- 更新日 : 2024年12月27日
中小企業の事業承継の課題とは?現状や解決策の具体例、2025年問題を解説
事業承継は中小企業にとって避けられない課題であり、経営者の高齢化や後継者不足などが問題を深刻化させています。2025年に向けて事業承継問題が急務となる中、本記事では具体的な解決策や支援策を含め、現状と今後の展望について詳しく解説します。
目次
事業承継で起こりがちな課題とは?
中小企業にとって、事業承継は避けて通れない課題です。帝国データバンクや東京商工リサーチの調査結果からも、多くの企業がさまざまな問題に直面している現状が明らかになっています。ここでは、これらの調査結果を踏まえ、中小企業が抱える事業承継の課題と早期対応の必要性について解説します。
経営者の高齢化
経営者の高齢化が深刻化しています。帝国データバンクの「全国『社長年齢』分析調査(2023年)」によれば、社長の平均年齢は60.5歳に達し、33年連続で上昇を続けています。
さらに、50歳以上の社長が全体の81.0%を占めており、社長交代時の平均年齢も68.7歳と非常に高い水準です。このような高齢化は、設備投資や経営改革といった積極的な施策が滞る原因となる可能性があります。
日本が超高齢社会へと移行する中で、社長の平均年齢は今後さらに上昇するでしょう。その結果、長期的な経営ビジョンを描くことが難しくなり、事業継続や企業の成長に深刻な影響を及ぼすリスクが高まっています。このような課題に対処するためには、早急かつ効果的な対応が求められます。
参考:株式会社 帝国データバンク 全国「社長年齢」分析調査(2023年)
後継者の不足
中小企業の事業承継において、後継者不足は深刻な課題です。前述の帝国データバンクの調査によれば、後継者不在率は53.9%と報告されています。事業承継の支援体制が整備されたことで改善の兆しは見られるものの、依然として多くの企業が後継者の確保に苦慮しているのが現状です。
さらに、後継者の育成が進まないことや、適任者とのミスマッチが原因で事業承継が間に合わず、廃業を余儀なくされるケースも懸念されます。このような問題に対応するためには、早期から後継者の選定と育成に取り組むことが重要です。
親族外承継の増加
中小企業の事業承継では、親族外承継が増加しています。帝国データバンクの「特別企画:全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」では、内部昇格による承継が35.5%を占め、親族間承継の33.1%を初めて上回りました。こうした傾向から、従来の同族経営から「脱ファミリー」への移行が進んでいることは明らかです。
親族外承継の内訳は、自社社員への引継ぎとM&Aによる他社との統合に大別されます。こうした動きは、企業文化や経営方針の変更を伴う懸念がある一方で、適切な準備と計画が整うことにより、事業拡大や新たな成長の契機となることも期待できます。
参考:株式会社 帝国データバンク 全国特別企画:全国「後継者不在率」動向調査(2023 年)
休廃業や解散の増加
中小企業における休廃業や解散の増加は、事業承継における深刻な課題です。東京商工リサーチの調査では、2023年の休廃業・解散と倒産を合計した「退出企業」が5万8,478件に達し、過去最多を記録しました。
さらに、休廃業企業の赤字率は47.6%と過去最悪の水準です。その背景には、コロナ禍の支援策縮小や人件費・原材料費の高騰が影響しているとされています。
事業再構築が進まない企業は、市場からの退出を余儀なくされるリスクが高まります。そうしたリスクを防ぐには、早期の事業承継計画策定や経営資源の再配分が必要です。また、親族内外を問わず、承継の選択肢を広げることが課題解決の糸口となると考えられます。
参考:株式会社 東京商工リサーチ 2023年の「休廃業・解散」過去最多の4.97万件、赤字率は過去最悪、倒産増で「退出企業」も過去最多
事業承継において対策すべきこと
事業承継において対策すべき課題は、主に次の6つです。
- 経営者の高齢化の課題
- 親族内承継の課題
- 親族外承継の課題
- 事業譲渡の課題
- 税金の負担に関する課題
- 後継者の育成に関する課題
以下で、それぞれ見ていきましょう。
経営者の高齢化の課題
中小企業の経営者は筆頭株主である場合が多いため、高齢化に伴う健康上のリスクは企業経営に大きな影響を与えかねません。特に、認知症などによる意思決定能力の低下は、企業運営に深刻な支障をきたすことも想定されます。
こうしたリスクへの対策として、信頼できる社員との情報共有や業務の進め方に関する文書化や事業承継計画の策定が有効です。また、後継者への議決権の段階的な移譲により、スムーズな経営移行への準備も進められるでしょう。
親族内承継の課題
親族内承継では、後継者の経営能力の育成に加え、家族間の対立や感情的な問題への対処が課題となります。
後継者が経営者としての資質に欠ける場合、業績低下や従業員の離職を招きかねないため、計画的な能力開発が必要です。
また、複数の親族が後継者候補となる状況下では、経営権や株式の分配を巡って争いが生じるリスクもあります。そのため、事前の話し合いを通じた合意形成も必要となるでしょう。
さらに、親子関係を原因とする甘えや感情的な衝突を防ぐため、経営者と後継者という立場の明確化も図る必要があります。
親族外承継の課題
親族外承継では、候補者の選定範囲が広がる一方で、関係者の理解を得るための時間を必要とします。円滑な承継を実現するためには、社内外の関係者と早期に十分な意思疎通を図ることが欠かせません。
また、現経営者が個人保証をしている場合には、後継者への引継ぎが課題となります。さらに、親族外承継では後継者に資金力が求められるため、資金不足への対応として融資や財務対策を検討する必要もあるでしょう。
