・会社設立するための手続きは?
ベトナムの法人形態には、「一人有限会社」、「二人以上有限会社」、「株式会社」がありますが、それぞれどのような設立手続きを取る必要があるのでしょうか。
投資登録証明書(IRC)の取得
外国人投資家がベトナムで会社を設立する場合、まず投資登録証明書(IRC)を取得する必要があります。取得手続きは、計画投資局、または工業団地・輸出加工区・ハイテク地区・経済特区の管理委員会に対して行います。管理委員会が設置されていない地方もあり、その場合は、地方人民委員会が発給機関です。また、発給機関である計画投資局と管理委員会では、投資案件が異なっています。
工業団地・輸出加工区・ハイテク地区・経済特区への投資案件や工業団地・輸出加工区・ハイテク地区のインフラ整備案件は、管理委員会が発給機関です。計画投資局は、上記以外への投資案件や複数の省・中央直轄市において実施される案件などに対して発給します。申請後、受理された書類に不備がなければ、15日以内に投資登録証明書が発給されます。
企業登録証明書(ERC)の取得
投資登録証明書(IRC)の取得後、次に企業登録証明書(ERC)の取得申請を行います。企業登録証明書には企業登録番号が記載されており、税コードとして扱われます。申請は、投資企画局の窓口または国家情報Webサイトで行います。
法人の銀行口座開設
資本金の振り込み、国内外からの借り入れおよび支払いなどのため、ベトナム国内の銀行で資本金口座(外貨でも可)や取引用の口座を開設します。
口座を開設する銀行は自由に選択することができ、邦銀などの外国銀行のほか、ベトナム資本の銀行でも構いません。また外貨での開設も可能です。なお、資本金口座を開設後は、会社所在地の計画投資局の経営登録室に口座情報を通知しなければなりません。
口座開設には基本的に以下の書類が必要となりますが、銀行によっては別途、必要となるものがあるため、事前に確認してください。
- 口座開設の申請書
- 外国投資家の登記簿の公証写し
- 外国投資家の定款の公証写し
- 口座の保有者(日本本社の法的代表者)のパスポートの写し
- 駐在員事務所設立許可書の公証写し
- 駐在員事務所の印鑑登録書明書の公証写し
ベトナムで起業・会社設立するときの必要書類は?
投資登録証明書(IRC)と企業登録証明書(ERC)の取得について説明しましたが、申請の際に必要な書類についても見ていきましょう。
なお、ベトナム以外で取得され、ベトナム当局に提出する書類は、書類を認証後、ベトナム語に翻訳した文書の公証が必要となります。
投資登録証明書(IRC)取得の際の必要書類
投資登録証明書(IRC)取得では、申請には次の書類が必要となります。
- 投資案件の実施申請書
- パスポートの公証写し(投資家が個人の場合)、現在事項全部証明書(登記簿)の公証写し(投資家が組織の場合)
- 投資案件の提案書(投資家名、投資目標、投資規模、投資資本など)
- 財務関係書類(投資家の直近 2 期分決算報告書、財務上の支援についての投資家の誓約書、財務上の支援についての金融機関の誓約書、投資家の財務能力についての説明書のいずれかの資料の写し)
- 土地使用要求の提案書および工場・事務所の賃貸契約書
- 技術適用についての説明書(移転を制限される技術一覧に属する技術を適用する投資案件の場合)
- 事業協力(BCC)契約書(BCC契約形式による投資案件の場合)
企業登録証明書(ERC)の取得の際の必要書類
企業登録証明書(ERC)の取得では、次の書類が必要です。
- 企業登録申請書
- 現地法人の定款
- 社員一覧(有限会社の場合)
- 創立株主および外国投資家である株主一覧(株式会社の場合)
- 委任代表者のリスト
- パスポートの公証写し(社員・株主が個人の場合)
- 現在事項全部証明書(登記簿)の公証写し・委任代表者のパスポートの公証写し・本人への委任状(社員・創立株主および外国投資家である株主が組織の場合)
- 外国投資企業の定款の公証写し(一人有限会社の場合)
- 現地法人の投資登録証明書の公証写し。
ベトナムで起業・会社設立するときにかかる費用は?
