- 更新日 : 2024年10月18日
経営承継・事業承継とは?引き継ぎの施策や支援制度、補助金を解説
経営承継や事業承継は、企業の経営や資産を次世代の経営者に引き継ぐプロセスです。近年、経営者の高齢化や後継者不足が課題となっており、その重要性が増しています。この記事では、経営承継や事業承継の基本、税金の対策、スムーズに実行するための施策や支援策について解説します。
目次
経営承継・事業承継とは?
経営承継とは、会社の経営を引き継ぐことです。経営とは、経営権のほか、会社のあらゆる知的資産をいいます。一方、事業承継とは、会社の経営権や経営理念などを含めた経営のほか、会社の資産を引き継ぐことをいいます。会社の資産とは、株式のほか、事業用の不動産や設備、運転資金などのことです。すなわち経営承継は、事業承継の一部になります。
経営承継の内容
経営承継で次の経営者に引き継がれる会社の知的資産には、以下の内容が含まれます。
- 経営理念や創業者の価値観
- 事業内容
- 取引先との人脈
- 従業員
- 顧客情報
- 知的財産や許認可 など
なぜ経営承継・事業承継は重要なのか
経営者の高齢化は深刻な状況となっています。2023年度の経営者の平均年齢は60.5歳(中小企業白書と帝国データバンクの調査による)で、過去最高となりました。
経営者の高齢化が進むことによる問題は、事業をスムーズに継承できないことです。2023年の企業の倒産数は8,690件、休廃業や解散数は49,788件(東京商工リサーチの調査による)に上りました。いずれも増加傾向にあります。
事業の廃業が進む理由の一つは、後継者不足です。経営承継や事業承継は、これまで会社が築いてきた技術やノウハウを次世代につなげていくために重要です。経営承継や事業承継が行われることにより、廃業によって失われるはずだった会社の貴重な技術や人材を含む財産を次世代につなぐことができます。
経営承継・事業承継の種類
経営承継や事業承継は、社内の後継者への承継(従業員承継)、親族への承継(親族内承継)、M&Aによる承継(社外への承継)に分類できます。
社内の後継者への事業承継
親族ではない社内の適した人材(従業員)に経営または事業を引き継ぐことです。従業員承継ともいわれます。社内の人材に事業承継するメリットは、仕事ぶりを目にできるなど後継者にふさわしい人材の見極めができることです。他の従業員が納得する人物であれば、親族内やM&Aと比べて従業員からの反発も少なく済むでしょう。
しかし、後継者候補が経営者になることを望んでいない場合は、適した人材がいても承継がうまくいかない可能性があります。
親族内による事業承継
親族内承継は、経営者の子どもや兄弟姉妹、あるいは甥や姪などの経営者本人の親族に事業承継することです。親族内承継のメリットは、長期的に承継の準備を進められることです。人材育成や会社の財産の移転などを段階的に行えます。
ただし、後継者になり得る人物が複数いる場合などは親族間のトラブルに発展する可能性もあるため、慎重に進める必要があります。
M&Aによる事業承継
M&Aとは、親族や従業員以外の第三者に事業承継することです。個人に引き継ぐ方法や別の企業に引き継ぐ方法があります。M&Aのメリットは、幅広く事業の譲渡に適した人物や企業を見つけられることです。また、経営者は事業の譲渡による売却益を得られます。
ただし、双方が納得したうえでの事業の譲渡になるため、条件が合わずにM&Aが思うように成立しない可能性もあります。
経営承継・事業承継で発生する税金の種類
経営承継や事業承継を行う場合、税金が発生する可能性があります。税金は、個人が事業を引き継ぐか、法人が事業を引き継ぐかで異なるため、注意しましょう。
経営者の親族や従業員などの個人が事業承継する場合は、贈与税や相続税の対象になる可能性があります。相続税は、経営者が亡くなることで会社の経営を承継した場合などに課税される可能性があります。贈与税は、相続以外で、経営者が後継者に事業譲渡のために株式の譲渡などを行った場合に課税される可能性がある税金です。
法人がM&Aにより事業承継した場合、会社の資産を譲り受けることになるため、贈与税や相続税の代わりに法人税などが課税される可能性があります。
経営承継・事業承継をスムーズに進めるための施策
