- 更新日 : 2023年9月15日
撮影スタジオ経営の基礎知識!初期費用・失敗を避けるコツも紹介
撮影スタジオ経営は、近年多様なニーズが増えており、決して難しくありません。遊休不動産や空き家の活用方法としても適しています。この記事では、撮影のためのレンタルスタジオ・フォトスタジオ経営の基礎知識を解説します。初期費用や固定費、失敗を避けるコツも紹介しますので、スタジオ経営に興味がある方は参考にしてください。
目次
撮影スタジオ経営は難しい?
撮影スタジオの経営は決して難しくありません。利用されるシーンや客層は、機材の要件が比較的厳しいプロ向けだけではなく、一般向けも多くあります。また、遊休不動産や空き家の比較的容易な活用法としても捉えられ、社会的な意義もある事業です。
撮影スタジオ経営が利用されるシーンや客層は?
撮影スタジオ経営が利用されるシーンや客層は、大きく分けてプロ向けと一般向けの2つがあります。
まず、プロ向けとは以下のような利用法です。
- 映画やドラマ、CM、音楽PV、バラエティー番組の再現VTRなどの撮影。映像制作会社が利用する。
- 写真集や広告などのための写真撮影。出版社やモデル事務所などが利用する。
プロ向けの撮影スタジオは、照明などの機材の要件が比較的厳しいため、相応の設備投資が必要となるケースもあり、経営はそれなりの難しさもあるといえるかもしれません。
その一方で、最近は以下のような一般向けの利用も増えてきました。
- YouTuberなどによる動画撮影やストリーミング配信のための利用。
- 大学の映画サークルによる自主制作映画撮影のための利用。
- コスプレイヤーによるSNS投稿や同人写真集撮影のための利用。
- ファッション関係のインフルエンサーによる、SNSやブログにのせる写真・動画撮影のための利用。
- 料理ブロガーによる料理を作るシーンの写真・動画撮影のための利用。
以上のように、最近では撮影スタジオのニーズがプロだけではなく、一般のクリエイターにまで広がり、多様化しています。また、プロ向けに関しても、昨今の制作コスト削減を背景に、比較的低料金の撮影スタジオのニーズが増えている状況です。このようなニーズを上手くつかむことができれば、撮影スタジオの経営は順調に進められるでしょう。
遊休空間の活用として社会的な意義も大きい?
撮影スタジオ経営は、遊休空間の比較的容易な活用法としても注目を集めています。
現在の日本では、2人以上の世帯数が2020年の3,025万世帯をピークに、今後は減り続けることが予想されています。そのため、核家族向けマンション・戸建住宅の供給が過剰となり、遊休空間の活用は大きな社会的課題です。
遊休空間の活用法には、たとえば民泊施設としての利用が挙げられます。しかし、民泊施設には、台所やトイレ、浴室などに関する設備要件、実際に人の生活に使われている家屋でなければならないなどの居住要件が厳しく定められています。そのため、民泊施設に転用可能な物件は限定的です。
また、物置シェアリングなどについても、日当たりや風通しなどの要件が厳しいうえ、預かった荷物に関する利用者とのトラブルも多くあります。
その点、撮影スタジオなら、どのような空き家でも転用できます。また、住宅のみならず、敷地内に放置されている使用していない物置や、使用法が定まっていないビルの屋上なども活用が可能です。
さらには、撮影スタジオのレンタル期間は、撮影が行われる数時間の単位がほとんどです。そのため、利用者とのトラブルや、長期契約により移転やリフォームが困難になるなどのリスクは小さいといえるでしょう。撮影スタジオ経営は、遊休空間の活用法としては「理想的」ともいえるものなのです。
撮影スタジオ経営は儲かる?
