• 更新日 : 2023年8月29日

会社設立時の役員報酬の決め方とは?変更方法や注意点についても解説!

役員報酬とは、従業員給与とは異なり会社の役員に支払われる報酬のことです。会社設立から3ヶ月以内に定款や株主総会で決定する必要があります。役員報酬は、要件を満たせば節税につながりますが、決め方にはルールや注意点があり、専門家と相談して慎重に決める必要がある重要なポイントです。

本記事では、役員報酬のルールや決め方、決定後の届出、変更方法などを解説しています。起業を検討している方はぜひご覧ください。

そもそも役員報酬とは?

役員報酬とは、「取締役」「執行役」「会計参与」「監査役」「理事」「監事および清算人」などの役員に対して支払われる報酬のことです。役員報酬には、金銭だけでなく、資産や家賃の免除分・生命保険料の肩代わり分なども含まれます。

参考:No.5202 役員に対する経済的利益|国税庁

税務上、以下の3つの役員報酬が損金に算入可能です。

  • 定期同額給与
  • 事前確定届出給与
  • 業績連動給与

ここでは、それぞれの役員報酬について解説します。
また、役員報酬については以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。

定期同額給与

定期同額給与とは、株主総会や定款で定めた役員報酬を、毎月同額支給するものです。一定額を支給し続けていれば、特別な届出なく損金に算入できます。なお、役員報酬の支給額は、原則自由に変更することができません。支給額の改定事由には制限があるため注意が必要です。改訂事由や変更方法については、記事後半で説明します。

事前確定届出給与

役員に対する賞与は、原則的には税務上損金に算入することはできません。しかし、事前に役員に対する賞与を支給する年月日、支給額を記載した届出書を税務署に提出することで、役員賞与を損金の額に算入することができます。ただし下記の厳格な要件があります。

    1. 株主総会で役員賞与の決議日から1ヶ月経過日と会計期間開始日から4ヶ月経過日のいずれか早い日までに支給年月日や支給額を記載した届出書を税務署に提出すること
      ※3月決算の会社を例にすると、株主総会が5月25日に行われた場合は、1ヶ月経過後の6月25日(4月1日から4ヶ月経過後の7月31日より早い日付のため)までに税務署へ提出しなければなりません。

 

  1. 上記届出書に記載した支給年月日と支給額通りに役員賞与を支給すること

 

支給額が多くても少なくても、記載した金額と同額でない場合は、賞与は全額損金には算入できません。なお、使用人兼務役員に対する使用人部分についての給与に関しては、上記の制限を受けないことも押さえておきましょう。

事前確定届出給与について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参照ください。

業績連動給与

業績連動給与とは、上場企業で損金算入が認められているもので、会社の業績に、役員の給与額を連動させる制度のことです。株価や利益の状況など、客観的な指標によって業績を算出し、要件を満たせば全額損金算入できます。

ただし業績指標や計算根拠が有価証券報告書等で開示されている必要があるため、対象が上場企業や大企業に限定されている点に注意が必要です。業績連動給与は、役員に対する中長期インセンティブとしても活用できます。

会社設立時の役員報酬のルールは?

役員報酬は、決定時期や決定方法にルールが定められています。ルールを守ることで損金に計上でき、税務上のメリットを享受できるので、会社設立時には必ず理解しましょう。

設立3ヶ月以内に決定する

役員報酬は、起業1年目の場合、設立日から3ヶ月以内に決める必要があります。それを超えると損金に計上できなくなるので注意が必要です。また一度決めた役員報酬の金額は、原則その事業年度末まで変更できない点も理解しておきましょう。

定款や株主総会決議で決定する

会社法において、役員報酬は「定款または株主総会の決議によって定める」と決められています。中小企業の場合、定款で役員報酬について定めていない場合がほとんどです。そのため、多くの中小企業では株主総会の決議で役員報酬が決定されます。

まずは役員報酬の総額を株式総会で決定し、その後取締役会で内訳を定めます。この時、議事録を作成しておかないと、役員報酬を損金計上するために必要な根拠資料が残りません。役員報酬を株主総会の決議で決める際は、議事録を残すことを徹底しましょう。

会社設立時の役員報酬の決め方・注意点は?

役員報酬を決める際は、以下のように考慮すべき事項が複数あります。

そのため、単純に受け取りたい額を設定するのではなく、慎重に検討することが重要です。
ここでは、会社設立時の役員報酬の決め方と注意点を解説します。

役員報酬の決め方については、以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご参照ください。

売上予測をもとに算出する

役員報酬を決める際は、1年間の売上を予測し、原価や経費も考慮して決定することが大切です。役員報酬は一度決めると原則変更できないため、売上予測は厳しめに行いましょう。また、定期同額給与の制度を利用して損金算入するためには、毎月一定額を支給する必要があります。そのため、各役員が年間で受け取る報酬額が決まったら、12で割って毎月の役員報酬額を決定しましょう。

法人税と役員個人の税金とのバランスを考える

役員報酬を決める際は、法人税と役員個人の所得税のバランスを考え、適切な金額を設定しましょう。法人税の税率は、資本金1億円超えの普通法人の場合23.2%、所得税の税率は所得金額によって異なりますが、695万円超え900万円以下は23%、900万円超え1,800万円以下の場合は33%です。