経営承継・事業承継をうまく進めるにはどのような点を意識すればよいのでしょうか。具体的な施策をいくつか紹介します。
早期から計画立案する
経営承継や事業承継のタイミングになっても、必要なときに後継者が決まらない可能性もあります。事業承継は長期的な視点で、早めに計画を立てておくことが重要です。
中長期の計画として、事業承継の時期や事業の現状、承継の方法などをまとめたものを、事業承継計画といいます。事業承継計画には以下の情報を盛り込み、事業承継を意識した早いタイミングで策定するようにしましょう。
【事業承継計画に必要な要素】
- 会社の有する知的資産
- 会社の株主
- 現在のキャッシュフロー
- 将来のキャッシュフロー予測
- 経営者個人の財産(自社株式など)
- 後継者候補の有無
- 後継者候補の適性
- 承継方法 など
長期視点で段階的に進める
例えば、親族や従業員に事業承継する場合、後継者が育っていない状態で引き継ぐと、さまざまな問題が発生する可能性があります。承継後に事業がうまくいかず、場合によっては廃業や休業に追い込まれることもあるでしょう。
事業承継は長期的なスパンで段階的に実施することが重要です。後継者の育成だけでも数年から十数年要する可能性があります。人材の育成だけでなく、株式の譲渡など資産の移転も段階的に実施することがあります。
後継者の育成に努める
後継者が決まったら、スムーズに事業の引き継ぎができるよう育成に努めましょう。自社で役員の仕事に従事させ、取引先との関係を構築する時間や後継者が能力向上できる機会を設けます。会社全体のことを把握してもらうために、複数の部門に従事してもらい、感覚を磨いてもらうことも考えられるでしょう。後継者がより従業員と関わる機会が増えることで、事業承継に対する他の従業員からの反発も抑えられます。
社外教育は、後継者の知識の養成や能力の向上に役立つので、必要に応じて、他社での勤務やセミナーの受講など、社外での経験や教育も取り入れてみましょう。
組織体制や制度を整備する
事業承継を成功させるには、会社の組織体制の整備も重要です。会社の決定が経営者に依存している会社では、経営者に何かしらの問題が発生したときに臨機応変に対処できない可能性があります。経営者に助言できる補佐役などが育つよう、経営者ばかりに依存しない組織体制を構築していくことが重要です。
また、トップダウンになりすぎないよう、従業員の自立を高める制度の整備などにも取り組む必要があります。
経営理念や価値観を共有する
事業承継により、取引先や顧客が離れてしまうことがあります。考えられる理由のひとつは、企業の経営理念や価値観の変化です。事業承継は、企業風土を改革できるチャンスであると同時に、変化によるさまざまなリスクもはらんでいます。
経営状況が良好な会社であれば、創業者の経営理念や価値観を受け継いでいくことも重要です。特に、直接的に人材の育成が難しいM&Aでは、価値観などの引き継ぎがうまくいかないケースもあります。事業の譲渡前に、これまでの経営や今後の経営についてしっかりコミュニケーションを取っておきましょう。
事業内容の再評価と将来への展望を策定する
事業承継は、社内や親族に後継者候補がいるかどうか、今後どのように事業展開していきたいかなどで適切な方法が異なります。
例えば、これまでの会社の伝統を引き継いで地域の中核として事業を展開していきたい場合は、会社の方針や状況を理解している従業員承継などが考えられるでしょう。新たな分野や新たなエリアへの進出を展望する場合は、M&Aで事業承継する方法も考えられます。自社に適した事業承継を実現するには、自社の事業内容の評価と将来の展望についての検討が必要です。
段階的に責任や権限を移譲する
経営承継や事業承継は、一度に行われる場合もあれば、段階的に進められることもあります。段階的に責任や権限を移譲するメリットは、譲渡に一定の期間を設けることで、後継者が会社の経営や方針に慣れやすくなる点です。M&Aでも、ノウハウの引き継ぎを目的に、最初に株式の50%を後継者に譲渡し、残りを時間をかけて譲渡する方法が取られることがあります。
定期的な進捗確認と計画の見直し
