• 更新日 : 2023年10月5日

行政書士として独立・開業するには?資金や準備、成功のコツを解説

行政書士は実務経験や登録後研修が資格取得の要件となっていないため、未経験での独立・開業も難しくありません。行政書士事務所の運営を成功させるためには、専門分野を決めること、および集客に力を入れることがコツとなります。この記事では、行政書士として独立開業するための資金や準備、成功のコツを解説します。

行政書士の独立・開業は難しい?

行政書士の独立・開業は、決して難しくありません。2002年7月から、許認可申請手続きや契約その他に関する書類作成を行政書士が行えるようになったことにより、ニーズも拡大しています。

また、行政書士になるためには実務経験や登録後研修は必要とされません。そのため、まったくの未経験でも、行政書士として独立・開業することが可能です。

ただし、独立・開業すれば、どのような業種であれ何かしらの困難はあるでしょう。そのため、多くの人は行政書士の資格の取得後、行政書士事務所や法律事務所のスタッフとして実務経験を積み、また関連資格の取得をするなどして、ある程度の準備をしてから独立・開業しています。

行政書士の開業のメリット・デメリット

行政書士の開業のメリットとデメリットを見てみましょう。

【メリット】開業コストが抑えられる

行政書士開業のメリットとしてまず挙げられるのは、開業コストが抑えられることです。極端にいえば、行政書士会への登録とインターネット・パソコンや名刺、印鑑など、最低限の事務所備品があれば開業できます。小規模なものでも1,000万円程度がかかるといわれる飲食店の開業などと比べると、はるかに安いコストです。また、自分1人でも開業できる行政書士は、開業時から事務員を雇うことが多い弁護士など他の士業と比べても、開業コストを抑えられます(開業コストについて詳しくは後述)。

【メリット】自分のペースで仕事ができる

自分のペースで仕事ができることも、開業のメリットだといえるでしょう。開業すれば仕事をする日や時間、場所、売り上げ目標の達成ペースなどをすべて自分で決められます。そのため、プライベートの時間を優先するため仕事の量を抑えたり、貯蓄をしたいから頑張って仕事を増やしたりと、自由自在です。

【メリット】定年がない

行政書士として開業すれば、定年がないこともメリットです。行政書士は一般に、開業後の年数がたつほど信頼や実績が増していき、業務がやりやすくなります。そのため、老後の生活に不安を感じることが少なくなるでしょう。

【デメリット】ライバルが多い

行政書士会の会員数は令和5年時点で約5万人となっており、これは他の士業と比べると、税理士の約8万人に次いで多くなっています(弁護士は約4万5,000人、公認会計士は約3万4,000人、司法書士は約2万3,000人)。人数が多いということはライバルが多いことを意味するため、これは行政書士として開業するデメリットといえるでしょう。

ただし、行政書士は他の士業と比べると業務範囲が広く、許認可申請だけで1万種類以上あるため、必ずしも仕事の量が不足しているわけではありません。

【デメリット】収入が不安定

安定した給与が毎月支給される会社員とは異なり、開業すれば、仕事を自分で獲得しない限り収入は得られません。そのため、収入が不安定になりがちなのは、開業のデメリットだといえます。

【デメリット】経営が安定するまで時間がかかる

行政書士が仕事を獲得するためには、コツコツと営業を行って取引先を開拓し、信頼と実績を積み重ねていく必要があります。そのため、十分な取引先を獲得し、経営が安定するまでには時間がかかることも、行政書士開業のデメリットだといえるでしょう。

行政書士は儲かるか、年収の目安

独立・開業した行政書士の平均年収は、約600万円だといわれています。これは、令和4年賃金構造基本統計調査から計算した日本人の平均給与約497万円より高収入です。

ただし、日本行政書士連合会の調査によれば、開業行政書士のうち年間売上高が1,000万円以上の人は約10%、5,000万円以上の人は約1%という結果も出ています。「10%」という数値は、行政書士が約5万人いることを考えれば決して小さくありません。行政書士として開業すれば、経営の工夫や働き方次第で年収1,000万円も十分目指せる、といえるでしょう。

