• 更新日 : 2023年10月23日

牧場経営の基礎知識!酪農経営者の年収や始める際の流れも解説

酪農家として牧場経営を始める際は、十分な情報収集が欠かせません。牧場経営を取り巻く状況は決して楽観視できず、就農には難しい部分が多いです。積極的に情報を集めたり窓口に相談したりして、覚悟を決めてから始めましょう。今回は、新規就農を検討している方に向けて、牧場経営の現状や儲かるかどうか、始める際の流れなどを解説します。

牧場経営(酪農経営)を取り巻く状況

牧場経営を検討している方は、まずは牧場経営を取り巻く現状について理解しましょう。

酪農家の経営状況は、決して良好ではありません。飼料価格の上昇によりコストが増加しており、赤字に悩む酪農家も多いです。その結果、離農を検討している酪農家も少なくありません。

牧場経営で後悔しないためにも、牧場経営を取り巻く状況について見ていきましょう。

飼料価格が上昇している

2023年に中央酪農会議が発表した、「日本の酪農経営実態調査(2023)」によると、日本の酪農家が経営する牧場の84.7%は、過去1ヶ月の経営状況が赤字という結果でした。

その背景には、飼料価格の上昇があります。

農林水産省は、ウクライナ情勢に伴う穀物価格の上昇等により、配合飼料価格が上昇しており、畜産経営を圧迫していることを指摘しています。これまで穀物の輸出国であった中国が、穀物の輸入国に転じたことや、長引く円安も、穀物価格の上昇を引き起こしている要因の1つです。

酪農家にとって、飼料の購入は必要不可欠です。飼料価格が上昇すれば、酪農を続けるためのコストが増加し、経営を圧迫してしまいます。

参考:一般社団法人 中央酪農会議 日本の現役酪農家に聞く、「日本の酪農経営実態調査(2023)」

離農を検討する酪農家も少なくない

上記のように、牧場経営は窮地に立たされています。同じく「日本の酪農経営実態調査(2023)」によると、離農を検討している酪農家は全体の約58.0%でした。

しかし実際には、生活維持や借金返済などを理由に、酪農を続けざるを得ない状況です。中には日本における食の基盤を維持する使命を抱え、酪農を続けている酪農家も存在します。

厳しい状況で酪農を続けるために、生活費や教育費削減など、家計を切り詰めざるを得ない状態に陥っている酪農家も少なくありません。

参考:一般社団法人 中央酪農会議 日本の現役酪農家に聞く、「日本の酪農経営実態調査(2023)」

牧場経営者の年収はどれくらい?

農業経営統計調査の「令和3年営農類型別経営統計」によると、酪農経営における1経営体あたりの農業所得の全国平均は7,358,000円でした。

ただし、このデータはあくまでも平均値です。牧場の規模や就農経験などによって、年収には差があります。

以下では、牧場経営を始める際に参考にしたい、主な経営指標について見ていきましょう。

出典:e-Stat 農業経営統計調査 令和3年営農類型別経営統計

牧場経営の主な経営指標

農業経営統計調査の令和3年営農類型別経営統計をもとに、全国の酪農経営における主な経営指標をまとめました。

下記は、全て全国の平均値です。収入や損益シミュレーションなどの際に、ぜひ参考にしてください。

事業収入86,587(千円)
事業支出87,265(千円)
営業利益-678(千円)
営業外収益9,115(千円)
営業外費用1,172(千円)
経常利益7,265(千円)
売上高経常利益率8.4%
事業従事者1人当たり売上高15,715(千円)

出典:e-Stat 農業経営統計調査 令和3年営農類型別経営統計

牧場経営を始める際の流れ

牧場経営は、一朝一夕で始められるものではありません。基本的には、以下のステップを踏んで、着実に準備を進めましょう。

  1. 就農イメージを作る
  2. 窓口で就農相談をする
  3. 就農地の決定
  4. 経営資産の取得
  5. 認定新規就農者になる
  6. 資金調達をする

特に、新規就農の際は実習が必要である点に注意しましょう。実習は1〜3年ほどかかるため、早めに就農に向けて動き出す必要があります。

以下では、牧場経営を始める際の流れについて解説します。

就農イメージを作る

まずは、酪農についてイメージを膨らませるため、情報収集を行いましょう。

そして、どこでどのような経営を行うか、具体的な就農イメージを作ってください。

就農イメージを作ることで、就農地や必要な施設、設備、牛舎の大きさなどを決めやすくなります。規模を決める際は、牧場経営で得たい所得から、牛の頭数の目安を調べるのがおすすめです。