後継者の育成など長期的な計画で進行していく経営承継や事業承継は、他の業務よりも優先度が落ちてしまうケースもあります。円滑に事業承継を進めるには、定期的に事業承継の進み具合を確認する体制を構築しておきましょう。また、後継者の育成や事業の段階的譲渡など進み具合によっては、当初の計画に沿わない可能性が生じるので、定期的に事業承継計画の見直しを行い、状況に応じて修正を加える必要があります。
経営承継・事業承継を支援する制度や補助金
事業承継に関連して、経営承継円滑化法(正式名称:中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)が定められています。経営承継円滑化法は、中小企業を対象に、金融面や税負担などの面から、総合的に事業承継を支援するための制度です。以下に紹介するように、経営承継円滑化法を基礎に、中小企業向けにさまざまな事業承継の支援が行われています。
M&A支援機関登録制度
M&A支援機関登録制度とは、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築する制度です。M&Aのアドバイスや仲介を行う事業者を登録することで、一定のクオリティのサポートを提供できるようにしています。
事業者がM&A支援機関になるには、中小M&Aガイドラインの遵守宣言などを行ったうえで申請を行い、事務局による審査に通過しなければなりません。ガイドラインには、専門的な知見に基づく提案による意思決定の支援、契約時の重要事項の説明、顧客(中小企業)に寄り添った交渉サポートなどが記載されています。
中小企業は、登録のあるM&A支援機関を利用することで、一定以上のクオリティでM&Aを実現できる可能性が高まります。
事業承継税制
事業承継税制とは、事業承継にともなう税負担を軽減する制度です。法人版事業承継税制と個人版事業承継税制があります。
法人版事業承継税制は、非上場の会社の株式を後継者が贈与や相続などで取得し、一定の要件を満たす場合に適用される制度です。一般措置では、総株式数の3分の2まで、贈与税であれば100%、相続税であれば80%の納税猶予が受けられます。2026年3月31日までであれば、特例の適用も可能です。2018年4月から開始された措置で、事業承継税制の内容が拡充されています。一定の要件を満たす場合は、全ての株式において、相続や贈与を問わず100%の納税猶予を受けられます。
個人版事業承継税制は、青色申告の事業者の後継者として事業承継円滑化法の認定を受けている場合に適用できる制度です。対象となるのは、事業承継により後継者が取得する土地や建物(対象範囲は面積制限あり)、固定資産税の対象となる事業用資産などです。適用を受けることで、取得した事業用資産にかかわる相続税や贈与税の納付を猶予してもらえます。
事業承継に関する融資・保証制度
経営承継円滑化法では、事業承継に取り組む事業者の資金面での支援も行われています。例えば、対象の事業者への融資です。経営承継円滑化法に基づいて認定された場合は、日本政策金融公庫または沖縄振興開発金融公庫で融資によるサポートが行われます。実際に借りられる額や利率は信用リスクによって変動するものの、中小企業であれば、最大14億4,000万円の融資を受けられる可能性があります。
対象の事業者向けの信用保証も事業承継をサポートする施策です。認定を受けた対象者は通常の信用保証協会とは別に保証枠が設けられており、多額の融資を受けたい場合などに活用できます。
民法の特例
財産相続については、相続人の最低限の平等を確保する目的で、遺留分が保障されています。遺留分は兄弟姉妹などを除く相続人に認められた権利で、相続財産が遺留分よりも少ない場合は、相続人は遺留分の侵害として不足額を請求できます。
事業承継で遺留分が問題になるのは、会社の経営を引き継ぐ目的で特定の相続人に相続財産が集中してしまい、遺留分の侵害が起きる可能性があるためです。民法に従い事業用の資産を含めた財産を相続人で分けると、自社株式の分散などが起きてしまいます。
遺留分に関する民法の特例とは、全ての推定相続人の合意のもとで、対象となる自社株式や事業用資産の価格を、遺留分の算定のための財産から除外、または合意時の価額により固定できる制度です。相続による事業用資産の分散のほか、相続時に自社株式の評価が上がっていた場合の増加分の遺留分の主張を避けられます。