行政書士の開業資金の目安

行政書士の開業資金の目安を紹介します。開業資金として必要なのは、登録費用と事務所費用、システム・備品購入費用、および人件費です。ただし、これらの費用の中には省略、あるいは節約が可能なものもあります。

登録費用

行政書士としての開業にあたって必要となるのは、日本行政書士連合会への登録費用です。金額は都道府県によって異なりますが、約30万円かかります。

東京都行政書士会の場合は、登録費用の内訳と金額は以下のとおりです。

内 訳金 額
入会金200,000円
登録手数料25,000円
東京都行政書士会会費3カ月分18,000円
東京行政書士政治連盟会費 3カ月分3,000円
登録免許税30,000円
合 計276,000円

以上のほかに、バッジ(3,000円~)、名刺(4,000円程度)、領収書や事件簿などの帳票類(数百円)、行政書士の印鑑(5,000円程度)もかかります。

事務所費用

行政書士は、自宅を事務所として使うことも可能です。ただし、秘密や品位の保持のため居住スペースと事務所スペースを明確に分けること、および事務所スペースには事務机や応接セットなどが必要です。自宅を事務所として使えば、事務所を新たに借りる必要はありません。

新たに事務所を借りる場合は、以下のような選択肢があります。

事務所形態概要賃料月額
独立事務所6畳程度の1ルーム7万円~12万円
共同事務所行政書士何人かで事務所をシェア3~6万円
レンタルオフィス鍵付き個室執務スペース+会議室などは他の利用者と共用5万円~

賃貸契約の際に敷金や礼金、保証金、仲介手数料などがかかるため、賃料の6カ月分程度(例えば賃料が7万円なら42万円)を見込んでおくことが必要です。

システム・備品購入費用

事務所に設置するシステムや備品として、以下のものが挙げられます。

項 目費 用
事務用机・椅子3万円~
応接セット7万円~
電話・FAX2万円~
パソコン6万円~
コピー機・プリンター1万円~
鍵付きの書庫3万円~
業務用シュレッダー1万円~
金庫5万円~
合 計28万円~

ただし、すでに自分で持っている備品を使用する、あるいは中古品を利用するなどにより、以上の費用を抑えることは可能です。

人件費

パートやアルバイト、正社員などで人を雇う場合には、人件費が必要です。人件費は、最低賃金を下回ることはできません。東京都の最低賃金は、1,113円(2023年10月1日~)です。また、1人でも人を雇えば労災保険の加入義務が、個人事業主なら5人以上人を雇えば社会保険の加入義務が発生します。

行政書士の開業に必要な資格

行政書士を開業するためには、行政書士の資格を取らなければなりません。行政書士の資格は、以下のいずれかの方法で取得できます。

  • 行政書士試験に合格する。
  • 公務員として行政事務を所定の年数経験する
  • 弁護士・弁理士・公認会計士・税理士のいずれかの資格を持っている

行政書士試験の合格率は、毎年10%前後です。必要な勉強時間は500~1,000時間といわれており、合格まで2~3年かかる人も多くいます。

また、行政書士のほかに司法書士や社会保険労務士、宅地建物取引士などの資格を取得すれば、ダブルライセンスでより幅広いサービスを提供でき、顧客獲得に有利になるでしょう。

行政書士を開業する流れ

行政書士を開業する流れを解説します。大まかな流れは、①開業資金を準備する、②事務所を決める、③行政書士名簿に登録申請する、④事務所の調査、⑤開業届を提出する、の3ステップです。

開業資金を準備する

まずは開業資金を準備します。開業資金は、自宅を事務所として使い、自分1人で事務所を運営する場合は、登録費用とシステム・備品購入費用のみです。事務所を借りたり、人を雇ったりする場合には、その分だけ費用も増えます。