ベトナムで起業し、会社を設立するには以下のようにさまざまな費用がかかります。
- オフィス賃貸料
- 証明書発給費用
- 出資金
- 書類の翻訳・公証費用
- 印鑑作成費用
- ライセンスフィー(事業税)
このうち、特に大きな費用は、オフィス賃貸料や出資金です。証明書については、投資登録証明書(IRC)は無料です。企業登録証明書(ERC)の発給は、投資企画局の窓口で手続きする場合は、10万ドン(2022年11月現在、約560円)の手数料が必要ですが、国家情報Webサイトで手続きするのであれば無料となります。
ライセンスフィーは、企業登録証明書の発給を受けた月に初年度の税額に関して、管轄の税務機関に提出して納付するものです。
資本金の金額によって税額が異なります。100億ドンを超える場合は300万ドン、100億ドン以下の場合は200万ドン、支店または経営拠点については100万ドンです。
ベトナムで起業・会社設立するときの注意点は?
起業・設立する際の注意事項として、どのような点があるのかを見ていきましょう。ベトナムでは、投資登録証明書および企業登録証明書の発給後、法律で義務付けられていることがあります。特に重要な事項としては次のようなものが挙げられます。
- 会社印の作成および届出
印鑑の形式や数についての定めはありませんが、会社名、企業番号は必ず刻印しなければなりません。
作成後は、実際に使用する前に会社所在地の計画投資局の経営登録室に使用通知書を提出することが義務付けられています。
- 企業登録内容の公示
企業登録証明書の取得後、会社所在地の計画投資局の経営登録室に公示内容を通知する必要があります。
これによって、国家企業登録情報サイトに設立した企業の企業登録証明書の内容(企業名、企業番号、本社住所、法的代表者の情報、定款資本金、投資家の情報)、事業内容、創立株主一覧および外国投資家である株主一覧(株式会社の場合)が掲載されます。
- 銀行口座の開設
詳細は前述した通りです。
- 事業ライセンスの取得
業種によっては、事業開始前に事業ライセンスを取得することが義務付けられています。例えば、レストラン事業であれば、食品安全条件充足施設の証明書が必要です。
- VATインボイスの印刷
ベトナムでは、事業で使用した費用を損金算入するためには公式領収書が必要です。公式領収書は赤色をしていることから、通称、レッドインボイスとも呼ばれています。国内での販売やサービスの提供の際にVATインボイスを発行することが求められます。
発行方法は、(1)自社印刷、(2)印刷会社が印刷したものを利用、(3)税務署から購入して利用、(4)電子インボイスの4種類がありましたが、2022年7月からは全ての企業が電子インボイスのみとなっています。
レッドインボイスはベトナム語で記載しなければならず、必要な情報に一字でも誤りがあれば認められません。法人税法上、損金の算入ができなくなるため、注意が必要です。
ベトナムでの起業を検討してみては?
ここ数年、日本からも進出が増えているベトナムでの起業・会社設立する際の形態、手続きのほか、知っておくべき注意点について解説してきました。ASEAN内で最も高い成長率を示すベトナムはまだまだ魅力的な市場だといえます。海外での起業・会社設立を考えているのであれば、ベトナム進出を検討してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
ベトナムで起業・会社設立するための手続きは?
特に投資登録証明書(IRC)と企業登録証明書(ERC)の取得が重要です。詳しくはこちらをご覧ください。
ベトナムで起業・会社設立するときにかかる費用は?
オフィス賃貸料、証明書発給費用、出資金、書類の翻訳・公証費用、印鑑作成費用、ライセンスフィー(事業税)があります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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