会社法の特例
事業承継に関する会社法の特例に、所在不明株式に関する会社法の特例があります。経営承継円滑化法に基づく認定により、所在不明株主の株式取得の時間を短縮できる制度です。
創業者以外に株主が複数存在する場合、株主名簿に記載があっても、連絡が取れずに株主の所在がわからなくなるケースがあります。会社法の規定では、通知などが5年継続して到達せず、かつ配当金の受領がない場合は、所在不明株式の競売や売却が認められます。
しかし、5年は待たなければなりません。事業承継が妨げられることのないよう、非上場の中小企業者で、かつ事業承継ニーズの高い株式会社は、都道府県知事の認定を受け、一定の手続き保障をすることで、競売や売却までの期間を1年に短縮できます。
事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金は、後継者の取り組みを金銭面でサポートする制度です。後継者が経営資源を活用して生産性向上や経営革新などの取り組みを行う場合に、取り組みに必要な設備の導入費用や販路開拓費などの費用の一部を補助します。親族や従業員への事業の引き継ぎ、M&Aによる引き継ぎのいずれにも対応しています。経費の補助上限額は600万円~800万円です。経費の2分の1または3分の2を補助する制度で、賃上げの有無で補助可能な上限額が変動します。
経営承継・事業承継の流れ
会社の方針などにより順番が多少変動することもありますが、経営承継・事業承継は基本的に以下の流れに沿って実行します。
- 事業承継計画書の作成
- 事業承継方法の検討
- 後継者候補や事業譲渡先の選定
- 関係者への周知
- 株式譲渡などの実施
事業承継をスムーズに実行するためには、会社の状況を整理し、今後の事業承継の展望を記載する事業承継計画書の作成を行います。計画を策定する段階で、どのように事業承継をするか検討しましょう。
事業承継の方法が確定したら、後継者候補の選定や事業譲渡先の選定を進めていきます。事業の譲渡先や後継者が確定したら、取引先や従業員などへの説明が必要です。丁寧に説明を行うことで、不信感の払拭や信頼の低下などを避けられます。関係者に十分に周知を行った後は、いよいよ実行段階です。株式会社であれば株式譲渡の方法などで事業承継を完了させます。
経営承継・事業承継の注意点
経営承継や事業承継の主な注意点を紹介します。
方法によっては税金などの負担が大きい
事業承継の方法によって、後継者に税負担がかかります。税負担を一時的に回避する方法として、事業承継税制による納付猶予の制度もあるため、うまく活用していきましょう。株式の譲渡で譲渡する側に利益が発生するような場合では、元経営者に税負担が発生することになります。事業承継の方法で税金の負担が変動する可能性もあるため、税負担も考慮した事業承継の検討をおすすめします。
従業員などの理解を得る必要がある
後継者が見つかっても、従業員や取引先などの関係者の理解がなければ、事業の存続に影響を及ぼします。事業承継に不満を抱いた従業員が離職したり、不信感を抱いた取引先が離れたりすることもあるためです。十分な理解を得るために、経営者本人が丁寧に説明することを心がけましょう。
後継者探しが難しいケースもある
後継者の選定が遅れて後継者の育成が不十分だと、引き継ぎがうまくいかず、事業が傾く可能性もあります。事業を他社に譲渡する場合でも、タイミングが合わなければ、納得できる譲渡先が見つからない可能性もあるでしょう。
後継者の選定や育成、事業譲渡先候補の選定には時間がかかります。経営者がすぐに引退する意思がない場合でも、将来の事業の継続を考えて、早期に経営承継・事業承継の準備を進めていきましょう。
経営承継や事業承継の準備は早めに
経営者の高齢化が進む中、経営承継や事業承継の重要性は高まっている傾向です。しかし、準備が不十分なまま経営承継・事業承継をしても、後継者の育成が十分にできないなどで、事業の継続が断たれてしまうこともあります。将来的に経営承継・事業承継の可能性がある場合は、承継に向けて準備を進めておきましょう。
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