参考:No.2260 所得税の税率|国税庁
No.5759 法人税の税率|国税庁

金額によって税率も異なり、損金に算入できる役員報酬額を増やせばその分法人税の負担が減りますが、役員個人の所得が増加することで所得税率も上がるため、所得税負担は増してしまいます。このように、両者はトレードオフの関係であるため、バランスを勘案して適切な金額を設定することが大切です。

社会保険料額も考慮して決定する

役員も社会保険に加入する義務があるため、役員報酬を決める際は社会保険料の負担を考慮する必要があります。なお、役員賞与に対する健康保険料については、年度の累計額で573万円、厚生年金保険には150万円の上限が定められています。つまり、この上限を超える部分については社会保険料が発生しません。そのため、報酬の一部を役員賞与として与えることで、社会保険料の総額を削減できます。

このように、社会保険料額の上限をもとに役員賞与としての報酬支払いを検討し、役員報酬と役員賞与を組み合わせることも有効です。

融資を受けるなら社長個人の役員報酬に注意

金融機関から融資を受ける際は、税引後当期純利益+減価償却費で表される簡易キャッシュフローをもとに融資の判断が行われます。この時、役員報酬も簡易キャッシュフローに加味して収益力が判断されます。つまり、役員報酬を0にして利益が出ているように見せても、見抜かれてしまうので注意が必要です。

また、融資を受ける際は社長個人の役員報酬が特に重視されます。役員報酬が少なすぎると、生活資金の調達方法や貯蓄に疑問を抱かれ、融資審査においてはネガティブな材料となってしまう可能性もあるのです。

会社設立時の役員報酬決定後に必要な手続きは?

役員報酬が決まったら、役員報酬を受け取る役員は健康保険と厚生年金に加入する義務があります。加入手続きは、役員報酬決定から5日以内に行いましょう。ここでは、その際に必要な手続きについて解説します。

必要書類を作成する

健康保険と厚生年金は、役員の人数にかかわらず加入が必須です。社長1人のみが在籍している場合でも、手続きが必要なので注意しましょう。

健康保険と厚生年金の加入にあたって、以下のような書類が必要です。

  • 健康保険・厚生年金 新規適用届
  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
  • 健康保険被扶養者(異動)届

また、会社の登記簿謄本の添付も必要になります。登記簿謄本は、労災保険や雇用保険の手続きにも必要になるため、コピーをとるようにしましょう。

年金事務所に届出を行う

必要書類が揃ったら、登記簿謄本と合わせて管轄の年金事務所に届出を行います。役員報酬決定から5日以内に届出が必要です。

提出期限を過ぎてしまった場合、追加で書類が必要になる可能性があります。そのため、期限内に届出を行えない場合は、事前に年金事務所にその旨を問い合わせたうえで必要書類を確認し、スムーズに提出できるようにしましょう。

会社設立時の役員報酬を変更する方法は?

設立時の定款で定めた役員報酬は、税務上規定されており、簡単には変更できません。しかし、役員の地位が変更した場合や業績が著しく悪化した場合など、特別な事由においては変更が認められています。役員報酬は、以下のような方法で変更できます。

  • 事業年度開始3ヶ月以内の株主総会等のタイミングで役員報酬を変更する
  • 役員地位や職務内容に変更があった場合に変更する
  • 経営状況が著しく悪化した場合に変更する

1については、3ヶ月を超えると損金に算入できないので注意が必要です。

役員報酬の変更手順や注意点などは、こちらの記事もご参照ください。

会社設立時の役員報酬について相談できる専門家は?

会社を設立するにあたって決定しなければならない役員報酬は、人件費の中でも大きな割合を占め、損金計上するためには満たさなければならない用件もあります。特に、法人税と所得税の負担を勘案して適切な金額を定めることは簡単ではありません。

そのため、役員報酬を決める際は専門家に相談することが望ましいです。役員報酬について相談できる専門家には、税理士・最寄りの税務署があります。信頼できる専門家に相談し、アドバイスをもとに役員報酬を決定してください。

役員報酬は起業後の節税につながる重要事項!

本記事では、会社設立時に理解しておきたい役員報酬について、決める際のルールや注意点、金額の変更方法などを解説しました。役員報酬は、要件を満たせば税務上損金に算入できるため、節税につながる重要なポイントです。売上予測や社会保険料額など、さまざまな要素から適切な金額を設定しましょう。
役員報酬は決定時に考慮すべき事項が多いだけでなく、一度決めると変更が難しいというルールがあります。そのため、役員報酬を決める際は、専門家のアドバイスを参考にしてみてください。

よくある質問

役員報酬とは?

役員報酬は、会社役員に対して支払われる報酬のことです。金銭に限りません。定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3種類があり、要件を満たせば損金に算入でき節税対策になります。詳しくはこちらをご覧ください。

役員報酬の決め方は?

設立3ヶ月以内に、定款か株主総会で決めます。定期同額給与を利用する場合、売上予測から毎月一定額の役員報酬を算出しましょう。また、社会保険料額を考慮することもポイントです。詳しくはこちらをご覧ください。

役員報酬はいつでも変更できる?

自由に変更できるわけではありません。原則事業年度開始3ヶ月以内の株主総会で変更しますが、役員の地位・職務内容に変更があった場合や経営状況が悪化した場合には変更が認められます。詳しくはこちらをご覧ください。


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