撮影スタジオはどのくらい儲かるのでしょうか?現実的な売上高をシミュレーションしてみましょう。
【利用料金】
1時間あたりの利用料金は「5,000円」とします。この程度の料金なら、プロ用のしっかりとした機材がなくても集客が見込めます。
【稼働率】
営業時間に対する利用時間の割合である稼働率を「25%」とします。1日12時間、月間25日間の営業だとすると、稼働率が25%なら、月間の利用時間は、
で計算され、「75時間」であることになります。
【売上高】
利用料金が1時間あたり5,000円で、月に75時間利用されるとすると、月間売上高は、
で計算され、「37万5,000円」です。年間の売上高は、この12倍なので「450万円」となります。
撮影スタジオ経営に必要な初期費用
以上で売上高の計算をしましたが、撮影スタジオの経営には初期費用と固定費用(ランニングコスト)もかかります。まず初期費用がどれくらいかかるかを見てみましょう。
撮影スタジオの開業で必要となる初期費用は、物件の取得費と内装の工事費、機材の費用、および広告宣伝費などです。
【物件の取得費】
物件の取得費は、自宅や自己所有物件を活用する場合はかかりません。賃貸物件を利用する場合には、敷金や礼金、仲介手数料、前家賃などがかかります。これらの金額は地域や物件により異なりますが、仮に家賃1カ月に対して敷金2カ月、礼金2カ月、仲介手数料1カ月、前家賃1カ月がかかるとすれば、家賃が10万円の物件なら、60万円がかかる計算です。
【内装の工事費】
内外装の工事費は、物件がデザイナーズマンションなどなら不要となる場合もあるでしょう。工事を入れるなら、一般に20万円以上がかかります。
【機材の費用】
スタジオ内に貸し出しできる照明などの撮影用機材を置けば、利用の幅が広がります。機材の購入費用は、安いものでも一式で20万円以上です。
【広告宣伝費など】
撮影スタジオ開業の際には、広告宣伝を行って新規顧客を呼び込む必要があります。ホームページ制作やSNS投稿は特に費用をかけなくても、自分でやることもできるでしょう。しかし、チラシのポスティングなどを実施しようと思ったら、1万枚のチラシなら10万円程度、2万枚なら20万円程度がかかります。
以上で記載した費用がすべてかかるとすれば、撮影スタジオ開業のための初期費用は120万円となる計算です。
撮影スタジオ経営にかかる固定費用(ランニングコスト)
撮影スタジオ経営にかかる固定費用(ランニングコスト)の目安は、都内の20~30平米の賃貸マンションを利用した場合には、月間で以下のようになります。
【家賃】
都内の20~30平米の賃貸マンションなら、家賃は10万円程度が相場となるでしょう。
【水道光熱費・ネット接続費など】
3万円程度。撮影スタジオは冷暖房の稼働やストロボの利用などにより、電気代が膨らむ可能性があります。
【広告宣伝費】
10万円程度。継続的な集客の必要があるため、広告宣伝費は開業時だけではなく、固定費としてもかけた方がよいでしょう。
【事業用保険】
1万円程度。撮影スタジオは加熱しやすいストロボや、料理シーンの撮影をするのなら火などを使うため、しっかりと補償が受けられる保険に入る必要があるでしょう。
【固定費合計】
以上を合計すれば、毎月の固定費は24万円となります。
撮影スタジオ開業時の物件の選び方
撮影スタジオ開業時の物件の選び方を解説します。物件の選び方は大きく分けて、自宅や自己所有物件の利用と、賃貸物件の利用の2通りあります。
自宅や自己所有物件を利用
自宅や自己所有物件の利用は、遊休空間・資産の活用方法としても有効です。利用法の具体例としては以下のものがあるでしょう。
【自宅の空きスペース】
自宅で使用していないスペースを貸し出すことは、撮影スタジオの開業形態として最も手軽です。自宅の空き部屋ばかりではなく、ガレージや屋上、庭なども撮影スタジオとして活用できます。
【店舗の空きスペース】
自宅と同様、自身が経営する飲食店などの店舗を、撮影スタジオとして貸し出すことも考えられます。店舗の2階などに使用していないスペースがあれば、それを貸し出すことが可能です。また、平日の午後や日曜など、店舗が営業していない時間帯・曜日に貸し出すこともできるでしょう。
【オフィスの空きスペース】
自身が経営する会社のオフィスを撮影スタジオとして貸し出すことも可能です。店舗と同様、会議室などのあまり使用していないスペースを貸し出す、あるいは日曜などの営業日以外に貸し出すことが検討できるでしょう。
【ホテルの空きスペース】
ホテルを経営していれば、その一室を撮影スタジオとして貸し出せます。閑散期などには貴重な収益源となるでしょう。
賃貸物件を利用
賃貸物件の利用も、撮影スタジオの物件の選び方として一般的です。マンションの一室を撮影スタジオとして貸し出す例は多くあります。ただし、賃貸物件の契約時には、撮影スタジオとしての貸し出しが可能かを家主にしっかり確認しましょう。貸し出しNGの物件で撮影スタジオを営業すれば、契約違反となる可能性があります。また、マンション内に不特定多数の人の出入りがあると、近隣からの苦情を受ける場合もあるので、事前によく確認すべきでしょう。
撮影スタジオを開業するまでの流れ
撮影スタジオを開業するための流れを見ていきましょう。
- 事業コンセプト・計画書作成
まずは、どのようなターゲット(プロ向けか一般向けかなど)に、どのようなサービスを提供するかの事業コンセプトを考え、計画書を作成します。事業コンセプトを作成する際には、近隣の市場調査も必要となるでしょう。 - 資金調達
開業資金が自己資金だけでは足りない場合は、資金調達を行います。資金調達は、日本政策金融公庫などの金融機関から借り入れするほか、クラウドファンディングなどの利用も考えられます。 - 物件の確保
物件を選定し、契約します。あわせて、内装が必要なら工事も行います。 - 必要な申請手続き
後述します。 - 機材などの購入
機材のレンタルを行うなら、そのための機材を購入します。 - 開業告知・広告宣伝
友人・知人への告知、チラシのポスティングなどで開業の告知・広告宣伝を行います。 - 撮影スタジオ開業
撮影スタジオを開業します。
どんな申請が必要?