事業承継特別保証制度を活用するなど、さまざまな支援策を検討し、承継に伴う課題の解決を進めていくことが重要です。
事業譲渡の課題
事業承継の手段として一般的な事業譲渡ですが、いくつかの課題も伴います。
まず、適切な買い手企業を見つけることは、容易ではありません。適切な相手が見つからない場合、事業の安定性や従業員の雇用維持に悪影響を及ぼす可能性があります。
さらに、買い手企業と自社の企業文化が異なる場合、社員の不安や社内の混乱を招く恐れがあります。そのため、M&A実施後は、従業員に対して雇用維持や待遇に関する説明を早急に行わなければなりません。
これらの課題を克服し、円滑な事業譲渡を実現するためには、M&A専門のアドバイザーと連携することも有効な方法の一つです。専門家の知見を借りることで、事業承継の流れを明確に把握し、適切な準備と対応を進められるでしょう。
税金の負担に関する課題
中小企業の事業承継において、税金は大きな課題の一つです。株式の評価額が高額な場合、贈与税・相続税の負担が重く、事業承継を断念するケースも少なくありません。
この問題に対する対策として、事業承継税制があります。事業承継税制の活用により、贈与税・相続税の納税猶予を受けられるうえ、将来的な免除も可能です。ただし、事業承継税制の適用には事業承継計画書の作成や雇用維持など、厳格な要件を満たす必要があります。
そのため、制度の利用可否や具体的な手続きについては、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
後継者の育成に関する課題
中小企業の事業承継において、後継者の育成は最も重要な課題の一つです。しかし、現状では多くの企業が後継者不足に悩まされており、体系的な育成計画が整備されていないケースも依然として少なくありません。
円滑な事業承継を実現するためには、長期的な視点に立ち、計画的に後継者を育成することが必要です。後継者には、業務に関する技術や専門知識を習得するだけでなく、経営者として求められる判断力やリーダーシップを実践を通じて身につける必要があります。
しかし、経営者が日々の業務に追われる中で、後継者育成に必要な時間やリソースを確保するのは、容易ではありません。また、後継者が社内外のステークホルダーと良好な関係を築くことも、重要な課題の一つです。信頼関係の構築には時間がかかるため、段階的かつ計画的に育成プロセスを進める必要があります。
国や自治体による事業承継への支援
中小企業の事業承継は、経営者の高齢化や後継者不足により大きな社会課題となっています。そのため、国や自治体は円滑な事業承継を実現するためのさまざまな支援策を展開しており、「事業承継・引継ぎ支援センター」の設置や「事業承継ガイドライン」の制定などの取り組みを行っています。
事業承継・引継ぎ支援センターの設置
事業承継・引継ぎ支援センターは、全国の中小企業に対して事業承継を支援する公的な機関です。センターでは、後継者が不在の場合に譲受企業の紹介や、事業引継ぎの成約までの支援を行います。
また、親族内で後継者が見つからない場合、起業希望者とのマッチングやM&Aの検討にも対応しているのが特徴です。さらに、従業員へのスムーズな事業承継を目指した計画策定の支援も行っています。
事業承継ガイドラインの制定
事業承継ガイドラインは、中小企業の経営者向けに事業承継の方法や考え方、指針をまとめたものです。このガイドラインは、中小企業庁のWebサイトで確認でき、事業承継に関する重要な情報や手続きについての詳細が掲載されています。
政府は、事業承継ガイドラインを通じて廃業を回避し、事業を後継者へと引き継ぐ中小企業が増えていくことを目標としています。
中小企業の事業承継の2025年問題とは?
中小企業庁によると、2025年までに70歳を超える中小企業の経営者は約245万人に達すると予測されています。そのうち約半数の127万人は後継者が未定とされ、多くの企業が「黒字廃業」に直面する可能性があります。
この問題は、雇用や経済にも深刻な影響を及ぼしかねません。放置すれば約650万人分の雇用が失われ、技術やノウハウの喪失を招きます。さらに、中小企業の廃業増加により、2025年までに約22兆円ものGDP損失が見込まれるとのレポートもあり、経済への影響は計り知れません。
このような事態が進行すれば、地域経済の縮小や伝統の喪失が進み、国内経済全体の衰退につながる恐れがあります。事業承継の支援策や第三者承継の活用が、問題解決の鍵となるでしょう。
参考:中小企業庁 中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題
持続可能な事業承継を目指して、今すぐ準備を始めよう
中小企業の事業承継は、経営者の高齢化や後継者不足といった深刻な課題に直面しています。
「2025年問題」として取り上げられる後継者不在や「黒字廃業」のリスクは、中小企業の存続のみならず、地域経済や日本全体の経済基盤にも深刻な影響を及ぼしかねません。
こうした状況を受け、政府や自治体は事業承継・引継ぎ支援センターの設置や事業承継ガイドラインの策定など、事業承継を円滑に進めるための支援策を強化しています。
今後の中小企業が行うべき具体的な対策として、後継者の計画的な育成を推進するとともに、親族外承継にも後継者の選択肢を広げるといった柔軟な姿勢も必要になるでしょう。
また、中小企業の経営者は、承継の流れを明確に把握し、情報共有や専門家のサポートを活用して適切な準備を進めることが重要です。
こうした取り組みを通じて、中小企業が持続可能な成長を遂げられるよう、今から準備を始めましょう。
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