開業資金は、日本政策金融公庫の創業融資や、自治体の開業支援の融資などを受けることを検討してもよいでしょう。

事務所を決める

次に事務所を決めます。事務所は自宅でも、賃貸物件を借りることでも問題はありません。ただし、行政書士の事務所は日本行政書士連合会により、「顧客のプライバシーを守れる構造・設備となっている」などの要件が定められています。要件を満たせる場所を事務所とすることが必要です。

事務所を決めたら、事務所の備品やシステムも設置しておきましょう。

行政書士名簿に登録申請する

事務所を決めたら、日本行政書士連合会が備える行政書士名簿への登録申請を行います。登録申請は、各都道府県の行政書士会で行います。提出書類や登録費用の詳細は各行政書士会で異なるため、必ず自分が開業する地域の行政書士会のホームページなどで確認しましょう。

事務所の調査

行政書士名簿への登録申請の1カ月後くらいに、各行政書士会による事務所の調査が行われます。調査の目的は、事務所の構造や設備、備品などが、登録申請書に記載した「事務所のレイアウト」通りになっているかを確認するためのものです。

調査は、各行政書士会の担当者が訪問して行う場合と、申請者が提出した写真により行う場合とがあります。事務所調査をクリアすれば、行政書士名簿への登録は完了です。

開業届を提出する

行政書士名簿への登録が完了したら、事務所のある地域を管轄する税務署へ開業届を提出しましょう。開業届は、事業を開始した日から1カ月以内に行う必要があります。

行政書士の開業・運営の成功のコツ

行政書士を開業・運営し、成功するためのコツを紹介します。

専門分野を決める

成功するためのコツとしてまず重要なのは、専門分野を決めることです。行政書士は取り扱える業務範囲が膨大であるため、すべての分野の法令知識や取り扱いスキルを身に付けようとしてしまえば、中途半端でレベルの低い「何でも屋」になりかねません。メインで取り扱う専門分野を持つことにより他の行政書士と差別化し、利用者に選んでもらうことが可能です。

専門分野は、ニーズの大きいものを選ぶ必要があります。ニーズの大きい分野として、以下のものが挙げられます。

建築・産業廃棄物「最もニーズが大きい分野」といわれている
運輸・交通専門性がそれほど高くないため、初心者でも参入しやすい
遺言・相続高齢化社会が進んでいるためニーズが見込める
飲食店特に繁華街などではニーズが大きい
外国人在留資格在日外国人は増加傾向にあるためニーズが見込める

集客に力を入れる

行政書士は人数が多いため、集客に力を入れる必要があります。効果的な集客方法として、以下の4つが挙げられるでしょう。

  • ホームページの活用
    行政書士を探すためにWeb検索を利用する人は多くいます。ホームページを立ち上げ、専門分野や経歴、実績、料金、連絡先などの基本情報を記載するとともに、ブログ記事なども掲載しましょう。
  • タウン誌などへの広告
    病院や市役所、図書館などに置かれる地元のタウン誌は、特に年齢が高い人へのアピール度が高いと見込めます。
  • 人脈の活用
    行政書士同士、あるいは弁護士や税理士などの他の士業との人脈を持っていれば、仕事を融通し合う、あるいはあっせんしてもらえるなどが見込めるでしょう。
  • セミナーの開催
    専門分野のお役立ち情報の解説セミナーを行えば、利用者からの注目度や信頼度が高まります。YouTubeでの配信もよいでしょう。

専門分野を決め、集客に力を入れて行政書士開業を成功させよう

実務経験や登録後研修が資格取得の要件となっていない行政書士は、未経験での独立・開業も可能です。独立した行政書士の平均年収は600万円程度といわれていますが、経営の工夫や働き方次第で年収1,000万円も目指せます。

行政書士事務所を成功させるコツは、専門分野を決めること、および集客に力を入れることです。それらをしっかり行って、行政書士開業を成功させましょう。


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