撮影スタジオの開業にあたっては、税務署への開業届の提出と、建築確認申請、および消防法に基づく手続きが必要となります。
【税務署への開業届の提出】
事業の開始にあたっては、開業届の提出が必要です。開業届は管轄の税務署へ持参または郵送、あるいはe-Taxで送信します。
【建築確認申請】
建築基準法にのっとった用途変更の確認申請が必要となる場合があります。自宅としての使用には問題がなかった物件が、撮影スタジオとしての利用では安全上の問題が生ずることがあるからです。
【消防法に基づく手続き】
消防法に基づく火災報知器・消火器の設置や、災害時の待避ルートの確保などが必要となるケースがあります。申請が必要となるかどうかはスタジオの広さや用途で異なるため、所轄消防署の予防課などへ問い合わせましょう。
撮影スタジオ経営に失敗しないためのポイント
撮影スタジオ経営に失敗しないためのポイントを紹介します。
立地や間取り選びにこだわる
まず、立地や間取り選びにこだわることが重要です。立地については、利用者のことを考えれば、ターミナル駅が近隣にある、最寄り駅から5分圏内の場所が理想でしょう。また、動画の撮影を考えれば、線路や幹線道路、工場、飲食店などによる環境音が少ないこともポイントとなってきます。
間取りについては撮影の際の利便を考慮し、以下の条件をクリアできる物件を選びましょう。
- カメラから被写体まで、5メートル以上の距離を取れること
- 自然光がふんだんに入ること
- 天井が高いこと
そのほか、撮影機材の搬入を考慮すれば、搬入車両を止められる駐車場が近くにあること、部屋が2階以上の場合はエレベーターがあることも重要です。
運営方法を検討する(自分でor代行会社)
撮影スタジオの運営は、自分でやることもできますが、代行業者への依頼もできます。自分でやれば運営費用は安く抑えられますが、スタジオの維持管理や予約・下見・撮影の受付、撮影時の立ち会い、集客など、負担は決して小さくありません。代行業者へ依頼すれば、運営負担を大幅に削減できます。
発生しやすいトラブルを事前に把握しておく
撮影スタジオ運営で発生しやすいトラブルは事前に把握しておきましょう。トラブルの具体例は以下のようなものがあります。
【スタジオ内の物品破損】
スタジオ内の壁や床に傷がつく、あるいは備え付けの家具・調度品や機材が壊れるなどのことは、撮影スタジオでは起こりがちです。その際、責任が利用者にあるのか、運営側にあるのかで意見が食い違うと、利用者とのトラブルに発展するケースもあります。
【近隣トラブル】
近隣住民の中には、撮影スタッフが大勢出入りすることを好まない人もいます。スタッフの話し声・騒ぎ声がうるさい、あるいは路上駐車が頻繁にあるなどの場合にはクレームを受けることもあるでしょう。
ポイントを押さえてスタジオ経営を成功させよう
近年多様なニーズが増え、遊休空間の活用法としても注目される撮影スタジオ経営。初期費用や固定費はそれほど大きくかからないため、堅実な経営で十分採算に乗せられます。失敗しないためのポイントを押さえて、スタジオ経営を成功させましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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