窓口で就農相談をする

次に、就農相談で就農イメージを見直したり、受け入れ先を探したりしましょう。

就農相談に対応している機関の例は、以下のとおりです。

<新規就農全般>

  • 農地中間管理機構(主に農業公社)
  • 都道府県農業会議
  • 都道府県庁就農関係主務課(普及関係課)
  • など

<畜産全般>

  • 都道府県庁畜産関係部課
  • 道府県畜産協会
  • 農業改良普及センターの畜産担当
  • 酪農業協同組合連合会
  • 酪農業協同組合
  • など

そのほか、就農や就業を受け入れる自治体や農業法人などが開催するイベントに参加し、相談するという方法もあります。

特に、受け入れ先探しには時間がかかるため、入念な情報収集を行いましょう。新規就農を積極的にサポートしてくれる市町村や、新規就農した先輩がいるエリア、ゆかりがあるエリアを中心に探すのがおすすめです。

就農地の決定

次に、就農地を決めましょう。新規就農のためには、飼養管理技術や経営管理技術を身につけるため、1〜3年程度の実習が必要です。実習は町内の酪農家が受け入れてくれるため、まずは受け入れ先を探さなければなりません。

受け入れ先が見つかるまで、長い時間を要することもあります。余裕のあるスケジュールで行動することが大切です。

実際に自身が就農する場所については、就農可能な場所を実際に見学し、施設や設備の位置や作業形態などをもとに、適切な場所を選定しましょう。

経営資産の取得

経営に必要な農地や施設、家畜といった経営資産の取得も欠かせません。

酪農に必要な経営資産をすべて揃えるのは、ハードルが高いものです。そのため、近年では後継者のいない離農、あるいは離農予定の農家の経営資産を取得して、就農を開始する方法が一般的です。

経営資産の取得方法としては、以下の4つがあります。

  • 経営継承方式:離農(予定)者の有形資産と営農技術、販売先などを継承する方式
  • 公社営リース方式:公社が離農予定農家から経営資産を買い上げて再整備し、新規参入者に対し一定期間貸付し、就農者が資金を調達して公社から買い上げる方式
  • 直接売買方式:離農(予定)者の有形資産のみ継承する方式
  • 農家リース方式:経営資産一式を、購入せずリースする方式

資産を提供する農家の意向もあるため、地域の関係機関のサポートも受けながら、農家と話し合って取得方法を決めましょう。

認定新規就農者になる

営農に必要な技術を習得し、経営資産を取得したら、「青年等就農計画」を作成して認定新規就農者になりましょう。

青年等就農計画を作成する対象は、以下のとおりです。

  • 原則18歳以上45歳未満の青年
  • 65歳未満の特定の知識・技能を有する中高年齢者
  • 上記の者が役員の過半数を占める法人

青年等就農計画を市町村に提出し、青年等就農計画が認定されて、はじめて認定新規就農者になります。

なお、市町村によっては、別途、収支計画書の提出が必要なケースがあります。詳しくは、就農するエリアの自治体に問い合わせてください。

資金調達をする

就農に必要な資金を全額自己資金で賄えない場合は、資金調達を実行しましょう。

就農の際に利用できる資金制度は、以下のとおりです。

  • 青年等就農資金:農業経営開始資金
  • 経営等就農資金:新規就農者が農地等を取得するための資金
  • 農業近代化資金:新規就農者が必要とする初期投資資金

資金繰りに失敗しないよう、安易に借り入れることはやめましょう。返済プランを立てたうえで、返済可能な金額を借り入れることが大切です。

十分な情報収集を行って牧場経営に挑戦しよう

牧場経営を始める際は、十分な情報収集を行い、サポートを受けることが大切です。特に、 就農地の決定に時間がかかる場合は多いため、余裕のあるスケジュールで準備を進めましょう。

牧場経営は窮地に立たされており、経営に成功するのは容易ではありません。しかし、日本の食文化を守るためには、必要不可欠な産業です。牧場経営を志す方は、関係機関に相談して、就農イメージを固めるところから始めましょう。


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